「平均患者数の将来予測はどうなっているのか」あるいは「患者数増加に向けた戦略を知りたい」と考える、歯科医院を経営する院長も多いのではないでしょうか。
歯科医院の運営において、患者数は収入につながる重要な要素です。
この記事では、歯科医院の平均患者数の算出方法に加え、将来予測や患者数増加のための具体的な戦略についても解説しています。
今後の歯科経営にぜひ役立ててください。
歯科医院の平均患者数と収入目安
はじめに、平均患者数の算出方法を確認しましょう。その結果をもとに年間売上を計算することで、収支バランスの目安になります。
1日当たりの平均患者数
歯科医院の1日当たりの平均患者数は、以下の計算式で算出できます。
1日当たりの平均患者数=1施設当たりの年間平均医療費÷1人の1日当たりの歯科にかける平均医療費÷診療日数
厚生労働省発表の2020年度のデータを参考に、「歯科」のうち「診療所」の数値で計算すると、次のような結果になります(入院外)。
1施設当たりの年間平均医療費4,272万円(※1)÷1人の1日当たりの平均医療費7,606円(※2)÷診療日数240日=平均患者数23.4人
診療日数は、週休2日・祝日・お盆3日・年末年始6日を休みとした目安です。
ちなみに、歯科分野で1日当たりの医療費が最も多いのは岡山県で8,488円、最も少ないのは群馬県の6,878円でした(※3)。
また、「人口10万人に対する歯科診療所数」を都道府県別(※4)にみると、東京都の75.8件が最も多く、最少は島根県の38.3件となっており倍近い開きがありました。
施設数・人口に地域差があることから、平均患者数も大きく異なる可能性があると考えられます。
※1
厚生労働省「令和2年度 医療費の動向-MEDIAS-」(表25-1)
※2 厚生労働省「令和2年度 医療費の動向-MEDIAS-」(表23-1)
※3 厚生労働省「令和2年度 医療費の動向-MEDIAS-」(表31-1)
※4 厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況 統計表」(統計表10)
平均患者数と同じ場合の収入目安
算出した平均患者数「23.4人」を毎日達成した場合、上記の計算でも使用した「1施設当たりの年間平均医療費」4,272万円が年間売上の目安となります。
個人が経営する歯科医院の利益率は30%ほどが目安となるため、4,272万円の年間売上で30%の利益率と考えると約1,281万円の年収です。
この額は、歯科医院を経営する院長の年収となります。
しかし、この数値はあくまでも目安であり、売上が高くても利益率が高いとは限りません。
利益を増やすためには患者数を上げつつ経費を削減し、自費診療などによって「1人当たりの単価」を高くするといった工夫が必要でしょう。
歯科医院の平均患者数の将来予測
患者数の将来予測における調査「歯科診療所の患者数の将来予測」によると、2035 年の患者数予測は126.4万人で、2005年の127.2万人と同程度とされています。
人口の減少率を考慮すると、相対的には減り方が鈍い傾向といえるでしょう。
より具体的な数値を示すと、14歳以下と45〜64歳では現状値がそのまま推移、15〜44歳は30年後に3割減少し、それに応じて受療率も減少するといわれています。
ただし、少子高齢化の影響により、高齢者の割合は2倍近く高くなるとの予想です。
また、「コンビニより多い」とされている歯科医院数ですが、2017年以降はゆるやかな減少傾向(※1)がみられます。
したがって、全体としてしばらくは患者数の現状維持が期待できると考えられるでしょう。
厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況 統計表」(統計表1)
歯科医院が患者数を増加させるための4つの基本戦略
利益を上げるためには経費削減や設備投資といった方法も考えられますが、集客(集患)がとても重要です。
ここでは、患者数を増加させるための基本的な戦略を4つ紹介します。
歯科医院患者数アップの戦略1.立地条件の工夫をする
1つ目の戦略は、集客に有利とされる立地条件で開業することです。以下の点などを検討してみましょう。
- 競合が少ない場所
- テナントの1階や戸建て
- ターゲットとなる患者数
- 患者の日常動線
競合が少なく、視認性が高い場所の他、歯科医院のコンセプトやターゲットとなる患者数を意識した立地選びが大切です。
例えば、高齢者が多いエリアに審美歯科を開業しても、集客はあまり期待できません。
