歯科医師にとって身近な保険の一つが「歯科医師国保」ではないでしょうか。
現在、歯科医師国保に加入されている方も多いでしょう。
しかし、保険は他にもあるため、歯科医院(歯科診療所)を運営するうえで、どの健康保険制度を選択するべきか、悩まれる方は多いと思います。
本記事では、他の保険制度も紹介した上で、「歯科医師国保」のメリット・デメリットを解説します。
歯科医師国保とは
「歯科医師国保」とは、歯科医院で働く人々とその家族が加入できる医療保険制度のことです。
歯科医師だけでなく、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付など、同じ職場で働く従業員も加入できます。
歯科医師国保を運営管理する組合は全国に複数あり、地域によって加入できる組合が異なることが特徴です。
複数ある組合の中でも、最も大きな組合が「全国歯科医師国民健康保険組合」であり、20府県の支部で構成されています。
全国歯科医師国民健康保険組合の公式ホームページによれば、被保険者数が64,000人強・予算規模が230億円超(令和3年11月時点)の大規模組合です。
歯科医師国保以外の健康保険制度
本章では、歯科医師国保以外の健康保険制度のなかから、「健康保険(社会保険)」と「国民健康保険」について解説します。
健康保険(社会保険)
「健康保険(社会保険)」とは、会社員や公務員などが一般的に加入する医療保険制度です。
「健保組合」「協会けんぽ」「共済組合」と、主に3つの運営組合があります。
【医療保険制度の種類と主な加入者】
種類 | 主な加入者 |
---|---|
健保組合 | 大企業(グループ企業)に属する正社員・非正規社員とその家族 |
協会けんぽ | 中小企業に属する正社員・非正規社員とその家族 |
共済組合 | 公務員や私立学校の教職員とその家族 |
健康保険(社会保険)では、標準報酬月額(4月~6月の平均所得)によって保険料が異なり、所得が高くなるほど、保険料が上がります。
また、保険料の半額を勤務先の事業者が負担する「労使折半」であることも、健康保険(社会保険)の特徴です。
被保険者には、加入者と生計を同一とする配偶者や子ども・親を扶養家族に入れることができ、加入者の人数で保険料が変わることはありません。
国民健康保険
「国民健康保険」とは、75歳未満のすべての人に加入義務がある医療保険制度です。
ただし、勤務先の健康保険(社会保険)や公務員の共済制度に加入している方、生活保護の受給者は除外されます。
また、国民健康保険は、都道府県が市区町村と共同運営しているため、自治体によって保険料が異なります。
主な加入者は、自営業やフリーランス、農業・漁業従事者、パート・アルバイトなど勤務先の医療保険に加入していない方や、長期間在留する外国人などです。
保険料は住民票の世帯単位であり、加入者数や年齢、前年度の所得をもとに計算される他、被扶養者という概念がないため、加入者が多いほど、保険料が上がります。
歯科医師国保のメリット
本章では、歯科医師国保のメリットである、下記の2つを解説します。
- 収入にかかわらず保険料が一律
- 福利厚生が充実している
収入にかかわらず保険料が一律
歯科医師国保は、健康保険(社会保険)や国民健康保険と異なり、所得にかかわらず保険料が一律であり、加入する組合によって保険料や制度が異なります。
所得によっては他の医療保険制度より保険料が安くなる点は、歯科医師国保の大きなメリットだと言えるでしょう。
ただし、院長や一部被保険者を除くなど、条件によって保険料が異なるため、ご自身の条件をもとに保険料を算出し、他の医療保険制度と比較検討してください。
福利厚生が充実している
組合ごとに、被保険者のための「保健事業」と呼ばれる福利厚生が用意されており、歯科医師国保のメリットだと言えます。
健康増進を促す福利厚生が主であり、一例として、「健康診断」「予防接種」「人間ドッグ」などです。
その他にも、優待や割引など、組合独自の福利厚生が用意されている場合があります。
歯科医師国保では、国民健康保険と同様に、「医療費の一部負担」「各種健診」がある他、「高額療養費の一部払い戻し」「出産一時金の支給」など、保証内容が充実している点も特徴です。
歯科医師国保のデメリット
本章では、歯科医師国保のデメリットである、下記の2つを解説します。
- 扶養という概念がない
- 4人までしか加入できない
扶養という概念がない
歯科医師国保には、健康保険(社会保険)にある、被扶養者の概念がありません。
被扶養者がいる場合、世帯に属する加入者数分の保険料が必要です。
被扶養者がいる世帯を持つ歯科医師(世帯主)の勤務先が健康保険(社会保険)に加入していた場合、転職先の歯科医院が歯科医師国保に加入していると、保険料の負担が増す可能性があります。
そのため、場合によっては、採用に影響を及ぼす可能性があるなど、デメリットもあることを理解しておきましょう。
4人までしか加入できない
歯科医師国保は、事業所ごとに、従業員数が常時4名未満の歯科医院しか加入できません。
そのため、従業員数が常時5名以上になる場合、健康保険(社会保険)に加入する必要があります。
ただし、例外もあり、従来から組合に加入していた歯科医院が新たに法人認可を受けた場合か、新たに常勤の従業員数が5名以上になった場合、健康保険(社会保険)の適用を除外することが可能です。
健康保険(社会保険)の適用を除外する場合、歯科医師国保を適用するため、日本年金機構の「健康保険適用除外承認」手続きを行い、認可を受ければ、厚生年金を適用しながら、継続して組合に加入できます。
勤務先を受診する際は保険が適用されない
医療保険制度では、医療機関で治療を受ける場合、被保険者の窓口負担金は、組合によって、3割または2割が通常です。
しかし、自身が勤務する歯科医院で治療を受ける場合は例外となり、保険請求することができません。
保険請求を適用するには、勤務先以外の歯科医院で治療しなければいけない、デメリットがあることを理解しておきましょう。
従業員が保険料を全額自己負担しなければいけない
歯科医師国保では、健康保険(社会保険)と違って、歯科医院に労使折半の義務がありません。
歯科医院の負担は減りますが、従業員にとってはネガティブ要素になる可能性があるため、採用に影響する場合もあるでしょう。
なぜなら、保険料が「全額個人負担」になるため、所得が少ない場合、健康保険(社会保険)と比べて自己負担金が高くなる可能性があるからです。
労使折半の義務はありませんが、歯科医院側で何割か負担することもできます。
歯科医院側が負担を負うことで、従業員のネガティブ要素を解消するという選択肢もあるでしょう。
まとめ
本記事では、歯科医師国保についてと、それ以外の健康保険制度について、歯科医師国保に加入する際のメリット・デメリットについて解説しました。
歯科医師国保には、それ以外の医療保険制度と違って、保険料が一律であり、場合によっては保険料が健康保険(社会保険)と比べて安くなる点や、健康増進を中心とした、福利厚生(保険事業)が充実して用意されている点など、さまざまなメリットがあります。
一方、加入者の条件によっては、反対に保険料が高くなってしまう可能性がある点、基本的には労使折半がなく、保険料が全額自己負担になってしまう点などは、デメリットといえるでしょう。
また、歯科医院の院長目線から見た場合、労使折半でない分、出費を抑えられる点や、従業員の福利厚生を充実させられるなど、メリットがありつつも、加入者数に上限がある点や、場合によっては、採用などに影響するなど、デメリットも合わせて知っておくことが大切です。
このように、歯科医師国保か健康保険(社会保険)のどちらがお得なのか、加入者の条件によって変わることはもちろん、その他のメリット・デメリットも含めて、総合的にご検討ください。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。