歯科医院からの相談内容
売り上げが3億円あり、イベントもやればスタッフは楽しそう。
でも、スタッフはとにかくギクシャクしているんです。
今日も朝からスタッフ同士のもめごとの仲裁に入っていました。
外向きにはとても良い歯科医院に見えていると思いますし、スタッフ全員が患者さんに対しても、外の人に対しても良い接し方ができるのですが、どうしてもスタッフ同士の仲が悪いです。
どうやら、新人が離職してしまうのは「ランチ時間のスタッフの雰囲気の悪さ」が原因ではないかと、先日受付スタッフから指摘をされてしまいました。
どうしたら良いでしょうか。
実際に訪問してみて感じたこと
実際に伺うと、郊外にある歯科医院の外観は、写真を取ればずらりとスタッフが並んで豪華な印象です。
でも、写真をよく見てみると、写真に写るスタッフの顔が3年連続で半分近く変わります。
要するに、「歯科衛生士は面談に来るけれど定着しない」医院ということです。
電話でもzoomでも状況がよくわかりませんでしたので、歯科医院環境診断のコースをご依頼いただきました。(3時間15万+消費税+旅費)
実際に訪問すると雰囲気もよく、院長の話を聞いても、あまり実感が湧きませんでした。
その雰囲気が変化したのはお昼休みの時間です。
本来であれば全員で使うはずの休憩室の机を、バラバラの位置で既存メンバーが占領するかのように座っていました。
気にしなければ気にならない程度かもしれませんが、あきらかに小さいグループがいくつかできています。
- 歯科衛生士のグループが3つ
- 歯科衛生士新人がぽつんと2か所でランチ
- 歯科助手が2名のみ
- 受付が3名のみで部屋の隅っこ
その様子を観察していると、以下のような問題が見えてきました。
- 新人歯科衛生士2人が輪の中に入れていないこと。
- チーフを含む歯科衛生士チームと歯科助手チームに会話がないこと。
- 本院のチーフと分院で交流がないこと。
これらが合わさり、「お互いに仲間意識がない」というチーム医療での大きな問題に繋がっていると感じました。
歯科医院急成長と優秀なチーフの退職によるほころび
この歯科医院の場合、ユニット5台から始まり、現在では総ユニット数18台にまで成長しました。
スタッフの人数も、当初7名でスタートしましたが、現在は総勢50名の組織です。
「20人を超える」「分院をつくる」ようになるとスタッフ同士でも、ほぼ顔を合わせないスタッフが出てきて、組織の一体感は薄れてきます。
売上視点では支障がなさそうでも、組織視点では偏った人間関係やスタッフ同士のコミュニケーション不足で信頼関係が構築できないという危険も生まれます。
院内では、常に誰でも情報共有ができるよう院内コミュニケーションを積極的に取る必要があります。
チーフは開業時から勤務している優秀な人でした。
院長の口癖が【チーフのおかげで組織がなんとかなっている・もっている】でした。
それが壊れたのはチーフが結婚退職した後です。
1年もたたないうちに、組織の雰囲気が混乱し、退職者も出るようになりました。
一番の問題は、院内教育の仕組みがないこと。
そして、「人が揉めてから仲裁に院長とチーフが入る」という昔ながらの対応をずっと繰り返してきたこと、です。
それに慣れてしまっていたので、愚痴を言いやすい環境が整っていたことでした。
こうしたことから、
“研修内容 「グループとチームの違い」 ダントツの結果が出るチームづくり~医療コミュニケーション~”
というテーマで院内研修を行いました。その後は組織づくりで14か月お伺いしました。
M’smodel 【糸(タテヨコナナメ)Communication】
縦のつながりと改善方法
チーフと肩書のないスタッフでは、立場や役割が違います。
この上下のコミュニケーションを活性化させるためには、「明確な組織図」と「上下の関係性を大切にする仕組み」が重要なので、この二つを同時に作成しました。
上下関係のコミュニケーションを整える際、先輩が後輩育成を行う際のメンター制度やチューター制度は効果的です。
このタイミングで「役割上では上下関係がある」ということを明確にしておきます。
いくら口頭で「若くても先に入職したら先輩なので尊重するように」と伝えても、たいていは伝わりません。
上下関係で特に大事にしているのは、指示と報告の関係です。
仕事の指示を上司からうけた場合は必ずその指示をうけた上司へ報告をするということをこころがけさせます。
挨拶は、必ず新人が一番最初にするよう心掛けさせます。
そんな些細な事ですが上下関係では譲れない事です。
メンターは、生活面や人間関係などプライベートな悩みも含む幅広い範囲での相談役や指導役になる。
チューターは、医療機関での業務に限定してアドバイスを行う役になる。
こうした役割分担をすることで、メンターは支援するメンティーと強い信頼関係を築けるというメリットがありますが、歯科医療機関ではメンターに相応しい人が必ずしもいるとは限りません。
