オートクレーブは歯科医院に欠かせない医療機器の一つです。各メーカーから、用途・性能に応じてさまざまな機種が販売されています。
今回は、オートクレーブの種類や基本的な使用方法、代表的な機種などを紹介します。
歯科医院で欠かせないオートクレーブとは?
オートクレーブ(高圧蒸気滅菌機)とは、使用済の治療器具を滅菌するための医療機器です。
密閉された庫内を高温の水蒸気で満たし、高温・高圧下で滅菌を行います。
歯科だけでなく、医科や獣医科などでも使用されており、医療現場の衛生管理には欠かせません。
以前取り沙汰されたハンドピースやタービンの滅菌不備の問題を受け、院内感染予防のために治療器具の滅菌を徹底することは、歯科にとって重要な課題となっています。
性能によって3つのクラスに分類される
「ヨーロッパ規格EN13060」において、オートクレーブは3つのクラスに分かれています。
- クラスN:ミラーやピンセットなど非包装の固形物のみ対応
- クラスS:メーカー特定の中空物(ハンドピースなど)、非包装の固形物に対応
- クラスB:非包装・包装の固形物、中空物、布製品、多孔体などあらゆる被滅菌物に対応
日本の多くの歯科医院で導入されているのはクラスNです。
しかし、クラスNでは、包装品やタービン・ハンドピースなど中空製品の滅菌が不十分になる可能性があります。
対して、欧米では最高基準のクラスB、タービン・ハンドピースなどの滅菌にはクラスSのオートクレーブを使うのが一般的です。
欧米に比べて日本でのオートクレーブ普及がやや遅れている理由の一つとして、導入コストやランニングコストの高さが挙げられます。
しかし、昨今では院内感染対策の徹底がより重視されつつあるため、今後は普及が進むことが見込まれるでしょう。
オートクレーブによる滅菌の重要性
2019年に厚生労働省が発表したガイドラインによると、使用後のハンドピースは消毒薬による清拭だけでは院内感染防止対策には不十分であり、患者さまごとに交換してオートクレーブ(可能ならばクラスB)で滅菌することが強く推奨されています。
また、切削片や血液、たんぱく質などが付着したバーやファイル、超音波チップなどは、院内感染の可能性がより高く、徹底した滅菌が求められます。
同ガイドラインでは、超音波洗浄で付着物を除去した後に、オートクレーブで滅菌することが強く推奨されています。
一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)|厚生労働省
歯科医院のオートクレーブの種類と選び方
オートクレーブを選ぶ際は、診療スタイルに応じて必要な機能を検討することが大切です。主な種類について以下から解説します。
自動/セミオート
オートクレーブは、器具をチャンバー(庫内)に入れてスイッチを押せば滅菌・乾燥までオートで完了する全自動タイプが一般的です。
比較的廉価なセミオートタイプも存在しますが、乾燥時の排蒸など、滅菌完了までに手動操作が必要となるものもあります。
「昼休みや診療終了後にオートクレーブをかけて医院を離れる」など、業務時間外に滅菌を終わらせたいなら、全自動タイプがおすすめです。
給水方式
オートクレーブは高温の蒸気を発生させるため、使用前には給水が必要です。
精製水・蒸留水を使って手動で給水するタイプが一般的ですが、浄水装置を介して水道から自動給水できる便利な製品もあります。
また、水道水がそのまま使用可能なタイプもあるため、手間やランニングコストが気になる場合は給水方式についてもチェックしてみましょう。
容量・サイズ
オートクレーブの容量やサイズも選ぶ際のポイントです。
使う器具の数や患者数に応じた容量を選ぶのが基本ですが、容量が大きいほど本体サイズも大きくなる傾向にあるため、置き場所も考慮して選択しましょう。
スペースに余裕がない場合は、小容量のオートクレーブを複数置くのも一つの方法です。
また、使用本数が多く、滅菌頻度の高いタービン・ハンドピース用に小型滅菌機を導入する歯科医院も増えています。
滅菌方法(温度・時間)
オートクレーブの運転時間は一般的に30~50分程度。
134℃前後で約5分、121℃で約20分滅菌した後、約15分間乾燥します。
時間や温度を設定できる製品なら、診療の状況に応じて乾燥時間を短縮するなど、フレキシブルに活用できて便利です。
また、乾燥工程でさらに高温になり、器具を傷めてしまう場合もあるため、低温で乾燥できるタイプも増えています。
なお、クラスBには、プリオン感染症予防などに向けた高温・長時間運転モードが用意されているものもありますが、事前に器具の洗浄が必要な点は変わらないので注意が必要です。
オートクレーブを用いた適切な滅菌のポイント
治療器具の滅菌は、オートクレーブを含めた適切な工程を踏むことが重要です。おさえておきたいポイントを順を追って紹介します。
まずは洗浄・消毒を徹底
使用後の治療器具は、滅菌前に洗浄・消毒を行うのが基本です。
洗浄とは、医療用洗浄剤を用いて、器具に付着した固形物や血液などを落とす工程です。
消毒や滅菌の効果をきちんと発揮させるためにも、適切に行う必要があります。
洗浄には、
- 手で行う「用手洗浄」
- 洗浄液に漬け置く「浸漬洗浄」
- 専用機器で行う「超音波洗浄」 の大きく3つがあり、器具や目的に応じて使い分けます。
器具の洗浄後は、専用の薬液を使用して消毒を行います。
消毒では、治療器具や汚染の程度などに合わせた薬液を使うことが大切です。
「手間や時間を節約したい」「スタッフのケガや感染を防ぎたい」とお考えの先生には、自動で洗浄・消毒・乾燥が行えるウォッシャーディスインフェクターの導入もおすすめです。
