歯科衛生士向けのマニュアル作成 3つのメリットと注意すべきポイント

「歯科衛生士の業務のやり方や質にムラがある」「歯科衛生士の日々の業務をより効率化したい」といった悩みを抱える歯科医院の院長先生も多いのではないでしょうか。歯科医院において業務の質や効率をアップさせるのに重要なのがマニュアル作成です。

本記事では、最初に歯科衛生士向けのマニュアルを作成するメリットについて解説します。院内にマニュアルがあれば、教育効果アップや業務効率化などが期待できるでしょう。次にマニュアル作成で注意すべき4つのポイントと、マニュアルに盛り込むとよい具体的な9項目、マニュアル効果を高めるための考え方についても解説します。

歯科衛生士向けマニュアルを作成するメリット

歯科衛生士向けにマニュアルを作成する主なメリットは、次の3つです。それぞれ解説します。

  • 教育・育成の効率化が期待できる
  • 教育効果が高まる
  • 歯科衛生士が自分で業務を学びやすくなる

歯科衛生士の教育・育成の効率化

歯科医院(歯科診療所)の院長、歯科医師、先輩の歯科衛生士が後輩・新人を教育するのには、多かれ少なかれ時間や労力がかかります。しかし、マニュアルを用意しておくことで、ある程度の手間が省け、効率的な教育・育成が期待できます。

また、院内にマニュアルがあれば、教育係が退職してもあわてずに済むでしょう。教育係が変わってもマニュアルが残っていれば、その歯科医院の教育方針や理念を継承し続けられます。

歯科衛生士の教育効果が高まる

院長や先輩スタッフが経験則に従って業務を教える方法ではムラが生じます。その時の教え方や、誰が教えるかによって指導内容が変わることがあるからです。

マニュアルがあれば画一的に教えることができますし、基本的な業務フローや普遍的な知識を周知するのにも適しています。

昔ながらの「仕事を見せて学ばせる方法」も大切ではありますが、基本的な事柄がマニュアルに記載されていれば、歯科衛生士が業務に迷った時に参照できますし、教育効果の向上が期待できます。

歯科衛生士が学びやすい

忙しい歯科医院は通常業務に追われて、後輩・新人の歯科衛生士に丁寧に仕事を教えることが困難な場合があります。後輩・新人もまた、業務上の判断で迷っても、先輩に聞きにくい環境になっていることもあるでしょう。

教える内容に関しても、「メインテナンスの方法・順番」や「治療方法の手順」などは日常的に行うので教える機会があっても、「治療計画の立て方」のような長期的な内容は教える機会が少なく、後回しになってしまうのが通常です。

院内にマニュアルが完備されていれば、自分で不明点を確認できるため、歯科衛生士が学びやすい環境を構築できます。マニュアルに素早く目を通すことで、仕事のミスも防ぎやすくなります。

歯科衛生士のマニュアルを作る時に注意すべき4つのポイント

歯科衛生士の業務マニュアルを作る際は、次の4点に注意すると良いでしょう。

1.5W1Hの明確化
2.業務の目的と全体の流れ
3.判断基準やケースごとの記載
4.視覚的な工夫

それぞれのポイントを解説します。

1.5W1Hを明確にする

「誰が」「いつ」「どこで」「何を」「なぜ」「どのように」といった5W1Hを明確にすることで、伝わりやすいマニュアルになります。「マニュアル内のどの箇所を参照すれば知りたい情報に辿り着けるか」を意識しながら、歯科衛生士の立場を想像して作成するとよいでしょう。

また、マニュアルで使用する言葉や表現に関しては、できる限りシンプルかつ具体的になるよう心がけてください。教育係が日常的に使っている言葉を、必ずしも後輩・新人の歯科衛生士が同じように理解できるとは限らないからです。

2.歯科衛生士の業務の目的・全体の流れも伝える

歯科衛生士1人ひとりの個別作業だけでなく、「仕事の目的」と「仕事の全体像」が分かるように記載することで、スムーズな理解が期待できます。

「仕事の目的」とは「その仕事が何のために行われるのか」という視点です。「仕事の全体像」とは全体的な業務フローのことです。両方を意識しながらマニュアルを作成することで、より分かりやすい内容になるでしょう。

