歯科医院の院長の多くは、きちんとした経営や会社の仕組みについて学ぶことなく経営者になります。
そのため開業後に労務や経理、スタッフマネジメントなどに忙殺され、本職の治療に集中できず疲弊…。
スタッフとの関係にも温度差が生じ、気持ちだけが空回りするという悪循環に陥りがちです。
この悪循環を断ち切る手段として、連載第1弾では組織を最適化して生産性を上げる仕組みとしてミーティングの重要性をお伝えしました。
第2弾となる本連載では、歯科医院の課題を解決するために、実際にどのような施策を行ったのか実践事例を紹介します。
院内の不穏な空気を変える仕組みづくりとは?
今回は業務がトップダウンでしか進まず、スタッフの自主性に課題を抱えていたO院長の事例をご紹介します。
O院長のプロフィールと医院の特徴
O院長は学生時代にラグビー部に所属していました。
ラグビーは屈強な相手にスクラムやタックルを仕掛けるわけですから、体力的にはもちろんのこと精神的な強さも必要とされます。
そのため、挫けそうになったときに気持ちを前向きにしてくれる魔法の言葉を決めている人が多いと聞きます。
O院長は、それを「挑戦、継続、克己心」としていたそうです。
「必ずうまくいく」という気持ちで試合や練習に臨んでいたO院長ですが、歯科医院を開業する際にも同様に気持ちを強く持っていました。
開業時のスタッフは3名。少人数ということもあり最初のうちは上手くいっていたそうです。
しかし開業から5年目、スタッフが12名になった頃、院内で違和感を感じるように…。
スタッフの増加につれてルールも増え、ルールを守れないスタッフがちらほら出はじめてきました。
そこでコアメンバー3名によるスタッフミーティングに取り組みました。
経験やスキル、経営者視点を持つコアメンバーで内容を精査し煮詰め、全体ミーティング時に下ろすという仕組みです。
さらにグループLINEも用いてスタッフのリアクションを確かめられるようにもしたそうですが、違和感を解消するまでには至りませんでした。
O院長が抱えていた課題は?
- 院内に違和感を感じる(スタッフの本音が聞けない)
- トップダウン体制
- 仕組みづくりのノウハウがない
実はO院長は違和感の正体にうすうす気づいていたようです。
それは全てがトップダウンであったこと。
しかし、同院には明確なビジョンを伝える方法や、信頼関係を築き全員が自由に意見交換できるミーティングのノウハウがないため、手をこまねいていたわけです。
O院長はトップダウンにならざるを得なかった理由をこう振り返ってくれました。
「スタッフからは、『院長に提案や意見をしても通らない。意見が通らないから言うのを止める』『よく考えて資料作成もしたのに、毎回指摘され修正が入るからやらない』という言い分がありました。」
しかし、わたしからすれば、その考え自体をシフトチェンジしてほしいところです。
他人の助言は、より良いものを目指すためのきっかけであって、否定ではありません。
他人の意見や考えに触れることで自らも成長し、社会人としての市場価値も高まり、さらに引き出しが増えていくとすれば、素晴らしいことではないでしょうか。
O院長の言い分にも一理ありますが、スタッフにきちんと届いていなかった結果どちらも腹に据えかねるものがある状況になっていました。
このような関係では、よいときとそうでないときの差が出てしまいます。
スタッフのなかには、院長の話や提案を「命令」としか受け止められない人もいたようです。
私が行った施策とその意図
O院長が私に相談をくださったのは、2019年7月のことでした。
そこで話をお聞きし、試験的な意味合いも含め「角ゼミ第一弾4時間コース」を実施する運びとなりました。
第一回目のゼミは、ときおり笑いも起こるなど、よい雰囲気のなか進みました。
スタッフの意見も多く出てきて、反応は上々です。そしてその後、毎月ゼミを開催してほしいというオファーをいただきました。
毎月のゼミでわたしが取り組んだのは、チーフやリーダーなどの管理職が積極的に提案する組織をつくることでした。
同院では、スタッフ自らが課題を見つけ、発信し、解消するというようなアクションが見られなかったためです。
院長一人で全てのスタッフを見るのは不可能ですし、課題を見つけ出すこともできません。
そこで、まずは管理職のスキルアップを狙ったのです。
ゼミはあえて院長不在として、管理職だけでミーティングをしました。
