組織を効率的に運営する上で、組織のトップとなるリーダーのマネジメント力は絶対不可欠です。
特に歯科医院の経営では、歯科医師として治療の技量はもちろんのこと、経営者としての手腕が求められます。
しかし、多くの歯科医院の院長が「効率的な歯科医院の経営が難しい」と感じられています。
この連載では、スタッフと自院を成長させるマネジメント方法のベストプラクティスとして2,000社以上が導入してきた「識学」の理論を解説。組織内にありがちな「ゆがみ」について、具体的な事例を紹介するとともに、識学の視点から踏まえた解決策をご提案します。
前回に引き続き、歯科医院経営の成長を阻む「組織のゆがみ」の主要な5つの要素を解説していきます。
今回は、3つ目「評価」、4つ目「育成」の2つを取り上げます。
※前回の「組織のゆがみ1(当事者意識)・2(指揮系統)に関する記事」はこちらから
組織のゆがみを生む要素3:評価
組織において重要とされる生産性を左右するのが「評価制度」です。
評価制度の有り、無しはもちろんですが、その設計方法によって組織の在り方は大きく変わります。
しかし、定量的な目標が設定しにくい医療サービスである歯科医院では、一般的に部下であるスタッフに対して理念上の目標を課すというケースも多々見られます。
例えば、「お客様第一で業務を遂行する」「○○歯科医院の一員として期待に応える」といった曖昧な表現で設定された目標では、評価される側(被評価者)が目標に対する達成感や自身の成長を感じるのは難しいでしょう。
また、お互いが評価に納得できないということも、多く見受けられます。私の経験上、明確な目標設定を持った評価システムを取り入れている歯科医院はほとんどいないと考えています。
実際の失敗例:「最適な評価制度がないと、優秀な従業員が離脱する」
評価制度の成績は、昇格や昇給などを左右するスタッフにとって大事な指標です。
評価が上がらなければ、自分の給料が増えることもありません。
評価制度の目標が明確ではない場合、被評価者は「目標を達成できた。今回は良い評価をもらえる」と思っても、上司の評価が「まだ成長の余地はあるから、もっと頑張ってほしい」となり、両者で評価の認識にズレが生じてしまいます。
その結果、評価が上がらないことに不満を覚えたり、「今の職場にいても将来性や成長性がなく糧が少ない」と考えた従業員の離脱につながる恐れもあります。
また、所属部署によって評価の基準が違い過ぎる場合も注意が必要です。
特定の部署だけ優秀な従業員の退職が相次いだり、「頑張らなくてもそれほど評価に影響がない」と分かれば、あまり優秀でない従業員がだらだらと長く居続けることもあります。
さらに昇給や昇格、手当などの基準が明確でなかったり、属人的な個別対応がまかり通ってしまうと組織が歪む要因にもなります。
識学的見解:「評価制度の目標達成度は、過程よりも結果で評価する」
識学では、評価項目をできる限り「完全結果」で設定することを推奨しています。
完全結果とは、「期限」と「状態」が明確であることを意味します。
それにより、部下は何を求められているのかが明確になり、集中力の向上や目標の達成も期待できるのです。
また、仮に目標が達成できなかった場合でも、被評価者自身で「どの点に不足があったのか」を理解できるようになり、次の目標設定とその達成に向けた正しい改善策や行動を導きやすくなります。
ここまで読まれてきて「評価の基準としては“結果ではなく、過程を重視する”という考え方もあるのでは?」と感じられた方もいるはずです。
しかし、過程を評価しすぎると「頑張りパフォーマンス」が上手な組織になる可能性があるので注意が必要です。
実際の貢献度ではなく、アピール上手な人が高い評価を得てしまう環境では、現場のスタッフ間で不公平感や不満が出るなど、さまざまな弊害が生まれます。
組織のゆがみを生む要素4:育成
一般的な経営資源としては“ヒト”“モノ”“カネ”“情報”の4つが挙げられること多いです。
中でも「最も重要なのが人的資源」「人材の成長なくして、組織の成長はない」と以前から言われてきました。
人材を育成する仕組みが整っていないと、組織のゆがみを生む要因になってしまいます。
実際、育成のゆがみが起きている医院では「チーフや現場のスタッフがなかなか成長しない」「全般的にスキルが上がってこない」「言い訳ばかりが上手くなる」という院長の声を聞くこともあります。
実際の失敗例:「チーフになりたがらない」などの間違った育成の仕組みが組織とスタッフの成長を阻害
