新患獲得や患者の確保が思うように伸びず、悩んではいませんか?
歯科医院間の競争が激しい近年は他院との差別化が必要であり、具体的な戦略を立てることが重要です。
この記事では、歯科医院の院長が経営を戦略化させるための基本と、検討すべきポイントについて解説します。
歯科医院経営で必須の戦略化とは
歯科医院経営において欠かせない戦略とはどのようなものなのでしょうか。戦略の重要性と種類について紹介します。
戦略化の考え方
ビジネスにおける戦略とは、理想や目標を定め、現状とのギャップを分析し、達成するための道筋を明らかにする取り組みです。
いわば歯科医院が進むべき方向性を考えることであり、描いたビジョンを実現するための具体的な方針を決めることでもあります。
歯科医院経営で考える戦略では、新患獲得と患者離れの防止を目的として医療サービスの質やスタッフマネジメント、集客・リピート戦略、運営効率、資金管理などを対象に具体策を講じていきます。
歯科医院の院長が戦略を立てるべき理由
歯科医院経営の成功にはその場しのぎの対策ではなく、正確な現状分析をもとにした戦略を立てなければなりません。
厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(2019年)によると、歯科医師数はここ数十年緩やかな増加傾向にあり、2019年時点で歯科診療所数は6万8,500件と過去最多を記録しています。
一方で日本国内の人口は減少傾向です。今後は患者の総数が減少し、患者のさらなる奪い合いが見込まれます。
これからの歯科医院経営には患者に選ばれる強み、さらにはスムーズな運営を可能にする戦略が必要です。
歯科医院の院長が知っておきたい戦略の種類
戦略は大きく2つに分けられます。1つは「組織戦略」と呼ばれ、理想の組織を実現するための組織運営に関わる戦略を策定します。
もう1つの「競争戦略」は業界内で優位なポジションを確立するための戦略です。それぞれ以下で詳しく解説します。
歯科医院が戦略を立てるべき理由とは?現状や将来性
なぜ、医療機関である歯科医院で戦略化が必要なのでしょうか。歯科業界を取り巻く現状や、さまざまな変化による影響から戦略を立てるべき理由について説明します。
歯科医院数の高止まりと人口減少
歯科医院経営の成功にはその場しのぎの対策ではなく、正確な現状分析をもとにした戦略を立てなければなりません。
厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(2019年)によると、歯科医師数はここ数十年緩やかな増加傾向にあり、2019年時点で歯科診療所数は6万8,500件と過去最多を記録しています。
一方で日本国内の人口は減少傾向です。今後は患者の総数が減少し、患者のさらなる奪い合いが見込まれます。
これからの歯科医院経営には患者に選ばれる強み、さらにはスムーズな運営を可能にする戦略が必要です。
虫歯治療の変化
従来の虫歯治療といえば「虫歯を削って詰め物をする」という処置が普通で、「虫歯を発見したらすぐに治療をするべき」という考えが当たり前でした。
しかし近年は高濃度のフッ素塗布や、糖分が高いものの飲食を控えるといった「オーラルケア」によって、虫歯の発生率が減少するという研究もあります。
比較的小さな虫歯であれば削らない虫歯治療が可能であり、虫歯に対する治療方法が変わりつつあるといえます。
また、厚生労働省が公表した「歯科疾患実態調査結果の概要」(2016年)によると、若年層での虫歯の数が減少傾向にあり、特に子どもは顕著です。
2005年時点で5〜9歳の「う歯」率は14.6%ですが、2016年には8.2%、さらに10〜14歳では57.7%から19.7%へ減少しています。
このような変化から、従来のやり方が通用しなくなってきており、歯科医院も変化を求められている状況なのです。
患者負担増加と感染症リスク
現在75歳以上の多くが1割負担となっている医療費を、2割に引き上げる制度改革が成立しました。
団塊の世代が後期高齢者になることを受け、年収200万円以上の後期高齢者(75歳以上で3割の現役並み所得者以外)を対象に、医療費の窓口負担を2割とする医療制度改革関連法が可決され、2022年10月以降2023年3月までの間に実施される予定です。
患者の医療費負担が増えると予想されるうえ、新型コロナウイルス感染症が再拡大する可能性も未だ拭いきれません。
感染リスクを避ける意味でも受診控えにつながる恐れがあり、対策が必要と考えます。
スタッフの人手不足と働き方改革
歯科衛生士は「20の歯科医院が1人を取り合う」というレベルの人手不足であり、歯科助手に関しても同じ状況です。
