歯科医院・院長の理念は患者さんのベネフィットに言い換える 人に伝わるパーソナルブランディング

パーソナルブランディングに縁のなかった院長先生にとっては、自分だけの理念を見つけ出し、言語化できれば大変な進歩です。

しかしながら、ブランディングは単なる自己満足ではありません。他者に対して適切な形でパーソナルブランドを伝えられなければ、「画竜点睛を欠く」ということになります。

今回は、パーソナルブランディングの最後の工程である「人に伝える=情報発信」の大切さについて、私がコンサルティングしたケースも交えつつ詳しく解説していきます。

失敗しない情報発信に必要なコツ

パーソナルブランドは他者に伝わらなければ意味がありません。ただし、伝え方にはコツがあります。1つは「一方的な情報発信を避ける」こと。もう1つは「コミュニケーションが重要である」ということ。これら2つのコツを踏まえないと、パーソナルブランドの情報発信は失敗するので注意してください。

不特定多数に向けた一方的な情報発信は失敗する

近年のマーケティング理論では、不特定多数をターゲットとするマス・マーケティングはすでに時代遅れとされています。一人ひとり(パーソナル)の顧客に対して、きめ細かなメッセージを発信することが常識だと言えるでしょう。

パーソナルブランディングの情報発信も同様です。「情報発信」という言葉だけを見ると、あたかも一方的に理念やミッションを宣伝すれば足りるかのように錯覚するかもしれません。しかし、パーソナルブランディングにおける情報発信をそのような一方的な行動と位置づけると、せっかく苦労して構築したパーソナルブランディングも失敗に終わります。

たとえば、駅などに設置してある看板広告を想像してください。看板広告は通行量の多い場所に設置すれば、たくさんの人の目につきます。しかし、ただ一方的に宣伝するだけですから、存在を認知してもらうには一定の効果がありますが、集客にはほとんど貢献してくれません。

「院長・スタッフ・患者さん」の三者間コミュニケーションが重要

患者さんが求める医療を過不足なく提供するためには、歯科医師・スタッフと患者さんとの十分な意思疎通(コミュニケーション)が重要であることは言うまでもありません。これはパーソナルブランドの情報発信にも該当します。

ブランドの核となる理念を患者さんに届けるためには、日頃から患者さんと丁寧にコミュニケーションし、医療を提供する側(院長先生やスタッフ)と受ける側(患者さん)の情報の流通をスムーズにしておくことが必須です。

また、患者さんと現場で直接コミュニケーションするのは、多くの場合、歯科衛生士や歯科助手などスタッフです。したがって、院長先生とスタッフの間でコミュニケーションをしっかり行い、自医院の理念をもれなく伝授するように心がけましょう。

ホームページで情報発信する際の5つのポイント

パーソナルブランドを情報発信するのに、最適なメディアはホームページです。ホームページにアクセスする人は、「この歯科医院はどのような歯科医師が経営していて、どのような考えに基づいて診療しているか」を積極的に知りたがっている人だからです。

そこでここからは、ホームページでパーソナルブランドを発信する際に、必ず押さえていただきたいポイントを5つ挙げます。

ポイント1 院長の想いや人となりを分かりやすい言葉で表現する

「どういう歯科医院にしたいのか」という院長先生の想いを明確でわかりやすい言葉にしてください。

また、人となりを詳しく書くこともポイントです。歯科医院という場所に対して、恐怖心を持っている人は大勢います。患者さんの恐怖心を少なくするためには、院長先生が過去に経験した苦労などのエピソードを綴り、人間味豊かな人物像を表現するのが効果的です。

私がパーソナルブランディングをサポートしたある歯科医院でも、ホームページの「院長紹介」で院長先生の人となりを紹介し、「コンセプト」で自医院の掲げる理念を分かりやすく伝えていただきました。

その結果、アクセス数は変わらないにもかかわらず、問い合わせや予約などのコンバージョンが大幅に増加し、新患は2倍、売り上げは4倍を達成したのです。

院長の想いを言語化し、ホームページで伝えることがいかに大切か、はっきり表れたケースだと言えるでしょう。

ポイント2 おざなりのキャッチコピーはいらない

キャッチコピーを作る場合、「オリジナルの表現」であることが大切です。当たり障りのない、言葉遊びのようなキャッチコピーは上滑りするだけですので避けましょう。

また、ホームページにキャッチコピーを入れるなら、理念をまとめたページだけではなく、必ずトップページにも配置してください。せっかく院長先生の想いをキャッチコピーに言語化できたとしても、たくさんの方に見てもらえなければ絵に描いた餅だからです。

