小塚先生_開業指南_2

私、小塚義夫は、名古屋に『つゆくさ歯科医院』を開業して10年が経ちます。

開業以来売り上げもメインテナンス数も右肩上がりで、自費率約30%以上の安定経営を行なっています。

「歯科開業医として成功を収めるために、勤務医時代に何ができるのか?」「将来のビジョンをどのように立てるべきか?」など、私の開業から今日までの軌跡を振り返りつつ、歯科医院開業のメソッドを解説していきます。

2回目の今回は、「経営編」。

私は「歯科医の中には、開業してもいい歯科医、開業してはいけない歯科医がいる」と思っています。

それはいったい、どういうことでしょうか?

また、開業医の”独りブラック”ともいえる過酷な勤務実態や、”医院継承”の暗影、ワークライフバランス重視の生き方の可能性についても解説させて頂きます。

「開業してはいけない歯科医」とは、どんな歯科医?

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(画像=taka/stock.adobe.com)

最初に「開業してもいい歯科医、開業してはいけない歯科医がいる」とお伝えしましたが、開業してはいけないのは、いったいどんな歯科医でしょうか?

開業の時点では「開業・経営」とはどういうことなのかが全く解っていない、それが大半の歯科医です。

開業するというのは、言ってしまえば全く経営の経験の無い状態で『経営者になる』ということですから。

院長のメインの仕事は「医院経営」。それを理解した上で、開業することが重要なのですが、そのことを忘れている、あるいはそもそも知らない歯科医がともて多いのです。

歯科医の多くは、「こんな歯科医療を提供したい」という理想を掲げて開業します。

歯学部で習うのも医療の知識と技術がほとんどです。

開業すると歯科治療だけでなく、経営やマネジメントなど、それ以外の仕事が山のように降りかかってきます。

また、院長一人だけが食べていければいいという問題ではなくなります。

スタッフと協力しながら、医院が継続して利益を出していく必要があり、そのためには経営やマネジメントなどの勉強が必要不可欠です。

つまり、院長になると、診療だけでなく、それ以外の仕事が積み重なり、ものすごく忙しくなります。

それをある程度覚悟しなければいけないということなんですね。

それらをしっかりやらなければ成功を収められないんです。

この努力ができない、これがいやだという人は、「開業に向かない歯科医師」と言えます。

院長は想像を絶するほど忙しい「独りブラック」

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(画像=pixta)

開業した院長は、多忙を極めます。

院長の業務は診療だけではなく、経営、マーケティング、組織運営、マネジメントなど、やることが多すぎて、勤務医の3倍ぐらいの感覚で働かなければなりません。

いわば「独りブラック」ともいえる状態になります。

院長は経営者ですから、労働基準法の対象外。特に開業したばかりの頃は、やらなければならないことが多すぎて、週7日休みなしで働き続けることも珍しくありません。

時間と共に徐々に仕事のスピードが上がってきますが、軌道に乗るまでが大変です。

やり遂げる覚悟はありますか?

院長が陥りがちな「独りブラック」とは、どんな状態?

想像を絶するほど忙しくなる院長の「独りブラック」とは、具体的にどのような状態なのでしょうか?

開業したばかりの院長が陥りがちな悪循環についてご紹介しましょう。

  • 歯科医は自分ひとりだけ。難抜歯にハマっても、誰も助けてくれない。
  • 院長の自分は「いっぱい、いっぱい」なのに、消毒室からスタッフの笑い声が聞こえてくる。
  • 少し注意したらムッとされて、その後、スタッフからの無視が続く。
  • スタッフルームから、院長の悪口が聞こえてくる。
  • ある日、突然、出勤しないスタッフが…!
  • 欠勤が続くスタッフの 家に電話すると親御さんが出て、「体調を崩したので辞めさせてほしい」と言われる。
  • 急いで手あたり次第に求人広告を出すが、全く応募がこなくて焦る。
  • 人手が足りずてんてこ舞いの状況で、スタッフから「有給休暇」を希望される。
  • 深刻な人手不足に陥り、掃除は適当、器具が次々に紛失、あげくの果てに1本10万円以上するタービンがなくなる。
  • 余裕がなくて、自費診療のカウンセリングができなくなる。せめて保険診療を丁寧にしっかりやろうと予約を詰め込んだものの、「急な仕事が入った」等で当日キャンセルが続出。
  • 保険診療を丁寧にやりすぎたせいで、予測以上に歯科材料費や技工費、人件費が高くつき、手元に残る現金が少なくなって焦り始める。
  • 新患が減ってきているのに、治療が完了する患者が重なり、アポイントに空白が目立ち始める。
  • 焦って集患しようとして広告を出したいと考えるが、何をしていいか解らない。たまたま飛び込みでやってきた広告業者のいいなりになって無駄なお金を使ってしまう。
  • 開業している友人に相談すると、患者が来たら課金されるシステムの集患サイトについて教わり、それなら損はないと思って登録。確かに患者がすぐに来たが、痛みが取れたら治療の途中で来なくなってしまう患者ばかり。
  • 疲れ果てて家に帰ると、妻がテレビを見ながら笑っている。その横で、スタッフの給与計算、業者への振り込み、レセプトの整理、歯科医師会の雑務、月一の税理士の面談準備等々、やることが山積みで業務が終わらない…!

