歯科医院の院長の多くは、きちんとした経営や会社の仕組みについて学ぶことなく経営者になります。
そのため開業後に、労務や経理、スタッフマネジメントなどに忙殺され、本職の治療に集中できず疲弊…。
スタッフとの関係にも温度差が生じ、気持ちだけが空回りするという悪循環に陥りがちです。
この悪循環を断ち切る手段として、連載第1弾では組織を最適化し、生産性を上げる仕組みとしてミーティングの重要性をお伝えしました。
第2弾となる本連載では、歯科医院の課題を解決するために実際にどのような施策を行ったのか、実践事例を紹介します。
スタッフの意見や想いを聞けるようになる体制づくりとは?
今回はスタッフ教育がしたくても、その仕組みの作り方が分からないというD院長の事例をご紹介します。
D院長のプロフィールと医院の特徴
D院長の歯科医院は自然豊かな愛知県西尾市のさらに郊外にあります。
同院は開業から40年以上を数え、D院長は2代目として父親の後を継ぎました。
院長になってからも10年以上、父親と一緒に働いており、顔色をうかがいながら歯科経営を行っていました。
D院長が抱えていた課題とは?
- スタッフの教育体制の乏しさ
- D院長自身の他者との比較、「ああなりたい」という焦りやモヤモヤ感
D院長は勤務医として同院に勤めはじめた当初から、スタッフを対象とした教育体制の乏しさを感じていました。
院内外の勉強会をはじめ、ミーティングを行う習慣もほとんどなかったそうです。
コミュニケーションが足りないと、ナレッジの共有がなされず人はなかなか育ちません。
さらにD院長自身、他人と比較するクセがあるそうで、育成上手な歯科院長や経営が上手くいっている周りのクリニックを見て、「わたしもあの人のようになりたい」「あんなふうに歯科医院を成長させたい」とモヤモヤしていたようです。
そのころは、自分の置かれた環境の良いところに目を向けることができず、常に焦りを感じながら仕事をしていたといいます。
最初の出会いは名古屋市で開催されたわたしのセミナーでした。
そこにD院長は足を運んでくださり、ありがたいことに当セミナーの最中に研修依頼を決めていただいたようです。
そのセミナーは歯科院長を対象にした内容だったのですが、「スタッフにも聞かせたいと思った」というのが依頼の理由でした。
セミナーの後の懇親会で話しかけてくださり、そこで研修の大筋が決まりました。
わたしが行った施策(メインテナンスセミナー)とその意図
「メインテナンスセミナー」と名付けたセミナーを月に1回のペースで計3回行いました。このセミナーの特徴はワークを中心としたことです。
その理由として、勉強会慣れしていないスタッフに座学メインのセミナーを行っても、集中力が続かず飽きてしまう恐れがあったためです。
またワーク形式であれば、自分の頭で考えるため能動的に取り組めます。
さらに言えば、スタッフの本音が引き出せるように、自己開示のハードルを下げる狙いもありました。
そのために工夫したのは、まずわたしが想いや意見を発表することでした。
最初に踏み込んだ意見を発表することで、スタッフの「どこまで言っていいんだろう?」「こんなこと言って恥をかかないかな?」という心のブレーキを取っ払い、自由闊達な議論の場をつくることに専念しました。
それぞれの立場から見る施作後の変化は?