多くの医院では「チーフは調整役」と認識されていて、実際の能力とは別の観点でチーフが決められていることも見受けられます。
例えば、「現場で声の大きい年長者」や「院長と仲の良いスタッフ」が登用されるケースを見てきました。
その結果、自分の目標としてチーフを志すスタッフが現れないこともあります。
また、「お局的な存在」がいて年齢尺度を感じて、上に立ちたくないと考える人も出てきます。
それが「与えられてから動くことが当たり前」になったり、「自分のことだけをやっていればいい」と考えるスタッフが増えることにもつながってしまうのです。
最終的に、部下を管理する役割を持つチーフが機能しなくなり、院長が孤軍奮闘して現場に任せるレベルのマネジメントまでカバーすることもあります。
識学的な見解:「褒めてもダメ、叱ってもダメ」
「部下にはなるべく声掛けをする」
「小まめな指導が部下を成長させる」
「丁寧に時間をかけて指導すれば、それだけ成長は早い」
これらは、人材育成の常識だと言われています。
また、新人育成では、
「褒めて育てることが基本。必要に応じて叱る」
という考えも広く浸透しているとお聞きします。
しかし、識学では、
「部下の仕事に細かく口を出すことをやめる」
「明文化された厳格なルールを設定して目標達成の指示や基準を伝える」
「部下に対しては、目標達成に向けた取り組みを徹底する」
ことを推奨しています。
そして、目標を達成できなかった場合は、定期的な報告を重ねることで持続的な改善を図っていきます。
「ルールに従った方が動きやすい。成果につながりやすい」という状態を作ることを重視しているのです。
医院はあくまでも職場であり、決して、自分の寂しさを紛らわせたり、安らぎを求める場所ではありません。
明確なルールに基づき、それぞれの役割・責任が明確に規定されてこそ「やらねばならない」感覚が醸成されると識学では説いています。
第2回まとめ
識学では、頑張り続けようと思える「自己成長」への期待や、そこで働くことによる「社会的な評価の獲得」が、優秀な従業員をつなぎとめる要素だと捉えています。
また、人の行動を決定する要素には大きく「希望」と「恐怖」の2種類があり、識学における組織マネジメントでは、恐怖の感情を上手に取り入れることの重要性を説いています。
危機感のある人の方が、自分で考えたり自主的に学んだりする傾向が強く、自身の業務改善を通して、危機感を乗り越えようと成長していけるのです。
私たちは決して「恐怖政治をしろ」と言っているわけではありません。
自主的な行動を阻害する「不必要な恐怖」を排除しつつ、適度な目標を設定して遂行させることで「いい緊張感」を持って業務に取り組む環境を作ることが重要だと考えているのです。
今回解説したように、明確な評価制度や育成システムが確立されていないと、組織のゆがみが生じやすくなり、その分、経営者の負担は増す可能性が高くなります。
院長自身も「学会に行きたい」「臨床的な研究をしたい」「歯科医師としてしてやりたいことがある」というのが本音のはずです。
しかし、組織内部の問題に時間やコストが取られてしまい、「モグラたたきに終始する」という不本意な時間の使い方をされている院長も多くいらっしゃいます。
その解決策として、ぜひ識学の組織マジメントを取り入れてみることをお勧めします。
前回と今回で組織のゆがみを生み出す5つの要素の内の4つを紹介してきました。
次回は、残る要素である「責任」について解説します。
お気軽にご相談ください!
院長をはじめとした読者の皆さんは、今回の相談についてどう感じたでしょうか? 識学では、組織のゆがみを生じさせる要素を理論的に解決する方法の実践をコンサルタントが支援しています。少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度識学までご相談ください。
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株式会社識学 品質管理部長
2002年、立教大学経済学部を卒業後、株式会社ジェイエイシージャパン(現ジェイエイシーリクルートメント)に入社。おもに幹部クラスの人材斡旋や企業の課題解決を提案。
2015年10月に識学に入社。大阪支店の支店長などを経て、現在は品質管理部長としてコンサルティング品質の標準化とレベルアップの責任者として従事。
今回、歯科医院経営における組織マネジメントの課題を「識学」で解決してきた実績を踏まえ、当サイトにも寄稿頂く。