また、日常動線の確認も必要になります。患者が日常的に利用する交通機関や立ち寄る場所を考えてみましょう。
多くの人は「よく知っていて、通りやすく、最短の距離」を選ぶ傾向です。仕事帰りや買い物のついでに通院できるといった、導線を分断しないような立地が集客に向いているといえます。
立地の選定を行う際には、事前にエリアの特性や推計患者数などの分析・調査を行うとよいでしょう。
ただし、好立地は集客効果を見込めますが、テナント料が高くなる傾向があるので財務上の注意が必要です。
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歯科医院患者数アップの戦略2.節約脳から投資脳へ切り替える
節約ばかり意識するのではなく、投資を考えることも大切です。
個人経営の歯科医院では、保険診療収入を「租税措置法第26条」の適用範囲内に収えるケースが多く、措置法を利用している院長もいるのではないでしょうか。
「歯科経営情報レポート 2022/04号」によると、調査対象となった歯科医院の平均医業収入はおよそ6,081万円、うち保険診療収入は5,000万円ほどとなっています。
収入別でみると、医業収入が5,000万円未満の歯科医院161件のうち、個人医院は137件です。
節税対策としてメリットがある措置法ですが、一方で適用範囲を超えた収入が得られにくいというデメリットが生じます。
これまでの習慣を変えるのはとても勇気がいることです。
しかし、従来の「節約脳」から、設備や人材育成などへ費用を投入していく「投資脳」へ切り替えることが、患者数を増やし売上アップにつながるといえるでしょう。
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歯科医院患者数アップの戦略3.データを活用した経営をする
3つ目の戦略は、データを取り入れた歯科経営の実践です。
目標売上に対して必要な平均患者数を計算したり、他の医院のデータを参考に自院のかけるべき広告費の目安を計算したりなど「データによる経営」を実践することで、患者数目標達成の可能性が高まります。
院長は患者の治療だけでなく、日々の問題にも対処していかなければなりません。
しかし、課題をきちんと把握せず、肌感覚だけで運営しているケースも多いのではないでしょうか。
決算書や診療データなどを活用・分析すれば、適正な数値や患者のニーズが分かります。
例えば、診療データを活用することで月間・年間の売上が予想でき、経営判断に役立ちます。
さらに、患者数の変化をみればユニット増設やスタッフ増員のタイミングも検討できるでしょう。
データで可視化することにより課題が明確化され、効果的な施策が実践できます。
歯科医院患者数アップの戦略4.スタッフマネジメントに力を入れる
4つ目の戦略は優秀な人材の確保と長く働ける環境づくり、新人教育の体制をつくることです。
歯科業界は慢性的な人材不足といわれており、特に歯科衛生士については1人の新卒を20の歯科医院で採用しようと競争している状況です。
つまり圧倒的な売り手市場なので、そのなかで優秀な人材確保のためには職場環境や待遇、教育制度の整備が重要です。
待遇や教育制度を充実させることで入社意欲を高めたり、勤務後のモチベーションを保ったりすることは欠かせません。
スタッフのスキルがアップすれば歯科医院全体のサービス向上にもつながり患者数の維持、さらには増加につながるでしょう。
もちろん、歯科衛生士・歯科助手は女性率が高い職種であることから、ライフワークバランスに対応できる柔軟な職場環境も必要といえます。
新人教育にはマニュアルやチェックリストの作成・活用が効果的です。
効率的な育成ができ、目標設定や現状把握がしやすいため教育漏れを防いでくれます。
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まとめ
歯科医院の平均患者数は、施設や1人当たりの治療費および診療日数から計算できます。
その結果をもとに収入目安を把握することも可能です。患者数の将来予測は現状維持とされていますが、患者数を増やすことでより安定した経営が実現できるでしょう。
自院における現在の平均患者数を算出したうえで目標数を設定し、患者数アップの施策を検討してみてください。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,300以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。