わたしの目から見た施策後の変化
スタッフたちの変化ももちろんあったのですが、恐らく一番変わったのはD院長だと思います。
どちらかと言えば悪いところに目が行きがちで、良い部分があってもなかなか褒めるようなことをしないD院長でしたが、現在は良いところは素直に認められるようになったと思います。
セミナー後、「医院のスタッフ数が増えています。スタッフの育成やコミュニケーションが上手くいっている証拠だと思う」と嬉しそうに話してくれました。
D院長から見た変化と感想
それではD院長から頂いた感想を、ご紹介します。
■コミュニケーション不足など、自分自身気づきが得られた
セミナー内のワークを通じて共通体験を得ることで、院内に一体感が生まれました。
もともとはスタッフのためのセミナーだったはずでしたが、わたし自身、気づきが多々あり、成長することができたと思っています。
セミナーで得た経験や知識を患者さまに還元し、成果を出すことで、さらにスタッフが成長するという青写真を描いていたのですが、最も恩恵を受けたのが自分だったという、ある意味驚きの結果でした。
例えばセミナーの趣旨として「自己開示のハードルを下げる」という目的がありました。
これはスタッフがカウンセリングを行う際に、こちらからお話することで、患者さまの声が引き出しやすくなることに通じます。
しかし、それだけでなく、わたしや自院、あるいは同僚に対しての意見や想いも聞くことができ、いかに自分がスタッフとコミュニケーションを取っていなかったかに気づかされました。
■伝えたいことが、伝えられるようになった
また、コミュニケーション不足以前に、そもそもわたしには自分の考えをスタッフに上手く伝えられないという悩みもありました。
それに対し角先生は「話をするときは『WHY』から伝えましょう」と助言をくれました。
最初に「WHY」から話しはじめ、その後に「HOW」や「WHAT」が続く構成にすることで、語り手の想いや考えにストーリー性ができて、人の心を動かせるのだと教えてくださいました。
たしか、かのスティーブ・ジョブズもそのような話し方をすると聞いたことがあります。
それ以来、まず「WHY」を考えるクセがつき、スタッフとの会話時には、問いかけることを心がけるようになりました。
今では経営者としての自分の成長を肌で感じており、角先生にセミナーを依頼して本当に良かったと思っています。
今回のまとめ
上手くいっている他者と比較して「自分にもよいパートナーがいればこうならなかったのに」とか「うちも田舎じゃなったらあれができるのに」と思うことはまずしないことです。
そうなると自分自身や環境の長所に気づくことができません。となりの芝は青く見えるものです。
そもそもあなたの芝は青である必要すらないかもしれません。
もし、このような思考のクセがある方は、スタッフや患者さん、近所付き合いのある人など、お世話になっている人の名前を紙に書き出してみましょう。
そのうえで書き出した人たちに対して、「自分には何ができるか?」を考えてみることです。
これだけで前向きな思考になりますし、「具体的に何をすれば良いのか」もある程度思いつくはずです。
より戦略的な仕組みに落とし込みたいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
全4回に渡り、歯科医院の課題解決のために、実際にどのような施策を行ってきたのか実践事例を紹介してきました。
各施策の詳しい進め方は、私の著書「最強の歯科ミーティングバイブル」に記載していますので、興味のある方は手に取っていただけますと幸いです。
他にもご質問などあれば、どうぞお気軽にSNSで声をかけてください。この度は、私の記事をお読みいただき、ありがとうございました。
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「最強の歯科ミーティングバイブル」
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(デンタルダイヤモンド社)
角流!(KADO STYLE!)ここにあり。
歯科医院のチーム力を高めるステップアップワーク集。
8医院の実践事例を紹介。
「なぜ」をまず考えることが最も大切だ。
「なぜ」がわかっていないと何をしても迷い、損をする。
まずは「なぜ」を考えよう。
「なぜ」を理解したら、
「何をどのようにするか」を最適化して決めれば、
ミーティングはゲームになる。
8つのパートナー歯科医院から届いた現場の率直な感想。
そのとき何が起こったのか。
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株式会社clapping hands 代表取締役
歯科医師
歯学博士
2009年、東京歯科大学解剖学講座で歯学博士取得後、千葉県の大手医療法人海星会に就職。3年で副理事長に就任。社内ベンチャーとして訪問歯科や歯科医院の海外展開を支援する会社の立ち上げをリードする。
2017年、株式会社clapping hands を設立し、診療の傍らメーカーへのアドバイザーも務め2021年は142回の講演をおこなった。
学生時代よりプロレスラー(キム・ヨッチャン)としても活躍し、週刊プロレスの表紙掲載や著名人との対戦経験もある異色の経歴の持ち主でもある。