一方、先に入職して仕事関係の相談に乗れる人は多くいるため、そのような人材はチューターに最適なのです。
最近はメンター制度の導入も増えていますが、エムズがチューター制度を薦めるのには上記のような理由があるのです。
横のつながりと改善方法
下記のような問題ある歯科医院では、組織全体のコミュニケーションが取れません。
- 院内の歯科衛生士同士がギクシャクしている
- 各自が自分の仕事だけに専念していてチームになりにくい
- 仲良し関係は小さいグループだけで成り立っている
<改善>
今回、依頼をしてきた歯科医院は、上記の問題を抱えた医院だったため、組織全体のコミュニケーションをはかるため、社内SNSを立ち上げて活用しました。
日々スタッフ同士が臨床業務に忙殺され、なかなかお互いを理解しあえる時間もない事を解消するため、顔を合わせてランチ会なども開催するようにしました。
インスタグラムなども活用し、スタッフの活動や雰囲気の良さを外部に発信するようにもしました。
それにより、写真にテーマをつけたりハッシュタグを相談したりと一丸となる雰囲気もどんどん成長していきました。
仲良しグループではなく、チームであることを理解できるきっかけもたくさん創造しました。
ナナメのつながりと改善方法
人間関係のぎくしゃくは以下のような場合に起きがちです。
こういったケースが起きることを院長は理解しておきましょう。
- 歯科衛生士と歯科助手など職種が違う事で、立場や正義が異なる
- 同じ入職だけど本院勤務と分院勤務など、勤務場所が違う(顔を合わせる機会が少なくなかなか関係構築やコミュニケーションがうまくいかない)
歯科助手が歯科衛生士を辞めさせてしまう事例
この歯科医院は、「歯科助手 VS 歯科衛生士」の対立関係になっているチームでした。
<改善>
歯科助手が新人歯科衛生士に対して影で、「学校卒業しているだけで、何もできないんだね」「歯科衛生士なのに、そんなことも知らないんですか?」と頻繁に声かけていました。
この関係性も合同研修を繰り返す事で修正しました。
- 同期やリーダーなど垣根を超えてあつまるミーティングを整備し、今までほとんど話をする機会がなかった関係者が協力して色々な取組みをはじめました。
「リーダーミーティング」、新人による「後輩育成のための新人教育の整備」など。
プロジェクトや何か目標を共有して関わると、コミュニケーションも自分の事として会話するので質も高くなりました。
- 組織の福利厚生として、イベントも企画するようになりました。
理事長が趣味のスポーツ系のスポンサーにもなりましたので、特に今までギクシャクしやすかった若手や独身メンバーが親しくなり、雰囲気もよくなりました。
最近では、地域のボランティア活動にも一緒に参加するスタッフも増え、組織全体も急成長しています。
まとめ
医療機関では上下関係は組織図で解消・横の関係は院内研修で解消・無視されがちなナナメの関係・ナナメのコミュニケーションはSNSや定期的な顔と顔を合わせる機会を創造。
特にナナメは巨大円満組織を意識するならば、影響はとても大きいです。
その後の様子
はじめてお伺いした時のランチの様子は、もうありません。
全員が仕事を終えた順に昼食にはいり終わった人から午後の準備に入る、ランチ時間に後から戻ってきた人に「おつかれさま」という一言があるなど、非常に良い雰囲気となりました。
上下関係ではチューター制度を整備し、先に入職の若手が新人を教えて、その指導をチーフが監修するというダブルチェックで成長支援が完成しています。
定着に関しては、組織が軌道にのりはじめて3年経過していますが、新卒と中途採用を含め入職者7名が誰も辞めていません。
関係者にヒアリングをすると、歯科医院で働き続ける仲間が良い、手ごたえを感じるが原因だそうです。
人間関係のもめごとの仲裁に入るという行為は、対処療法になりやすいのでご注意を。
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有限会社エイチ・エムズコレクション 代表取締役
歯科衛生士
福祉用具選定員
歯科MG戦略インストラクター
全米NLP協会公認トレーナー
歯科メディカルサポートコーチングトレーナー
1991年に日本大学歯学部附属歯科衛生学校を卒業。 卒業後、財団法人日本歯科研究研修協会に入職。歯科衛生士教育機関を育成するトレーナーとしての教育と研修を受けながら臨床に携わる。
その後女性の起業への理解がまだ少なかった1994年に「歯科業界の中で、疾患を持たない患者が歯科医院に来院し続ける仕組みを作りたい」との思いから、エイチ・エムズコレクションを起業。
歯科医院に対して20年にわたる人材コンサルティングの実績を持ち、歯科医療スタッフ分野における人材育成の先駆者として活躍。スタッフが思い通りに成長しなかったとしても「数年後には変わるかもしれない」と決して諦めず、人材育成に尽力している。