歯科医師の副業_あきばれ歯科経営 online編集部

近年、歯科医院の廃業が増加しています。

コロナ禍や商圏の競争激化などで経営が苦しくなり、廃業を検討している歯科医院を経営する院長も多いかもしれません。

本記事では歯科医院の業績悪化による廃業に関して、廃業の主な原因や主な廃業方法、廃業するかどうかを判断する際の基準・ポイント、廃業の流れ、廃業以外の選択肢について解説します。

負債超過や経営改善に悩む歯科医院の院長先生は、ぜひ、本記事の内容を参考にしてください。

1年間に廃業する歯科医院数と近年の動向

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(画像=pixta)

厚生労働省が実施した「医療施設調査」によると、歯科診療所(歯科医院)数は2018年が6万8,613施設だったのに対し、2019年には6万8,500施設と、1年間で113施設(0.1%)減少しています。

また、同じ1年間で医療法人の歯科医院が435施設(3.0%)増加した一方で、個人開業の歯科医院は549施設(1.0%)減少しました。

そして、帝国データバンクの調査によると、2021年に休廃業・解散した歯科医院は2016年以来最多の84件です。

ただし、歯科医院の廃業・解散の理由はさまざまであり、業績悪化が理由とは限りません。

例えば、事業継承手続きの一環として一時的に廃業扱いにするケースなどもあります。

当記事では業績悪化による廃業に絞って解説します。

歯科医院が業績悪化により廃業する主な原因

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(画像=pixta)

歯科医院が廃業する主な原因は次の3つです。

  • 立地条件の悪さ・競合の増加
  • 人材確保・育成の失敗
  • 資金繰り計画の甘さ

それぞれの原因について以下で解説します。

歯科医院の廃業理由1:立地条件の悪さ・競合の増加

歯科医院の廃業理由の1つに、立地条件の悪さや競合の増加が挙げられます。

開業前にエリアの潜在患者数や競合歯科医院のリサーチなどが甘かったために、立地条件の悪い場所で自院を開業してしまった歯科医師は少なくありません。

ただし、開業前のリサーチが十分であったとしても、後から近くに新しい歯科医院がいくつもできてしまうことはあります。

中には新しい競合に人気が出て自院の患者がそちらに移動してしまうケースもあるでしょう。

そういった原因によって患者数が減少したり伸び悩んだりすることもあるのです。

その結果、想定より売り上げが低くなったり赤字が続いたりすれば負債の増加や運転資金の枯渇につながり、廃業を余儀なくされることがあります。

歯科医院の廃業理由2:人材確保・育成の失敗

人材の確保・育成の失敗も歯科医院が廃業に至る理由になります。

歯科衛生士・歯科助手など歯科医院の運営に欠かせない人材の採用・育成に力を入れていない場合、求人への応募がなかったり、やっと採用した人材が定着しなかったりといった問題が出てくるのです。

特に、歯科衛生士の人材不足は深刻であり、「20の歯科医院で1人の新卒を取り合う」といった状況になっています。

歯科医院の存続において、スタッフの確保は大きな課題です。

よく「何年も前と募集の条件が変わっていない医院」を見かけますがあなたの歯科医院は大丈夫ですか?

一度出した求人を延々と使い回しにしているケースは多く、その場合はいつの間にか、「周囲の歯科医院は社会保険完備になっていたのに自分の医院は何もない」「時給もほぼ最下位だった」などということが起きてしまいます。

また、スタッフの仕事に対するモチベーションや勤務態度をより良く保つためには、育成にも力を入れる必要があります。

スタッフのモチベーションや勤務態度・接遇態度は歯科医院内の雰囲気や業務のパフォーマンスにかかわるだけでなく、患者の満足度アップや定着にも大きく影響する要素です。

必要人数かつ優秀なスタッフを確保できなければ1日に対応できる患者数も減少し、歯科医院の生産性が低下します。

スタッフが足りないばかりに診療日や診療時間を削らざるを得ないといった経営縮小を招き、売上が減少して廃業する原因ともなるのです。

歯科医院の廃業理由3:資金繰り計画の甘さ

歯科医院の経営においては資金繰りが重要であり、その計画が甘ければ赤字の拡大や債務増加を招きます。

資金繰りとは、資金の出るタイミングと入るタイミングを把握することです。

前もって資金繰りを綿密に計画していれば、開業資金としていくらまで借り入れできるか、設備投資のタイミングや金額の目安、経費が大きすぎないかなどの基準を把握でき準えができます。

