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私はこれまでに医院を経営する多くの歯科医師にお会いしてきましたが、話をしていて気になることがよくあります。

それは先生方の抱えている「お金に対しての誤解」です。

ここで言う誤解とは、お金に対する捉え方や使い方を指しますが、なぜ誤解は生まれるのでしょうか?

それはお金に対する知識不足や、お金のことを真剣に考えていないから。つまり多くの方が、なんとなくお金と付き合っているからです。

医療従事者のなかにはお金と向き合うことにネガティブな反応を示す人も多くいます。

しかし、お金を正しく理解すれば、患者さん、歯科医院で働く歯科衛生士や歯科助手の幸福度を高めることにもつながります。

そのためにはまず自分のお金に対する誤解を改め、検証することが大切です。

今回のご相談:歯科医師がお金のことを考えるのは卑しい?

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(画像=ronstik/stock.adobe.com)

お金に対する誤解は日本人の気質や教育によるもの

欧米などでは、資本家は成功者として尊敬の対象とされます。

それはお金を稼ぐことを努力の賜物と捉え、受容しているからです。

一方日本では、「お金について考えることは卑しい」とする風潮があります。

質素倹約が美徳とされる思想や文化が根付いているからでしょう。

日本では学校などで正しい金銭教育を学ぶ機会はほとんどなく、親からの教えを受けて育つわけですから、そういった考えになるのは仕方のないことではありますが…。

これらの誤解があり、多くの人はお金について考えることを意識的に遠ざけているわけです。

また誤解とは少し違うかもしれませんが、歯科医師に限って言えば、経済的に裕福な家庭で育った方が多いのも要因です。

基本的に困っていないのですから、お金について考える必要性があまりありません。

お金と向き合うのは経営者の義務

お金のいろいろな仕組みに考えを巡らし準備することが豊かさへの第一歩です。ここで言う豊かさとは何も高級車を所有したり、タワーマンションの上層階に住んだりすることを指すわけではありません。

お金があれば設備投資によって医療の幅を広げられますし、スタッフに昇給などで還元すれば、仕事への意欲を高めてくれるかもしれません。

患者さんからしてみても、なかなか治らなかった症状が改善すれば嬉しいことでしょう。

お金があることで周りが幸せになれるのに、考えないようにしているのはお金から逃げ回っているだけです。

人が幸せになるチャンスをふいにしているわけですから、そちらのほうが卑しいという見方もあると思います。

つまりお金から逃げ回っている歯科医院の院長は、経営者としての自覚が足りていないのです。

次に、具体的な相談者の例をご紹介します。

今回の相談者:
患者満足度向上に取り組むも実を結ばずに悩むT先生(50代)

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(画像=buritora/stock.adobe.com)

相談者のプロフィール

アウトドア派の歯周病の専門医。

奥様と2人の子どもの4人家族。

T先生の歯科医院は高級住宅街にあるため、患者さんに富裕者層が多いのが特徴です。

歯科医師という人を助ける立場から医療を商売化することに抵抗を持っており、いわゆる「赤ひげ先生」のようなところがあります。

自己研鑽を怠らない努力家で、すばらしい道徳観をもった先生ですが、これがお金を遠ざけている要因となっていることに本人は気づいていません。

T先生との打ち合わせで、医院に訪れたときのことです。

会計をしている患者さんに出くわしました。

そこにT先生がひょっこり現れて、「ちょっと値引きしておきましたから」と言っていたのです。

患者さんは「あ、ありがとうございます…」と値引きされたことに戸惑っている様子でした。

しかも、このやり取りはスタッフの目の前で行われます。

流石に褒められることではありませんね。

自分が行った仕事の対価として患者さんから診療費をもらうのですから、値引きはスタッフの存在を貶める行為になりかねません。

また患者さんに補綴の相談をされているときにも、同じようなケースがありました。

患者さんは、目的があって自費治療を望んでいたのに、あえて保険診療を勧めていたのです。

T先生としては、「少しでも診療費を下げてあげたい」という気持ちから良かれと思ってした行為でしたが、患者さんが望んでいなければ、逆に満足度を下げてしまいます。

患者さんに診療費分の価値(仕事)を提供できているのであれば、後ろめたさを感じる必要はありません。

心苦しいからといって値引きをしたり、より安価な治療を勧めたりするのは、お金を逃がしてしまうだけで誰も得をしない行為です。

T先生へのアドバイス

少し厳しい言い方になりますが、このようなことを無自覚に起こしてしまう歯科院長の共通点には、「経営者としての責任の欠如」があります。

T先生は医療従事者であると同時に、スタッフたちの生活にも責任を負う経営者なのです。

そこで、まずこの事実を自覚してもらうことを強く求めました。

そして具体的には、お金の出入りに目を向けるようアドバイスしました。

歯科事業でいくらの資金を生み出しているのかを示す「営業活動によるキャッシュフロー」、資金調達と借りたお金の返済についての流れを示す「財務活動によるキャッシュフロー」など、お金の流れに注意を向けることで、お金への意識を高めてもらったのです。

まとめ

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(画像=leungchopan/stock.adobe.com)

お金を稼ぐことは決して卑しい行為ではありません。

むしろお金から逃げ回っている人のほうが、現実を見ようとせず人を不幸にしている可能性があるわけですから、結果として品性に欠ける行為と言えます。

そのためお金に対してネガティブな印象を抱いてしまう人は、まずお金と向き合い、お金に対して正しく理解することが大切です。

患者さんの幸せやスタッフの幸せなど、お金で生まれる幸せもたくさんあるのです。

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本間 博史

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第十支社 ライフプランナー

歯科医院の経営サポートの「攻め(マーケティング)」と「守り(お金の対策)」をバランス良く提供。歯科医院の院長先生の「夢」を設定し、将来を明確に思い描く。

キャッシュフローの試算を基に、まずは単年度予算を作成し、歯科医院経営を見える化。ここをスタートに目標と実績のギャップを示し、ギャップの改善をPlan-Do-Check-Actionサイクルを通じて実行。

これまで数々の支援を通じて「資産運用の悩みは、それぞれの家庭で違う」ことを強く実感したうえで、歯科医院の院長先生ごとのライフプランナーとして寄り添う。