歯科医院のチーフは無理に作らない リーダーに向かない人の2つの条件

エイチ・エムズコレクションの濵田真理子です。

私は歯科衛生士としてスキルを積みながら24歳で起業し、以来27年に渡り歯科衛生士のスキル研修から人材マネジメント、衛生士の育成から集患の支援など実に様々な分野で歯科医院様にコンサルティングを行ってきました。

多くの先生方のお話を伺って共通しているのは、医院長のお悩みの多くは「スタッフ」に対するものであるということです。

数百という医院様の問題解決をしてきた私だからこそお伝えできるスタッフのトラブル回避法を、具体的な事例と合わせてご紹介していきます。

実力主義で若手を抜擢したことで大失敗してしまった編

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(画像=naka/stock.adobe.com)

【今回ご相談に来た歯科医院の環境】
・院長 47 歳 、開業7年目
・ユニット7台
・スタッフ14名
・平均年齢29歳(最年少21歳・最年長46歳)

トラブル解決のために若手を抜擢したら、違う問題が多発

この歯科医院の一番の問題は、スタッフ間の人間関係の悪さでした。

開業時から支えてきてくれたスタッフが退職するまでは非常に良い雰囲気でしたが、最年長46歳の歯科衛生士と38歳の受付・29歳の歯科助手が、仕事に対する姿勢や発言などで頻繁に揉め、小さなトラブルが多発していました。

そして、せっかく入職した人がすぐに退職してしまうようになってしまっていたのです。

この問題を解消したいと考え、評価制度で高い評価を取った新卒4年目のスタッフをチーフに大抜擢しました。

評価制度はもちろん、その人が問題ある複数名のスタッフとも、そつなく良好な関係を築いていたからです。

【評価制度で評価の良い若手を抜擢】
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若手の抜擢はリスク大!通常以上にたくさんの確認が必要

ところが、新卒4 年目のスタッフを大抜擢すると、今までとは違うトラブルが起きるようになってしまいました。

そして、疲弊した彼女は何度も「チーフを 辞めたい」と相談してくるようになり、院長も大幅に時間を割かれるようになってしまいました。

評価制度を導入すると、若手の中に高評価の人材を見つけることがあります。

古くからいるスタッフがトラブルを起こしている時、「この若手がリーダーになったらどうだろう」と考える先生も多いでしょう。

この時、院長が確認しなければいけない要素は、「問題児とうまくやれている」という点ではなく、「その人に人望があるか、他人に影響を与える事が出来る人か」という点です。

「チーフ=人望」です。若手でも、実力も人望もあればリーダーとしてうまくやっていけるでしょう。

【チーフ=人望】
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リーダーには向いていない人とは

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(画像=karin/stock.adobe.com)

もし、以下のようなことが頻発するようであれば、その人はそもそもリーダーには向いていないので対策が必要です。

  • トラブルが起きた時、院長が直接注意するなど毎回院長が解決しなければならない。
  • 仲間や年上のスタッフからの反発から、院長がその人を守って あげなければいけない。

この2つが頻繁に起こるのであれば、この抜擢そのものが適切な任命ではなかったということです。

問題をよくおこす年上の人たちを束ねるために若い人材をリーダーにしてしまうと、今まで順調だったその人と問題をおこす人の間でも些細なトラブルが発生してしまいます。

もともと大人にな っても組織を乱すような3人組を、ひとりで対応できる若手は存在しないと思っていたほうが良いです(経験上、身内、院長婦人は例外です)。

【理事長の仕事が逆に増えた】
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「リーダーを辞めたい」という若手に弊社が行ったこと

今回の場合、「4年目だが高評価」というのが大きな理由でスタッフからチーフに大抜擢をしましたが、疲弊した彼女は何度も「チーフを辞めたい」と院長に相談するようになり、院長の私生活の時間までを奪うようになりました。3か月ほどで「何十時間も」です。

チーフ就任から半年後、弊社がコンサルティングに入りました。医院審査と状況確認の結果、2か月目にチーフ制度を廃止しました。

弊社が廃止したことにして悪役を引き受けたと同時に、評価制度にランク(勤続年数や役職で評価項目の厳しさが変わる)をつけました。

若い人材を抜擢する時に大切なのは、「その人に人望があるか?」「周囲の人に良い影響を与える事が出来るか?」そして、「その能力で、効率的に組織の問題を解決し続ける事ができるか?」です。

問題児と評される年長のスタッフは、若手から指示命令をされると、言動や行動をこまめにチェックして、揚げ足を取ってきます。

このリスクをしっかり考えなければなりません。

【チーフは適任者がいなければ無理につくらない】
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その歯科医院の評価表を確認すると、問題をおこしていた人の評価が下がる項目が存在せず、新人もベテランもみんなレベルも同じ処理になっていました。