院長と管理職それぞれの業務領域を意識させることで、トップダウン解消の基礎をつくるためです。
院長は最後の確認だけを行うことにしました。
私の目から見た施策後の変化
歯科医院は、トップダウン体質に陥りやすい理由があります。
それは診療中の指示は、基本トップダウンだからです。
院長が診療の感覚のまま、マネジメント業務をしてしまうと、関係性が固定化され、スタッフは意見が言いづらくなります。
院長は診療とその他の業務の考え方を意識的に切り替えなければなりません。
そのうえで任せてもよい業務を明確にして、スタッフにしっかり任せる、これが必要です。
現在はスタッフからの意見が出やすい環境になったと思いますし、院長ご自身もスタッフの考え方が分かるようになったことで、穏やかになってきたように感じています。
【O院長から見た変化と感想】
それでは0院長から頂いた感想をご紹介します。
角先生に来ていただくようになって、院内の雰囲気が以前と比べて断然よくなりました。
スタッフ同士の会話が増え、ミーティングの時間が足りないぐらい自由闊達に意見が飛び交います。
また、手法にも変化があり、OKR(Objectives and Key Result:目標と主要な結果)を用いたミーティングの仕組みづくりやプチミーティングの開催、さらに自発的に院内セミナーを開催してくれる勤務医や持ち回りでゼミを行うスタッフも現れました。
現在、クリニックの拡大計画を進めていますが、スタッフが主体となって動いてくれているので、方針や戦略を練るための時間が確保できて大変助かっています。
今のように行動し続けられるスタッフが増えていけば、当院の未来は明るいと思っています。
今回のまとめ
よく「スタッフの本音が出てこないからトップダウンにならざるを得ない」という話を耳にします。
しかしこのようなケースでは、院長がスタッフの言葉を「本音ではない」と思い込んでいることが往々にしてあります。
まずは、スタッフの意見を信用し、言葉の通り受け取ることが大切です。
そのうえで上手くいかなければ、今回のような仕組みづくりで解決することをお勧めします。
また、提案や意見が出ればよいというものでもありません。
トップダウンの状況下では、スタッフ同士のよくない競争意識が働きます。
中には行動の質ではなく、提出物の数やページ数で優劣を測ってしまう人もいます。
そもそも「正解がないから間違いもない」ぐらいの軽い気持ちで取り組んでもらえる環境づくりをする必要があります。
やたらとフレームに当てはめて解決するのではなく、まずは院長が課題を把握するところからはじめましょう。
課題把握をしてから、仕組みづくりに移行する。
そのような流れが組めれば、改善スピードも増していきます。
他にもご質問などあれば、どうぞお気軽にSNSで声をかけてください。
この度は、私の記事をお読みいただき、ありがとうございました。
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「最強の歯科ミーティングバイブル」
角 祥太郎 著
(デンタルダイヤモンド社)
角流!(KADO STYLE!)ここにあり。
歯科医院のチーム力を高めるステップアップワーク集。
8医院の実践事例を紹介。
「なぜ」をまず考えることが最も大切だ。
「なぜ」がわかっていないと何をしても迷い、損をする。
まずは「なぜ」を考えよう。
「なぜ」を理解したら、
「何をどのようにするか」を最適化して決めれば、
ミーティングはゲームになる。
8つのパートナー歯科医院から届いた現場の率直な感想。
そのとき何が起こったのか。
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株式会社clapping hands 代表取締役
歯科医師
歯学博士
2009年、東京歯科大学解剖学講座で歯学博士取得後、千葉県の大手医療法人海星会に就職。3年で副理事長に就任。社内ベンチャーとして訪問歯科や歯科医院の海外展開を支援する会社の立ち上げをリードする。
2017年、株式会社clapping hands を設立し、診療の傍らメーカーへのアドバイザーも務め2021年は142回の講演をおこなった。
学生時代よりプロレスラー(キム・ヨッチャン)としても活躍し、週刊プロレスの表紙掲載や著名人との対戦経験もある異色の経歴の持ち主でもある。