私が手がけたある歯科医院のホームページでは、「あきらめない」というキャッチコピーを作り、トップページに大きく配置しました。「あきらめない」という言葉には、「医師も、患者さんも、治療をあきらめない」という意味が含まれています。

その結果どうなったかというと、ホームページにアクセスしたあとの滞在時間が大幅に増えたのです。世の中には、治療をあきらめてしまったために、ひどい虫歯や歯周病に悩まされている人が大勢います。「あきらめない」というキャッチコピーが、そうした悩みを抱える潜在的な患者さんの心に届き、ホームページの滞在時間を大幅に増やしたのだと思います。

ポイント3 理念は「患者さんのベネフィット」に言い換える

パーソナルブランディングで、まず第一に発信するべきは理念です。ただ、理念は抽象的・概念的になりがちであるため、患者さんからすると親近感を抱けないこともあります。

そこで実践していただきたいのが、「理念を患者さんのベネフィットに言い換えて表現する」ということです。たとえば「虫歯のない社会に」を理念とするなら、「虫歯がなくなることで笑顔が生まれ、他人とのコミュニケーションに自信が持てるようになる」というように言い換えるのです。

理念が患者さんのベネフィットにどうつながるかを、ホームページで明確に書いている医院はほとんど見当たりません。だからこそチャンスなのです。せっかくパーソナルブランディングを行うなら、ぜひ効果的な情報発信に努めてください。

ポイント4 機能的価値ではなく情緒的価値をアピールすべし

「当院では最新の医療設備で患者様の治療を行います」こういったアピールは、実はあまり患者さんの心に響きません。コロナ禍に急増した「衛生面に細心の注意を払っています」といったフレーズも同様です。

医療機関である以上、設備の性能や衛生対策にコストを投じるのは当たり前。他の歯科医院でも実践していることですから、アピールポイントにはなりえません。高度な医療設備を持つ歯科医院の院長先生ほど、ホームページで機能的価値をアピールしがちなので要注意です。

ホームページでアピールしてもらいたいのは「情緒的価値」です。なぜこの土地で開業したのか。なぜ歯科医師になったのか。こういった院長先生の人となりに直結する想いを明確な言葉で表現すれば、患者さんの心に理念が届きます。

もちろん、理念を届けても共感してもらえる保証はありません。しかし、そもそも届かなければ、パーソナルブランドは存在しないも同然なのです。

ポイント5 正直に書く

歯科医師だからといって、成功体験ばかりを重ねてきたエリートだとは限りません。失敗も挫折、劣等感もあるでしょう。パーソナルブランディングでは、半生を振り返るワークを行いますが、その過程で掘り起こした様々な経験は、成功も失敗も漏らさず言語化し、情報発信に活用していただきたいのです。

人間はつい見栄を張りたくなる生き物です。ホームページに成功体験ばかり書いている歯科医院もたくさん見かけます。しかし患者さんは、「院長先生の人となりに共感できるか」という視点でホームページをチェックしています。人となりに共感してもらうには、過去の失敗や劣等感を正直に伝えてください。

人間の心理には、他人の失敗に喜びを感じてしまう「シャーデンフロイデ」という独特の法則があります。この法則の逆をたどるとどうなるでしょうか。華麗なキャリアや成功体験で満たされているホームページは、喜びや共感どころではなく「不快感」や「反感」の対象になるおそれがあるのです。

せっかく時間をかけて行ったブランディングが、自医院の評価を落とすことに作用するなんて、目も当てられませんよね。

ホームページでパーソナルブランドを効果的にアピールしたいなら、綺麗に整った成功体験で飾ってはいけません。失敗や挫折、また今の自分に足りない点などを適度に織り交ぜて書くべきなのです。

ペルソナの重要性「誰に読んでもらいたいか」

最後に、パーソナルブランディングを言葉で伝えるにあたり、最も陥りやすい間違いについて解説します。それは「ペルソナを設定せずに情報発信してしまう」ということです。

ブランディングは、マーケティングに裏打ちされていないと効果を発揮できません。マーケティングでは必ず「ペルソナ」を設定します。ペルソナとは、自医院の理念をわかってほしいターゲットとなる患者さんの人物像のことです。

