昨今、歯科医院経営に関する情報は、インターネットやSNSで簡単に得ることができます。
まゆつばものの情報もありますが、専門家が発している正しい情報も数多く存在します。
しかし、その情報を活用できている歯科医院は多くありません。
その原因は…
- 「そもそも自院のポジションや今後のステップがわからない」
- 「得た情報がどのポジションの医院に当てはまるのかがわからない」
- 「情報が表面的で、具体的なアクションに結びつかない」
などが挙げられます。
自院の現状把握や将来的なビジョンを見失っているため、情報活用しようと思ってもできないのです。
そこで本連載では、歯科医院の経営方法と成長ステップを体系的に解説していきます。
今回は「歯科医院の成長ステップ」について解説します。
歯科医院が成長するためのポイントとは
1)収益の柱を複数もつ
前回お伝えしたように、生産性を高め、患者さまに支持される歯科医院へと成長するポイントは「収益の柱となる診療科目を複数もつこと」です。
柱が1つしかないとどうなるでしょうか。
例えばインプラントで収益を生んでいる場合、インプラントの収益が50%減少すると全体収益も50%減少してしまいます。
しかし、2つの収益の柱がある場合は、インプラントの収益が50%減少しても全体収益は25%減少に抑えられます。
また、「近所に競合の歯科医院ができた」などの外部要因や、「歯科衛生士が辞めた」などの内部要因で容易に柱がくずれてしまうリスクがあります。
これからの時代は複数の柱を用意しておくことが重要なのです。
2)収益を増やしていく際のポイント
収益を増やすにあたり、まず自院にどのような特徴があるのか改めて把握する必要があります。
例えば、「地域内で一番の要素をもっているか」「患者さまに支持してもらえる治療内容か」などです。
複数の診療科目があったとしても、患者さまにとっての利益がなければ収益の柱にはなり得ません。
船井総研では、「一番になるための差別化の8要素」というマーケティングの考え方を重視しています。
他院と差別化するにあたり、下記の8つの要素を意識していただくのが良いです。
- 医院の立地(立地選択・市場選択)
- 医院の規模(売上規模・売り場面積)
- 地域でのブランド力(認知度)
- 診療の品質(商品力)
- 価格(価格力)
- 情報発信力(販促力)
- 接遇力(接客力)
- 患者の固定化・ファン化(固定客化力)
1.~3.は戦略的要素、4.~5.は戦術的要素、6.~8.は戦闘的要素です。基本的に上から順に優先度が高くなります。
新規の歯科医院にとって、特に大切なのは1~3になります。
例えば、一番の差別化要素である「1.医院の立地」を間違えてしまうと、どんなにビジネスモデルが優れていたとしても取り返しがつきません。
「2.医院の規模」や「3.地域でのブランド力」も、後から操作することは難しいといえます。
4.以降の項目は短期で操作ができるものなので、既に開院している歯科医院でも着手しやすい要素です。
「一番」の判断基準
何をもって「一番」と判断するのかの基準として、弊社では「船井流シェア理論」を用いています。
シェアの目安としては下記の9つがあり、シェア数値で区切られています。
下記の「トップシェア」以上であれば、「一番」と判断してよいでしょう。
「独占シェア(シェア数値74%)」
対抗できる勢力が現れても、将来にわたって安定して勝てる状態です。
絶対に安全が揺らがない位置といえます。
「相対的独占シェア(シェア数値55%)」
余裕がある独占状態です。
絶対的ではありませんが、相対的にまず安心できるポジションといえます。
「相対シェア(シェア数値42%)」
現在敵はいませんが、将来有力な敵が現れる可能性があります。
2つ以上の競合がある場合、42%を確保した歯科医院が圧倒的に有利になります。
「寡占化シェア(シェア数値31%)」
他の歯科医院とは別格であり、その地域では競合が無い状態。
圧倒的シェアを誇っています。
「トップシェア(シェア数値26%)」
明らかに一番店のレベルであり、地域ではその歯科医院を知らない人はいない状態です。
年間を通じて、一番のポジションが揺るぎません。
「トップシェアグループ(シェア数値19%)」
競合と抜きつ抜かれつ争っています。
一番になっても安定せず、一年のうちに何度かは一番になれるレベルです。
「優位シェア(シェア数値15%)」
競合の中では頭ひとつ飛びぬけ、まずまず流行っている状態です。
年間を通して二番手の歯科医院です。
「影響シェア(シェア数値11%)
競合に影響を与える医院ではあります。
ライバルの歯科医院や担当者が意識し、見にくるレベルの存在です。
「存在シェア(シェア数値7%)」
やっと存在を認めてもらっている状態です。
しかし、歯科医院名や得意分野は十分に伝わっていない状態です。
3)歯科医院の成長ステップ
歯科医院には、辿るべき成長ステップというものがあります。
船井総研では、図に示すステップが歯科医院を成長させるベストなものと捉えています。
