歯科医院の経営にも影響を与えるコミュニケーション術「医療接遇」とは?

歯科医院の魅力はスタッフが作り出すもの

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(画像=Paylessimages/stock.adobe.com)

「患者さんのために、と臨床で治療技術を磨いたのに、患者さんがついてきてくれない…」そんな風に悩んでいませんか?

もし、患者さんがなかなかリピーターになってくれないとしたら、もしかすると院長先生が思っている以上に、スタッフとの意思疎通やコミュニケーションが、うまくいっていないのかもしれません。

患者さんが感じ取る歯科医院の魅力は、歯科医師の先生の技術だけでは無く「スタッフが作り出すもの」も大きな比率を占めるからです。

スタッフ自身が治療を受けたいと思える歯科医院ですか?

そんな悩みを抱いたときは、スタッフの声に耳を傾けてみましょう。

スタッフに、「自分や家族が病気になったとき、受診したいと思えるのか?」もしくは「これから転職するとして、再びここで働きたいと思えるのか?」というアンケートを取ったとき、どれくらい〇がつくでしょうか?

回答にYESが多く得られる歯科医院は、院内の雰囲気がよく、コミュニケーションが取れているといえます。

そんな風通しの良い歯科医院では、スタッフ全員が、「患者さんは、時間をとってわざわざ来院しているのだから、自分たちは全力で接しなければいけない」ということを理解して日々の業務に当たっているはずです。

目の前の患者さんにオンリーワンの「医療接遇」を

例えば目の前に山田さんという患者さんがいらっしゃるとしましょう。

それは、歯科医院にとってみれば本日来院予約されている何十人のうちの一人の山田さんかもしれません。

けれども山田さん自身は、24時間365日生活し、さまざまなバックグラウンドを抱えている「世界にたった一人の山田さん」なのです。

そのことを理解して、一人ひとりの患者さんに意識を向けて誠実に対応することが大切なのです。

もちろんスタッフが自主的に、「世界にたった一人の山田さん」への綿密な対応力を発揮してくれるのが理想ですが、なかなかそうはいきません。

というのも医療現場における患者さんへの対応は、一般社会におけるマナーや礼儀だけではない「接遇」のスキルが必要だからです。

接遇とは、丁寧であればよいというものではなく、患者さん個人の事情や気持ちに寄り添って、満足できる結果を提供するという特別なスキルです。

しかも、歯科スタッフには歯科医療という専門性を要する「医療接遇」が求められます。

風通しの良い歯科医院には患者さんが自然についてくる

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「医療接遇」を全スタッフがナチュラルに遂行できる、そんな強い歯科医院にするためには、どうすればいいのでしょうか?

私の接遇セミナーでは、「おじぎの角度は45度」などという型通りのことは必要ないのでやりません。

大事にしているのは、「医療接遇」として、どういうことをしたら「患者さんの信頼を得られるか」という部分です。

成功している歯科医院では、院長先生が「スタッフにせっかくあのセミナーを受けさせているのに、ちゃんとやってくれない」と言っているのではなく、医院全体で協力して取り組まれています。

私のセミナーには、スタッフさんだけでなく、必ず院長先生にも参加いただいてます。

受付スタッフ、歯科助手、歯科衛生士、歯科医、事務局長、院長先生など、各ポジションのスタッフ全員で、歯科医院の「医療接遇の向上」に取り組んでいるのです。

そうした場合、たいていの院長先生は、歯科医院の大黒柱として長くテクニカルな面で闘ってこられていますから、接遇面ではできていないことが多いです。

「北原先生の話、ほぼ、院長の話じゃない?」とスタッフ達が笑って、とても和やかなムードになります。

そういう歯科医院はとても風通しがよくて良い空気が流れているので、自然に患者さんもついてきています。

スタッフの心と体の状態が患者さんにも影響する

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「スタッフにあのセミナー受けさせているのに、なかなかできるようにならない」と、院長先生が愚痴を言いたくなる気持ちもわかるのですが、セミナーは、一度受けたからと言ってすぐに変われる、というものではありません。

しっかりと身につけて実践するためには、トレーニングが必要です。

院長先生をはじめ、経営者や管理者の意識が高い歯科医院ほど、繰り返し、定期的に接遇セミナーを行っています。

「医療接遇を、組織の風土として根づかせることは難しい」と理解されているからです。

もし、スタッフへのもどかしい気持ちや不満があっても、決して言葉の刃を向けてはいけません。

スタッフの心と体の状態は、無意識のうちに話し方に表れ、患者さんに影響するからです。

院長や先輩から、できていないところばかりを指摘され、叱られ、怒鳴られ続けると、「私は評価されない」「成長できない」という念に囚われ、仕事が嫌になっていきます。

そして、怒られないように苦手なことを回避するよう立ち回り始めます。

そうなると、いつまでたっても克服されず下手なまま。改善されないから、評価も上がらない。

毎日やりがいもなく、ただヘトヘトに疲れるだけ。そして、仕事をもっと嫌いになる……という負のスパイラルに陥ってしまいます。

そんなスタッフの心と体の状態は、顔つきや言葉に表れます。

心のこもっていない対応を受けた患者さんは、歯科医院への不信感を募らせる可能性が高くなります。

けれども、そんな未熟なところが多いスタッフであっても、スタッフ全員で接遇セミナーを受けて課題や改善への情熱をシェアし合える環境であれば、どうなるでしょうか?

