良好な歯科医院経営を実現するには、スタッフマネジメントの「急所」が大切であることを前回の記事でお話ししました。
「急所」とは「スタッフに院長や歯科医院を理解してもらい、共感と好意を持ってもらうこと」です。
「急所」さえ掴んでしまえば、院長がスタッフに振り回されることなく、むしろスタッフが自発的に働いてくれるようになります。
今回は「急所」を外すことで起こるトラブルやすれ違いについて具体的に解説します。
院長とスタッフは違う生き物
スタッフはなぜ問題行動を起こすのか?
やる気のない挨拶、手抜き、遅刻、無断欠勤、反抗的な態度。スタッフは何故このような問題行動を起こすのでしょうか?
「急所」がスタッフの感情面にあることは前回の記事でお伝えしましたが、中には「たかが気の持ちようで…」「スタッフの機嫌を取れというのか?」と感じた方がいるかもれません。
「急所」の解像度を上げて理解するには、まずは院長とスタッフが違う生き物であることを知っておく必要があります。
歯科医師は「この人は好きではないけれど、仕事はしっかりやろう」と、好き嫌いと責務を切り分けて考えられる生き物です。
思い返してみてください。勤務医時代には、実力アップと将来のために、感情は別にして精進を重ねてきたはずです。
しかし、スタッフは違います。彼らはあくまでもサラリーパーソンで、自己研鑽・自己投資をする人はなかなかいません。
好き嫌いと責務を切り分けられないので、共感や好意がなければ「ネガティブな感情」がそのまま問題行動に繋がってしまいます。
それが強まると「退職の理由」にもなり得るほどです。
「急所」外しがスタッフの問題行動に直結する理由
スタッフにとってあなたはオンリーワンではない
自分が経営する歯科医院に特別な想いを持つあなたと、単に雇用されている立場であるスタッフでは、モチベーションの熱量が全く異なります。 厳しい言い方になりますが、サラリーパーソンであるスタッフにとって、あなたはどこにでもいる歯科医師のうちの一人でしかありません。
医院にも思い入れがなく、単なる「職場」という認識しかありません。感情や心情が「理解、共感、好意」にまで達しなければ、ちょっと気に食わないというだけで、辞めてしまっても不思議ではないのです。
スマホで歯科医院の求人を検索し、列挙された医院名を指先でスクロールしながら次の働き口を探す。
「急所」を掴めない限り、あなたの医院がその選択肢の一つでしかないことを忘れてはいけません。
スタッフが仕事に誇りと自信を持てない
スタッフは、あなたの事をよく知りません。そもそも他の歯科医師とあなたの技術の差が理解できていないので、尊敬のしようがありません。 あなたが「どんな想いで医院を経営し、自己研鑽を重ねているのか」についても同じです。
先に述べたように、自己研鑽や自己投資をしているスタッフが少ないということは、それを理解・共感する物差しを持っていないということです。
では、スタッフの物差しとは何でしょうか。例えば、院長は経営者なので先々の事やバックボーンを考慮し、日によって違う指示を出すことがあります。
しかし、スタッフにしてみれば「また話が変わった」といい加減な指示に聞こえてしまいます。
医療技術や歯科医院のレベルの曲解が簡単に起こってしまうので、現在の仕事に自信と誇りを持てなくなるのです。
私自身、このようなスタッフの目線を理解しておらず失敗してしまったことがあります。
スタッフ全員が、全ての業務を満遍なくこなせるようになったほうが良いと思い、様々な仕事を教えていました。
しかしこれは、「医院を円滑に運営したい」という経営者としての私の目線でしかなく、スタッフが想定していた仕事とは違ったのでしょう。
結果、スタッフは「私の求めている働き方ではない」と辞めてしまいました。
相手の目線を理解せず、一方的に仕事を押し付けていては、誇りなど芽生えるはずがありません。
スタッフにはその仕事のゴールが見えない