また、目的意識や全体の業務フローが分かることで業務の背景理解が深まり、実務でも的確に動けるようになります。

3.歯科衛生士が仕事で悩んだ時の判断基準やケースも記載する

業務フロー・内容だけでなく、業務の判断基準も記載することで、より分かりやすいマニュアルになります。

例えば、歯科衛生士が仕事に迷ってマニュアルを開いた時に、過去の事例をもとに「もし○○のケースになれば○○を行う」のようなケーススタディが記載されていれば、自信を持って判断・選択ができるはずです。

「なぜそのような判断をするのか」が分かれば、実務でも応用が効きやすくなります。さまざまなケーススタディの記載を考えてみてください。

4.視覚的に工夫する

マニュアルは視覚的な工夫が大切です。文字が敷き詰められたマニュアルは読みにくいので、できる限り写真、イラスト、図表などを盛り込むことをおすすめします。

文字についても、重要な箇所を太字にしたり色を使ったりすることで読みやすくなります。文字サイズが小さすぎても読みにくいので、適切なサイズで調整しましょう。

視覚的な印象には個人差があるので、早い段階で自院のスタッフにマニュアルを読んでもらい、フィードバックを得ながら改善を図るとよいでしょう。

【種類例】歯科衛生士のマニュアルの9項目

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(画像=milatas/stock.adobe.com)

歯科衛生士の業務マニュアルには次の2種類があります。

  • 社会人マナーアップのマニュアル
  • 専門スキル向上のマニュアル

それぞれのマニュアルに含めたい項目数は、社会人マナーアップに関する項目が3つ、専門スキル向上に関する項目が6つの計9つです。それぞれ詳しく解説します。

社会人マナーアップのマニュアル 社会人マナーアップのマニュアルには次の項目があります。

  • 心構え
  • 接遇・心づかい
  • 受付・応対

1.心構え
心構えに含めたい項目は以下の通りです。

  • 自院の基本理念
  • 社会人としてのマナー
  • ユニット周りのテリトリー

自院の基本理念は、自院を運営するうえで院長が大切にしている基本的な指針です。

社会人としてのマナーには、あいさつのポイントや、放送禁止用語(差別用語)への注意、身だしなみ・行動のマナーがあります。

ユニット周りのテリトリーとしては、診療の妨げにならない見学の方法や、見学者の基本的立ち位置などが含まれるでしょう。

2.接遇・心づかい
接遇・心づかいに関する項目は以下です。

  • 子どもの患者様への対応
  • 高齢者・障がいを持つ患者様への対応

子どもの患者様への対応には、名前の呼び方、声かけ、母子分離、抑制、治療中の注意といった項目があります。 高齢者・障がいがある患者様への対応としては、ユニットへの誘導時の声かけ、車椅子からユニットへの移乗手順、介助の心得といった内容についてマニュアルを用意しておきたいところです。

3.受付・応対
受付・応対に含めたい項目は以下の通りです。

  • 電話応対
  • 来院患者様への受付業務
  • 初診時の問診
  • 入室・ユニット誘導

電話応対の基本には、第一声の名乗り(自院名とスタッフ自身の名前)やクッション言葉、メモなどがあります。

来院した患者様への対応には、初診/再診でのパターン作成、急患対応マニュアルなどが含まれるでしょう。

入室・ユニット誘導では、入室時・再診時の対応や、ヘッドレストとライトの位置の調整といった項目があります。

専門スキル向上のためのマニュアル

専門スキル向上のマニュアルには次の項目があります。

  • 歯・口腔の基礎知識
  • 準備・後処理
  • アシスタント業務に必要な基本技術と知識
  • 歯科治療に関する情報
  • 緊急時対応
  • 薬剤・材料

4.歯・口腔の基礎知識
歯・口腔の基礎知識に含めたい項目は以下です。

  • アシスタント業務における解剖学
  • 歯科用語・略称

アシスタント業務に必要な解剖学として、歯と口腔の名称、歯式・記号、立体解剖図、X線写真の特徴・見方があります。なお、X線写真の特徴と見方には、デンタルX線写真と解剖図の対比、デンタル10枚法や14枚法などが含まれます。

歯科用語・略称は、自院で使用している用語の略称です。

5.準備・後処理
準備・後処理に含めたい項目は以下の通りです。

  • 診療室の管理
  • ユニット各部の名称
  • トレー上の基本セット
  • 消毒・滅菌
  • 滅菌袋・滅菌手袋・ガウンの取扱い

診療室の管理には、朝・昼・診療後それぞれの仕事内容を含めます。マニュアルで説明しておきたいユニット各部・備品の名称には、スピットン、無影灯、スリーウェイシリングなどがあるでしょう。トレー上に揃える基本セットとしては、ピンセット、ミラー、エキスカベーター、充填機、探針があります。