他医院との差別化も大切ですが、歯科衛生士の多くは人間関係、労働環境、待遇、成長性などを重要視する傾向にあり、スタッフの確保・引き留めには待遇改善や、労働環境の整備が必要だと言えます。
さらに2019年から「働き方改革関連法」が順次施行され、歯科医院としても「有給取得の義務化」「残業時間の上限規制」「労働時間の客観的な把握義務化」などの対応が迫られています。
なかには罰則の対象となる施策もあるため、院長にはスタッフに配慮しつつも、生産性を高めるための取り組みが求められています。
歯科医院の院長が医院運営の戦略化で検討すべきポイント
組織戦略で行うのは人材・物・お金・情報・時間といった経営において不可欠な資源の管理です。
ここでは歯科医院の院長が経営をするうえで重要な人材、お金、情報について解説します。
人事戦略
歯科医院のオペレーションを成り立たせるうえでスタッフの存在は必要不可欠であり、スタッフのマネジメントは最も優先すべき課題です。
スタッフのスキルや姿勢はサービス提供の質や効率、接遇の良し悪しにもつながり、さらには集客にも影響を及ぼします。
スタッフが担当する業務範囲が以前よりも拡大していることから歯科知識や技術だけでなく、サービス性の向上も必要でしょう。
なお、売上1億円超の歯科医院では積極的に人件費をかけている傾向があり、人材への投資は歯科経営において重要であると考えられます。
財務戦略
多くの支出が必要なビジネスである歯科医院では、キャッシュフローを管理しサービスの質とコストのバランスを安定させることが必須です。
開業時には物件取得、改装、医療機器の調達といった多くの初期コストがかかり、その後は運営を続ける限り医療機器のリース料、材料費用、人件費などのランニングコストが必要になります。
利益を出すためにコストの削減を図りたくなりますが、質の高い医療サービスを提供するためには機器やスタッフへの投資は惜しまないことが重要です。
システム戦略
患者や予約など情報活用をスムーズにするシステムの導入も近年は重要な戦略です。
予約管理システムや電子カルテ、財務管理システムなどさまざまなシステムが開発され、作業効率の向上を実現しています。
また、多様な決済手段への対応も自由診療には役立つはずです。
決済サービスの導入には費用がかかり、システムの整備が必ずしも必要なわけではありませんが、運営効率化や患者の利便性アップを目指すためには検討したい施策でしょう。
歯科医院の院長が競争戦略について意識すべきポイント
競合医院との競争のなかで自院が選ばれるために意識したいポイントがあります。ここでは競争戦略で特に重要な市場調査、競合調査、そして差別化について解説します。
市場調査
市場調査は市場の動向や患者のニーズを把握し、施策を立てるために行います。歯科医院は地域密着型が多いことから商圏は半径250~500mといわれ、車での移動も含めると半径約4kmが目安です。
商圏内の人口や性別、年齢層、職業といった属性を調査しデータ化、分析することで地域の特性を理解します。歯科医院に求められるニーズを洗い出すと同時に、競合医院の把握もできるため戦略策定に活用できるでしょう。
競合調査
競合調査は、商圏内で競合となりそうな他の歯科医院について把握し、自院と比較・分析を行う調査です。治療内容やサービス、立地、料金、宣伝方針などがおもな調査内容となります。
現状を詳しく分析するための方法には、マーケティングで用いられる「4P分析」「3C分析」「SWOT分析」といったフレームワークが役立ちます。それぞれについて次項で説明しましょう。
4P分析 4P分析とは、マーケティング施策を考える際のフレームワークの1つです。効率的な戦略を導き出すために、以下に示した4つの要素が重要だとされていて、それぞれの頭文字をとって「4P」と呼ばれています。
・Place(立地や商圏範囲)
・Product(サービスや品質)
・Promotion(広告宣伝やコミュニケーション)
例えば、Priceでは「自費診療の有無や価格、対応できる支払い方法」が当てはまり、Placeなら「近隣にはどのような競合医院があり、強みは何か」「商圏の顧客属性・潜在患者数」「自院と生活導線との関係」などが考えられます。
3C分析 3C分析とは環境分析に対するフレームワークの1つです。次の3つの視点からマーケティングを行うことで、差別化を図れます。
・Competitor(競合)
・Company(自社)
まず、Customer(市場・顧客)で「見込み客の層や来院理由はどのようなものか」といった、潜在患者の要望や市場規模を把握します。
