CAD/CAMシステムは、近年歯科治療で活用が進んでいる技術の一つです。
治療の幅が広がる・診療の効率化・コスト削減など多くのメリットがあるため、今後も普及が見込まれています。
そこで今回は、歯科医療におけるCAD/CAMの現状やメリット・デメリット、応用事例などを紹介します。
歯科治療で普及が進むCAD/CAMとは?
CAD(キャド)とは、コンピュータ上で図面を作成するための設計支援ソフトウェアのことです。
一方、CAM(キャム)とは、コンピュータ上で工作機械の加工プログラム(NCデータ)を作成するソフトウェアを指します。
CADで設計した形状データをもとに、ツールパス(加工に使用する工具種類、具体的な切削工程など)のデータをCAMで生成し、工作機械が自動で加工します。
このシステムは歯科治療でも普及が進んでおり、補綴物を製作するといった活用事例も増えているのです。
歯科用CAD/CAMシステムの構成
歯科用CAD/CAMシステムによる技工物の設計・製作の流れは以下の通りです。
- 口腔内スキャナーで患者さまの歯牙及び口腔組織データを取得
- CADソフトウェア上で技工物の形状・適合などの設計を行う
- CADの設計データをもとにCAMソフトウェアで技工物の加工データを生成
- CAMの加工データをもとに加工機(ミリングマシン)で技工物を製作
一連の工程をコンピュータ上および自動で切削を行うミリングマシンで行うことで、よりスムーズに製作を進められます。
また、データをオンラインでやり取りできるため、離れた拠点同士で作業連携しやすいのもメリットです。
歯科治療でCAD/CAMが注目されている理由
歯科用CAM/CADがなぜ注目を集めているのか、その理由をまとめました。
素材やテクノロジーの発展による精度向上
ジルコニア・チタンといった素材の登場、光学印象の普及、ソフトウェアやミリングマシン(切削加工機)の機能向上などによって、歯科技工におけるCAD/CAMの存在感は増しています。
歯科用CAD/CAMシステム自体は20年以上前から活用されていますが、症状や治療方法によっては補綴物の強度が足りなかったり、対応できる歯数に限界が生じたりするなど、治療上の問題を抱えていました。
しかし、材質やテクノロジーが発展するにつれ、より高品質かつ幅広い歯科治療を提供できるようになったのです。
実際、補綴物の適合精度を見てみても、近年は一般的な歯科技工士が作るものと比べて引けをとらない水準にまで上がってきているといわれています。
また、設計・製作に関する情報を電子データで保存・蓄積でき、各所での共有・連携がしやすいのもポイントです。
CAD/CAM冠の保険適用の拡大
ニーズの高まりや歯科治療におけるメリットの多さから、ハイブリッドレジンを用いて製作する「CAD/CAM冠」は2014年4月から保険適用となりました。
2020年4月から前歯や大臼歯にも適用範囲が拡大し、さらに2022年4月からCAD/CAMインレーも保険に収載されています。
これによりCAD/CAM冠を、ほぼすべての歯に対して保険内で提供できるようになりました。
大臼歯にまで適用が拡大されたことで普及はさらに加速し、2018年9月までにCAD/CAM冠の施設基準届出が受理された歯科診療所は49,465軒と全体の70%を超えています。
保険のCAD/CAM冠のメリット・デメリット
保険適用のCAD/CAM冠には、下記のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 白く美しい歯を安価で実現できる⇒保険適用の場合、患者負担は6,000円前後とセラミックに比べて費用負担が少ない
- 銀歯と違って金属素材は使わないため、金属アレルギーが起こる可能性も低い
- 天然歯に近い適度な硬さなので、噛み合う歯を傷める可能性が低い
【デメリット】
- 表面が劣化しやすく、装着してから時間が経つと変色する
- 使用するブロックによっては、色調が単色で色調の再現性に劣る
- 銀歯やセラミックより強度が低いため、摩耗や破折が起こりやすい
- 銀歯と比較して、形成量(歯を削る量)が多い
歯科治療へのCAD/CAM導入のメリット
歯科治療にCAD/CAMを導入すれば、下記のメリットを得ることができます。
診療プロセスの効率化
歯科用CAD/CAMシステムの光学印象によって、従来の印象材を使った印象採得における手間を軽減でき、スタッフの負担やチェアタイムを抑えられます。
また、技工所とのやり取りは電子データの送受信だけで済むため、技工製作期間の短縮化につながることもメリットです。
この結果、全体の診療プロセスがよりスムーズに進められるため、業務効率化を実現できます。
院内に技工設備や歯科技工士を有していない歯科医院でも、ミリングマシンを導入すれば、当日のうちに技工物を製作してセットすることも可能です。
患者満足度の向上
印象材による型取りに抵抗感を持つ患者さまは多いもの。
その点、CAD/CAMシステムにおける光学印象は不快感が少なく、チェアタイムも短くなるため、結果として患者さまの治療時の身体的・精神的負担も軽減できるのです。
さらに、自院にミリングマシンを導入することで、院内技工によるワンデイトリートメントを提供できるようになります。
患者さまが来院されたその日のうちに治療を終えられるので、満足度の向上にもつながるでしょう。
また、審美性や健康面への影響からメタルフリーのニーズが高まっている現状から、コストを抑えた白い歯による治療を提案しやすくなるのもメリットです。