逆に、資金繰り計画ができていなければ入金タイミングの遅れなどによって借入金が増え、返済できず破産せざるを得ない状態に陥る可能性があるのです。

資金繰りについては以下の記事で詳しく解説しているので、ご参照ください。

【関連記事】
資金繰り改善を目指す歯科医院の資金管理法

歯科医院を廃業する3つの方法

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(画像=pixta)

歯科医院を廃業する主な方法は「清算」「破産」「私的整理」の3つです。各方法について以下で解説します。

歯科医院を廃業する方法1:清算

清算とは、負債よりも資産が多いなど支払いが可能な場合に選択する廃業の方法です。

清算の場合、残った資産を換金して債務を全て弁済してから廃業します。清算には通常清算と特別清算があります。

通常清算をする場合、理事会や社員総会で歯科医院の解散を決議し、それから清算手続きを行うという流れです。

特別清算は通常清算が難しい場合や債務超過の疑いがある場合に裁判所の関与のもとで行われます。

歯科医院を廃業する方法2:破産

破産とは、債務超過により支払い不能となって借金を返済できない場合、つまり、自院の資産が借金額を下回る場合に選択する廃業の方法です。

必ず裁判所を通して手続きを行う点が清算と異なります。

破産においては裁判所が選任した破産管財人が資産の全てを処分し、債権者に平等に配当します。

破産の目的として「債務者の経済生活の再生」が含まれるため、資産を全て処分して返済に充てても借金が残る場合、財債の返済義務がなくなります。

歯科医院を廃業する方法3:私的整理

私的整理は任意整理、または内整理とも呼ばれます。

裁判所を通すといった法的な倒産手続きを行わずに債権者や金融機関などと直接交渉し、債務の免除や猶予などの新たな契約を結ぶことです。

私的整理は破産や民事再生(後述)と異なり、債務整理をしたことが公開されません。

そのため、取引先の評判や信用に悪影響を及ぼさずに済む点がメリットです。私的整理後は廃業する場合もあれば、事業を継続できる場合もあります。

歯科医院を廃業するかどうかを判断する際の基準・ポイント

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廃業するか、それとも、民事再生などをして経営を続けられるかを判断する際の基準・ポイントは次の3つです。

  • 黒字化できる見込みがあるか
  • 運転資金は確保できるか
  • 経営を改善するモチベーションがあるか

なお、民事再生とは裁判所の関与のもと、一部債権者の同意を得たうえで債務の一部免除や分割弁済をしながら法人の再建を図る仕組みです。

歯科医院経営が傾いた時、廃業でなく立て直しを図るのであれば民事再生という選択肢もあります。

ここでは、廃業するかどうか判断する上記3つのポイントについて、それぞれ解説します。

黒字化できる見込みがあるか

営業利益とは売上高から仕入費用や経費を引いた金額です。

キャッシュフロー改善など経営合理化を図ることによって営業利益を黒字にできるなら、廃業せずに経営を続けられるかもしれません。

コストカットや収益アップの余地がないかを吟味しましょう。

まずは、借り入れへの返済額を差し引いても黒字にできるかどうかを計算してみてください。

対策を考えても黒字化できる見込みがなければ民事再生をしても問題は解決しないため、廃業するしかない可能性があります。

運転資金は確保できるか

民事再生をした後は金融機関への返済が免除される代わり、金融機関からの借り入れもできなくなります。

その状況でも運転資金をある程度確保できるかどうかも、廃業するか経営を継続するかを検討する材料です。

運転資金を確保することができないのであれば、民事再生をしても経営の立て直しは難しい可能性があります。

キャッシュフロー経営の重要性と方法については以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。

【関連記事】
歯科医院経営にも必須 キャッシュフロー経営とは

経営を改善するモチベーションがあるか

歯科医院を経営する院長に経営改善と継続のモチベーションがあるかどうかも、廃業を検討する際の基準となります。

そもそも、院長自身のモチベーションが低い場合、民事再生による再スタートを切ったとしても経営を改善していくことは困難です。

この場合は第三者や後継者に事業を継承するか、あるいは、廃業することになります。

歯科医院が廃業(破産)する基本的な流れ

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(画像=pixta)