Competitor(競合)では、競合歯科医院の強みやコンセプト、独自サービスを理解することが重要です。
そして最後に、「自院の強みや他院にはない特徴はなにか」といった具合にCompany(自社)について分析を行います。
SWOT分析 SWOT分析は4つの要素である「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の頭文字から命名されており、プラス要素(強み・機会)とマイナス要素(弱み・脅威)を組み合わせて分析を行います。
例を挙げてみましょう。
例えば、「強みと機会の組み合わせ」では、自院の強み(ノウハウやサービス、人的資源など)と、機会(立地の良さ、患者のニーズとの合致)を組み合わせ、最大限に活用するための戦略を立てることができます。
「弱みと脅威の組み合わせ」では、弱み(歯科衛生士の不在、患者へのフォロー不足)と、脅威(競合医院の多さ、自費診療を望む患者層が少ない)を組み合わせて考えることで、弱みを克服し脅威を攻略する施策を検討し、優先すべきテーマを見つけられます。
差別化要因の洗い出し
市場調査と競合調査の結果をもとに、他院と差別化が図れそうなポイントを洗い出します。差別化のポイントを見つける際に重視する点は2つです。
2. それが患者のニーズに対応していること
例えば「自由診療で多様な選択肢を提案できる」、「高い技術で痛みの少ない、安全な治療ができる」など患者が求める治療法や悩みに寄り添えることも差別化の1つになります。
歯科医院経営を戦略化するための具体的な活動内容
歯科医院の戦略化における方法を解説しましたが、さらに具体的な内容についても紹介します。
店舗のコンセプト・経営理念を明確化・掲示する
歯科医院のコンセプトを明確にすることは、他院との差別化にもつながります。さらには広告となる看板や内外装などにも関係するため、しっかりと設定しましょう。
また、経営理念・治療方針は待合室・ホームページ・院内報などに掲示・掲載することで、患者からの信頼を得やすくなります。
カラーのパンフレットを用意する
歯科医院の特徴や診察内容を分かりやすくするために、カラーのパンフレットを作成するとよいでしょう。
文字のみ、あるいはモノクロのパンフレットよりも、写真やイラストを使用した方が患者の視覚に訴えられます。
診療メニューを充実させる
診察メニューを充実させ、多様化する患者のニーズに応えることも重要です。
患者の要望に応えられなければ、他の歯科医院を選ぶ可能性は高くなります。
「自由診療メニューを増やす」「最新治療を導入する」など、診療の幅を広げることで安定した経営につながります。
診察室や待合室の内装を変える
診察室や待合室の雰囲気にもこだわることで、患者に好印象を与えられます。
清潔で落ち着ける空間を心がければ、女性患者への訴求がしやすくなるでしょう。
キッズスペースがあれば子どもを連れていても安心で、家族層の取り込みにもつながる可能性があります。
診察室は患者の緊張がほぐれるような優しい色使いにし、プライバシーや飛沫の飛散に考慮してパーテーションを設置することが望ましいといえます。
リコールハガキなどで増患を図る
定期的なリコールハガキは患者の再来院を促すきっかけになります。予防や検診の場合は、来院を後回しにしている場合がほとんどです。
患者の誕生日や季節のイベントを利用して、来院の動機づけをするなど、工夫次第でリコール率が高くなります。
三段階の価格設定を用意する
「松竹梅」のように三段階の価格設定では、多くの人が真ん中の価格を選ぶ傾向があります。
この心理を利用して自費診療の価格を3つ用意しましょう。患者が選択しやすい価格テーブルを用意することで、自費診療の獲得率アップが図れます。
まとめ
歯科医師数や歯科医院数の増加に加え、人口減少、う歯率の低下などさまざまな要因から、従来の診療に力を入れているだけでは思うような集患が困難になっています。
歯科医院はスタッフのマネジメントはじめ、サービスの充実・向上なども視野に入れ、あらゆる側面から方針を定めなくてはなりません。
医院存続のためにも経営を戦略的に考え、対策を講じる必要があります。
引用元:
厚生労働省 令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 Ⅰ 医療施設調査
厚生労働省 医療経済実態調査(医療機関等調査) / 第22回医療経済実態調査(医療機関等調査) / 報告 歯科診療所(集計2)
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。