歯科医院に対する患者さまのニーズが“治療”から“予防”へと変化している現在、医院経営を安定化させるためには「リコール率」を高める必要があります。
しかし、リコール率を高めるためにどのような施策に取り組むべきか、迷われている先生方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、リコール率の重要性や平均値を踏まえつつ、リコール率アップにつながるポイントを紹介します。
歯科医院における「リコール率」とは?
「リコール」とは、歯科医院に来られた患者さまに対して定期検診を促すことです。
つまり、歯科医院におけるリコール率は、以下のような計算式から導き出すことができます。
リコール率=定期検診で再来院された患者さまの人数÷リコール数(定期検診での再来院を促した回数)
開業エリアや経営スタイルにもよりますが、医院経営の安定化を目指している場合、このリコール率は少なくとも50%以上まで引き上げたいところです。
定期検診を受けてくれる患者さまが増えれば無理なく利益率をアップできるため、余裕のある医院経営を実現できるようになります。
リコール率は最も重要な経営指標の一つ
収益アップを目指すために、まず新規の患者さまを増やすことを検討する方も多いでしょう。
しかし、リコール率を高めないまま新患獲得のために広告費をかけ続けると、いつまで経っても新規の患者さまを追い求めなければならず収支は安定しません。
また、高齢化の著しい進行や出生率の低下によって、日本の人口減少は加速しています。
今後は患者総数が減る=新患獲得そのものが難しくなる可能性も考えられるため、リコール率アップの施策が重要になってくるのです。
獲得した新患のリコール率が高まれば、患者さま一人当たりのLTV(生涯顧客価値)もアップするので、結果として経常利益率を上げることができます。
さらに、リコール患者は予防・メインテナンスが中心なので、歯科医師が診療に当たる時間を短くできたり、材料代・技工代といったコストを削減したりすることが可能です。
その結果、粗利も増えるので、医院経営の安定化へとつながります。
参考までに、一般的な歯科医師の治療とメインテナンスの収支モデルの目安を表にまとめました。
※賃金構造基本統計調査・医療実態調査などのデータより算出
歯科医師による治療 | メインテナンス | |
---|---|---|
収入/回(レセプト1枚) | 12,000円 | 10,000円 |
材料費・技工代 | 2,000円 | 0円 |
人件費 | 歯科医師の時給=3,000円 (人件費換算4,500円) 歯科助手の時給=1,200円 (人件費換算1,800円) |
歯科衛生士の時給=1,900円 (人件費換算2,850円) |
一人当たりの広告費 | 5,000円 | 0円 |
利益 | ▲1,300円 | 7,150円 (3か月に1回来院=28,600円/年) |
少々極端な例ではありますが、広告を打って新患を獲得した場合は、1回の治療のみで終了すると赤字になってしまいます。
定期管理を行う患者さまを増やすことは、広告費0円での安定的な集患につながるのです。
歯科医院におけるリコール率の平均は?
厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査」のデータによると、20歳以上で過去1年間に歯科検診を受けたという人の割合は以下のように推移しています。
- 2004年:32.2%
- 2009年:34.1%
- 2012年:47.8%
- 2016年:52.9%
このように歯科検診を受ける人は年々増えている傾向にあり、12年間で20%以上アップしています。
つまり、定期検診への関心を持っている患者さまは増え続けていると言えるでしょう。
また、日本歯科医師会が発表した「歯科医療に関する生活者調査」のデータでは、予防のために歯科医院を受診している人は全体の約30%を占めています。
さらに、厚生労働省が出した「患者調査」のデータによれば、う蝕の患者数は以前より大きく減っている一方、「検査・健康診断(査)及びその他の保健サービス」は10年前の3倍以上まで増えている状況です。
これらの要因としては、人々の口腔内の健康に対する意識の高まりや、患者さまの高齢化(高齢者ほど歯周炎リスクは高く定期的な管理が必要)などが考えられます。
歯科医院の平均リコール率をアップさせるためのポイント
歯科医院のリコール率アップを実現するためには、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。
1.常にリコール率をチェックして数値改善する意識を持つ
