歯科医院経営の悩みは「診療」と「診療以外」に大きく分けられます。
実際に以前の私は診療を突き詰めて、研鑽だけすれば、何もかもがうまくいくと信じていました。
でも実際に経営と診療をしてみたら、「診療以外」の部分の悩みが大半でした。診療以外の部分で院長や現場がつまずいては誰も得をしません。
この連載では、「診療以外」の悩みを最小化し、「診療」に集中できる医院作りのヒントをお伝えしたいと思います。
今回は「スタッフが提案しやすい環境づくり」について解説します。
本当に提供したい価値はどこにある?
みなさんは、どんな仕事が好きですか。
自分の好きな仕事やコトというのは、すぐに思いつくものですが、「なぜそれが好きなの?」と聞かれると、簡単に答えられないのではないでしょうか。
しかし、仕事で損をしないために必要なことが、「なぜそれが好きなのか」という理由の中にあります。
SNSでいうと#(ハッシュタグ)の中に、本当に「自分が提供したい価値」が隠されています。
私は前歯部の補綴が好きです。その理由は、前歯をきれいにすると、患者さんが歯磨きを頑張ってくれるなど、行動が前向きに変わっていくからです。
これはつまり、私は人の行動を前向きに変化させたい人間だということです。
SNSでは「#行動を前向きに変えたい。」でしょうか。
たとえば、「スケーリングが好き」な歯科衛生士のAさんとBさんがいるとします。
Aさんの好きな理由が、スケーリングをきれいにすることで、「患者さんが喜んでくれるから」であれば、本質的に「喜び」を提供したい人です。
Bさんの好きな理由が「治療結果がすぐに見えるから」であれば、「患者さんにすぐに結果を見せたい」人だと分かります。
このように自分が提供したい価値は、「好きな理由」の中に潜んでいます。
自分自身が本当に提供したい価値がわかれば、無理せずできる仕事も増えますし、発想の幅も広がります。
Aさんは喜びを考える仕事が苦ではないでしょうし、Bさんはわかりやすい治療結果の伝え方について、積極的に考えてくれるでしょう。
「診療以外」の仕事は、大喜利のようなものであり、正解はありません。
「提供したい価値」を一人ひとりが把握し、院長も、みんなの#(ハッシュタグ)を押さえておくことで、歯科医院の価値を高めることができます。
「診療以外」の価値を伝える時代に
わたしが研修医を終えたころ、正しい知識を伝えれば患者さんはついてきてくれると思っていました。
しかし、現在多くの現場を回って思うのは、患者さんに「診療」だけではなく、「診療以外」の付加価値をいかに知ってもらうのかが大切であるということです。
かつての「治療型」は、虫歯を治すといった問題解決をすればよかったのですが、「予防型」になると、問題解決だけでは、人は動いてくれません。
たとえば、問題解決の極地の場所であるICUの「雰囲気をよくしよう!」とは誰も思わないように、歯科医院もすこし前までは、「治療」のみに専念していればよかったのです。
しかし、現在の予防型では治療の質の向上だけではなく、院内の「雰囲気がいい」とか、メンテナンスについて「なるほど!」と患者さんに思ってもらうことが重要です。
いい雰囲気が仕事の生産性を高める
患者さんに「診療以外」の価値を伝えるのに大切なのは院内の雰囲気です。
雰囲気が悪いと、「診療以外」の悩みが増え、仕事の生産性も落ちてしまいます。
「もっと説明できたのに」「雰囲気が悪くてやりたいことができない」では、さらに雰囲気が悪くなった環境で働く、という悪循環に陥ります。
前回お伝えしましたが「仕事」とは「提案」です。スタッフの提案によって、あらたな解決策が見つかることも多く、結果として院長は本来の「診療」に集中できるようになります。
しかし、院内の雰囲気が悪くなると、とにかく提案が出づらくなります。
なぜかというと、雰囲気の悪い職場では、提案する行為がメンタル残高を減らすことになるからです。黙っていた方がメンタル残高は減りません。
さらに院内の雰囲気に患者さんは敏感です。悪い雰囲気が続くと「あそこの医院は『診療』はしてくれるけれど、『診療以外』がね…」と言われる歯科医院になってしまいます。
雰囲気というのは歯科でいうところの唾液です。唾液がなくなると口の中が乾燥し、崩壊します。それと同じように、雰囲気は唾液のような潤滑油ですので、雰囲気の悪い歯科医院を私は「職場乾燥症」と呼んでいます。
「職場に潤いをもたらすのは雰囲気」であることを忘れないでください。
提案しやすい環境を作るには?
では、提案しやすい雰囲気を作るにはどうすればよいのでしょうか。