そこで当然ながら、「新人に期待していること」「4 年目に期待していること」「 46歳に期待すること」はレベルもランクも違うということを一覧で示しました。

そうすると、自分の役割を理解してきた仲間同士でもめることも減り、仕事で協力しあうようになり、患者や診療に目が向くようになりました。

そのうち、お互いの足を引っ張りあうような人間関係のもめごとは、ほぼなくなりました。

【評価項目を見直し、組織を成長させる】
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解決策

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(画像=Paylessimages/stock.adobe.com)

今回のコンサルでは「チーフには、どんな仕事をしてもらうのか?」ということと、「権限や役割」を整理して明確にしました。

その結果、相応しい人材がいないためチーフ制度を廃止し、職務別リーダー制度を導入することになったのです。

女性経営者視点での真理子流メソッド

人の問題が多発する組織になってしまった時は、【組織全体で医療人としての心育て】の機会を設けましょう。

この医院では、「患者さんとの信頼関係を構築するコミュニケーション」というテーマで、計10回の全体研修(技術研修含む)と月1回のリーダー電話コンサルティングを一年間行いました。

医療機関での仕事とは、経営者のやりたいことに「仕える事」であり、気配りのある良いチームの秘訣は、自分の持ち場で大切な仕事での気づきを増やし、仲間からの信頼を「築く」ことだと繰り返し伝えました。

コンサル視点での秘訣(ポイント整理)

人事で若手を抜擢して良いのは「所属している人数の3分の2以上があの人ならチーフに相応しい」という評価を得ているスタッフがいる場合です。

問題を起こしている張本人は、このチーフを選ぶ側に参加させる必要はありません。

もし全員が問題をよく起こす人たちであればチーフ制度は設けず、評価制度の整備に集中するほうが良いです。

繰り返しになりますが、若手の抜擢は様々な問題をクリアした上で慎重に行うべきであり、一度、高評価だったからといって、問題を起こしている組織のチーフに就任させるとさらなる混乱の原因になります。

逆に、特に問題が起きていない組織であれば、院長が「こんな人を増やしたい」と思う人を抜擢しても大丈夫です。

このように「歯科医院の現状」をよく把握した上で、人の配置を決めていきましょう。

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濵田真理子さんの最新書籍紹介

院長・スタッフに好評のコミュニケーションテキストの超ロングセラーを大改訂した新版。数百の歯科医院でチームワーク作りを個別指導してきた著者が、最も大切にしている基本をまとめました。新人教育、チームワークのシステム作りに最適。

医療現場で必要なコミュニケーションの理解・レベルアップのために。一般常識的な接遇方法から、患者さん・スタッフとの高度な意思疎通の方法までを学ぶ。(書籍帯書きより)

著者・濵田真理子さんからのコメント

成長評価シートは、組織における具体的な行動内容を整理し設定できます。
書籍で紹介されている「成長評価シート」を用いることで、組織の具体的な行動内容を整理し、設定しやすくなります。

以下が新しい「成長評価シート」のポイントです。

・項目を最低限に絞ったことで達成も管理もしやすい
・シートを用いて職種別の評価項目を明文化することで、意識や労働レベルの標準を共有しやすくなる
・スタッフ教育や能力開発・成長のための目標管理が容易になる
・業績考課ではなくプラス考課されやすい短期的指標でシートのフレーム
・を作成。定期的にアップデートすることで、長期的視野を持つスタッフにも活用可能

今回のシートは「成長を支援する」ことを目的として作成したため、スタッフ一人ひとりが組織の中で必須の項目を日々問いかけ実践する機会が増えるでしょう。

個々にとっても自分の努力や成長が評価されたすいため、モチベーションを維持・向上しやすいのも特徴で、面談で水の泡とならないよう面談術も紹介しています。

コロナ禍でスタッフの評価項目も変化しています。

組織の方向性や目標が変化する時には、同時に人事の評価基準や項目も見直しが必要です。それを組織全体に浸透させるツールとしてお使い頂くことで、是非、成長を続ける医療機関の安心・安定経営にお役立てください。

濵田 真理子

有限会社エイチ・エムズコレクション 代表取締役
歯科衛生士
福祉用具選定員
歯科MG戦略インストラクター
全米NLP協会公認トレーナー
歯科メディカルサポートコーチングトレーナー

1991年に日本大学歯学部附属歯科衛生学校を卒業。 卒業後、財団法人日本歯科研究研修協会に入職。歯科衛生士教育機関を育成するトレーナーとしての教育と研修を受けながら臨床に携わる。

その後女性の起業への理解がまだ少なかった1994年に「歯科業界の中で、疾患を持たない患者が歯科医院に来院し続ける仕組みを作りたい」との思いから、エイチ・エムズコレクションを起業。

歯科医院に対して20年にわたる人材コンサルティングの実績を持ち、歯科医療スタッフ分野における人材育成の先駆者として活躍。スタッフが思い通りに成長しなかったとしても「数年後には変わるかもしれない」と決して諦めず、人材育成に尽力している。