院長には目指しているビジョンがあります。どんな歯科医師になりたいのか、どんな歯科医院を作り上げたいのか。
経済的な豊かさや時間的な余裕、精神的な落ち着き。そしてスタッフの成長まで。
それらのゴールを目指し、歩を進めています。
しかしスタッフは、そのビジョンを知りません。
「いや、自分はちゃんと説明した」という方は、あなたがスタッフにとってどんな存在だったかを思い出してください。
残念ながら、興味の薄い相手の話は心に残りません。
診療も、経営施策もゴールに向かうために行われます。
しかしスタッフにはゴールが見えていないため、仕事への注力理由や気遣いの必要性がわかりません。
何をどこまでやれば院長が満足するかわからないので、指示待ちが基本姿勢になります。
スタッフが良かれと思って取った行動でも、ゴールから外れていれば叱られます。
そして叱られた、その瞬間から、自主的に仕事することは無くなります。
さらに院長は、歯科医院の仕事が全てできてしまいますので、忙しい時でも「あー、もういいよ、俺がやる」と仕事をこなしてしまいます。
スタッフからみれば蔑ろにされたように感じるでしょう。
「アイコンタクトで以心伝心」は理想ですが、年齢も性別も経験も違うスタッフとの間では、無理な話です。
明確に言語化し、コミュニケーションを重ねなければスタッフにゴールを認識してもらえないのです。
「急所」を外さないことによるメリット
院長への共感、好意や敬意があると…
しっかりコミュニケーションを取っていたつもりでも、院内を引っ搔き回して辞めてしまう人がいる、というようなことが、スタッフマネジメントの難しい点です。
「院長のことを好きになって、一緒にやっていこう」という気持ちがなければ、分かりやすいマニュアルがあったところで円滑な仕事はできません。
逆にスタッフの「急所」を掴むことさえできれば、院内に好循環が生まれます。
好循環とは…
- 他の医院との違いが生まれ、院長と医院がオンリーワンの存在に。
- 院長の言葉に耳を傾けるようになり、ゴールへの認識が深まる。
- ゴールに向かい自己研鑽する院長に好意を持ち、スタッフも働きがいや充実感を得たいと願うようになる。
- 願いは自発的な行動を生み、院長の真意を汲んだ仕事を率先して行うようになる。
- 能動的な仕事はスタッフのプライドを満たし、自信が生まれる。
- 自信は自己評価を高め、仕事への熱意になる。
- 院長がスタッフに感謝し賞賛する好循環が生まれ、院内はより円滑化。
これらはあまりに理想的過ぎて、院長が余程の人格者か腕のたつ歯科医師でなければ実現できないように感じるかもしれません。
ところが、私が見てきた歯科医院の中これらが実現している医院の院長先生は、必ずしもそうではありませんでした。
「もう、先生はダメなんだから」「先生はあっち行ってて!こっちでやっておくから」と笑顔で院長を受け入れ、率先して行動するスタッフたちを何人も見てきました。
あなたの医院を理想の環境に変えるには、何から始めればよいのでしょうか。
次回はスタッフの「急所」を掴むための、具体的なアクションプランを説明します。
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株式会社120% 代表取締役
歯科医師
単なる売上げアップではなく、いかに手元に利益を残すか、ステイタスを高めるか、幸せで愛される院長になるか、にこだわりを持つ『ブランド歯科医院構築コンサルタント』『幸せドクター養成アドバイザー』。
院長として長年、歯科医院経営の指揮をとり、また歯科医師として現在も臨床の現場に立ち、医療従事者と経営者を同時にこなす葛藤をイヤというほど経験してきた。
真面目で技術の高い開業医こそもっと報われてほしい…患者やスタッフにふり回されず思い通りの診療をしてほしい…もっと豊かで幸せになってほしい…そんな強い思いから現在はコンサルタントとしての活動に重きを置いて取り組む。