歯科医院の新人研修で必ず伝えるべき5つのメッセージ

新人歯科衛生士の成長につながる「新人研修」の進め方とは?

この連載では、歯科医院の業績の向上や成長に貢献できる歯科衛生士を育てるため、最初の一歩となる「新人研修」を上手に実践するコツを解説していきます。

前回までの記事で、

“経営者という立場では「新人の歯科衛生士に対して、すぐに即戦力として働いてもらいたい」と考えるは当然ですが、「学校を卒業したばかりの新人歯科衛生士は、基本的には何もできない」ことを理解して受け入れることが重要だ”

と説明してきました。

今回は、新人教育の第一歩となる「新人研修」をどう進めていけばいいのか、絶対に押さえておきたいポイントを詳しく解説します。

新人研修ガイダンスの重要性を理解する

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(画像=ponta1414/stock.adobe.com)

筆者が代表を務めるTomorrowLinkでは、医院経営の一役を担う歯科衛生士の育成を支援するコンサルティングサービスを提供しています。

新人育成に課題を抱えている歯科医院の院長には「入職した初日の大切さを理解してほしい」とお伝えしています。

歯科医院の継続的な経営を実現するためには、入職してもらったことに満足するのではなく、新人歯科衛生士が長く働き成長していける環境づくりは重要なことです。

初日からすぐに歯科衛生士業務を実施させる歯科医院も多くありますが、歯科衛生士の第一歩としては適切だとは思えません。

これまでの連載でも説明してきたように、新人歯科衛生士は、基本的には院長や先輩が求めているレベルの業務は何もできないことがほとんどです。

また、「分からないことがあれば、周りが教えてくれることが当たり前」だと考えています。

それなのに、いきなり業務を任されたとしても、「教えてもらえないからできない」と不満を持ったり、要求スピードについていけずに「この医院、自分には向いていないかも」と不安を覚えたりすることにつながります。

筆者は、新人歯科衛生士が入職した初日は、まず自院について理解してもらうために「ガイダンス」を実施することをお勧めしています。

「皆さんの歯科医院では、新人研修ガイダンスを実施していますか?」

そう尋ねると、ちゃんと実施していると答えられる医院はそれほど多くはないと思います。

軽く見られがちな新人研修ガイダンス

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(画像=pixta)

新人研修ガイダンスについては「診療時間を削ってまでやらなくても」という捉え方をされている医院もあります。

目の前の利益を優先してのことですが、医院の都合によって実施できない場合を除き、筆者は、入職初日に業務の一環としてガイダンスを実施することをご提案しています。

また、最低でも丸一日かけて実施することをお勧めしています。

最初のガイダンスでは「自分たちがその医院に受け入れてもらえるかどうか」の印象が決まります。

歯科衛生士の早期退職を防ぐためにも、欠かせない重要なイベントであることを忘れないでいただきたいと思います。

ガイダンスで特に重要なのは、「メンバーが入職することを喜んで受け入れている」「一緒に働いてくれるメンバーとして必要とされている」という“Welcome感”を伝えることです。

それぞれが不安を抱えて臨む初日、いかに温かく迎い入れることができるかは、良好な関係を築く上では大切なことです。

ガイダンスに必要な5項目

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(画像=Proxima Studio/stock.adobe.com)

新人研修ガイダンスで必ず伝えたいメッセージは、以下の5項目です。

適切な担当者を決めて、より効果的に伝えることが重要です。

1.医院の歴史とミッション
2.就業規則の説明
3.自院の接遇・マナー規定説明
4.自院の歯科衛生士業務の解説
5.新人研修内容の説明

以降、それぞれについて簡単に説明していきます。

1.医院の歴史とミッション

まず院長に、歯科医院の開業からの歴史を語ってもらいます。地域の患者さんとどのように携わってきたのか、どう貢献してきたのか、失敗・苦労したことなどについて具体的な体験談を交えて説明してください。

30分から60分ほどは必要になるかと思います。また、自院が何をミッションとして診療をしているかを語ってください。

経営ポリシー、ビジョンを理解してもらい、まずは共感してもらうことが大切です。

2.就業規則の説明

院長、または事務長が就業規則を説明します。事前に就業規則を読んでもらい、一通り説明した後に疑問点などを質問してもらうとよいでしょう。

また、これまでにも出てきたよくある質問については、事前に回答できる準備をしておくとスムーズに進行できるでしょう。

3.自院の接遇・マナー規定説明

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(画像=pixta)