コスト削減
一般的にCAD/CAM技工は、ハンドメイド技工と比べて技工料が安く済みます。
治療内容によっても変動しますが、CAD/CAM技工なら最終的に10万円以上のコスト削減もできるのです。
院内技工に対応するなら、さらに収益率を上げることも可能でしょう。
また、口腔内スキャナーやミリングマシンを導入する場合、行政による各種支援制度(ものづくり補助金など)を活用できるケースもあります。
CAD/CAMを導入するなら、国や自治体のホームページなどをチェックしておきましょう。
技工士不足問題の解決
近年、歯科業界は人手不足が続いていますが、特に歯科技工士はかなり深刻であり、新卒の有効求人倍率は10倍以上ともいわれています。
給与・待遇・勤務形態への不満などから離職率が高くなっていることに加えて、若手の志望者も少ないため、現役で働いている歯科技工士の半数近くが50歳以上と高齢化が進んでいるのです。
技工作業を効率化できるCAD/CAMの普及により、歯科技工士の働き方や教育方針が変わって、技工士不足問題の解決にもつながることが期待されています。
CAD/CAMのデメリットと課題
歯科用CAD/CAMシステムの精度は向上しているため、歯科技工士ごとのバラつきをなくして、一定のクオリティを確保できるのもメリットです。
しかし、ハンドメイド技工と比べて、柔軟性に欠けるというデメリットがあることも事実です。
実際、適切な支台歯形成やマージン・色調の微調整など、歯科医師・歯科技工士自身が手を入れなければならない部分もまだまだ存在します。
そのため、CAD/CAMの普及が進んでいる今こそ、歯科技工士としての経験やノウハウが必要不可欠といっても過言ではありません。
当面は現場での熟達した手技とCAD/CAMのテクノロジーを融合させて、技工物の製作に取り組むことが重要といえるでしょう。
歯科治療におけるCAD/CAMの応用
歯科治療におけるCAD/CAMの応用事例も紹介します。
クラウンやブリッジなどの補綴物
CAD/CAMの補綴物に利用される素材は、大きく分けると以下の3種類です。
- 金属系(チタン、コバルトなど)
- セラミック系(ガラスセラミックス、ジルコニアなど)
- 樹脂系(ハイブリッドレジン、エンジニアリングプラスチックなど)
歯科用CAD/CAMシステムを使えば、従来は加工が難しかった素材も活用できるので、治療の幅がさらに広がります。
患者さまの状態やニーズに応じて使い分けることで、より安全かつ的確な治療ができるので、満足度や収益のさらなる向上も見込めるでしょう。
また、近年は金パラの価格が高騰しているうえ、脱貴金属の考え方が世界的に広まっているので、その対策としてもCAD/CAMのニーズは高まっています。
インプラント
高精度な設計・製造を実現するCAD/CAM技術は、インプラント治療の分野でも活用されています。
- CT撮影のデータをコンピュータ上で3次元シミュレーション
- 治療計画に基づいてサージカルガイドを製作
- データをもとにCAD/CAMでアバットメント・上部構造を製作
このような一連の流れを患者さまの状態や症状に合わせて細かく対応できるため、より精度の高い治療を体系的に行うことが可能です。
高精度の技工物は組織に馴染みやすく、脱落や感染症の軽減にもつながるため、安定した予後が期待できます。
矯正
インビザラインをはじめとするマウスピース矯正治療でも、歯科用CAD/CAMシステムが活用されています。
口腔内スキャナーで取得したデータから治療計画をシミュレーションしてマウスピース型矯正装置を作成するこの方法は、マルチブラケットが主流であった矯正治療の分野にパラダイムシフトを起こしたといえます。
マウスピース矯正は透明で目立たない、装置の取り外しができるなど患者さまに多くのメリットがある点が注目されています。
マルチブラケットのように手作業による調整が不要でチェアタイムを短くできるなど診療の効率化にも寄与します。
また最近では、CAD/CAMで患者さまごとに歯により適したカスタムメイドのリンガルブラケット装置を製作する技術も登場しています。
義歯
義歯のクオリティは、歯科技工士の技量に依存するところが大きいといわれています。
特にパーシャルデンチャーは構成要素が多いため、これまでCAD/CAMの応用はあまり進んでいませんでした。
しかし、最近は設計やフレームワークにCAD/CAMを活用することで、精度や生産性に役立てられるようになっています。
また、3Dプリンターによるフルデンチャーを製作できる樹脂なども登場し、今後もさらなる普及・発展が見込まれる分野です。
まとめ
歯科治療は安全かつ的確なアプローチが求められるため、高精度の技工物を製作できるCAD/CAMは非常に有用です。
診療プロセスの効率化や患者さまの満足度向上、コスト削減など得られるメリットも多いので、導入価値は高いといえます。
また、CAD/CAM冠の保険適用も以前より拡大しているため、そのニーズを満たせるという点も踏まえて、ぜひ検討してみてください。
【おすすめセミナー】
・【無料】たった4カ月で歯科衛生士276名の応募獲得! 歯科衛生士・歯科助手採用セミナー
・【無料】月15人の義歯の新患が来院! 義歯集患セミナー
・【無料】矯正治療が得意な先生に贈る マウスピース矯正集患セミナー
歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。