消毒と滅菌の項目には定義や原則、消毒法と滅菌法の分類などを含めましょう。また、滅菌袋・滅菌手袋・外科用ガウンそれぞれの取扱い方法も記載します。

6.アシスタント業務に必要な基本技術と知識
アシスタント業務に必要な基本技術と知識に含めたい項目は以下のポイントです。

  • バキューム操作
  • スリーウェイシリンジの操作
  • 器具の手渡し
  • X線写真撮影
  • 麻酔時の補助
  • タービン/コントラハンドピースとバーの種類

バキューム、スリーウェイシリンジ、それぞれの操作方法や使用目的を含めます。器具の手渡しには、器具を手渡す際の具体的な注意点を記載しましょう。

X線写真撮影には、デンタルX線・パノラマX線写真撮影の介助。麻酔時の補助の項目には、麻酔法の種類や表面麻酔法(OA)、注射麻酔や注射器の取扱いなどがあります。

タービン/コントラハンドピースとバーの種類についてもマニュアルに記載します。

7.歯科治療に関する情報
歯科治療に関する情報は以下の通りです。

  • 歯周治療
  • セメントの練和
  • 歯内処置
  • 抜歯
  • 歯冠修復
  • 義歯
  • 小児患者様の治療

歯周治療の項目として、原因や分類、歯肉の病的所見、歯周病の流れなどを含めます。セメントの練和には、グラスアイオノマー系レジンセメントや、ペースト・ペーストタイプのセメントの練和などがあるでしょう。

歯内処置としては症状の処置法や歯内処置の使用器材の項目。抜歯には普通抜歯と難抜歯に関する内容。歯冠修復としては形成と印象の流れ。義歯には補綴物の種類や義歯各部の名称などを含めます。

また、小児治療に関する情報もマニュアルに記載します。

8.緊急時対応
緊急時対応に含めたい項目は以下です。

  • 偶発事故
  • 災害時/故障等の対策

偶発事故の項目には、診療中に器物が落下して大きな音が発生した場合など、偶発的な事故が起こったときの対応を記載します。他にも、診療中や診療後に患者様の容体が急変した際の対応もマニュアルに含みたいポイントです。

災害時/故障等の対策としては、火災や地震のような天災や停電の発生、急に医療機械が故障した際の対応方法などがあるでしょう。

9.薬剤・材料
薬剤・材料に含めたい項目は以下の通りです。

  • 薬剤
  • セメント・仮着材・仮封材

薬剤には、根管治療薬、齲蝕予防薬、知覚過敏治療薬、PMTC用器材、歯周炎治療薬、含嗽薬(うがい薬)、消毒薬、義歯裏装材、義歯安定剤、即時重合レジン(即重)、歯周包填剤などがあります。

セメント・仮着材・仮封材として、グラスアイオノマー系レジンセメントの種類などを記載します。

歯科衛生士のマニュアルの効果を高めるための考え方

マニュアルはパターン業務を覚えてもらう場合は適してますが、歯科衛生士の業務には暗黙知も多く、テキストだけだと伝えにくい箇所が多いはずです。

そのため歯科衛生士の教育では、マニュアルに加えて業務内外のコミュニケーションも重要になります。マニュアルに書かれてあることはもちろん、些細なことでも先輩の歯科衛生士に質問しやすい雰囲気、院長や他のスタッフに話しかけやすい環境作りを考えましょう。

具体的には、「笑顔でねぎらいの言葉をかける」「相手の話はさえぎらず最後まで聞く」などがあります。しかし、何より大切なのは、院長自らが率先して行うことです。その輪が広がることで、自然と新人・後輩の歯科衛生士が話しかけやすくなることが期待できます。

まとめ

歯科衛生士向けのマニュアルを作成することで、教育効果・育成の効率化が期待できます。そのためには分かりやすいマニュアルが必要ですが、ポイントは「5W1Hの明確化」「業務の目的と全体像の記載」「判断基準(ケーススタディ)の記載」「視覚的な工夫」です。

よりマニュアルの効果を高めるには、業務内外のコミュニケーションが大切になります。自医院のコミュニケーションが円滑になり、業務の背景理解が深まれば、マニュアルの内容を踏まえた上で、マニュアルではカバーしきれない出来事に関しても対処できるようになるでしょう。

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