チーフが担当して、明日以降の歯科衛生士としての業務を遂行する事前研修として位置付けてください。

一般的な接遇やマナーに加えて、具体例を交えながら自院での対応方法を説明していきます。

「なぜ、この対応をするのか」という目的をしっかりと説明して、理解してもらった上で研修をすることが大切です。

4.自院の歯科衛生士業務の解説

先輩の歯科衛生士から「歯科衛生士の役割」「一日の業務の流れ」「担当患者さんへの対応の例」などを解説してもらいます。

自身の体験や感じたことを話すとともに、「一緒に頑張っていきましょう」というエールを送るのもよいでしょう。

5.新人研修内容の説明

先輩歯科衛生士や院長から、どのくらいの期間でどのような業務を行うという流れを説明します。

歯科医院として何ができてほしいのかを分かりやすく説明することで、歯科衛生士としてこの医院で働く上での目標設定やモチベーションを高めることもできるでしょう。

新人育成の注意点

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(画像=pixta)

ガイダンスには、全ての医院に対応できるテンプレートがあるわけではありません。

自院の規模や特性などに応じた、適切な内容を盛り込む必要があります。

ただ、絶対に欠かしてはいけないポイントは「それぞれの新人歯科衛生士ができることや得意なことを見つけて、それを増やしてあげる」ことです。

生涯研修が求められる歯科衛生士にとって、新人研修はその第一歩です。

できないことが多いことに目を向けるのではなく、できることが増えることで「仕事が楽しい」と感じてもらえたり、より志を高く自らの成長を目指すきっかけとなるように取り組んでもらえたらと思います。

まとめ

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(画像=buritora/stock.adobe.com)

この連載では、新人歯科衛生士を育成するために必要なポイントを解説してきました。

学校教育だけでは歯科衛生士の育成は難しく、新人歯科衛生士たちの本音やありがちなつまずきポイントを理解した上で、適切にコミュニケーションを取ることは非常に重要です。

また、生涯研修の第一歩となる「新人研修ガイダンス」の実践ポイントも解説しました。

人材育成をしっかりと実施することで、一緒に働くスタッフの満足度を高めることもできます。

その結果、来院してくれる患者さんにも良い影響を与えます。

そこから医院全体の成長、経営の安定した維持にもつながっていきます。

歯科医師の先生は、自分が働きやすい環境を作るための取り組みをすることは得意ですが、一緒に働くスタッフが働きやすい環境を作るのが得意ではない方もいらっしゃいます。

「自院ではちゃんとした新人研修の枠組みができていない」と考えている院長の皆さん、今からでも遅くありません。歯科衛生士にとっても、医院にとってもお互いの成長につながる新人研修をぜひ取り入れてみてください。

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濱田 智恵子さんの書籍紹介

著者・濱田 智恵子さんからのコメント

院長も知らない“スタッフの本音”から逆算した、お互いを理解するための医院運営の秘訣

歯科衛生士歴30年・歯科臨床コンサルタント歴20年の著者が、歯科衛生士の雇用・教育や医院運営に悩む院長に向けて、歯科衛生士から院長や医院に対する本音を引き出して分析した書籍。図説やイラストの例示などもあり、分かりやすく解説されています。

昨今、歯科衛生士の理想の就職先は多様化しており、就職先として選ぶ医院の基準には一定のラインがあります。

また、就職時に「1、2年で転職しよう」「数年で違う仕事をしよう」と考えている人は少なく、「居心地の良い歯科医院なら、長く働きたい」と思う歯科衛生士がいる一方で、「歯科衛生士が集まらない」「入ってもすぐに辞めてしまう」と院長が感じるのは、両者の間で「働く」「働いてもらう」という認識にギャップがあるからです。

本書では、こうした歯科衛生士の本音や気持ちから逆算して、「どうしたら医院運営を改善できるか」を分析、解説しています。

歯科衛生士に対して、「本音を知る」「育てる」「評価する」の三要素から具体的に例示・解説しており、歯科医院の医院長先生だけでなく開業を希望する歯科医師の先生にも必読の一冊となっております。

濱田 智恵子

株式会社Tomorrow Link 代表取締役
歯科衛生士

歯科医院勤務を経て、フリーランスの歯科衛生士としても臨床に携わり、歯科衛生士のスキルを磨く。

人材育成、歯科衛生士の人事評価制度導入などを通じ、歯科医院の運営改善を行う株式会社Tomorrow Linkを2015年に設立。

歯科衛生士の学びや成長、歯科医院経営にお悩みの院長先生のサポートに全国をサポート。