「歯科医院が閉院する理由を知りたい」「自院が閉院する場合の注意点を押さえたい」と考えている歯科医院の院長先生も多いのではないでしょうか。
歯科医院を経営するうえで、「閉院について全く考えたことがない」という院長先生は少数かもしれません。
そこで今回は、歯科医院の閉院数・傾向、閉院している主な3つの理由、閉院を避けるための具体的な対策を解説した後、実際に閉院する場合の手順や注意点について詳しく説明します。
歯科医院の閉院数・傾向
厚生労働省「医療施設調査」によると、歯科診療所(歯科医院)数は2018年の6万8,613施設から、2019年に6万8,500施設へと113施設(0.1%)減少しています。
内訳として、医療法人が1万4,327施設から1万4,762施設へ435施設(3.0%)増加した一方で、個人開業の歯科医院は5万3,682施設から5万3,133施設へと549施設(1.0%)減少しています。
帝国データバンクの調査によると、2021年に休廃業・解散した歯科医院は84件で、これは2016年以来、最多の数字です。
このように医療法人よりも個人開業の方が閉院する率が高く、近年、閉院する歯科医院は増加傾向にあります。
歯科医院が閉院している主な3つの理由
歯科医院が閉院する主な理由は以下の3つです。
・設備投資の負担への懸念
・慢性的な人手不足
1つずつ解説していきます。
歯科医院の閉院理由1.歯科院長の高齢化と後継者不足
帝国データバンクの調査によると、歯科医院の代表者の60歳以上の構成比は58.6%(60代38.5%・70代以上20.1%)という結果が出ています。
歯科以外の病院の代表者も82.0%が60歳以上ですが、病院の場合は後継者候補が存在するケースが多く、歯科医院は小規模かつ後継者がいないケースが目立ちます。
歯科医院は経営不振による倒産よりも、代表の高齢化と、後継者不足が主な要因といえるでしょう。
歯科医院の閉院理由2.設備投資の負担への懸念
新型コロナウイルスの影響による「設備投資負担への懸念」も閉院の理由に挙げられます。
コロナ禍に突入する以前は、比較的経営が安定している歯科医院が多かったのではないでしょうか。
しかし新型コロナウイルスの影響で患者離れが起きた歯科医院にとって、設備投資費への負担は大きいものです。
特に待合室が狭くて「三密」が避けられない場合、今後の社会情勢次第では、厳しい状況が繰り返されることも十分に予想できます。
開業年数が経っていれば、内装改修や機器入れ替えも負担となるでしょう。
歯科医院の閉院理由3.慢性的な人手不足
歯科医院が閉院する理由に「人材確保の難しさ」も挙げられます。
医療業界は慢性的な人手不足といわれています。
特に歯科衛生士は、20の歯科医院で1人の新卒を取り合う状況なので、事業継続に悩んだ時に「人手が足りないこと」が閉院理由の1つになるかもしれません。
自院のホームページやSNSも含めて、広く採用活動を行っている歯科医院は別としても、昔ながらの採用活動(紙媒体など)以外に募集を行っていなければ、欲しい人材を確保できない可能性は高いでしょう。
歯科医院が閉院を避けるための対策
歯科医院が閉院を避けるための対策として、「経営のターンアラウンド」と「別の歯科医院への事業継承」があります。
売上回復の見込みがある場合はターンアラウンドを考え、後継者がいない場合は事業継承を検討するとよいでしょう。
経営のターンアラウンド
歯科医院経営のターンアラウンド(立て直し)を図る方法です。
集客の見直しや固定費削減、オペレーション改善など、幅広い観点から経営状況の改善に取り組みましょう。
具体例として、新規患者の集客なら、自院ホームページの整理・更新による検索エンジン経由での集客強化(SEO)が効果的です。
リピート集客にはTwitterやInstagramなどのSNS強化も視野に入れましょう。
オフライン集客ツールであるチラシや、物品ポップのキャッチコピー改善も必要になるかもしれません。
別の歯科医院への事業承継
歯科医院の経営状態が悪くなければ、スムーズに引き取り先が見つかることがあります。
特に経営が安定しているにもかかわらず、代表者が高齢で引退したい場合、事業承継として雇用、設備、物件などを維持したまま、代表のポジションから身を引くという選択肢があるでしょう。
