歯科治療に必須_ハンドピースの基礎知識

歯科の基本的な治療器具の一つがハンドピース。

治療する歯や義歯などを切削する際には欠かせないものです。

どれもよく似た外見を持ちますが、いくつかの種類があり、用途に応じて使い分けられています。

今回はハンドピースの種類やお手入れ方法、主要メーカーなどを紹介します。

また、たびたび取り沙汰されるハンドピースの汚染問題についても解説いたします。

歯科治療に欠かせないハンドピースの種類

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(画像=pixta)

ハンドピースは、大きく分けて「タービン」と「コントラ」の2種類があります。

それぞれが異なる機能・構造を持ち、用途も異なります。

まずは、各種類の特徴について改めて確認しましょう。

エアータービン

天然歯や技工物を切削する際に使用するのがエアータービンです。

コンプレッサーからの圧縮空気を利用して、ヘッド部分のローター(回転羽根)を高速回転させます。

回転数は1分間に30万~50万回。摩擦熱を弱め、目詰まりを防ぐために注水しながら使用します。

高速回転で効率良く切削できる反面、トルクが弱く、切削面に強い圧をかけると回転が止まってしまうのがデメリット。

そのため、フェザータッチ(軽い圧)での使用が推奨されています。

等速コントラアングル

エアータービンに並ぶスタンダードなハンドピースが、マイクロモーター(歯科用電気エンジン)で回転する等速コントラアングル(コントラ)です。

歯髄付近の象牙質除去、仕上げの研磨、根管形成などに使われます。

回転数は1分間に100〜4万回とタービンよりも遅いものの、低回転でも十分なトルクが得られるのが特徴です。

そのため、慎重な切削が必要な歯髄付近には、コントラが適しているとされます。

5倍速コントラアングル

前述のタービンには、トルクの弱さや切削時の振動、回転軸のブレといった欠点があります。

また、使用時に発生する「キーン」という高周波音を嫌う患者さまも少なくありません。

さらに昨今では、タービン使用時に唾液や切削片などが霧状になって飛び散る「エアロゾル」の発生も、院内感染のリスクとして挙げられています。

これらの欠点を補う存在として登場したのが、回転速度を1分間あたり20万回まで高めた5倍速コントラアングルです。

タービンと同じバーやポイントを使えますが、振動や削る際のブレが少ないのがメリット。

マイクロモーターで動くため、ある程度の圧をかけながらの切削も可能です。

また、特有の高周波音も出ないので、患者さまへの負担も軽減できます。

ストレート

技工物の切削・研磨や、インレーなど補綴物の研磨でよく使われるのがストレートです。

等速コントラアングルと同じく、マイクロモーターで回転します。

カーバイドバーや研磨用バフなど、比較的大きめのバーを装着して使用します。

プロフィーコントラアングル

PMTC(歯面清掃・歯石除去)用のコントラは、プロフィーコントラアングルと呼ばれています。

術野を確保するためにヘッドが小さく設計されており、回転数が低いものが一般的です。

PMTC向けの専用チップなどを装着して使用します。

ハンドピース、患者さまごとに滅菌・交換していますか?

使用後のハンドピースは、唾液や血液を媒介する感染症のリスクをおさえるために患者さまごとに滅菌・交換する必要があるとされています。

万が一、B型肝炎ウイルス(HBV)やエイズ(HIV)などに罹患していることを告げないまま受診する人がいると、院内感染が起こるリスクがあるためです。

実際に、アメリカでは過去に歯科医院でHIVの院内感染が起きた事例があります。

この事件を受けて、アメリカでは治療器具の洗浄・滅菌が法律的に義務付けられました。

一方、日本ではハンドピースなどの滅菌・交換に関する法的義務はありません。

2017年の調査では、「ハンドピースを患者さまごとに交換している」と回答した歯科医院は50%程度に留まっています。

学会や専門家から指針が提示されているものの、全ての医院が実施しているとは言いがたい状況です。

日本でハンドピースの滅菌問題が改善しない理由

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(画像=pixta)

日本の歯科医院で、ハンドピースのこまめな滅菌がなかなか実現しない大きな理由としては、コストと手間の問題が挙げられます。

歯科医院の平均来院者数は1時間あたり約3名、1日あたり25人です。

1回の治療でハンドピースを3本使うと仮定すると、30~40本ほどの替えが必要になります。

ハンドピースは1本10万円程度と高価な上、数年で修理・買い替えが必要な消耗品なので、大きな費用を割かなければなりません。

また一般的には、ハンドピースを洗浄し、オートクレーブで滅菌するまでには1時間弱かかります。

場合によっては、消毒・滅菌作業のための人手を増やす必要があるでしょう。

以上の理由から、治療器具の滅菌を徹底できない歯科医院も少なくないと考えられます。

サックバック防止機能の有用性は?

高速回転するハンドピースは、運転を止めると内部が陰圧になります。

この際、タービンの注水口などから、口腔内の唾液や血液が内部に逆流する現象を「サックバック(逆流)」と呼びます。

このサックバックもまた、院内感染のリスクとして指摘されている問題です。

近年、主要メーカーが販売する製品の多くはサックバック防止機構を搭載していますが、「感染防止効果は絶対的なものでない」との指摘もあります。

院内感染防止を徹底するなら、サックバック防止機能の有無に関わらず、患者さまごとにハンドピースを滅菌・交換することが望ましいと言えるでしょう。

2018年からは、ハンドピースを患者さまごとに交換している歯科医院に対し、初診料・再診料の保険点数が3点加算される改定も行われました(要届出)。

衛生管理への取り組みを後押しする制度は、積極的に活用したいところです。

ハンドピースの滅菌・メンテナンスのポイント

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(画像=pixta)