ペルソナを設定して、ご自身の歯科医院のパーソナルブランドを誰に対して発信するのか、ターゲットを明確にするということですね。

しかし、ペルソナを設定していない歯科医院のホームページは多々あります。たとえば、老若男女を想定し、できるだけ多くの患者さんに届けとばかりに、当たり障りのないコンテンツで終わっているようなホームページがそれに当たります。

これでは、まるでビルの屋上からビラを巻いているようなもの。たまたま通りがかった通行人はビラを拾ってくれるかもしれませんが、誰に向けて作ったビラなのか不明なのですぐに捨てられてしまうでしょう。

ペルソナなきマーケティングは真のマーケティングではない。

「情報発信するターゲットは、できるかぎり絞り込むこと」がマーケティング、そしてブランディングの鉄則です。

院長先生の中には、「せっかくがんばってパーソナルブランドを構築したのだから、理念をできるだけ多くの人に知ってもらいたい」と考える方も多いことでしょう。

しかしその考えは、マーケティングの見地からは間違いなのです。ブランドをアピールする対象が広がるほど、ブランドの持つ価値は軽くなり、ターゲットの心に届かなくなるからです。

ペルソナを設定してターゲットを絞りこむことに対して、「患者さんが来なくなるのでは?」と躊躇してしまう気持ちも分かります。この心理的障壁を乗り越えるためには、大胆なマインドセット(無意識の思考のクセ・思い込み)の切り替えが必要です。独力では難しいかもしれませんので、コンサルタントやコーチの力を借りることも検討するといいでしょう。

ペルソナ設定が有効だった事例

私がコンサルティングしたケースで、ペルソナ設定が有効だった事例を紹介しましょう。

院長先生は女性で、小児専門の歯科・矯正歯科を標榜しています。来院する患者さんの大半は、子育て真っ最中の20~30代の母親と子供です。

院長先生は東大医学部で博士号を取得したキャリアの持ち主。私がコンサルティングする前は、ホームページでもその華々しいキャリアを強くアピールしていました。

しかし、考えてみてください。小さな子供を対象とする歯科・矯正歯科が集患のターゲットとするのは親御さんです。子育てや仕事に日々奮闘し、苦労を重ねているお母さんお父さんに向かって、「ご覧の通り、私はエリート街道まっしぐらの歯科医師です。この華麗なキャリアを見てください!」とホームページで宣伝したところで、果たして心に響くでしょうか?

そこで私は、院長先生の幼少期からの生い立ちや開業までのエピソード、そして歯科医師として何を目指すのかというビジョンを、ご自身の言葉で書いていただきました。特に2人のお子さんを出産して、育児と歯科医師業を両立させてきた苦労については、かなりのボリュームを割いてしっかり書いていただき、コンテンツとしてまとめたのです。

効果ははっきり表れました。院長先生の人となりを綴ったこのページを、ホームページにアクセスした人のほとんどがじっくり読んでいたのです。適切なターゲット(子育てで大変な親御さんたち)に向けて、自分が小児歯科を開業するに至った背景を分かりやすく言語化し、発信した効果にほかなりません。

もし、華やかなキャリアや優れたスキル、高度な医療設備をアピールするだけだったら、多くの人に読まれるコンテンツにはならなかったでしょう。

患者さんは私たちが想像する以上に、院長先生がどんな半生を過ごしてきたか、どのような理念を持った歯科医師であるかを強く知りたがっています。パーソナルブランドは、このことを念頭において適切に情報発信する必要があるのです。

最後に

歯科医師・歯科医院としての理念を見つけだし、言語化して、ターゲットに向けて発信する。パーソナルブランディングの大切さを理解していただけたのではないでしょうか。

パーソナルブランドには物理的な形がありません。しかしだからこそ、一度構築してしまえば永続的に残ります。自分の分身として、理念を患者さんに伝えるべく、年中無休で働き続けてくれるのです。

パーソナルブランディングの効果は、体験した人にしか分からない面もたくさんあります。また、独力でブランドを構築することは、不可能ではないものの相当の知識と工夫が必要です。

4回にわたって寄稿した今回の記事が、院長先生方のパーソナルブランディングのきっかけになってくれることを願い、筆を置きたいと思います。