歯科医院経営の悩みは「診療」と「診療以外」に大きく分けられます。
実際に以前の私は診療を突き詰めて、技術の研鑽だけすれば、何もかもがうまくいくと信じていました。
でも実際に経営と診療をしてみたら、「診療以外」の部分の悩みが大半でした。
学生時代に診療以外のことについて学ぶ機会は少ないため当然かもしれませんが、診療以外の部分で院長や現場がつまずいては経営面でマイナスをもたらすリスクがあります。
この連載では、「診療以外」の悩みを最小化し、「診療」に集中できる医院作りのヒントをお伝えしたいと思います。
今回はぶれない経営を生みだす「風通しのいい組織」についてお話しします。
情報とうまく付き合う歯科医院だけが生き残る
情報過多の現代はアウトプットが大切
情報過多の現代で生き残っていくためには、情報との付き合い方が大切です。
2020年に137回の講演を行った私からお伝えしたいのは、「ただ単に情報を入れるだけでは何の意味もない」ということです。
本来「情報」は、自分が何をしたいのかを知った上で、自ら掴みにいくもので、情報の「波に乗る」のと「波にのまれる」のは違います。
その時に大切なのはインプットではなく、アウトプットのほうです。
インプットばかりでアウトプットしないのは、撮影した画像を見られないデジカメのようなものです。
つねに「どうやってアウトプットしようか?」と意識しながら、情報の波に乗ることが大切です。
歯科院長は頭の切り替えが必要
情報をアウトプットする上で、ひとつ注意点があります。
私たち歯科医師がおこなう「診療」は、完全に「勝ちゲーム」で「絶対に失敗しない」と思ったことしかやってはならない仕事です。
100%できると確信してからでしか、踏み出してはいけません。
しかし、「診療以外」の業務は、1%でも「やってみる」ことが、円滑な歯科医院経営に繋がります。
100%の「診療」と1%の「診療以外」の頭の切り替えが、わたしも苦手でした。
これが、今回のテーマの1つである「診療か診療以外か」ということになります。
情報の波に乗っていくコツ
では、どうすれば上手に情報の波に乗っていけるのでしょうか?
コツは得た情報を「自分ゴト」にすることがあげられます。
情報に対しては、大半の人が、how to という「事柄」を追いかけてしまいがちです。
情報を「自分ゴト」に落とし込める人は、何か良い話を聞いた際に以下のように考える人です。
- その人はどのような感情で、なぜそう思ったのかを読み解く
- 「自分は明日から〇〇してみよう」と思う
- 「〇〇したら、みんなどのような感情になるのだろうか?」
上記のように考えが及ぶと「自分ゴト」にしやすくなります。
このように相手の思いを理解して「自分ゴト」としていくことで、他の人とのコミュニケーションも増えていきます。
すると仕事も楽しくなり、楽しくなれば効率もよくなります。
その結果、自由な時間も増え、稼いだお金を楽しく使うこともできるようになります。
時代とともに変化する組織
Companyの由来からわかるもの
Companyの由来をご存知でしょうか。
実は、このCompanyという単語は「Com」と「pany」の2つに分けることができます。「Com」は「ともに」、「pany」は「パンを食べる」という意味の単語です。
つまり、日本でも昔からよく言われる「同じ釜の飯を食う」ということになります。
一丸となって、目的地に向かっていくチームプレーが大切なことを意味しています。
「こんなパンを作りたい」などと思いを語る人に対して、「じゃあ、わたしは○○します」と提案し合う。
お互いを認め、高め合いながら、本来の理想に近づいていく世界観を表したのではないかと思います。
歯科医院に例えると
- 「こんな医院を作りたい」と院長が構想を描く
- スタッフが寄り添い、院長の思いに近づく →「診療以外」の悩みが減り、「治療」に専念できるようになる
会社=Companyではない?
このCompanyを、「会社」と日本語に訳した瞬間に「ガチガチの軍隊」を思い起こす人も多いのではないでしょうか。
「ブラック企業」というと、時折、この「軍隊のような会社」のイメージがあります。
先ほど解説したCompanyの本来の語源を知ると、より違和感を覚えるかもしれません。
実はこの違和感こそ、私たちが最初に理解しておくべき点になります。
もともと日本の会社は軍隊だった
第二次世界大戦により日本は敗戦国になりましたが、戦後わずか19年で東京オリンピックが開催され、日本のGDPが世界第2位になるまでに発展していきました。
それを支えたのは生き残った兵隊さん達です。軍服からスーツに着替えて、企業戦士になったのです。
「うちの会社は古い体質で、まるで軍隊みたい」というサラリーマンがいますが、その通りなのです。
敗戦後サラリーマンのみなさんが、軍隊のように一丸となって日本を復興してくれたおかげで、現在不自由なく生活できているのです。
だからこそご高齢の方のなかには、自分たちが我慢を重ねて働いて、日本が回復したのだから、若い世代に「好きなように生きてほしい」と願う人がいます。
このような歴史から、現代はCompanyの本来の語源に近づき、戻ったのだと考えられます。
現代を生きる私たちは、その思いを受け継ぎ、「私たちらしく働いて生活し、次の世代へとバトンタッチしていく」べきです。
モノや手段から理由の時代へ
方法論よりも理由が重要
様々なことに「流行り廃り」があるように、「正解」が常に変化している現代では、いろいろな「モノ」や「手段」が世間に溢れ、それ故に、「モノ」や「手段」の価値が暴落しています。
これからは、「何をどうするか」という方法論だけではなく、「モノ」や「手段」を選択する際に、どのような「理由」で、「なぜ」それを選んだのかが重要です。
理由を失うと身体を蝕む
人はそれぞれ価値観が異なりますので、「『なぜ』そうしたいのか?」の「なぜ(理由)」が腑に落ちていないと、能動的な仕事はできません。
腑に落ちるとは納得することです。「なぜ(理由)」に納得できていない環境では、だんだんとやる気をなくし、身体を蝕んでいくことになります。
働く理由はお金だけ?