上記は私や私の知り合いが経験した実話です。

「独りブラック」、いかがですか?このような状態に陥ってから、新人院長は、強い後悔の念に襲われます。

「何のために開業したんだろう?開業前にもっと勉強しておけばよかった!開業前にもっと意識して行動しておけばよかった…!」

開業医時代に、経営やマネジメントの勉強の必要性にいち早く気付き、効率よく準備を進めておけば、こういった苦労を回避・緩和することができたかもしれません。

では、実家などの既存の歯科医院を継承する場合はどうでしょうか?

継承なら「独りブラック」に陥ってしまう苦労をしないで済むのでしょうか?

医院継承のメリット・デメリットについて

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(画像=pixta)

医院継承で実家の医院に戻る場合は、ゼロからのスタートではない分、この苦労が軽減できるかもしれません。

しかし、良い面だけではありません。

継承のデメリットは、良いところも悪いところも、すべて継承せざるを得ないということ。

2代目が、今の時代に合った新しい方針に変えたいと思っても、先代からの長いスタッフもいるのでなかなかスムーズにはいきません。

人は変化を嫌う生き物ですから、これまでやってきたスタッフの考えや行動などを変えるのは、本当に困難です。

また、患者さんも変化を嫌います。「大先生は○○してくれた」とか言って、新しい治療ややり方をなかなか受け入れてくれないことも多いと聞きます。

そして、何より継承で難しいのが、父(母)と子が一緒に働くことです。

お互い妙なプライドがぶつかり合い、また、身内だからという変な甘えもあり、喧嘩が絶えないケースを沢山聞きます。

継承した医院で上手く行っているケースは、父(母)または子のどちらかもしくは両者が大人になって、相手を尊重して受け入れているようです。

また、父(母)と子の患者さんやスタッフを完全に分離しているケースも上手くいくことが多いようです。

そして、父(母)の引退が近づいた際には、新しい医院の理念をしっかりと提示し、その理念についてこれないスタッフは辞めてもらってもよいと伝え、医院の再構成を行いましょう。

とはいえ、継承は新規で行うより難しいとも言われています。

私も父の医院を継承しようと、開業前に準備していましたが、父との打ち合わせを重ねた上で、これは無理だと悟り、新規で開業をすることにしました。

開業だけが幸せか?

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(画像=pixta)

一方で私は、「開業することだけが、歯科医の幸せではない」とも感じています。

ワークライフバランスを重視し、プライベートの時間を大切にする生き方をしたいなら、勤務医として長く在籍できる歯科医院を探すというライフプランを選ぶ方が良いと思います。

これからはますます少子高齢化が進み、医院経営の難易度は益々上がってきます。

我々の父親世代のように、開業したら誰もがベンツに乗れる時代はもう終わりました。

歯科医師はみんな開業するという常識は間違いなく崩れるでしょう。

それでも開業したい、開業医として成功したいなら、何より「原動力」をもつことが大事。

原動力があると、忙しすぎる独りブラックな状態を楽しむことだってできるのです。

それでも開業を志す場合に必要なことは?

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(画像=pixta)

原動力は、「自分の城を作りたいから開業したい」でもいいですし、「家族のために稼ぎたい」「良い車に乗りたい」でもいいでしょう。

中には、「モテたい」なんていうシンプルな原動力を持っている院長もいます。

そして、やらないことを決める、外注を利用できるところは利用する、というように、業務の取捨選択をする判断力も必要です。

そうして仕事をスピードアップできれば、いずれは独りブラックといわれるような院長の過酷な勤務状況からも少しずつ脱出できます。

何かを犠牲にする覚悟はあるか?

開業して成功をつかむためには、人生における重要なものである『家族、友人、健康、仕事』、このうちの1つを諦めないとといけない、という考え方があります。

しかし、さらにランクアップした大成功を収めるためには、2つを諦めなければなりません。

その覚悟が、あなたにはありますか?

私の場合は、「友達づき合い」をまず諦めました。

ゴルフや遊びの話など一切断っています。

そして、「家族サービス」も多少犠牲にしているかもしれません。

家に帰っても、休みの日も書斎に閉じこもって仕事をすることは多々あります。

あなたは仕事で成功するために残りの3つから何を諦めますか?

ちなみに、成功している院長は、例外なく仕事ばっかりしてます。

遊んでいないですね。

時々、『先生みたいにできないから開業できるかどうか不安になってきた』と言われることがあります。

ただ、働くことが好きなんですね。

ブラックを楽しんでいる部分があります。

これが独りブラックの実態です。

つまり、苦しむのか、楽しむのかもあなた次第です。

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小塚 義夫

医療法人つゆくさ歯科医院 院長 / 歯科医師

平成23年5月に名古屋にて、つゆくさ歯科医院を開業。専門は歯周病・入れ歯全般。歯周病治療に力を入れており、ターゲットを具体化した歯科医院経営の成功事例として多数の講演実績あり。

元々は教職志望だったこともあり、後輩歯科医師の育成にも注力。開業を志す若き歯科医師のよき相談相手としても活動中であり、開業にまつわるエピソードや知見を基に、あきばれ歯科経営 onlineにも寄稿頂く。