コロナ禍は歯科医院の経営に多大な影響を及ぼしています。診療圏の縮小や歯科医療の需要減少など、集患と経営維持にダメージを与える事象が生じ、今後長きに渡って継続するものと予測できます。
このような苦境を乗りこえ経営を安定させるためには、先の見えない時代にふさわしい「4つの視点」と「5つの条件」を知っておく必要があります。
歯科医院の院長は、経営者であるだけでなく、組織のなかで最も忙しく働く労働者でもあります。多忙を極め、学習したくても学習時間が確保しづらい皆さまに対して、コンサルタントとしてどのような知見を提供できるか。 そう考えながら書き上げたのが、先に公開した「2020年を振り返る〜コロナ禍の歯科医院経営に対する影響」と本稿、そして後日寄稿するものを含めた3本の記事です。
ぜひ最後までお読みいただき、歯科医院経営に欠かせない、即効性のあるTipsをお持ち帰りいただければ幸いです。
先が見えない時代に欠かせない「VUCA」の視点
VUCA(ブーカ)という言葉を初めて目にした方もいるかもしれません。元々は軍事用語で、「V=Volatility(変動性)」「U=Uncertainty(不確実性)」「C=Complexity(複雑性)」「A=Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉です。
世の中の変化のスピードが年々早くなっています。未来予想が難しく、世の中の価値観も激しく変わる今、組織をどのように経営していけばいいか。この視点に立ったとき、VUCAはとても有用な概念です。
「V」「U」「C」「A」とは、それぞれこのような意味があります。
V=Volatility(変動性)
U=Uncertainty(不確実性)
C=Complexity(複雑性)
A=Ambiguity(曖昧性)
コロナ禍の影響で、今まで流行っていたものが流行らなくなり、反対に注目されていなかったことが重要になったりと様々な変化が起こりました。
物事や価値観が変動し、不確実で、複雑で、曖昧である。この4つの要素がからみあうVUCAワールドは、コロナ禍が招いた混沌の世界そのものだといえるでしょう。
VUCAワールドで歯科医院が勝ち残るための5つの条件とは
「2020年を振り返る〜コロナ禍の歯科医院経営に対する影響」では、コロナ禍が社会にもたらした変化と、それらが歯科医院の経営に与えた影響を解説しました。
新規患者の集客と定期検診が激減しています。キャッシュの確保もままなりません。先が見通せず不安ばかりが募る状況です。
このような苦境を乗り越えるために必要なことはなんでしょうか。5つの条件を立ててみました。
条件その1:確固たるビジョン・シナリオ〜理念逆算型経営
コロナ禍の影響で、歯科業界を含む社会全体が不景気になりました。不景気が長く続くと、人は常に不安にかられます。
歯科医院のスタッフも同じです。「このままこの医院に勤めていて大丈夫だろうか……」「患者がどんどん減っているけど私の職は保障されるの?」などと、漠然とした不安感を抱きながら働く日々。
スタッフの不安を放置すると、院内の士気が下がり、接遇の質にも影響します。暗く元気のない雰囲気の歯科医院は、患者様も不快に感じることでしょう。
この由々しき事態から脱出するために、院長は「この状況下で自医院は何を目指しているのか?」「今期の達成目標は?」など自医院の目標を明確に言語化し、現場の従業員に周知する必要があります。
- 誰にでも便利なコンビニエンスな歯科医院とするのか
- ハイクラスな顧客をターゲットに、完全自費診療を貫くのか
- 将来のリピーターとなる子どもの患者様に向けて、予防歯科を前面に押し出すのか
- 超高齢社会を見据えて、入れ歯やインプラントのシェア拡大を目指すのか
目標は様々ですが、どのような目標を掲げるかが最も重要なわけではありません。明確な目標をスタッフと共有することでスタッフの一体感を醸成し、漠然とした不安感を解消する。それにより医院全体の士気を高め、患者様の接遇にも良い影響を与える。
このように確固たるビジョン・シナリオをスタッフ全員で共有し、経営に反映させる「理念逆算型経営」が、アフターコロナではとくに強く求められています。