毎日職場に居ることも、仕事をすることも、楽しくなるでしょう。

そして、自分の可能性に気付かせてくれた素晴らしい院長先生や先輩スタッフとの出逢いに感謝し、ますます仕事に夢中になります。

メキメキと成長し、評価もうなぎ上り。

自分自身が成長している感触を得られると、仕事が生きがいになるほど人生に無くてはならないものへと昇華します。

そんなスタッフの接遇を受けた患者さんは、プロフェッショナルな対応を受けていると実感します。

そして、口福への支援を大いに感じ、医院のファンになって、「ずっとこの歯科医院に通おう」と、ついてきてくれることでしょう。

スタッフが患者さんを惹きつける空気を作りだせるのも、院長の考え方や気持ちしだい。

愛情をもって接すれば、将来、歯科医院の経営の助けとなる利益を生むスタッフの育成も、夢ではないのです。

チェアサイドは理想的!患者さんと良い関係を築ける位置関係

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「第一印象は7 秒で決まる」といわれていますが、実は、診療ユニットのチェアサイドで患者さんとスタッフが接する位置関係は、理想的といえます。

これがもし、真正面で患者さんと向き合う形になると、心理的には「対立の位置関係」になります。

第一印象が、マイナスから始まってしまいかねません。

患者さん相手でもスタッフ相手でも、気持ちよく話ができる関係を築くためには、向き合うよりも、少し斜めの位置につく方がいいのです。

「心地良い」と感じることができる少し斜めのポジションは、心理的には「中立な位置関係」に当たります。

患者さんとの位置関係のおかげで、第一印象で少し得することができるかもしれませんね。

患者さんと接するのに慣れない頃は、色々と不安があるかもしれませんが、そもそもの位置関係からして患者さんに心地よさを与えているということを念頭に置くといいですね。

歯科医院に来院している患者さんは、不安でいっぱいです。

スタッフがリラックスした雰囲気を作って接してあげるようにすることが大切です。

話す&接する時の姿勢を「聞く」から「聴く」へ変える

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スタッフとのコミュニケーションを円滑にするコツとして、相手の話をよく聴くことが重要です。

大切なのは、話をただ「聞く」のではなく、相手の気持ちや考えを理解しようとして、しっかりと「聴く」ことです。

例えば、前回の受診の際に新しい歯ブラシを購入された患者さんとのコミュニケーションでは、どんな言葉を投げかけますか?

「歯ブラシの使い心地はいかがでしたか?」と聞いたところ、「特に問題ありません」。

これだけで会話が終わってしまいました。

そこで、質問の視野を広げて、「自宅ではどうでした?」と短くシンプルな言葉を投げかけてみました。

そうすると患者さんは「初めてデンタルフロスを買ってみたんだけど、歯間に入らなくて……。あれは使った方がいいんですかね?」と、お困りごとを相談してくれました。

さらに新しい情報まで教えてくれたので、自宅でのセルフケアでお困りごとがないか詳しくヒアリングすることができ、患者さんにとって満足度の高い医療接遇を行えるチャンスが広がりました。

このように同じ「質問」でも色々変えてみるなど、意識すると良いでしょう。

すべてに愛情を持つことで「また来たくなる歯科医院」へ

会話を広げるコツは、患者さんのことを憶測で決めつけて会話しようとするのではなく、患者さんの気持ちを尊重し、幅広い関心を持って話を聴くことです。

話を聴けない人にありがちな特徴が、相手の話が理解できていないのに聞いたふりをする、相手の話に集中しておらず視線が泳ぐ、無意識に自分が話したいことだけ話す、医療側という立場を無意識に振りかざして上から目線、といった態度です。

いずれも患者さんに見抜かれますし、不信感が生まれ、話したいという気持ちが失われてしまいます。

ただでさえ歯科医院に来て不安な気持ちになっているのに、さらに悪化してしまうことも。

そうなると、もう二度とこの医院には来てくれないでしょう。

患者さんを惹きつける雰囲気づくりのためには、仕事にも、患者さんにも、自分自身の人生にも、愛情を持って関わること。

スタッフ全員がナチュラルに、目の前の患者さんを心から大切に思えば、患者さんがまた来たくなる歯科医院の雰囲気を作りだすことができるのです。

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北原 文子

Kuriere 代表 / 歯科衛生士

日本大学歯学部付属歯科衛生士専門学校卒業。歯科医療コンサルタントとして全国の歯科医院を訪問。資格を持つ医療スタッフが将来にわたり職務経験や計画的な能力開発を行い、自分の人生(=キャリア)を形成していく「キャリア育て」としても活動。

1994年4月 国家資格歯科衛生士取得後、都内歯科医院勤務。
1996年 人材育成と企画サービスを行う有限会社エイチ・エムズコレクション入社。セミナー講師、企業マーケティング・啓発活動、テレビ、ネット、メディア、雑誌などにも出演・執筆多数。全国の歯科衛生士学校で講義も行う。
2018年 同社退社後にフリーランスとなり、2019年4月より「Kuriere」を創業。