課題解決にコミットする医療コミュニケーション_濵田真理子_03

院長だけでなくチーフも同様ですが、組織のリーダーとして活躍するにはコミュニケーションを磨く必要があります。

シャイや苦手を言い訳にコミュニケーションをないがしろにして、仕事の効率や売り上げばかりを注目していると、本来の役割や行動が取れなくなります。

最悪のコミュニケーション環境を自ら作ってしまうことになるのです。

今回はそのような事例のお話です。

院長が売り上げに固執していたケース

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(画像=pixta)

院長がある治療に興味を持ち、導入しはじめてから、「売り上げ・売り上げ」ばかり言うようになっていました。

院長の口癖が「売り上げ」で、1日に何回もチーフに売り上げをあげるように言う院長。

この歯科医院は、売り上げ5,000万円(ユニット4台)の時に当社の研修を開始したのですが、ユニットが8台に成長し、売り上げは2億円超えを維持するようになり、研修から離れていました。

今回、歯科衛生士が4名退職してしまい、残る歯科衛生士が社員2名とアルバイトだけになってしまったという事で、再度ご相談がありました。

以前と全く雰囲気が変わっていた院長

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(画像=pixta)

久しぶりに訪問すると、院長の雰囲気がお洒落になっているような気もしました。

また、派手と感じるような雰囲気になり、口調も自信家のようでした。

以前、私が関わっていた頃は、真摯な治療で再発予防を大事にしていた先生でしたので、随分と雰囲気が変わったと感じました。

某治療に院長がはまり、その治療を中心に1億円増を目指し、歯科医院としては「売り上げを3億円にしたい」と全員に繰り返し伝えていたそうです。

その状況での変化は、勤務医の採用と教育に悪影響を及ぼしました。

一般診療が疎かになり、勤務医の多くが矯正治療に専念しはじめ、会話も自費のクロージングありきのようなものになっていたのです。

適応患者でなくても、とにかく歩合なので成約を取ろうと必死な勤務医が増え、スキャンや治療が開始してから歯科衛生士がとても困ってしまうという状況でした。

歯科衛生士は、院長に対して改善のお願いを訴えてきましたが、「俺がやりたいことをやる」という院長の強気発言が続き、とうとう4名が退職希望を伝えてきました。

それに対し、院長は「俺がやりたいことを応援してくれない人はいらない」というセリフで、同時退職を快諾してしまったのです。

院長の言い分と実態

院長の言い分としては以下のようなものでした。


訪問をしてきて、歯並びの悪い人の口腔ケアやインプラントで寝たきりの酷いケースを見てきた。

その中で、矯正とこの人たちが早く出会っていたらと思ったことをきっかけに、矯正診療にはまった。

勉強会でも既に600万円くらい使っていて、自分でも上手いという手応えがある。

だから、その分野を強化したいのに、歯科衛生士が理解してくれない。


2億円の売り上げのうち、1億4,000万円は歯科衛生士のメインテナンスと自費診療です。

院長の売り上げは約6,000万円、残りは勤務医3名で売り上げていました。

退職する歯科衛生士4名分の売り上げが減ることに加え、この歯科衛生士チームが担当していたメインテナンス患者の知人が多かったため新規の矯正患者の成約率が高かった、という事もわかりました。

院長の矯正と売り上げありきではなく、訪問診療の時の経験や色々な想いも聞きましたが、チーフをはじめ誰にも想いは伝わっていませんでした。

アドバイスと取組み

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(画像=Paylessimages/stock.adobe.com)

雰囲気はもともと良かったので歯科衛生士を半年間で5名採用でき、その後も院内で活躍できるよう教育も順調に進みました。

また、矯正専門の分院を作り、矯正に関わりたい人や適任者を分院の担当にするという計画をたてた結果、矯正医院へは1名だけ異動し、分院で4名採用しました。

同時に、院長には「コミュニケーション」の対面コンサルも半年間行いました。

そして、【売上主義】から【ひとりでも多くの患者さんの「口福」を増やしたい】という意識に変えました。

成約率が増えても良い結果が出ないと信頼を失うので、診査診断の手段をさらに強化。適応患者でない場合の紹介先も整備しました。

色々な不安が解消したのと、専門の分院ができたことで、院長の気持ちも穏やかになり、いつしかキツい表情が昔の優しい笑顔に変わりました。

矯正の治療にはまっているのは変わりませんが、分院で発言を存分することで理解しているスタッフの中に院長がいられる、という安心環境も整いました。

本院の新入職者は、過去の同時退職者の理由を知らないので、今は問題なく毎日働き続けています。

M’s MODEL【OK院長とNG院長】

OKな院長とNGな院長、それぞれのコミュニケーションにあらわれる特徴を整理してみました。

OK院長NG院長
1スタッフと「患者の健康増進」や「夢」を語るスタッフと「患者の売り上げ」の話しかしない
2患者管理を人数で話す患者管理を点数やお金で話す
3具体的に指示ができ、仕事しやすい曖昧な指示で頻繁に院内が混乱する
4スタッフを見守り、放置しないスタッフは常に放置されている
5評価が公平で、スタッフ対応も平等評価が不公平で、贔屓する人がいる
6組織の成長を常に考えて行動する自分の成長しか興味がなく人徳がない
7常にスタッフ誰かの良さを褒めている常にスタッフ誰かの悪口を言っている

まとめ

院長の会話は、組織を成長させることも、破壊することもあります。

「そんなつもりではない」というセリフは、意味がありません。

自分の会話に責任を持つ。

経営者にとって、大事な事です。

ぜひ、前述の「M’s MODEL【OK院長とNG院長】」も参考にしてみてください。

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濵田 真理子

有限会社エイチ・エムズコレクション 代表取締役
歯科衛生士
福祉用具選定員
歯科MG戦略インストラクター
全米NLP協会公認トレーナー
歯科メディカルサポートコーチングトレーナー

1991年に日本大学歯学部附属歯科衛生学校を卒業。 卒業後、財団法人日本歯科研究研修協会に入職。歯科衛生士教育機関を育成するトレーナーとしての教育と研修を受けながら臨床に携わる。

その後女性の起業への理解がまだ少なかった1994年に「歯科業界の中で、疾患を持たない患者が歯科医院に来院し続ける仕組みを作りたい」との思いから、エイチ・エムズコレクションを起業。

歯科医院に対して20年にわたる人材コンサルティングの実績を持ち、歯科医療スタッフ分野における人材育成の先駆者として活躍。スタッフが思い通りに成長しなかったとしても「数年後には変わるかもしれない」と決して諦めず、人材育成に尽力している。