滅菌のバリデーションの重要性
きちんとオートクレーブが作動し、滅菌が確実に行われているかどうかを常に確認する作業を「バリデーション」と呼びます。
オートクレーブは、適切な条件下で使用していない、機械が故障したなどの原因で、十分な滅菌効果を発揮できない場合があるため、定期的なバリデーションを行うことも大切です。
バリデーションの手法は、
- 物理的インジケータ(PI)
- 化学的インジケータ(CI)
- 生物学的インジケータ(BI)
の3種類です。最近の製品には、バリデーションの記録を紙レシートで出力したり、SDカードに保存したりする機能が搭載されているものもあります。
より確実に滅菌を行うならば、バリデーションの行いやすさにもポイントを置いてオートクレーブを選びましょう。
滅菌済み器具の保管方法にも留意
滅菌後の器具の保管方法も留意すべきポイントです。
滅菌バッグに入れてオートクレーブにかけた器具は、滅菌後はそのままキャビネットなどに入れて保管し、使うときに開封することで衛生を保てます。
しかし、滅菌バッグに入れない器具は、保管する環境によっては再汚染のリスクがあります。紫外線殺菌灯キャビネットを活用するなど、保管場所にも気を配りましょう。
厚生労働省によるガイドラインでは、包装せず滅菌した器具は清潔で乾燥した空間に保管し、滅菌後24時間以内に使用することが推奨されています。
出典:一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)|厚生労働省
オートクレーブで滅菌できない器具はどうする?
治療器具のなかには、オートクレーブで滅菌できないものもあります。
熱で変形してしまうプラスチック製品や耐熱加工がされていないゴム製品、燃える危険がある紙や布製品、熱に弱い精密機器などが代表的な例です。
オートクレーブが使えない器具については、別の方法で衛生を保つ必要があります。
たとえば、グローブは患者さまごとに使い捨てにするのが望ましいでしょう。
近年では、使い捨て出来る歯科用の紙エプロンも販売されています。
また、プラスチックやゴム製の治療器具を滅菌するためには、酸化エチレンガス(EOG)を使用した低温滅菌器の導入も一つの方法です。
より安全な歯科治療を実現するクラスB準拠のオートクレーブ3選
Lisa/Lara(W&H)
AIが搭載されたハイスペックなオートクレーブ。
22リットルの大容量に加え、被滅菌物に合わせた乾燥時間の自動調整、サイクルリポートの記録など、使用者に合わせたサポート機能が充実しています。
手持ちのデバイスにアプリをコントロールすれば、データ管理やリモートコントロールが可能です。
よりコンパクトで低価格なLaraもラインアップされています。
YS-A-C501B(ユヤマ)
国内メーカー初の、ヨーロッパ規格におけるクラスBのオートクレーブです。
日時を指定できる予約滅菌機能が付いているので、長期の休診にも便利。被滅菌物に応じた3通りの運転モードが選択できます。
バリデーションに必要なB&Dテスト・HELIXテストをワンタッチでスタートできるため、滅菌のレベルをしっかり管理できるのもポイントです。
IC Clave(モリタ)
JIS規格およびヨーロッパ規格のクラスBに適合したハイスペックなオートクレーブ。
滅菌後、最高到達温度134℃以下でソフト乾燥を行う「デンタルモード」が搭載されているため、被滅菌物の傷みをおさえたいという方にもおすすめです。
BMS、BI、CIなど各種インジケータによるバリデーションもサポートされています。
タービン・ハンドピースの滅菌に便利な小型オートクレーブ3選
メラクイック(ジーシー)
ヨーロッパ規格におけるクラスSに適合した小型オートクレーブ。
幅195mm×奥行470mm(×高さ430mmというコンパクトな設計ながら、12本のハンドピースが6~9分で滅菌可能です。
水処理装置の「メラデム40」を使用すれば、水道直結による自動給水ができます。
スマートクレーブHSS
シンプルな設計で、被滅菌物の出し入れや給水が簡単にできる小型オートクレーブです。
包装されたハンドピースは6本、未包装なら最大12本が一度に滅菌可能。滅菌・乾燥ともに3段階から選択でき、器具や用途によって使い分けられます。
乾燥運転でも庫内の温度が管理されるため、器具が傷みにくい低温乾燥が可能です。
冷却時間なしで連続運転できるのもポイント。忙しい業務の合間にもしっかりとハンドピースの滅菌ができます。
DACユニバーサルS
ヨーロッパ規格におけるクラスSに適合する、小型でハイスペックなオートクレーブ。
最大6本のハンドピースが収納でき、ボタン一つで洗浄、注油、滅菌、乾燥すべての工程が完了します。
細菌・真菌・ウイルスなど幅広く効果を発揮するため、手間や時間が節約できるだけでなく、スタッフへの感染リスク軽減が期待できるのもポイントです。
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まとめ
院内感染を防ぎ、安全な環境で治療にあたるために不可欠なオートクレーブ。
優れた性能のオートクレーブは業務の効率や質を向上させるだけでなく、ホームページなどで紹介することで、患者さまへのアピールポイントにもなります。
性能や用途に応じたさまざまな製品が販売されていますので、自院の治療スタイルに合わせて選びましょう。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,300以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。