船井総研が2020年を振り返る 〜コロナ禍の歯科医院経営への影響〜

世界中を未曾有の混乱に巻き込んだ新型コロナウイルス。経済・経営に与えた影響は計り知れず、それは歯科医院の経営においても同じです。

集患がいっそう困難になるなか、どのような対策を取れば経営が安定するのか。そのノウハウを一刻も早く知りたい方も多いことでしょう。

しかし、対策を立てるためには、この一年に起きたことを理解することが重要です。

いったいコロナは、歯科医院の経営にどのような変化をもたらしたのか?

この未曾有の事態を乗り越えて、10年、20年先まで安定した経営を続けるためにも、まずは、コロナ禍が歯科医院経営に与えた影響について振り返りましょう。

コロナ禍によって歯科医院経営に生じた3つの変化

コロナ禍が歯科医院の経営に与えた影響は様々ですが、とくに大きいのが「移動」「需要」「キャッシュ及び雇用」の3つです。それぞれについて詳しく解説します。

移動

コロナ禍により在宅勤務が浸透したことで、職場への通勤がなくなり、家で仕事をし、食事をする人が増えました。つまり人の移動が大幅に減ったわけです。

その結果、歯科医院の経営にどのような影響が生じたかというと、診療圏が縮まったのです。たとえば、京都市内のある医院は、コロナ前後で診療圏が約1キロ縮まりました。

つまり、従来であれば通勤途中にある歯医者に通っていた人が、自宅の近くにある歯医者を選ぶようになったわけです。

診療圏が歯科医院経営において重要な指標であることは言うまでもありません。読者の皆様も、開業する際は診療圏の設定にずいぶん悩まれたことでしょう。

診療圏が変化すれば、ターゲット層も変わります。私の経験から申しますと、コロナ禍により新規患者の集客は昨年比約30%〜50%減かと思います。この危機的状況に対して傍観せず、対応してきた歯科医院は、この「人の移動の変化」による影響をあまり受けずに済んでいます。

需要

診療圏が縮まったことに加え、歯科治療に対する需要が減ったことも、歯科医院の経営に大きな影響を与えています。

需要がどのくらい減ったかというと、2020年の新規患者の集客は前年より30%〜50%減にもなりました。

大きな原因は、急性症状の治療が減ったことが考えられます。虫歯治療であれば、相当進行して痛みが強くなるまでは、歯医者の受診を我慢する。噛み合わせ治療であれば、多少の違和感は放置してしまう。そういう患者様がとても多く見られるようになりました。

背景には、「コロナウイルスに感染したくない。そのためには医師やスタッフとの距離が近く、また治療の際に飛沫が飛ぶ歯医者には行くべきではない」という偏った感情があります。

虫歯や噛み合わせですらそうなのですから、定期検診も同様に需要が減っています。2020年4月、5月は昨対比65%〜80%です。今まで3カ月に一度クリーニングに通っていた人が、半年たっても来ないわけですから、定期検診が「不要不急」と位置づけられたと考えられます。歯医者への通院は、生活に欠かせないものではない。そういう認識が相当広がっているわけです。

キャッシュおよび雇用

一般企業と同様に、多くの歯科医院では売上が減少し、キャッシュも減少していると考えられます。その結果、人を採用するリスクが高まりました。人を雇い、育てるためのお金に余裕がありませんから、雇用自体も当然減ります。

国内の歯科医院数はおよそ6万9,000件。そのうち個人経営の歯医者が多数を占めています。個人経営の歯科医院では、奥様が経理や税務を担当するケースが非常に多い。いわゆる家族経営ですので、法人化した歯医者と比べると、財務への意識が高くないのが特徴です。

もともと歯科医院は営業利益率も利益率もかなり高く、個人事業だと20%前後あります。そのため、キャッシュ不足をあまり気にしなくても良い時代が長く続いていました。そのせいか、コロナ以前より医院の内部留保を貯めておらず、コロナで利益が減少し苦労された歯科医院も多かったかと思われます。

コロナ禍によっても変わらなかったこと

コロナ禍が歯科医院の経営に大きな変化をもたらしたことは事実です。しかし一方で、歯科業界があまり影響を受けなかった事象もいくつかあります。