最新の研究で見えてきた「唾液腺と腸の相関」が歯科医院基軸の新たな健康モデルを創出する

今回は、私たちが実際に行った唾液腺と腸の相関についての研究結果を解説します。

前回お伝えしたように歯科医院が唾液腺健康医学を取り入れ、全身の健康の入り口を担う存在となることで、診療の幅も大きく広がることでしょう。

私たちの研究によって得られた知見が新たな健康モデル、新たな産業の創出に寄与することを願います。

唾液腺健康医学で明らかにしたホメオスタシス

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(画像=pixta)

唾液腺は、身体を構成する臓器の一種であり、全身と双方向に関連していることは間違いありません。

けれども、歯科では口腔局所に対する役割、あるいはそこで起こっている現象のみに着目してきました。

そうした視点は、う蝕や歯周病といった口腔疾患を研究・治療する上で極めて重要となりますが、私たち研究者は歯科医学の世界で新たな地平を拓く使命も担っております。

歯科医院が全身の健康の入り口を担って新たな健康医療、新たな健康モデルを提案するためには、狭窄した視野を口腔から全身へと広げなければなりません。

そこで創設したのが「唾液腺健康医学」です。

唾液腺という外分泌器官が口腔を越えて、全身にどのような作用をもたらしているのか。

いかにして生体の恒常性に関与しているのか。私たちが行った研究によって、その実態が明らかになってきました。

口腔は粘膜免疫で守られている

唾液の主戦場は「口腔」です。

先生方もよくご存知かと思いますが、唾液には殺菌作用や抗菌作用、自浄作用といった外敵から口腔組織を守る働きが期待できます。

唾液の分泌量が減ると、虫歯・歯周病のリスクが上昇するのはそのためです。

ただ、唾液の成分は口腔疾患の原因菌のみと戦っているわけではなく、当然ではありますが粘膜を通して感染する細菌やウイルスも異物と認識して排除します。

つまり、風邪などの上気道感染症からも身体を守っているのです。

その際、重要となるのが唾液中に含まれるIgA(免疫グロブリンA)です。

IgAは粘膜免疫における歩兵のような存在で、最前線で病原体を迎え撃ちます。

IgAの作用とは

免疫グロブリンは、特定の抗原が結合する「可変部」と、いろいろな細胞が結合する「定常部」の2つに大きく分けることができます。

可変部はその名の通り臨機応変に作り変えることが可能な部分で、外の状況に応じて最善といえる形に変化します。

定常部は常に同じ形をしており、主に免疫細胞と結合してさまざまな免疫作用をもたらします。

ちなみに、IgA抗体の定常部の一部である「Fc領域」には連鎖球菌が結合しやすくなっており、抗原非特異的結合によって細菌を凝集させることが可能です。

その結果、ミュータンス“連鎖球菌”などの歯面への付着が阻害されます。

歯周病原細菌の増加により、抗原特異的IgAが増加する現象も口腔疾患の予防に寄与しているといえるでしょう。

さらに、IgA量が多い方が舌苔の堆積が軽度(舌苔は新型コロナウイルスの貯蔵庫)であり、IgAが減少すると上気道感染症のリスクが増加するなど、全身との連関も明白になっています。

最近の研究では、多様な抗原を認識する「poly-reactive IgA抗体」の存在が示唆されている点もお伝えしておきます。

腸と唾液腺との相関

ここまで、唾液腺から口腔、そして全身への影響について解説してきましたが、ここからは全身から口腔への連関についてご説明します。

私たちの研究グループでは、全身から唾液腺への影響を検討するため、「腸」という免疫細胞の7割が集中する臓器に注目しました。

免疫の要とも呼ばれる臓器であり、口腔と同じ「粘膜免疫」によって外敵からの侵入を防いでいます。

槻木先生_日本唾液ケア研究会総会
(画像=槻木恵一 日本唾液ケア研究会総会講演資料)

研究では「1073R-1乳酸菌」で発酵したヨーグルトを用いて、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施しました。

