はじめに
はじめまして。歯科医師の中原維浩です。これからこちらのコラムで数回にわたり「医療物販学」についてお話しをしたいと思います。
「医療物販学」と言ってもほとんどの先生方が初めてお聞きになったのではないでしょうか?無理もありません。
これは今私が、医療機関に関わるスタッフが新たに学ぶべき領域として作り上げようとしている新しい分野なのですから。
「医院の物販だけで毎月100万円を売り上げる」と聞いて、先生はどう思いますか?
「そんなことは無理だろう」「患者様に対して押し売りみたいなことをしたくない」など、ご意見は様々でしょう。
しかし私は、複数の医院を経営し、また私自身が様々な試行錯誤を繰り返しながら待合室での物販やマーケティングに力を入れてきた結果、売上面はもちろん患者様との関係性、スタッフの離職率の低下やモチベーションの向上など、様々な面で大きなプラスになったことを実感しています。
そのような経験から、今後の医院経営の大きな武器となる「医療物販学」についてお話をさせて頂きます。
コロナで変わった歯科医院と患者様との関係
2020年に突如襲った新型コロナウイルスで世界中の人々の働き方や患者様との関係性が大きく変わりました。
私たち歯科業界も例外ではありません。
当初新型コロナウイルスの正体がよく分からない時期は「歯科治療=飛沫」と受け取られ、来院数が大幅に減った医院も多かったのではないでしょうか。
今でこそCPC入りの洗口液でうがいをすることで新型コロナウイルスが99.9%不活性化することが実験でも分かり(※)、患者様は以前よりも安心して治療を受けていただけるようになったものの、「歯科医師や衛生士と気軽におしゃべりをする」という当たり前だった光景は、もう当分戻ってこないでしょう。
※引用 株式会社サンスター
そんな今こそ私がお勧めしたいのが、患者様との大切なコミュニケーションとしての「待合室」の活用です。
これこそ私が長年研究と実践を続けてきた「医療物販学」です。早速具体的にお伝えしていきましょう。
待合室だからこそできる新しいコミュニケーション
先生は医院の待合室を「患者様との最高のコミュニケーションの場」として捉えたことはありますか?
単に待ち時間を潰すための雑誌や、新商品のパンフレットなどを置いておけば良いと考えてはいないでしょうか?
今はなかなか簡単に世間話も出来ないからこそ、待合室は医師からのメッセージや新しい商品、自費診療の紹介などを伝えられる重要な場所となります。
グッズを置くのもここ待合室になり、患者様にとって魅力的なグッズをそろえ、伝え方・見せ方を工夫することによって時間潰しの場所だった待合室が「1ヶ月に100万円」も売り上げる場所になり得るのです。
マーケティングは金儲けではない!
「医院経営にはマーケティングが重要」と聞くとどのようなイメージを持ちますか? マーケティングという言葉は「金儲け」というマイナスな印象を与えるかもしれませんが、決してそうではありません。
マーケティングとは、以下のように定義されています。
- 米国マーケティング協会(AMA):「マーケティングとは個人及び組織の目標を満足させる交換を創造するため、アイデア・財・サービスの概念形成(コンセプト)・価格・プロモーション・流通を計画し実行する過程である
- P.ドラッガー:「マーケティングとは顧客の創造とその維持である」
- 日本マーケティング協会:「企業及び他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」
つまり歯科医院におけるマーケティングとは、患者様を創造し維持するための施策であると同時に、単なるこちらからの押し付けではなく「患者様のなりたい自分になる手助け」「顧客ニーズを満たすこと」なのです。
「医療物販学」の考え方とは?
