昨今、歯科医院経営に関する情報はインターネットやSNSで簡単に得ることができます。
まゆつばものの情報もありますが、専門家が発している正しい情報も数多く存在します。
しかし、その情報を活用できている歯科医院は多くありません。その原因は…
- 「そもそも自院のポジションや今後のステップがわからない」
- 「得た情報がどのポジションの医院に当てはまるのかがわからない」
- 「情報が表面的で、具体的なアクションに結びつかない」
などが挙げられます。
自院の現状把握や将来的なビジョンを見失っているため、情報活用しようと思ってもできないのです。
そこで本連載では、歯科医院の経営方法と成長ステップを体系的に解説していきます。
今回は歯科医院のマネジメントについて解説します。
歯科医院が成長するマネジメントのステップ
歯科医院の経営について考えるとき、次のようなステップに分類すると分かりやすくなります。
マーケティング:「集患」「固定化」「単価アップ」の3つのステップ
マネジメント :「採用」「教育」「評価」「定着」「組織化」の5つのステップ
歯科医院のマネジメントとは
前回はマーケティングについて解説しました。
今回はマネジメントの「採用」「教育」「評価」「定着」「組織化」について、その概要を解説します。
- 「採用」は、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手、その他の職種の人材に自院を選んでもらうための施策を指します。
- 「教育」は、教育体制の構築や組織全体の教育、新規スタッフの初期育成、育成スタッフのスキルアップのための教育、幹部教育の施策です。
- 「評価」は、自院の目的を達成するために必要な人材像を定義し、その目的達成に沿った個人の成長、個人目標の達成、キャリアアップをサポートするための評価制度を構築する施策です。
- 「定着」は、院内のコミュニケーションを活発化させることや女性のライフイベントサポート、仕事のスキルアップ環境をつくるなど、長く働きたいと思われるような組織にしていく施策を指します。
- 「組織化」とは、スタッフが主体的に患者によりよい医療を届けるための方法を模索し、組織全体がよくなっていくための方法までも考えられるようにしていく施策です。
1.採用
採用方法を検討する前に、本当に「いま採用を行うべきか?」を考えなければなりません。 ただ忙しいという理由で即採用しようとするのは早計です。
現在のスタッフ数で生産性を上げていくべきなのか、スタッフが不足しているのかを検討する必要があります。
検討のポイントは3つあります。
- 1人当たりの生産性(=年間総売上/常勤換算スタッフ数)
月間売上目標値120~150万円/ヒト - 人件費率
個人事業:20~25% 法人:25~32%(理事長報酬抜き) - 翌年以降の経営計画
増床・増築・分院の予定があるか
主にこの3つの観点から検討し、必要と判断すれば採用活動を行っていくわけですが、採用活動とはマーケティングです。
求職者が求める条件と、組織が求める人材の条件をマッチングさせ、正しく情報を伝える必要があるのです。
さらに、採用にも導線戦略と受皿戦略があります。
採用における導線戦略とは、求職者が募集要項を見る経路を増やし流入量を増やすための戦略です。
受皿戦略は、医院の状況を正しく理解し「ここで働きたい」と思ってもらうための戦略を指します。
2.教育と4定着
厚生労働省のデータを見ると、平成30年3月卒業者である新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者で約4割(36.9%)、新規大卒就職者で約3割(31.2%)となっています。
事業規模別でもデータがありますが歯科医院で多い層「5~29人」で見ると約5割(52.8%)と半分が離職していることがわかります。(出典:厚生労働省ホームページ)
入社した社員が利益を生み出すようになるには、入社してから4~6年かかるとも言われています。
歯科医院の離職率は一般企業より高いと思われますが、いずれにせよ戦力になる前に人材が辞めてしまうのは医院にとって大きな痛手です。
そのため、「すぐに成果を出し、辞めない人材」を育てることが「教育」と「定着」の目的になります。
「教育」は、以下の5つに大別できます。
・既存スタッフのスキルアップを図る教育
・チーフや幹部など幹部層の教育
・院長・理事長への教育
・組織全体への教育
3.評価
スタッフ数が増えてくると、評価制度の構築が必要になります。
しかし、「努力しているスタッフ」と「努力していないスタッフ」を同一に評価してしまうと、努力しているスタッフのモチベーションが低下し、組織としての成長が鈍化、または退化してしまいます。
評価制度において重要なことは、評価を明確化することにより「何を頑張ればよいのか」を理解しやすくすることです。