ハンドピースの故障や不具合、また院内感染を防ぐためにも、適切な手入れは不可欠です。

基本的なお手入れのポイントをおさえておきましょう。

使用後は表面の汚れを洗い落とす

使用後のハンドピースは、滅菌の前にまず表面の汚れを洗い落とします。

治療の際に付着した血液やタンパク汚れを除去せずにオートクレーブにかけると、滅菌しきれない恐れがあるためです。

また、時間が経つと血液が凝固したり、サビの原因になったりすることがあるので、使用後は速やかに洗浄しましょう。

ハンドピースは取り外し後、流水下で洗浄し、消毒するのが一般的です。

詳しい洗浄方法や、超音波洗浄機の使用可否などは、メーカーによって異なるので注意してください。

トラブルを防ぐために重要な注油

ハンドピースの洗浄・消毒が終わったら、注油に移ります。

トラブルの原因となる部品の摩耗や汚れが付くことを防ぐためにも、注油は重要です。

基本的に、ハンドピースの注油は、専用スプレーをノズルや後側部分から差し込んで行います。

詳しい方法は各メーカーの指示に従ってください。

また、注油後は機械内部のトラブルを避けるために、余分なオイルを抜いておくことも大切です。

マルチスタンドにハンドピースを立てて置いたり、数十秒間の空運転をしたりして余分なオイルを抜き、ハンドピース表面のオイルも拭き取っておきましょう。

注油には手間がかかるため、各メーカーが販売する自動注油装置を使って作業時間を短縮するのもおすすめです。

クラスS以上の滅菌機を使用

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(画像=pixta)

欧州規格では、滅菌機(オートクレーブ)は滅菌力に応じてN、S、Bの3クラスに分類されています。

また、それぞれのクラスで、対象となる治療器具も明確に定められています。

中空負荷製品であるハンドピースの滅菌に望ましいとされているのは、最低でもクラスS、理想は最高のクラスB。

徹底した滅菌を行うためにも、滅菌機はクラスS以上を使用しましょう。

また、一般的なオートクレーブには「滅菌を終えるまでに時間がかかりすぎる」というデメリットがあります。

診療時間内に小まめな滅菌を行いたい場合は、運転時間が短い小型の高速滅菌機を使うのも一つの方法です。

できるだけ手間や時間を割きたくない場合には、洗浄、注油から滅菌までワンストップで行える「DACユニバーサル」のような製品の導入もおすすめです。

不具合が生じたら修理・交換を

ハンドピースの法定耐用年数は7年ですが、実際には2~3年で不具合が出ることも多いので注意が必要です。

発熱や芯ブレ、異音などの異常に気付いたら、メーカーに問い合わせて速やかに修理・交換を行いましょう。

ハンドピース内部の部品は消耗するため、メンテナンスの際に交換が必要なことも少なくありません。

自分でパーツを交換できる製品もあるため、使用説明書を確認しておきましょう。

なお、「頻繁な滅菌はハンドピースの寿命を縮める」という説もありますが、明確な根拠はありません。

各メーカーでは、オートクレーブの使用を前提とした十分な耐久性テストを行っています。

ハンドピースを長く使うために大切なのは、説明書に忠実な使用方法やメンテナンスを実践することです。

ハンドピースの主要メーカー

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(画像=pixta)

最後に、ハンドピースの主要メーカーそれぞれの特徴や製品を見ていきましょう。

KaVo

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(画像=KaVo)

ドイツの老舗メーカー・KaVoからは、「マスター」「エキスパート」という2つのシリーズでタービンを製造しています。

芯ブレが少ないため操作性が高く、患者さまに負担をかけにくい静音設計なのも特徴です。

上位機種の「マスタートルク LUX M9000L/マスタートルクミニ LUX M8700L」は、滅菌耐久性にも優れています。

https://www.kavo.co.jp/product/kavoproduct/hand_piece

ナカニシ

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(画像=ナカニシ)

歯科のみならず外科向けの医療器具なども手がけるナカニシは、戦前から続く日本の代表的メーカー。

超高速回転技術に特に力を入れており、革新的な製品を発表しています。

代表的なのは、ベストセラーとなったタービン「S-Max M」。小型でも十分なパワーを発揮する「S-Max M micro」など、ミニサイズのラインナップも豊富です。

https://www.japan.nsk-dental.com/products/

ヨシダ

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(画像=ヨシダ)

現存する中では日本で最も古い歯科機械メーカーがヨシダです。

ハンドピースからユニット、画像診断機器、レーザー機器などを手がけています。

安定性、パワー、静音など、タービンに求められる要素を高いレベルでクリア。

また、軽量・低コストにこだわった「EXタービン」など、幅広いニーズに応えたラインアップも魅力です。

https://service.yoshida-dental.co.jp/ca/series?category=16

オサダ

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(画像=オサダ)

オサダも日本の老舗メーカーです。

歯科をはじめ、動物用医療機器や衣料用機械器具まで幅広く製造しています。

ハンドピースは軽さや持ちやすい形状にこだわり、音の静かさとパワーを両立した高性能なラインアップです。

https://www.osada-electric.co.jp/dental/products/instrument/index.html

まとめ

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(画像=pixta)

患者さまに直接触れる治療器具であるハンドピースは、徹底した消毒・滅菌とメンテナンスが欠かせません。

コストが気になる人には、ハンドピース用の高速滅菌機や、ワンストップで洗浄・注油・滅菌が叶う専用機器といった設備導入もおすすめです。

本記事で紹介した内容を参考に、安全で安定的な治療が提供できるよう、ハンドピースをきちんと管理しましょう。

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あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。