先日(2022年11月27日(日))に、無事に第1回日本唾液ケア研究会学術集会が開催することができました。
私自身、唾液研究を 15 年ほど続け、こういった会の立ち上げを準備をしてきましたので、 多くの方にご参加いただけて、大変嬉しく思います。

■唾液ケア研究会とは 唾液ケア研究会は、「特定非営利活動法人 日本唾液ケア研究会」として2022年4月21日に神奈川県より NPO 法人に認可されました。
「NPO 法人として設立した」という意味は大変大きく、私たちには「唾液意義を広める活動を通して社会貢献をし たい」という考えがあります。
私も長く唾液の研究をしていますが、「唾液の重要性がなかなか理解されていない」というのは大きな課題です。
理解を広めるにはしっかりと研究をして学術的に発表をしていくことが重要であるにも関わらず、今まではその場 がなかったのです。
それが第 1 回日本唾液ケア研究会学術集会となります。
本日オンラインも含めて大変多くの方々が、この活動に興味を持ってご参加くださいました。
唾液の効果に興味がある方がこれだけいらっしゃることに大変心強く思いますので、ぜひ皆様と共に「唾液の持つ 効用を広めて社会貢献に繋げる」活動を進めていきたと考えています。
■唾液の「質」の重要性と質の変化
あらためて唾液についてお話をしますと、唾液の「量」と「質」がそれぞれ大切で、この研究を 15 年続けてまいりま した。
質というのは唾液の成分のことです。単に唾液の分泌量を増やすのではなく、質を上げていくことも重要で す。
唾液の成分というのも、時間と共に変化しています。
もともと農耕民族だった日本人は、「お米を多く食べていたためにアミラーゼが増えた」と言われています。
しかし 欧米の食生活が入ってきたことや食文化の変化などにより、少しずつ唾液の質も変化・進化しているのです。
■唾液の質を上げるために
唾液は口腔内の健康維持のためにとても大切なのですが、その唾液の質を上げるために重要なことは、口腔内の環境をよくすること、「唾液ケア」です。
「口腔ケア」という言葉は昔からありますが、「唾液の機能性」を考えるという意味から「唾液ケア」という言葉を作り ました。
歯科医師はどうしても歯そのものばかりに注意がいきますが、その周りの環境因子=唾液もとても重要なカウンタ ーパートナーなのです。
しかしその重要性はあまり認知されておらず、ドライマウスなどのように「なくなって初めて ありがたみがわかる」状況です。
ここを私たちは改善し、しっかりと重要性を伝えていきたいと考えています。
■唾液ケアは全身の健康へもつながる

唾液ケアに重要なのは口腔の健康を整えることですが、これは現在の「口の中の清掃」が主流の口腔ケアだけで少し足りないように思います。
口の中が汚れていると IgAの機能が抑制され、唾液の質が下がってしまいま す。 IgA が低下すると病気になりやすくなったり、口腔内最近をブロックする力が弱まってしまいます。
IgA はIgG と違って菌が粘膜に入り込む前に防ぐ予防効果もあります。
唾液の機能性を維持・向上させるには口腔内の環境やケアが重要で、それにより全身の健康にもつながりますの で、ぜひそういった視点での商品開発も期待します。
■現在私たちが進めている研究 15 年間の唾液研究を踏まえて、今私たちは「口の中を綺麗にすることで口腔内・腸内の細菌叢を解析し、唾液はどう変わるのか」ということを調べています。
また、腸の健康をあげることで唾液はどう変わるのかは臨床試験中 で、「口腔・腸・唾液」の三つがどのような相互関係を持つのか、ということは大きな研究のテーマです。
今後はこの研究会を発展させて、「唾液ケア外来」を作って口腔から全身の健康につなげたいと思います。
「歯医者に行ったのに疲れにくくなったな」 「口の中を綺麗いしたら風邪を引きにくくなった」
というような、 予防医療のセンター機能を備えた場所にしたいと考えています。
■多くの専門家との連携 は

今現在、高齢者介護施設で日々唾液と戦っているの内科や耳鼻科の先生、栄養士や看護師、言語聴覚士、 薬剤師など、歯科医師以外の多くの専門職の方々です。
唾液を見るということは全身の健康管理も重要なので、そういう様々な職種の方とも連携しながら我々歯科医院 がそのセンター的な役割を果たしたいと考えています。
そのためにはきちんとした専門知識を持って唾液ケアの指導ができる歯科医の育成も重要になるので、臨床唾液 検査指導医の制度も 2023 年の発足・2024 年のスタートを目指して準備を進めています。
■今後の展望 国民歯科健診が話題となっていますが、歯科健診は一次予防が重要です。多くの健康運動が失敗に終わった中、8020 運動は非常に浸透し、「やったらやっただけ効果が出る」ことを証明してきました。
「唾液検査とはどういうことなのか」という定義はまだしっかり定まっていません。
しかし、コロナによる PCR 検査や 唾液検査が定着している今こそチャンスです。
逆にいうと「唾液検査」という概念が広まったのにしっかり定義がで きいていないと、失望させてしまうことにもなります。
この唾液ケア研究会の発足を機に、様々な職種の多くの皆様共に全身の健康に寄与する唾液研究を進めていければ幸いです。
神奈川歯科大学 副学長 / 研究科長 / 教授
1993年神奈川歯科大学歯学部卒業。神奈川歯科大学副学長・神奈川歯科大学大学院環境病理学分野教授。2013年より同大学歯学研究科長、2014年より同大学副学長。専門分野は口腔病理診断学・唾液腺健康医学・環境病理学。
2011年とうかい社会保険労務士事務所(多治見市)開業。開業後3年で年に数千万を売り上げ、異例の速度で業務拡大。
プレバイオテックスの一種であるフラクトオリゴ糖の継続摂取による唾液中lgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを明らかにし、「腸―唾液腺相関」を発見。
近年「唾液健康術」「脳機能にも影響を与える唾液の重要性」「口腔ケアでコロナ対策」等、メディアで積極的に唾液の重要性を発言。あきばれ歯科経営onlineでも口腔ケアの重要性を寄稿頂く。
2021年4月28日 唾液の健康効果を広めるため、歯科医師などの医療従事者に唾液ケアの方法を系統的に学ぶ機会を創出するため、「日本唾液ケア研究会」を設立。