前回に引き続き「多店舗化」「大規模法人化」に成功する条件について、今回は「人材」に焦点を当てて考えていきます。
事業拡大の最大のボトルネックは「人材」
歯科医院の事業成長においても、他の企業と同様に最大のボトルネックになるものが「人材」です。
経営書やビジネス書では「人材の適材適所」という言葉で簡単に説明されています。
しかし、これを実現していくことが、ある意味でトップである院長(理事長)にとっては、最も難しい仕事の一つといえるでしょう。
では、「多店舗化」「大規模法人化」を目指す段階において、どのような人材が必要になってくるのでしょうか?
具体的なポイントを考えていきましょう。
「マネジメント人材」をつくれるか
事業成長に不可欠で、かつ手に入りにくい人材が「マネジメント人材」です。
「マネジメント人材」とは、「ヒト・モノ・カネ・情報」などに代表される、各種の経営リソースをコーディネートしながら「付加価値」を創造できる人材です。
混乱した組織でも、たった一人の優秀なマネジメント人材を手に入れることで、あっという間にそれまでの混乱が治まったりします。
いままでと同じリソースなのに、これまで以上に業績が伸びるなど、マネジメント人材を手に入れると魔法のように成果が出てくることもあります。
例えば、ある医院では新人衛生士の教育係であるチーフが変わりました。
すると、歯科衛生士当たりの売り上げ「200万円/月」への到達期間が、これまでの「5~6年」から「3~4年」へと短くなったのです。
診療部門の中間管理職(チーフ)
売り上げが1億円に向かう段階の組織で、まず必要になってくるマネジメント人材が、多くの歯科医院で「チーフ」と呼ばれる存在です。
組織規模によって若干の違いはありますが、主に「セクションのマネジメント」を期待される人材です。
チーフに求められることは、歯科医師、歯科衛生士、助手・受付など、各セクションの「仕事」と「人」を、院長の運営方針に従ってマネジメントすることです。
このようなことができる人材を創り、仕事の発展原理が効いてくると、院長のマネジメント負荷を分散することができます。
この「仕事の発展原理」とは、混乱した状態の仕事をルーティン化し、それを部下に下ろし、自分はより高次な仕事を開拓していくということを繰り返す基となる原理です。
最初に必要な人材は、「仕事の発展原理」を実践するための診療部門でのマネジメント人材である「チーフ」を創ることから始まります。
では、「チーフ」はどのような人材を任命すれば、良いのでしょうか?
これはよくいただく質問です。
弊社ではマネジメントオーディオブック「院長の経営成功術」というインタビュー教材を発刊しています。
この中で多くの院長にお話を伺ってきたところ、概ね以下を備えていることを条件に人選の基準にされているようです。
- 「理念やビジョン、コンセプト」への共感(院長の想いや方針を、曲げずにチームメンバーに示すことができる)
- 専門領域の仕事スキル(各セクションの仕事を後輩に教えられる程度のスキル)
- 仕事へのポジティブな価値観、責任感
- 後輩や同僚などの面倒見、信頼される人柄
たった4つの条件ですが、実際にはすべて揃わないケースの方が多いでしょう。
その場合、ドラッカーは幹部の条件として「真摯さ」を唯一の条件として挙げていることを参考にしてみてはいかがでしょうか。
クリニック(店舗)マネジャー
分院を展開する段階で、ほとんどの場合に課題になるのが「クリニック全体のマネジメント」ができる人材の有無です。
クリニック全体の「仕事」と「人」のマネジメントになると、チーフよりも格段に難易度があがります。
クリニック全体のマネジメントを行う人材には、以下のような仕事が求められます。
- 自分の目には届かない業務
- 自分ではやったことのないセクションのマネジメント
- セクション間の調整
- 人事的な諸問題
- その他細々とした配慮や判断
これらを、最高権力者である理事長とは違い、自分自身も中間管理職としての権限で行うことが期待されています。
このクリニック(店舗)マネジャーの役割は、多くの場合「分院長」に期待されていますが、実際にはマネジメントまでできる分院長を常に手に入れることは難しいのが実情です。
これは構造的な問題で、臨床もマネジメントもできる分院長は、基本的に開業していくという構図があるからと言えるでしょう。
多店舗化の成功パターンとは
多店舗化する際のクリニックマネジャーの成功パターンとしては、主に以下の3つの考え方が挙げられます。
1.新卒から雇用した勤務医にマネジメント教育も行う
