歯科業界の2030年予測 歯科医院が生き残るための重要キーワード「生産性」の目安とは

昨今、歯科医院経営に関する情報はインターネットやSNSで簡単に得ることができます。

中にはまゆつばものの情報もありますが、専門家が発している正しい情報も数多く存在します。

しかし、その情報を活用できている歯科医院は多くありません。

その原因は…

「そもそも自院のポジションや今後のステップがわからない」
「得た情報がどのポジションの医院に当てはまるのかがわからない」
「情報が表面的で、具体的なアクションに結びつかない」

などが挙げられます。

自院の現状把握や将来的なビジョンを見失っているため、情報活用しようと思ってもできないのです。

そこで本連載では、歯科医院の経営方法と成長ステップを体系的に解説していきます。

明日からの医院改善に役立てていただければ幸いです。

歯科業界予測

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(画像=pixta)

歯科医師数予測

この先、歯科業界はどのように変容していくのでしょうか。

まずは、2030年まで歯科医師業界の動向予測を見てみましょう。

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(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P2図1 歯科医師数予測(全世代)より転載)

このグラフ(※1)によれば、今後も歯科医師は増加すると予測されています。

ただし国家資格合格者数は減少傾向にあるため、以前よりは増加スピードは緩やかになるでしょう。

具体的には、2030年には118,400人程度の歯科医師がいるとされ、現在よりも16,600人程度増加する見込みです。

次に現役の歯科医師と考えられる24~65歳の歯科医師数の推移(※2)を見てみます。

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(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P3図2 歯科医師数予測(24~65歳)より転載)

※1※2ともに、厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」より船井総合研究所作成

2018年に約85,000人いた歯科医師が、2030年には72,000人程度まで減少すると予想されています。

ここから予測されるのは、勤務医採用の難化と開業数の減少です。

では、勤務医の採用が難しくなると、どのようなリスクが考えられるでしょうか。

歯科医院を大別すると、「分院展開している医院」と「単院で拡大していく医院」の2タイプがあります。

2つのうち、採用難によって大きな経営リスクがあるのは「分院展開している医院」です。

歯科医院を経営する際、「管理者は歯科医師でなければならない」という法律があるためです。

勤務医を採用できずに分院長が不在になると、分院を閉じるか売却しなければならず、歯科医院の成長ステップが滞ってしまいます。

開業数は減少するものの、同時に人口も減少していくためエリアによっては依然として厳しい経営状況が続く可能性があります。

さらに、そもそも需要と供給のバランスが崩れ、歯科業界は競争が激化していきます。

競争激化による売上の減少傾向に加え、人手不足社会の影響による労務費の増加傾向から利益も減少する見込みですので、この先の歯科医院経営は決して楽観視できるものではありません。

患者数予測

続いて患者数の予測(※3)を見てみましょう。
※3 厚生労働省「患者調査」より船井総合研究所作成

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(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P4図3 患者数予測より転載)

歯科の患者実績は2013年から2015年までは横ばいですが、2017年は減少しています。

2015年~2017年の減少率は98.85%です。この割合で減少が進むと仮定すると、2030年には125万人まで減少する見込みです。

日本の人口も減少するため、さらなる患者数の減少が予想されます。

人材採用に関する予測

次に求人について考えてみましょう。

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(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P5図4 求人、求職および求人倍率の推移より転載)

求職および求人倍率の推移グラフ(※4)では、2009年頃より求人倍率は上昇、2019年をピークに高止まりになっています。
※4 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和2年1月分)について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212893_00030.html より)

現在はコロナの影響により一時的に採用しやすくなっていますが、大きなトレンドでみると日本は人口減少傾向のため、人手不足は変わらないと予測されます。

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(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P5図5 歯科衛生士の求人状況より転載)

歯科医院では、歯科衛生士の新卒採用の求人倍率は20倍以上となっています(※5)。
※5 平成29年6月全国歯科衛生士教育協議会「歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告」より船井総合研究所作成

つまり、20医院に1医院しか新卒者を採用できない可能性があるのです。

このような採用環境の厳しさから、歯科医院の給与水準は上昇傾向にあります。

そもそも歯科衛生士は、一般大学初任給より4~5万円も高いため、歯科医院経営の大きな負担になっています。

それにもかかわらず、今後も同様か上昇傾向が予測されているのです。

結論:今後は患者数及び利益が減少する可能性

今後は患者数が横ばい、あるいは減少し、人件費が増加する傾向にあることがわかりました。

一方で、利益は減少する可能性があります。保険制度や診療報酬の変更があればさらに利益が減少するでしょう。

つまり、この先10年は売上ではなく、生産性を意識した経営が重要になります。

歯科医院運営は生産性を最重要視する時代に

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(画像=pixta)