大半の人は、就職先を決める際に、お金以外の要素も含めて判断しているのではないかと思います。
家族を養うためにお金を得るのなら、それは「家族のため」という理由になります。
「お金」だけが判断基準であれば、スタッフは給料の高い医院へ転職を繰り返すはずですが、実際にはそうではありません。
高額な給与を提示していても、「個性や価値観はいっさい考慮しません」という医院に応募する人は少ないと思います。
院長の診療方針や患者との関係性など、医院の価値観と自分の価値観が重なる部分が、お金よりも大切なのではないでしょうか。
このことから、私たちが何かを決断・行動するときには、大きく分けて「お金」と「価値観」の2つのモノサシをもっていることがわかります。
ぶれない経営をするために
ぶれない経営3つのポイント
ぶれない経営をするために必要なのは、以下の3点です。
- 院長が自らの価値観(モノサシ)を知ること
- 院長の自己開示の必要性
- 「風通しのいい」院内
院長が自分の価値観(モノサシ)を知ること 歯科医院を船にたとえると、院長は船長です。
船長には「決断力」が求められます。リーダーに「決断力」がなければ組織は動きません。
「決断力」を十分に発揮するためには、院長が「自分の価値観(モノサシ)」をはっきりと自覚することです。
そして、その価値観を院内に周知することで、医院全体がより働きやすい環境になります。
お金だけの判断であれば、その道のプロに任せればいいのですが、すべての最終決定を、院長の価値観によって下すことで、「ぶれない経営方針」が確立され、院長自身もストレスなく、決断できるようになります。
自己開示の「方法」を知る 自己開示が苦手な院長もいますが、口頭で伝えるのが苦手な場合は、前書「最強のミーティングバイブル」でお伝えした、院長の「人生曲線」を活用し、院内に貼っておくだけでもよいと思います。
「改まって伝えるのが苦手」という方は、会食しながらでもよいでしょう。 まずは、自分にとって話しやすい方法を知ることです。
また、自己開示をする際、経営者の立場ではなく、個人の感情で伝えてしまう人が多くいます。あくまでも経営者の目線で自己開示するようにしましょう。
価値観を面白がる「風通しのいい」院内作り 院長の仕事は、院内の雰囲気を良くするために、「風通しのいい」環境を整えることです。
「風通しがいい」とは、「違った価値観を面白がる文化がある」ことです。
逆に「風通しが悪い」というのは、独裁国家のようなイメージではないでしょうか。
自分と違う価値観を排除したり、スタッフの個性を潰したりなど、組織の上に立つ者が、下の者に従わせるような環境です。
人は大抵、違う価値観に出会ったときに、「それは違う」という感情が生まれ、トラブルが生じます。
組織とは船のようなものなので、建設的に話し合える仲間が必要です。
反対に組織の意向に合わないスタッフは必要ないといえます。
ただし、「診療以外」の個人の価値観の違いについては、考えが違う「野党」とは捉えずに、院長がその違いを面白がるようになるべきです。
なぜなら、価値観を面白がることができない組織は思考が停止し、思考が停止することで非常に脆い組織になってしまうからです。
まとめ
今回は、「チーム力がアップ、ぶれない経営を生みだす『風通しのいい組織』とは」について下記のポイントをお話ししました。
- インプットよりもアウトプットが大切
- 現代の組織は軍隊から「私たちらしさ」へ変化
- これからは「理由(なぜ)」の時代
- 働く理由には「お金」と「価値観」という2つのモノサシがある
- 院長の価値観を周知し、スタッフの価値観を面白がれるのが良い組織
次回は、「正解のない時代に多くの価値を提供する考え方」についてお伝えします。
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<角 祥太郎先生の書籍紹介>
「最強の歯科ミーティングバイブル」
角 祥太郎 著
(デンタルダイヤモンド社)
角流!(KADO STYLE!)ここにあり。
歯科医院のチーム力を高めるステップアップワーク集。
8医院の実践事例を紹介。
「なぜ」をまず考えることが最も大切だ。
「なぜ」がわかっていないと何をしても迷い、損をする。
まずは「なぜ」を考えよう。
「なぜ」を理解したら、
「何をどのようにするか」を最適化して決めれば、
ミーティングはゲームになる。
8つのパートナー歯科医院から届いた現場の率直な感想。
そのとき何が起こったのか。
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株式会社clapping hands 代表取締役
歯科医師
歯学博士
2009年、東京歯科大学解剖学講座で歯学博士取得後、千葉県の大手医療法人海星会に就職。3年で副理事長に就任。社内ベンチャーとして訪問歯科や歯科医院の海外展開を支援する会社の立ち上げをリードする。
2017年、株式会社clapping hands を設立し、診療の傍らメーカーへのアドバイザーも務め2021年は142回の講演をおこなった。
学生時代よりプロレスラー(キム・ヨッチャン)としても活躍し、週刊プロレスの表紙掲載や著名人との対戦経験もある異色の経歴の持ち主でもある。