歯科医院が廃業する主な流れは次の通りです。

  • スタッフ・患者への周知
  • 設備・建物の整理計画
  • 必要な届出書類の提出

各ステップについて以下で解説します。

スタッフ・患者への周知

まず、自院のスタッフに閉院することを伝えます。

30日前までの解雇予告が労働基準法で定められており、それを過ぎて解雇を伝えた場合は30日に満たない日数分の賃金を支払わなければなりません。

就業規則に退職金規定がある場合は退職金の支払も必要です。また、退職に関する雇用保険・社会保険の手続きも行います。

また、治療を継続する必要がある患者に対しては相談のうえ、他の歯科医院を紹介するなどの対応が必要です。

カルテやレントゲンデータ、X線装置などの測定結果記録の保管義務についても確認してください。

設備・建物の整理計画

設備・建物の整理として、医療機器のリース解約や医薬用品の処分、テナント解約などを行います。

テナント解約時には原状回復義務があり、賃貸している土地を返還する時は建物を取り壊さなければなりません。

借入金の返済も必要です。廃業するだけでもコストが1,000万円以上かかる場合もあるため、前もって資金を計算し、清算の計画をしましょう。

必要な届出書類の提出

破産手続きに必要な書類は次の通りです。

  • 破産手続開始・免責許可申立書:氏名や住所などを記載する
  • 住民票:申立の3ヶ月前以降に発行されたもの。
  • 委任状:弁護士へ破産手続きを委任するという書類
  • 債権者一覧表:破産手続き対象になる債権者の一覧表
  • 資産目録:申立人の資産の一覧表
  • 報告書(陳述書):破産に至る経緯などを記載した報告書
  • 家計全体の状況:直近2ヶ月間の家計の収支表
  • すべての疎明資料:上記に関連する資料
  • 確定申告書(賃貸対照表・損益計算書):医療法人の場合のみ必要

弁護士に依頼すれば上記書類の作成から破産手続きまでサポートしてもらえます。

弁護士への依頼から破産申立・破産手続きまで約3ヶ月必要です。

なお、社会保険の手続きや歯科医師会退会手続き、地方自治体への届出など、廃業時に必要な手続きは破産手続き以外にもたくさんあります。

歯科医院が廃業以外に検討できる選択肢

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赤字経営を改善できないとしても、廃業がベストな選択肢とは限りません。

廃業には1,000万円以上のコストがかかる場合もあるため、経営を継続する方がよい場合もあります。廃業コストの主な項目は次の通りです。

  • 残った債務の清算
  • 建物の原状回復あるいは取り壊しの費用
  • 医療機器・医療用品・薬剤などの処分費用
  • 従業員の退職金
  • 登記や法手続きに関する費用

くわえて、歯科医院が廃業すれば患者が行き場を失う可能性もあります。

地域密着型の歯科医院だった場合は特に、治療中の患者だけでなく、患者候補が治療を必要とした時に「行ける歯科医院が生活圏にない」という事態になるかもしれません。

自分で経営を続けられない場合でも第三者に事業を引き継ぐなど、歯科医院を残す選択肢も検討しておくことが重要です。

事業継承(M&A)

第三者に事業を引き継ぐ「事業継承(M&A)」も選択肢の1つです。

自院の経営が赤字だとしても、設備が新しかったり立地が良かったりする場合は、M&Aや居抜きなどで他の歯科医師などに売却できる可能性があります。

事業継承であれば自分の経営ではなくなるとはいえ歯科医院が存続するため、スタッフを失業させずに済んだり、患者の通院先を維持できたりする点がメリットです。

民事再生

先述の通り、民事再生とは、債権者多数の同意を得たうえで、裁判所の認可を得た再生計画などによって債務者の事業再生を図る手続きです。

民事再生の手続きを行えば負債の返済を一時的に免除されます。

廃院しなくても、負債返済の負担を軽くしてから再スタートするという選択肢もあるのです。

まとめ

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歯科医院が負債超過や赤字などで経営を継続できず廃業する場合、清算・破産・私的整理といった方法があります。

廃業すべきかどうかを判断する主な基準は、「黒字化できるか」「運転資金を確保できるか」「経営改善のモチベーションがあるか」です。

廃業は大きなコストがかかるだけでなく、スタッフの失業や地域医療の損失など周囲への影響も出ます。

廃業する他に事業継承や民事再生といった選択肢もあるので、検討してみてはいかがでしょうか。

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あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,300以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。