「専門的な治療を受けるために他医院から紹介で来院した」などの場合を除き、治療後の定期検診はあらゆる患者さまにとって必要です。
つまり、ほぼ全ての患者さまがリコールを促すべきターゲットとなるので、先ほどご紹介したリコール率の計算式も以下のように置き換えられます。
リコール率=再来院された患者さまの人数÷定期検診を受けるべき全ての患者さまの人数
上記の計算式を頭に入れておくと、自医院が達成すべきリコール率も把握できるはずです。
リコール率アップにおける大まかなプロセスをまとめたので、こちらも参考にしてみてください。
- KPI(重要業績評価指標)としてリコール率の目標値を設定する
- 自医院の現状のリコール率を定期的にチェックする
(月間、半期、年間など複数のスパンで確認) - 目標値達成に向けた具体的な施策を検討する
- 施策に関わったスタッフの貢献度を評価する
- 各スタッフの評価をきちんと給与などに反映する
このようなプロセスに沿って、リコール率アップにつながる施策を積極的に講じることが重要となります。
2.定期検診の重要性をきちんと伝える
厚生労働省の研究チームが発表した「インターネットリサーチによる歯科定期受診行動に関わる要因についての調査(2011年)」によれば、定期検診を受けていない人のうち約75.0%が“受診の必要性”を感じています。
また、実際に定期検診を受けている人の“受診理由”は以下の通りです。
- 安心感があるから(54.4%)
- 歯科医院より定期検診を勧められたから(52.6%)
- 効果を実感しているから(33.2%)
- その他(8.4%)
このように歯科医院から促される形で受診している人は多いため、患者さまへのアプローチは忘れずに行いたいところです。
ハガキ・メール・SNSなどでリコール案内をする前に、まずは来院時にきちんと定期検診を促すという姿勢が重要となります。
口頭で案内するのはもちろん、待合室のモニターで定期検診の重要性が伝わる動画を流したり、お帰りの際にリーフレットを渡したりするなど、幅広い方法で患者さまの態度変容を促しましょう。
3.予約ツールのリコール機能を活用する
治療が完了したら患者さまごとに具体的な予防プランを提示し、会計時にその場で定期検診やメインテナンスの予約を取ってもらうことも、リコール率アップにつながります。
ただし、再来院まで期間が空く場合、予約自体を忘れられてしまうかもしれないため、改めてリマインドすることが大切です。
ハガキやメールを使って予約日の1~2週間前くらいに連絡すれば、忘れられる可能性も低くなります。
また、歯科医院の予約ツールを導入している場合、リコールに役立つ機能が使えるかチェックしてみましょう。
最近では、患者管理システムや予約管理システムと連動して、以下のような機能を搭載している予約ツールも登場しています。
- 患者さまごとのスケジュール設定機能
- リマインドメール・SMSの一斉送信機能
- リコール対象者の一覧表示機能
- デジタル診察券(アプリ)でのプッシュ通知機能
予約ツールを使えば、リコールの患者さまが多くても簡単に管理でき、抜け漏れも発生しづらくなります。
医院業務の効率化にもつながるため、ぜひ導入を検討してみてください。
4.スタッフ教育を徹底する
定期検診で再来院されている患者さまの多くは、その歯科医院に対して相応の信頼を寄せています。
歯科医師による治療内容はもちろん、各スタッフの対応や院内環境についても満足しているケースが多いのです。
これは、リコール率を高める上で注目したいポイントです。
患者さまの信頼度・満足度を高めるためには、まずは以下のような基本的ができるよう、日頃からスタッフの教育をしっかり行う必要があります。
- スムーズな対応で患者さまを極力お待たせしない
- 丁寧な処置や説明を心掛ける
- 患者さまとしっかりコミュニケーションがとれる
- 院内のあらゆる場所を清潔に保つ
定期検診やメインテナンスでは、特に歯科衛生士の役割が大きいと言えます。
技術面・コミュニケーション面はもちろん、患者さまが「また来院したい」と考えるような診療を提供できるよう、しっかりスキルアップを実現させたいところです。
まとめ
歯科医院の経営安定化を図るためには、新規の患者さまを獲得するだけではなく、定期検診を促してリコール率アップにつなげることが重要です。
自院のリコール率を常にチェックしつつ、患者さまにきちんと定期検診の重要性を伝え、予約ツールの機能を活用するなどリコール率向上を目指しましょう。
また、スタッフ教育もポイントとなるため、人事評価制度と併せて一貫性のある施策を講じることが大切です。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。