被験者の半数は1073R-1乳酸菌株を使用したヨーグルトを摂取、残りの半数は対照ヨーグルトを摂取して両群を比較。

その結果、介入群は対照群と比較して「インフルエンザA型H3N2ウイルス」に交叉する唾液中IgA濃度が有意に高いことがわかりました。

しかも、唾液中に分泌されるIgAの量も増えており、質量ともに増加することが判明したのです。

これは口腔から摂取した乳酸菌が腸で作用し、インフルエンザに対抗する力を唾液腺にもたらした、と表現した方がわかりやすいかもしれません。

そこで是非とも先生方に知っておいていただきたいのが「共通粘膜免疫システム」です。

ヒトの身体には、腸管関連リンパ組織(GALT)、鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)、気管支関連リンパ組織(BALT)など、さまざまな誘導組織が存在しており、互いに連絡を取り合っています。

口腔における粘膜関連リンパ組織(MALT)としては「Waldeyerの咽頭輪」が有名ですね。

そして、粘膜組織から誘導されたIgA産生細胞は、関連のある実行組織にホーミングすることがわかっています。

今回の研究では、腸からの誘導に対して、遠隔臓器である唾液腺の応答が認められましたが、これは共通粘膜システムという概念で説明することが可能です。

そこで気になるのが「腸‐唾液腺相関」に関する「mediator」です。

どのような物質が腸管で作用して、唾液中IgA分泌を促すのか。それがわかれば、より効率良く唾液中IgAを増やすことが可能となります。

ひとつは「プロバイオティクス」という観点から、乳酸菌などを摂取することで、腸内細菌叢のバランスが改善され、IgAの増加、粘膜免疫の亢進が見込めることがわかっています。

そしてもうひとつ重要なのが「プレバイオティクス」という観点です。

食物繊維や難消化性でんぷんなどを摂取すると、大腸で「短鎖脂肪酸」が増えて、唾液腺でのIgAも増加することがわかっています。

酢酸や酪酸、プロピオン酸などに代表される短鎖脂肪酸は、大腸粘膜組織から吸収されて、上皮細胞の増殖や粘液の分泌に利用される物質であり、その一環として唾液中IgAが増加するものと思われます。

健康のための新たなモデルの提案へ

このように、唾液腺健康医学によって、腸‐唾液腺相関による新たな唾液像が見えてきました。

下記のチャートの通り、口腔疾患と全身の健康はサークルによってひと連なりとなっています。

この負のサイクルを断ち切るためには、歯科業界が「健康のための新たなモデル」を提案する必要があります。

私たち歯科医師が全身の健康の入り口を担うことで、診療の幅が広がり、新たな産業が創出され、歯科医院の売り上げアップにも寄与することでしょう。

負のサイクル

槻木先生_日本唾液ケア研究会総会
(画像=槻木恵一 日本唾液ケア研究会総会講演資料)

>負のサイクル
口腔:歯周病 ※

腸管:腸内細菌叢の異常

唾液腺:IgA減少 ※に戻る

正のサイクル

槻木先生_20211128講演資料_正のサイクル
(画像=槻木恵一 日本唾液ケア研究会総会講演資料)

>正のサイクル
歯周病治療

腸内細菌叢の改善

IgAの増加:唾液腺 ※

口腔の健康

腸管の健康

全身の健康 ※に戻る

次回は引き続き、唾液腺健康医学の各論として、口腔ケアの抗不安効果や新型コロナウイルスへの可能性などを解説します。

■11月28日が唾液の日「いいつばのひ」として日本記念日制定協会で認定され、2021年11月28日に記念セレモニーと講演会が開催されました。

※本連載記事は2021年11月28日の講演内容を元に再構成したものです

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槻木 恵一

神奈川歯科大学 副学長 / 研究科長 / 教授

1993年神奈川歯科大学歯学部卒業。神奈川歯科大学副学長・神奈川歯科大学大学院環境病理学分野教授。2013年より同大学歯学研究科長、2014年より同大学副学長。専門分野は口腔病理診断学・唾液腺健康医学・環境病理学。

2011年とうかい社会保険労務士事務所(多治見市)開業。開業後3年で年に数千万を売り上げ、異例の速度で業務拡大。

プレバイオテックスの一種であるフラクトオリゴ糖の継続摂取による唾液中lgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを明らかにし、「腸―唾液腺相関」を発見。

近年「唾液健康術」「脳機能にも影響を与える唾液の重要性」「口腔ケアでコロナ対策」等、メディアで積極的に唾液の重要性を発言。あきばれ歯科経営onlineでも口腔ケアの重要性を寄稿頂く。

2021年4月28日 唾液の健康効果を広めるため、歯科医師などの医療従事者に唾液ケアの方法を系統的に学ぶ機会を創出するため、「日本唾液ケア研究会」を設立。