歯科医院の指示待ちスタッフを減らすには、まず院長が「考えを手放す」

患者さんがついてくる理想的な歯科医院になるために

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(画像=taka/stock.adobe.com)

スタッフが指示を待つのではなく、自主的にテキパキ動く歯科医院。

信頼できるスタッフに惹かれた多くの患者さんがついてきてくれる歯科医院。

院長先生が思い描く理想の歯科医院では、そんな活気あふれるシーンが日常的に繰り広げられているのでしょうか?

しかしながら現実では、スタッフが自主的に動いてくれない、臨床でのスキルを上げても患者さんがついてきてくれない……そんな院長先生のお悩みを解消する方法について、これまで3回に渡ってお話してきました。

最終回の今回は、「院長先生がつくりたい理想の歯科医院になるために、一番大切なこと」をお伝えします。

良い人材を育てるための最初の一歩は「院長の学びほぐし」

スタッフを育てるために、一番最初にしてほしいのは「院長自身の考え方を、思い切って一度手放してみること」です。

院長先生は、これまで学ばれてきたことを実らせて開業されている成功者ですから、ご自身の中に「成功パターン」としての考え方ができあがっていると思います。

けれども、人は一人ひとり考え方が違います。違う価値観の人を思い通りに動かすのは至難の業です。

効率よく、そして気持ちよく人に動いてもらうためにも、一度、院長先生がご自身の中に構築されている価値観やルールを手放してみることがポイントです。

「院長の学びほぐし」で視点を変えて、効率よく人を育て動かす

誰かを教育しようとすると、どうしても自分の価値観やルールに落とし込もうとしがちです。子育てにもいえることですね。

それで成功すればいいのですが、現状が上手くいっていないと感じているとすれば、その教育のやり方に何らかの問題があるということです。

院長先生が作りたい理想の歯科医院のために、一度、視点を変えてみませんか?

「スタッフにこうなってほしい」「こうしてほしい」と自分の価値観を押し付けるやり方を、いったんお休みにしてほしいのです。

これまで学んできたことを全部変えるのではなく、やわらかく解きほぐし、新しくミキシングしたほうが上手く回り出すかもしれません。

わたしはそれを、「学びほぐし」と呼んでいます。

なぜ?「院長の学びほぐし」が必要な理由

良い人材を育てるのが目的なのに、なぜ院長先生の「学びほぐし」が必要なのでしょうか?

それは、世の中がコロナ禍という世情も相まって、めまぐるしいスピードで変化しているからです。

また、世代が変わると考え方や価値観がガラリと変わります。

これは、連載シリーズ1回目で、スタッフの退職回避のための「スタッフが辞めない歯科医院作り」でもお話したことにつながります。

ひと昔前は、歯科衛生士を志す若者の志望動機は「誰かのために、世の中のために役に立ちたい」という強い思いが目立ちました。

しかし近頃では「親に勧められて」「手に職を持ったほうがいいと言われて」と、周囲の勧めから歯科衛生士を目指す人が増えているのも特徴です。

そんな、根本的に違う考え方の人材を育てるわけですから、まずは、これまで自分の中で培ったルールはいったん脇に置きましょう。効率よく人材育成を進め、良い医院をめざすためです。

そんな「学びほぐし」を実践した院長先生は、これまで学んできたことからいったん離れ、自分の中に潜んでいた価値観や考え方を手放した時、「自分自身の課題が見えてきた」「自分自身の成長につながった」という新たな発見を驚きとともに口にします。

もちろん、これまで培ってきた考え方を変えるのは簡単ではありません。

スタッフの医療接遇のスキルを高めるためにトレーニングが必要なのと同様に、「院長の学びほぐし」も意識したからといって簡単にはいかないでしょう。

それでも、わたしが院内セミナーを担当している医院さまには定期的に現場のチェックに伺う時には、「院長先生、北原先生の前だけ、ほぐれてますよね~?」なんて声も。

院長先生が、歯科医院を良くしよう、自分も変わろう、という気持ちがスタッフに通じ、院内コミュニケーションが深まることで、徐々にスタッフが自主的に動ける風通しの良い雰囲気の医院に変わりつつあることがわかります。

目の前のコップを見て感じることは一人ひとり違う

「学びほぐし」は、一人ひとり、価値観や考え方は違うということを教えてくれます。

それは人を尊重する思いにつながり、スタッフとの関係を良好にし、患者さんとのコミュニケーションを円滑にします。

医療接遇のクオリティを高めるためにも役立ちます。

ここで問題です。想像してみてください。目の前にあるコップに、水が半分入っています。

■質問1 その水を見て、あなたは何を感じましたか?
■質問2 そのコップの材質は何でしたか?(材質:紙、ガラス、プラスチック)

いかがでしょうか?この質問を、院長先生からスタッフにしてみてください。答えはどうだったでしょうか?

「紙コップには、水が半分しか入っていないと思う」
「透き通ったきれいなガラスコップに、水が半分も入っているのが見える」

などと、違ったイメージが出てくるはずです。水が入ったコップ1つとっても、人それぞれ何を感じ、どう想像するのか、こんなにも違うんだなと認識できます。

つまり、患者さんが相手のコミュニケーションでも同じことがいえます。

わかりやすく伝えることの大切さや、どう伝えればスムーズに理解してもらえるのか、今一度考えるきっかけにもなるでしょう。

院長(指導者)として忘れてはいけない7つの心構え

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(画像=こうまる/stock.adobe.com)

院長先生は、歯科医院の先頭を走る「指導者」です。

指導者として、スタッフや患者さんに引っ張っていくために、スキルはもちろん大切ですが、マインド(心構え)はもっと重要と考えます。

そこで質問です。●の中に入る適切な言葉を考えてみましょう。

1.人は必ず「●びる」もの
2.教育の第一歩は指導者である「●●」が変わること
3.教育の中心は「●●者」
4.スタッフは「●●性」をもった存在
5.院長の重要な仕事はスタッフの「●●」と「●力」を引き出すこと
6.院長の立ち位置はマラソンの「●●者」のように
7.自らが「●●地帯」となり、信じて待つこと

■答え
1:伸、2:自分、3:学習、4:可能、5:意欲・能、6:伴走、7:安全

いかがでしょうか?