大型の法人になると、毎年、複数名の新卒勤務医を雇用できる力がついてきます。
この人材に臨床とマネジメントを教育し、分院展開時の分院長にしていきます。
常に新しい人材を育てているため、仮にこの分院長が独立する場合でも、入れ替わり時のダメージが少なく安定した運営が可能となります。
ただし勤務医の雇用、育成には時間、財務体質、手間暇がかかるため数年がかりの取り組みになります。
2.スタッフのチーフ人材をクリニックマネジャーとして送り込む
スタッフの中には一部、マネジメントスキル又は素質を持っている方がいます。
こうした人材を分院長の片腕、理事長のお目付け役として分院のマネジメントに抜擢するケースがあります。
分院長には臨床面を、クリニックマネジャー役にマネジメントを、という二本立てで分院をマネジメントするスタイルです。
3.エリアマネージャーの配置
次に2の変化形ともいえますが、チーフ人材を「エリアマネジャー」として、複数のクリニック(店舗)マネジメントに特化させるスタイルです。
これはコンビニなどのスーパーバイザーのような役割に近いイメージです。
このエリアマネジャーに関しては、診療スタッフからチーフに上がってきた人材、歯科未経験でもビジネスの現場でマネジメントスキルを身につけた人材の両面から検討が可能です。
なお、このクリニック(店舗)マネジャーに求められるスキルや資質としては、以下のようなものがあげられます。
- 忠誠心(共感よりも一段高い組織貢献の動機)
- ビジネス的な見識
- コミュニケーション力(人事の仕事が大半になるため)
- 人間力、人格力(どの職種の人からも一目置かれる人間的な説得力
これは必ずしも能力を指すものではなく、「謙虚さ」「人から見えないところで努力する傾向」「忠誠心」「責任感」など本人の人生態度から来るもの)
事務局マネジャー
組織規模が50名を超えるころになると、事務方も1名ではなく複数名で運営するようになってきます。
また、事務局の仕事は、複雑多岐かつ、業績的な評価がしにくい業務を主に取り扱います。
院長(理事長)の多くは、企業での管理部門を見聞する機会がなかったこと、もともと診療現場という患者さんからの感謝や収益が見える直接部門での仕事がメインであったことから、以下のような傾向をお持ちの場合があります。
- 事務仕事に苦手意識がある。
- 診療の仕事より事務局が劣る仕事に見える。
- 事務方を単なるコスト部門と考える。
事業は「生産」「販売」「広報」「財務」「経理」「人事」「法務」など、さまざまな機能で成り立っていますが、正常に成長していくためには、これらの各機能の仕事が、同じ太さのパイプで流れていく必要があります。
この観点から「事務局」に適切な人材や人員を配置し、仕事の管理を行うことは必須の課題になります。
事務局で働くスタッフも診療現場のスタッフと同様に、「仕事を教えて欲しい」「自分の仕事を適切に評価して欲しい」「新しい仕事にチャレンジしたい」など自分の仕事への指導やマネジメントを必要としています。
そのため院長(理事長)の戦略やビジョンを理解し、適切な報・連・相を行いながら、多岐にわたる「仕事」と「人」のマネジメントを代行してくれる「事務局マネジャー」をつくることも、「多店舗化」「大規模法人化」には重要な観点の一つです。
事務局のマネジャーの採用基準では、
- 業務経験
- 管理職経験
- 医療機関のカルチャーに合うか
- 女性スタッフとのコミュニケーション力
- 院長(理事長)が使いやすいか
- 誠実で、不正を行わない人間的な信用
などを基準にし、大企業ではなく、ご自身の医療法人が目指す規模と同じか、少し大きい企業での実務経験を持った方を採用することをお勧めします。
なお弊社では、こうしたニーズのある医院、法人様向けの事務局アウトソーシングサービスを提供しています。
自前で構築するのは時間がかかるため、アウトソーシングを利用することも経営判断の一つでしょう。
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MOCAL株式会社 代表取締役
経営やマーケティング、成功医院のノウハウの研究、ベンチャー企業におけるマネージャーとしての実務経験、業界情報と人脈を活かし、「歯科院長が感じているニーズや悩みを解決できる、本当に価値あるサービス」を提供すべく2012年に業界初アウトソーシングサービス「Mr.歯科事務長」を立ち上げる。
現在は「歯科にマネジメントを!」をコンセプトに、「100人の歯科事務長輩出」を目指しながら、新たに「歯科経営出版」を立上げ、「成功と幸福を両立させる経営思想と経営実務教材」の普及に努めている。