そして給与・賞与に差をつけることで、モチベーションアップに繋げることができます。
給与・賞与の査定システムとしてだけでなく、成長サポートプログラムとしての評価制度を構築すべきでしょう。
評価制度の支えとなるのが組織の目標と戦略です。下記の項目を明確にして組織の目標を達成することが、個々の成長にも繋がります。
- どのような目標があるのか
- 医院が存続するために、どのような戦略があるのか
- 戦略を達成するために、医院とスタッフにはどのような目的があるのか
- 目的を達成するために、スタッフは日々の仕事で何を頑張れば良いのか
- 組織として何を従業員に求めているのか
- どんな人材になって欲しいのか
これらを定期的な評価面談でフィードバックし、どこができて、どこができていないのかを伝えていくと良いでしょう。
経営者は法人の理念・ミッション・ビジョンを考え、求める人材像からクレド(行動指針)をつくることをお勧めします。
5.組織化
1人の人間がマネージできる数は5人が限界だと言われています。
歯科医院の成長戦略バイブル #02で紹介しました「スタートライン歯科医院」であれば、従業員数が3~7人なので院長1人でマネージ可能です。
しかし、地域一番歯科医院以上は院長1人ではマネージできなくなります。
歯科医院が大きくなるにつれ、マネージできる人材を育てていかなければ、院長1人が忙しい「文鎮型組織」となりそれ以上の成長は厳しくなってしまうのです。
マネージできる人材は中期経営計画に入れ込み、数年かけて育てなければなりません。
そのため「スタートライン歯科医院」の頃からピラミッド型組織を見据えて教育する必要があります。
さらにスタッフも経営に参画するためにはボトムアップ型組織にしていく必要があるため、「ピラミッド型かつボトムアップ型」の組織を作ることになります。
ただし、「評価」で述べた組織の理念・ミッション・ビジョン・クレド・中期経営計画を明確化し納得してもらわなければ、スタッフは動きません。
ピラミッド型かつボトムアップ型の組織を作るためにも、いち早く明確化する必要があります。
とはいえ「やることが多すぎて、何から手を付けていいか分からない」という方もいらっしゃるでしょう。
そのような方は現状把握できていないことがほとんどです。取るべき経営数値や財務状況が把握できていなければ、優先順位が分からないのは当然です。
まずは以下3点から始めましょう。
・目標設定
・ギャップ確認
現状把握をしてから目標を設定、ギャップを確認します。このギャップが改善すべき点になります。
本連載の最後に
これまで4回にわたって歯科医院の経営方法と成長ステップを体系的に説明してきました。
本連載の詳しい内容は、弊社の書籍「歯科医院の成長戦略バイブル」で紹介しています。
その他にも、成功事例や中期経営計画の作り方など明日から実践できる内容が盛りだくさんです。
興味を持たれた先生は、ご覧いただければ幸いです。
また、歯科医院経営にお困りの際は、ぜひ弊社にご相談ください。
マーケティングフェーズ(集患・固定化・単価アップ、など)からマネジメントフェーズ(採用・教育・評価・定着・組織化)、それ以外のファイナンス(開業やM&Aなど)までサポートさせていただきます。
弊社はクライアント数・研究会員数が歯科医院向けコンサルティング会社では最も多く、歯科医院の事例が多数集まっています。
また、事例主義・現場主義を掲げ、歯科の現場を理解している社員が現状に即したご提案をさせていただきます。所属している30人の歯科コンサルタントは「開業に強い」「Webマーケティングに強い」などそれぞれ強みがあります。
貴院の課題に沿った、ソリューションを実現いたします。まずは気軽にご相談ください。
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内容紹介
●本書は
1.自院の置かれているポジションや今後のステップを理解でき、
2.そのポジションや今後のステップに必要な施策をインプットでき、
3.明日からアクションできる
ことを目的に「羅針盤・地図」として活用できる内容となっています。
●“自院の成長”に合わせて,何度でも読み返して活用できます。
● 本書を読んで明日から実行に移せば、「教育性」「社会性」「収益性」を兼ね備えたグレートクリニックに生まれ変われます。
目次
第1編 これからの歯科医院経営の方向性とは
第2編 歯科医院経営の実際ー成功事例にみる成長戦略
第3編 グレートクリニックに向けて
株式会社船井総合研究所 ヘルスケア支援部 医療事業開発G マネージャー
2016年中央大学法学部法律学科を卒業し、新卒で船井総合研究所入社。 歯科医院の経営コンサルティングを専門とする。
現在は、歯科、動物病院分野のコンサルティング部門の統括、および中国の歯科医院コンサルティングの立ち上げ、医療ビッグデータに関する新規事業開発のプロジェクトを行っている。