売上重視経営から利益重視経営へ

当然ながら歯科院長は売上アップや患者数アップ、医院規模拡大を目指しています。

しかし、利益拡大できていない歯科医院が多くみられます。

原因はアップした売上以上にかかる経費です。これは材料費、人材費、広告宣伝費の高騰によるものと考えられます。

したがって、今後の歯科医院の経営目標は「営業利益のアップ」が重要です。

チェア1台あたりの売上やスタッフ1名あたりの売上など、生産性の向上がポイントとなります。

生産性を上げる必要性

では、なぜ生産性の向上がポイントとなるのでしょうか。

5~10年前は勤務医や歯科衛生士などの給与水準が特別高くはなく、採用も容易だったため生産性を意識する必要はありませんでした。

しかし、2008年頃から日本の人口は減少し、今後さらに加速していく予想です。

これは先ほど「売上以上にかかっている経費」で挙げた材料費や人件費などのコストが、さらに上昇する可能性を示しています。

利益がなければ必要な投資ができず、患者さんを満足させる十分な治療もできません。

歯科医院は、「生産性」を最重要指標として運営すべき時代に変化したのです。

また、コロナの影響が出始めた2020年4月頃からは昨対比70%など、計算上では3か月も持たない歯科医院も多くみられました。

実際には支援給付金などで凌ぐことができましたが、有事の際はある程度のキャッシュがなければ経営がままならないことが露見しました。

災害リスクは常にあるため、やはりこれからの時代は生産性を意識した経営が必須と言えます。

生産性を上げるポイントは「専門の総合化」

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(画像=pixta)

歯科医院から一歩離れて社会を見渡すと時代を先読みし、既に動いている企業は少なくありません。

レオス・キャピタルワークスの社長、藤野英人氏の著書「ヤンキーの虎」をご存じでしょうか。

「ヤンキーの虎」とは、地域に根付いた事業で急成長している人や企業を指します。

2016年に出版された同書では「2020年頃からヤンキーの虎同士の競争が激化するだろう」と予想されています。

各地域、単一事業で拡大したヤンキーの虎同士がぶつかり合うためです。

歯科医院も同様に「どんな経営なら生き残れるのか」を考えなければいけない局面にきています。

例えば、診療科目の幅を広げることも生産性の向上へ繋がります。

現在、中高年をターゲットとしてインプラントを柱にしている歯科医院であれば、小児診療を加えるのです。

人口が減少しているからこそ、他のターゲットを狙って診療範囲を広げる必要があります。

範囲を広げて成功する鍵は「専門の総合化」にあります。

そこそこのレベルを集めた特徴のない「よろず屋」ではなく、例えばインプラントも小児歯科もそれぞれ専門だと言えるレベルの「専門の総合化」が必要です。

ちなみに、事業を拡張する際には、歯科の範囲に留まる必要はありません。

経営理念にもよりますが、例えば「人々の健康」が理念であれば様々な事業が選択肢に入ります。

高齢者向けの歯科医院であれば訪問介護、小児向けの歯科医院であればママ支援サービスなどを始めるのもひとつです。

このように他業種にまたがるミニコングロマリット化(小規模複合企業化)のためにも、利益を確保し、投資に必要な原資をつくる必要があります。

そもそも生産性の目安となる数字は?

生産性とは経営資源をどれだけ効率的に配分できているか活用できているか、ということです。

ヒト、モノ、ジカン、カネ、情報、知財の6つを6大経営資源と呼びます。

その中でもまず歯科医院で意識すべき生産性は、チェア1台あたりの売上や、スタッフ1名あたりの売上のことです。

例えばスタッフ10名で売上1,000万円のA院と、スタッフ5名で売上1,000万円のB院があったとします。

この場合、B院はA院に比べて2倍の生産性があり、利益をより多く残すことができます。

船井総研では、

  • チェア1台あたりの月間売上目標値:200~250万円/チェア
  • スタッフ1名あたりの月間売上目標値:125~150万円/ヒト

と設定しています。

船井総研_谷口竜都_P7図6_生産性と目標値の設定
(画像=「歯科医院の成長戦略バイブル」(医歯薬出版株式会社)P7図6 生産性と目標値の設定より転載)

今回は、今後の歯科業界予測から生産性を上げることの重要性をお伝えしました。

次回は、生産性を高め患者から支持される歯科医院になるためのステップについて解説します。

<船井総合研究所の書籍紹介>

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●本書は
 1.自院の置かれているポジションや今後のステップを理解でき、
 2.そのポジションや今後のステップに必要な施策をインプットでき、
 3.明日からアクションできる
 ことを目的に「羅針盤・地図」として活用できる内容となっています。
●“自院の成長”に合わせて,何度でも読み返して活用できます。
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目次
第1編 これからの歯科医院経営の方向性とは
第2編 歯科医院経営の実際ー成功事例にみる成長戦略
第3編 グレートクリニックに向けて

谷口 竜都

株式会社船井総合研究所 ヘルスケア支援部 医療事業開発G マネージャー

2016年中央大学法学部法律学科を卒業し、新卒で船井総合研究所入社。 歯科医院の経営コンサルティングを専門とする。

現在は、歯科、動物病院分野のコンサルティング部門の統括、および中国の歯科医院コンサルティングの立ち上げ、医療ビッグデータに関する新規事業開発のプロジェクトを行っている。