混乱を招くチーフが犯した「3つの失敗」

私はこれまで28年に渡り、歯科衛生士のスキル研修から人材マネジメント、衛生士の育成から集患の支援など、実に様々な分野で歯科医院様にコンサルティングを行ってきました。

濵田真理子個人としては、2021年に行った講演200本の6割が「コミュニケーション」をテーマにしたものでした。

それだけ歯科医院経営において、コミュニケーションに課題を抱えている先生方が多いということなのでしょう。

一般的な「コミュニケーション論」は巷に山ほどあります。

エムズ・コレクションが提唱する「医療コミュニケーション」は、副社長で精神科医・産業医の奥田弘美が開発した「メディカルサポートコーチング」をベースにしています。

これは、売り上げや医院の課題解決に直結するよう体系が整理されている「コミュニケーションメソッド」です。

そのため、一般的に広く使われているコミュニケーション術とは全く異なります。

そこで今回は、医療コミュニケーションの中でも、経営に直結した問題を解消した事例を中心にお伝えしていきたいと思います。

事例(1) 足りない力を技法で隠す、そんなチーフが歯科医院の混乱を招く

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(画像=pixta)

<問題のチーフ>

36歳で歯科医院勤務歴は3年と短いものの、院長のお気に入りで勤務1年目にしてチーフに抜擢されました。

「NLP(神経言語プログラム)を勉強しましたぁ」

「〇〇のコミュニケーションの研修を受けました」

「△△の研修を終了しました」

…など様々な勉強会に積極的に参加してるものの、それはあくまでもそのチーフの学習経験であり、まだ実績には結びついてはいませんでした。

今回は、コミュニケーションスキル勉強会に出すぎて、自分で情報整理ができないまま組織に発信し続け、結果的にチーム医療のバランスを崩してしまったチーフの事例です。

<29歳のスタッフからの評価>

「インプットとアウトプットのタイミングは、短いほうが良い」と誰かから教わったのか、研修を受講するとすぐ翌日に、自分が考えた事のように話をします。

偉人の言葉さえ、自分が考えたかのように発信します。

誰かと話をして名言を知ると、その日の夜に自分が考えたかのような発言でSNSにアップしていました。

このような声が、6名ものメンバーから院長へと上がっていました。

チーフは、本来であればコミュニケーションスキル勉強会で「信頼関係構築の技法」と呼ばれるものを学んで実践しているのに、何故、彼女は後輩や仲間から信頼されないのでしょうか?

それを解明し、組織の混乱を解消するために、医療コミュニケーションの研修を行いました。

研修内容 医療コミュニケーションで必須の「4つのチカラ」

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(画像=pixta)

<真理子の印象>

まず、チーフは「頷きや笑顔がとても良いけれど、全く環境にあっていない」というのが私の評価です。

スタッフが患者さんとのトラブルとの事で真剣に相談しているシーンでも、満面の笑みでバックトラッキングします。

チーフは、自分が学んだコミュニケーション術をしっかり使っているつもりでいますが、そうした対応で、かえって相手が心を閉ざしてしまう可能性もあります。

相談の実例

スタッフA子:

今日は患者さんからプロービングの左側の時に「痛い」と言われ、「交代して欲しい」とも言われてしまったので、今度プロービングの練習をしたいです。

チーフ:

そうなんだ(満面の笑みで承認)。

患者さんから「プロ―ビングが痛くて、交代して欲しい」と言われたんだね(復唱テクニック)。

じゃプロービングの練習するといいね(最後はが他人事)。

偶然、聞いた会話ではありますが、恐らく日頃からこのような会話をしているのでしょう。

A子はチーフに相談したのに、思ったような回答が得られずに、消化不良のような笑顔もない真面目な顔で去っていきました。

もし、本当にチーフがNLPやコミュニケーション技法を活用したというなら、今回の会話には、NGがいくつかあります。具体的に見てみましょう。

コミュニケーション実践で「3つの失敗」

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(画像=taka/stock.adobe.com)

1つめは、「不適切な笑顔」です。

相手が不安や悲しい気持ちなのに、満面の笑みはないでしょう。

人によっては癒されるではなく、馬鹿にされていると捉える人もいるかもしれません。

2つ目は、「間違った復唱」です。

ネガティブな情報を復唱する必要はありません。

1回の凹む気持ちを何回も上書きするような作業はいらないです。

3つ目は、「言いっぱなし」です。

「練習するといいね」と相手をつけ放した言い方をしてしまいました。

この時、「今度プロービングの練習をつきあうね」または「練習するときに声かけてね」と言っていたらどうでしょう?