スタートライン歯科医院
「スタートライン歯科医院」には、現状地域内で一番の治療といえるものがなく、経営的に厳しい医院が該当します。
まずは、収益の柱を作る必要があります。
収益の柱は、自費診療に限らず予防歯科や訪問歯科でも十分なり得ます。
ポイントは地域内でトップクラスの診療科目に育てられるかどうかです。
地域一番歯科医院
「地域一番歯科医院」には地域一番の診療科目があり、それが収益の柱になっています。このタイプの進むべき方向は2つあります。
1つ目は、地域一番の診療科目を県内一番、日本一番へと成長させて専門化する道です。診療圏を拡大するルートになります。
2つ目は、地域一番の診療科目を2つもつ道です。収益を確実に安定させるルートになります。
地域一番専門歯科医院
専門化した診療科目が県内一番、日本一番の医院を指します。
このタイプの医院は、より良い治療を提供することで患者さまの満足度を高め、口コミを増やしていくと良いでしょう。
さらにWebマーケティングに注力し、専門科目を訴求するとステップアップへ繋がります。
超地域一番歯科医院
2つ以上の地域一番分野があります。
このレベルになると組織規模が大きくなるため、マネジメントの仕組みを徐々に変えていく必要があります。
組織のレベルを高めるための投資が中心的な取り組みになっていきます。
医院が進むべき道は2つあり、目指す方向によって投資バランスを調整する必要があります。
1つ目はヒトへの投資で人財(材)化して少数精鋭化する道です。チェア数6~8台のスモール型で高生産性を目指します。
2つ目はモノへの投資で独創化する道です。独自のビジネスモデルを構築し、分院展開や他院にない診療科目に取り組むルートです。
県内地域一番歯科医院(人財化)
地域一番の分野が複数あり、他院にはない「人財」がいる医院を指します。
人財は、圧倒的な接遇力を備え、経営にも能動的なスタッフのことです。
少数精鋭型で利益率も高く、ヒト・モノへの投資がしやすい状態です。
このステップからはモノへの投資を積極的に行い、独創的なビジネスモデルを構築していくと良いでしょう。
県内地域一番歯科医院(独創化)
地域一番の分野が複数あり、他院では行っていない独創的なビジネスモデルのある歯科医院です。
ここからは、ヒトへの投資を多く行い、スタッフを人財化して、生産性を向上させ、利益率を上げていくのがよいでしょう。
結果的に患者への接遇力も向上します。
超地域一番専門歯科医院
地域一番の分野が複数あり、他院では行っていない独創的なビジネスモデルで経営している歯科医院です。
企業とのアライアンスなどにも積極的で、地域や街の住民の健康に寄与できています。
日本一番歯科医院
船井総研が目指す「グレートクリニック」です。企業化のタイミングにもなります。
医院規模が大きく、スタッフも増え、分院展開を数多く行い、訪問施設も多数ある中で、それぞれの機能を専門化させていく必要があります。
人材開発本部、外来事業部、訪問営業部、総務・経理などの部署をつくり専門化することで、ノウハウも溜まり、より高度な取り組みができるようになります。
また、下位の歯科医院のビジネスモデルをすべて包み込んでいく「包み込み」という発想が可能になります。
ご興味のある方はぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
これまで2回にわたり、歯科医院の成長ロードマップについて戦略レベルでお伝えしました。
次回からは、戦術レベルのマーケティングとマネジメントを解説します。
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<船井総合研究所の書籍紹介>
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グレートクリニックになるための羅針盤!!
内容紹介
●本書は
1.自院の置かれているポジションや今後のステップを理解でき、
2.そのポジションや今後のステップに必要な施策をインプットでき、
3.明日からアクションできる
ことを目的に「羅針盤・地図」として活用できる内容となっています。
●“自院の成長”に合わせて,何度でも読み返して活用できます。
● 本書を読んで明日から実行に移せば、「教育性」「社会性」「収益性」を兼ね備えたグレートクリニックに生まれ変われます。
目次
第1編 これからの歯科医院経営の方向性とは
第2編 歯科医院経営の実際ー成功事例にみる成長戦略
第3編 グレートクリニックに向けて
株式会社船井総合研究所 ヘルスケア支援部 医療事業開発G マネージャー
2016年中央大学法学部法律学科を卒業し、新卒で船井総合研究所入社。 歯科医院の経営コンサルティングを専門とする。
現在は、歯科、動物病院分野のコンサルティング部門の統括、および中国の歯科医院コンサルティングの立ち上げ、医療ビッグデータに関する新規事業開発のプロジェクトを行っている。