指導者は、教育を受ける学習者が伸びるものと信じ、学習者が学びやすい環境を用意して寄り添い、導きながら可能性を伸ばすことが大切です。

「●●●」に当てはまるワードを大切に、院長先生の学びほぐしに役立ててください。

医院の良さは、3年いなければわからない

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(画像=Mihai Simonia/stock.adobe.com)

わたしがセミナーで指導するスタッフにもよく話しているのは、「3年いなきゃ、医院さんの良さは解らないよ~?」ということです。

歯科衛生士も歯科助手も、3年未満でやめるケースが多いです。3年の壁を超えれば、長期にわたって勤務するスタッフになります。

医院側の気持ちからすると、「最初は何もできないのにお給料をもらってるんだから、3年いないと意味がない」。

それは正論です。わたしもスタッフに対して、ハッキリ伝えていますが、それはスタッフさんのためでもあるからです。

つまり、3年たたずに転職すると、スタッフ自身が損をするということです。

医療接遇などのスキル修得には、最低でも3年必要

教育には時間がかかります。その歯科医院でのやり方を身に着けるためには、5000時間は必要といわれています。

スタッフとしても、それだけトレーニングをつまなければ一人前のスキルを身に着けたことにならないわけです。

では、5000時間の経験を積むためには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?

1日8時間勤務、休憩を抜いた7時間労働で考えてみます。

365日のうち休日を引くと246日。

5000時間÷7時間/1日÷246日=2.903年≒3年です。

つまり、スタッフがコミュニケーション術や医療接遇を身に付けるためには、最低でも3年はかかるわけです。

3年未満で職場を移っていては、スキルをしっかり身に着ける前に去ることになりますので、スタッフ自身も中途半端な経験しか身につかず、損していることになります。

さらに、心理学者アンダース・エリクソンの研究によれば、ある領域でエキスパートになるためには3年では全く足りず、10年はかかるといいます。

仮にそこまでいけば、スタッフが色々な資格をとったり、学会へ参加したりといったひとつ上のステージまで達している可能性がありますね。

そのように、スタッフの向上心をそそる環境作りも院長先生の役割です。

指示待ちスタッフが、自ら動いて利益を生むスタッフへ変貌するためには、まず院長自身が指導者としての心構えを変えたうえで、最低でも3年は辛抱強く教育を続けることが必要です。

もちろん、3年や10年、ただ辛抱して何もせずに待つだけだとスタッフが「ここではもうやることがない」と考えて転職してしまう恐れがあります。

院長先生から積極的に声をかけてコミュニケーションをとり、いつも見守っていること、期待していることを意識づけ、スタッフのモチベーションを維持していきましょう。

お声掛けいただきましたら、わたしが院内セミナーなどでお手伝いします。

刺激になる仲間や憧れの存在を見つけて、仕事が生きがいになる

セミナーでは、自分一人で学習しているだけでは決して気づかない「癖」や「短所」を、第三者の目で客観的に指摘してもらえます。

そして何より、志を共にする素敵な仲間ができることが、セミナーに参加して医療接遇を学ぶ最大のメリットです。

セミナーを通じて、目標となる存在や、憧れのロールモデルをみつけたことで大きな影響を受け、指示待ちスタッフから利益を生むスタッフに生まれ変わった人が、これまでにも大勢います。

仕事にやりがいを感じて楽しめるようになると、自分の人生を、これまで以上に愛することができます。

同時に、患者さんへ愛情を向けられるようになることが、大きな収穫であり宝物といえるでしょう。

セミナー修了後も交流を深め、お互いに刺激を受けながら切磋琢磨して、コミュニケーション術や医療接遇のスキルを日夜ブラッシュアップしています。

まとめ

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(画像=Paylessimages/stock.adobe.com)

指示待ちスタッフを減らすことは院長にとって大きな課題の一つです。

そのためには「あのスタッフは意識が低い」「そこまで有能なスタッフがいない」ということではなく、院長の心がけで大きく変わってくることがわかったのではないでしょうか。

大切なのはまずは自身が変わることというのを意識してください。

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北原 文子

Kuriere 代表 / 歯科衛生士

日本大学歯学部付属歯科衛生士専門学校卒業。歯科医療コンサルタントとして全国の歯科医院を訪問。資格を持つ医療スタッフが将来にわたり職務経験や計画的な能力開発を行い、自分の人生(=キャリア)を形成していく「キャリア育て」としても活動。

1994年4月 国家資格歯科衛生士取得後、都内歯科医院勤務。
1996年 人材育成と企画サービスを行う有限会社エイチ・エムズコレクション入社。セミナー講師、企業マーケティング・啓発活動、テレビ、ネット、メディア、雑誌などにも出演・執筆多数。全国の歯科衛生士学校で講義も行う。
2018年 同社退社後にフリーランスとなり、2019年4月より「Kuriere」を創業。