医療コミュニケーションで必要な「4つの力(チカラ)」

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(画像=pixta)

今回のリーダーの言動の問題点を、医療コミュニケーションの視点から見てみると、チーフには、以下4つのチカラが欠けていたと思われます。

1.働く全ての人と信頼関係を築く努力を心がけたコミュニケーション(努力)

チーフの自己満足の気持ちが強いので、スタッフとの信頼関係が構築できない。

2.自分の考えを他の人が理解できるよう的確に伝えるコミュニケーション(理論力)

チーフは「本当は一緒に練習してあげるつもりだった」と後から言っていましたが、その場で相手に伝わるように的確に伝えることができていない。

それではスタッフに伝わらないし、スタッフの不安の解消にもならない

3.一緒に働く仲間に好印象を与えるコミュニケーション(好印象力)

ミラーリング(相手の表情に近づけるコミュニケーション手法)という技法を考えたら、相手が不安顔の時に自分が満面の笑顔は適切ではありません。

「スタッフに対して良い印象を与える」という意識もTOPに立つ人には必要です。

4.関わる全ての人と会話で盛り上がる雑談(雑談力)

技法ばかりに頼っていると、形式張った内容が増えチーフ本来の人柄が出るような雑談が皆無です。

これではなかなかスタッフの信頼は得られません。

改善策

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(画像=pixta)

本人へのフィードバック

既に、技法は理解しているチーフでした。

しかし、自問自答と自己理解をもう少し深め、相手と自分との関係性を良好に保つ・信頼関係を構築するつもりで、数々の技法を実践しているのではないか、と感じました。

もしそうであれば、技法を使う事がゴールになっており、実際に相手の心や深層心理・表情など観察しきれていないのではないか、という点も伝えました。

結果、良い機会だからということで、チーフの要望もあり、追加で2回ほどメディカルサポートコーチング™の理論と実践を研修しました。

この研修を通じて、チーフの意識が自分から組織に向かうようになりました。

チーフのその後

最終日の前日、チーフからこんな話を聞きました。

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院長から凄く期待されているのはわかるけれど、それもプレッシャーだった。

何を評価されてチーフになったのかもわからない。

20代の子たちに尊敬される人になりたいと無我夢中で勉強をしまくった。

真理子さんの研修を経て「私はなんのために頑張るのか?どうするためのその技法を活用するのか?」という本質に向き合えた気がします。

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研修を終えた後、「理子さんにも立ち会って欲しい」とチーフからお願いされたので、皆と話す場に同席しました。

チーフがみんなを集めていいました。

「なんだか空回りして、いつも自分の良いと思っていたことを押しつけてしまって、ごめんね。色々この機会に改善していくから、これからもよろしくね。」と。

チーフと話し合いをせずに、院長に愚痴りに行くきっかけをつくったDHも他の人も「これからもよろしくお願いします。」と頭を下げていました。

後日談

本来は、1年契約のクライアントでしたが、無事3回で問題が解消したため、研修は終了としました。

理事長からは、毎月でも来て欲しいと言われましたが、出番がないのに私の時間をつくる必要はありません。

そして、その予定していた毎月1回の研修時間を、全員の勉強会のために使用することを約束していただきました。

今は1年に1回、みんなに会いに行っています。

まとめ

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(画像=pixta)

今回のケースは、大きなトラブルではないかもしれません。

でも、医療機関は学校や塾で友達と仲良くしたり、会話をするというのとは違います。

最初はグループのような集まりでも、最終的には必要な時に適切な医療チームをつくれる一人ひとりのチカラと信頼関係が大事となります。

医療機関でのコミュニケーションには、常にゴールがあります。

自己満足の情報発信とならないようご注意ください。

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濵田 真理子

有限会社エイチ・エムズコレクション 代表取締役
歯科衛生士
福祉用具選定員
歯科MG戦略インストラクター
全米NLP協会公認トレーナー
歯科メディカルサポートコーチングトレーナー

1991年に日本大学歯学部附属歯科衛生学校を卒業。 卒業後、財団法人日本歯科研究研修協会に入職。歯科衛生士教育機関を育成するトレーナーとしての教育と研修を受けながら臨床に携わる。

その後女性の起業への理解がまだ少なかった1994年に「歯科業界の中で、疾患を持たない患者が歯科医院に来院し続ける仕組みを作りたい」との思いから、エイチ・エムズコレクションを起業。

歯科医院に対して20年にわたる人材コンサルティングの実績を持ち、歯科医療スタッフ分野における人材育成の先駆者として活躍。スタッフが思い通りに成長しなかったとしても「数年後には変わるかもしれない」と決して諦めず、人材育成に尽力している。