私が学生時代にABCマートでアルバイトをしていた時に「ニューロマーケテイング(Neuro-marketing)」に出会いました。ニューロマーケティングとはneuro(神経)とmarkting(市場活動)の造語で、脳の反応を計測することにより消費者心理や行動の仕組みを解明・応用するマーケティング活動です。これを医院の待合室に応用したものが「医療物販学」です。
私がABCマートでやっていたことは、「お買い上げの際にレジで関連する商品をおすすめする」という手法です。もちろん全く関係無い単価の高い商品を勧める訳ではなく「こちらもご購入頂くとこんな使い方ができますよ」という、お買い上げの商品に対してプラスの提案を含めたものです。
これに対して自分のニーズに合うと思うお客様は追加購入し、興味が無ければ購入しない、それだけのことです。しかしそこから話が弾んで興味を持ち他の商品の紹介に繋がることもあり、そのような場合、お客様はさらに満足度を高めて帰っていきます。
「グッズ販売が苦手」と思われている先生は、興味を抱かせる前に商品の説明をしてしまっているのかもしれません。こちらが押し付けるのではなく、しっかりと患者様のニーズにこたえながら五感に訴え、さらに専門家の説明により安心・納得した上で「これ買いたいな」という欲求を自ら持ってもらうこと。これが医療物販学の重要な考え方です。
「医療物販学」:医院のメリット
医療物販学が生まれた背景には、私自身の経験があります。私の勤務医時代には自費診療を勧めることが多かったものの、下町の実家に戻って開業した際には自費診療に関心がある患者様はほとんどおらず、来て欲しい患者様と実際の患者様に大きな差がありました。そのギャップを埋めるために始めたのが、待合室を最大限に活用する「医療物販学」です。
物販自体の売り上げは、単価も粗利も低く、それ自体の直接的な売上貢献度はさほど高くありません。しかし物販を通じて患者様の歯に対する意識やデンタルIQを上げることで、結果的に物販金額の上昇に比例して自費診療の売り上げも上がっていったのです。
オーラルケア関連市場が年間4千億円を超えていることを考えると、患者様の意識が変われば物販だけでも十分利益が上げられるでしょう。しかし何より一番の目的は「物販を通じて患者様のデンタルIQを上げることで、お口の中に対する興味が高まり、自然と自費率の向上につながる」ということ。
つまり医療物販学には、単なる物販の小さな売り上げから、自費診療の増加へとつながる大きな可能性を秘めているのです。
「医療物販学」:スタッフのメリット
もう一つ大きな効果としては、スタッフにも協力を仰ぎアイデアをもらいながら進めていくことでスタッフにとって「受付業務や治療以外の新たな職場での役割」が生まれることです。
自身のアイデアが採用され、患者様も興味を持ってくださることで売り上げにつながっていく。そのような今までとは違う形で医院に貢献できることがやりがいとなり、結果的にスタッフの離職率低下に繋がります。
実際に患者様の待合室での様子が分かっていて他愛もないおしゃべりをしているのは、受付スタッフをはじめとした女性スタッフです。だからこそ商品のディスプレイやPOP(説明)など、どんどんスタッフの意見を取り入れ、主体的に動いてもらいましょう。
グッズの選定から在庫管理、患者様の感想などを共有することで、スタッフ間の関係改善や医院の活性化、そしてスタッフのあらたなやりがいにもつながることでしょう。
まとめ
このコラムでは「医療物販学」の考え方の基礎編をご紹介しました。待合室を充実させて医療物販に力を入れて行くことは、患者様のニーズに応えながらスタッフのモチベーションアップにもつながり、その結果医院の売り上げにまで貢献する素晴らしい仕組みだと考えています。ぜひ先生の医院でも「医療物販学」の考え方を取り入れてみませんか?
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医療法人社団栄昂会(細田歯科医院・戸塚駅前トリコ歯科 )理事長
DECT株式会社 代表取締役社長
2016年に実家の細田歯科医院を継承。理想とする「全身から診る口腔咬合医療」を提供するために勤務。2016年10月にリニューアルオープン。
その後、2017年に医院経営の包括サービスを提供するDECT株式会社を設立。2018年には、戸塚駅前トリコ歯科を新規開業。
医院の待合室でセルフケアグッズを販売することがどのように医院経営を変えていくのかをテーマに「医療物販学」という待合室におけるマーケティング理論を提唱し、年間100回を超える講演で全国を飛び回る。