大企業に限らず、中小企業もM&Aが増えていますし、歯科医院も例外ではありません。
専門家に手続きを任せる方法もありますので、後継者がいない歯科医院はM&Aを検討してみてはどうでしょうか。
M&Aによってスムーズに別の歯科医院へ営業権が移行すれば、患者との信頼関係を失わずに済むというメリットもあります。
事業承継は閉院時の費用を抑えられるため、引退後の資金を確保しやすいという魅力もあります。
歯科医院を閉院する時の手順
歯科医院を閉院する際の具体的な流れは以下です。
・患者への通知
・物件・設備の整理
・役所への届出・各種手続き
それぞれステップごとに解説していきます。
歯科医院閉院の手順1.スタッフへのアナウンス
まずは歯科医院のスタッフに閉院する旨を伝えます。
労働基準法によって30日前の解雇予告、もしくは30日前に満たない場合は、足りない日数分の賃金の支払いが必要です。
他にも、就業規則で退職金規定を定めている場合は、退職金の支払いが必要になるでしょう。
退職金を巡るトラブルは多いので、慎重に対処しなければなりません。
退職に伴う離職票などの雇用保険手続きや、社会保険の手続きなども行います。
歯科医院閉院の手順2.患者への通知
次に治療中の患者に対して閉院の通知を行いましょう。
閉院後も継続的な治療が必要な場合は、他の歯科医院を紹介します。
新規の患者に対しては、閉院までに治療が終了する場合は受付を行い、難しい場合は治療中の患者同様、他の歯科医院を紹介するほうが無難です。
「患者カルテ」「レントゲンデータ」「エックス線装置等の測定結果記録」の保管義務についても確認しましょう。
歯科医院閉院の手順3.物件・設備の整理
物件・設備の整理として、テナント解約や医療機器のリース解約、医薬用品の処分などを行います。
テナント解約に関しては原状回復義務がありますし、土地を賃貸している場合は返還時に建物を取り壊さなければならない点に注意しましょう。
借入金があれば精算も必要です。
廃業するコストとして1,000万円以上かかるケースもあるので、事前に資金を見積っておきましょう。
廃業コストの捻出が厳しい場合は、前述した「経営のターンアラウンド」や「別の歯科医院への事業継承」を考える必要があるかもしれません。
歯科医院閉院の手順4.役所への届出・各種手続き
最後に役所への届出・各種手続きを行います。主な手続きに以下があります。
- 診療所廃止届
- 保険医療機関廃止届(保険医療機関の場合)
- 労働基準局に廃止届(生活保護法等による指定医療機関の場合)
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届(適用事業所に該当しなくなった場合)
- 歯科医師国民健康保険組合被保険者資格喪失届(歯科医師会を脱退する場合)
- 雇用保険適用事業所廃止届・労働保険確定保険料申告書
- 個人事業の廃業届出書または事業廃止届出書
このように閉院時の届出は多岐に渡りますので、専門家のサポートを受けながら進めるとよいでしょう。
歯科医院の閉院を検討する際に知っておきたい注意点
歯科医院の廃業には、設備・備品の処分、債務清算、登記関連などのコストがかかります。 前述したように廃業コストが1,000万円以上かかるケースもあるので注意が必要です。
特に経営状況の悪化によって閉院を考える場合は、コスト負担が重くのしかかります。
経営のターンアラウンドで改善できる可能性があれば、再考する必要があるかもしれません。
他にも、従業員が失業するリスク、患者がかかりつけ医を失うリスク、地域医療の喪失なども考慮しなければならないでしょう。
特に地域密着型の歯科医院は、患者が行き場を失う可能性があるので、事業承継など他の選択肢も含めて慎重に検討したいところです。
まとめ
2021年に閉院した歯科医院は84件と2016年以来で最多の数字となっています。
閉院する主な理由に「後継者不足」「設備投資の負担への懸念」「慢性的な人手不足」がありますが、実際に閉院する場合は1,000万円以上のコストがかかるため、慎重に検討しましょう。
経営改善の可能性があれば経営のターンアラウンド、後継者不足に悩んでいる場合は別な歯科医院への事業承継も考えてみてはいかがでしょうか。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。