99%の歯科医院が知らない パーソナルブランディング

コロナ禍のなか、どの歯科医院も苦しい経営を強いられています。集患も人材確保もうまくいかない……そんな悩みを抱えている全国の院長先生に向けて、「パーソナルブランディング」というアプローチを紹介しましょう。

経営感覚の鋭い院長先生なら、コロナの脅威に襲われるずっと前から、この業界に忍び寄る影に気づいているはずです。歯科医師やクリニックの急増。歯科衛生士採用市場の競争激化。そして、とどまる所を知らない人口減少と少子高齢化。歯科医院をめぐる我が国の状況は、年を追うごとに苦しくなっています。

ですが、希望はあります。それが今回から4回に渡ってお伝えする「パーソナルブランディング」という考え方です。

パーソナルブランディングとは「患者さんからもスタッフからも選ばれるためのブランディング」です。ブランディングと聞くと、どこか胡散臭く感じるかもしれません。しかしそうではありません。きわめて真っ当な経営戦略であり、しかも正しい手順さえ踏めば誰でも実践できます。

第1回目は、パーソナルブランディングの概念について解説します。

99%の歯科医院が知らない、あるいは知っていても忙しくて実践していないパーソナルブランドとはなにか?

「選ばれる歯科医院」になるための、ヒントがここにあります。

パーソナルブランドの概念を理解する

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(画像=Zhanna/stock.adobe.com)

パーソナルブランドとは、Personal(個人の)とBrand(ブランド)を掛け合わせた造語で、「他者に期待される自分ならではの価値」と定義できます。

パーソナルブランドの概念が妥当するのは、必ずしも個人事業主の歯科医院だけではありません。医療法人に必要な「コーポレートブランド」も、院長先生自身のパーソナルブランドが前提にあります。

では、パーソナルブランドを形成する「ブランド」とは、そもそもどのような概念なのでしょうか。

ブランドとは「約束」である

ブランドという言葉からどんなことを連想するでしょうか。たとえばソニーやルイ・ヴィトンは立派なブランドですが、ソニーやルイ・ヴィトンが持つブランドは固有のものであり、他者が真似できるものではありません。

私が考えるブランドとは「約束」です。約束する相手は二人。一人はお客様、もう一人は自分です。

歯科医院のお客様は患者さんです。患者さんへの約束とは、どんな治療を提供するのかを示し、それをきちんと実践すること。この当たり前の約束を守り続ける先にブランドはあります。

またブランドにとっては、自分への約束を守ることも欠かせない要素です。ブランドの主体はほかでもない自分自身だからです。

お客様に対する約束を守ること、そして自分に対する約束を守ること。これら2つの約束が、パーソナルブランドを構築するためには不可欠なのです。

ブランドに欠かせない3つのキーワード

ブランドという抽象的な概念を作っている要素は、

  • Beliefs(理念)
  • Story(物語)
  • Tribe(仲間)

の3つです。それぞれを簡単に解説しましょう。

Beliefs(理念)

ブランドの根底には理念があります。理念とはミッションです。「なんのために仕事をしているのか」という使命のようなものであり、人生の目的といってもいいでしょう。

理念を打ち立てたら、必ず実行しなければなりません。先ほど「理念とは約束だ」と申し上げました。約束は守らなければ絵に描いた餅です。

Story(物語)

理念は単なる思い付きではありません。一人ひとりの人生の背後にある唯一無二の物語、すなわちStoryによって支えられています。

Storyを見つけ、自分だけの理念(ミッション)を探ることは、独力ではなかなか難しいかもしれません。コンサルタントやコーチなどの助力を得ることも有用でしょう。

Tribe(仲間)

物語によって「これぞ私のミッション。歯科医院経営者としての使命だ」という素晴らしい理念を確立したとしましょう。しかし理念が自分の頭の中にあるだけでは、ブランドに昇華することはありえません。

理念は、Tribe(仲間)と共有することではじめてブランドとなります。歯科医院における仲間とは、もちろんスタッフです。歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付、事務長など、自院の診療と運営に協力してくれるすべてのスタッフとの約束を守ることで、相互の信頼が生まれます。仲間の存在なくしてブランドは成り立たないことを理解してください。

パーソナルブランド5つの効果

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(画像=devenorr/stock.adobe.com)

パーソナルブランドにはどのような効果があるのでしょうか。

効果1 顧客やスタッフに選ばれる

ブランドが認知され、支持されると信頼を勝ち取ることができます。ブランドとは約束だと申し上げましたが、約束をきちんと守ると人は信頼を寄せます。つまりブランドとは信頼の証であり、信頼とは磁石のようなものなのです。

歯科医院における患者さんにも「潜在客→見込客→既存客→固定客→ファン」というように、さまざまな段階があることはご存知のとおりです。このすべての段階においてブランディングを実践することで信頼を得れば、良い循環(グッドサイクル)が生まれ、磁石のように患者さんを引き寄せることが可能です。

また上記の関係は、従業員についても成り立ちます。優れたスタッフを狙い通りに雇用するのは難しい時代ですが、パーソナルブランドやその先にあるコーポレートブランドが確立していれば、ブランドに共感する人材が集まります。

効果2 価格競争に巻き込まれない

自由診療を選ぶ患者さんは価格をよくチェックします。たとえば一つの診療圏内にインプラントを専門に行う歯科医院が2ヶ所あったとしましょう。両者の料金が似通っていた場合、はたして患者さんは価格の安いほうを選ぶのでしょうか?実は必ずしもそうではありません。

自由診療においては品質が重要です。多少価格が高くても、安心して任せられる歯科医院を選びたいと患者さんは考えます。

ただし、最終的に選ばれるためにはブランドが欠かせません。ブランドがないと値段の安いほうに患者さんが流れてしまうからです。

反対にブランドが確立していれば、多少価格が高くても患者さんは選んでくれます。ルイ・ヴィトンの高価なバッグが売れるのは、高くても売れてしまうだけのブランドが確立しているからです。つまりパーソナルブランドには、価格差を乗り越える力があるのです。

効果3 顧客・スタッフとのミスマッチがなくなる

パーソナルブランドが確立すると、歯科医院と患者さんのミスマッチがなくなります。たとえば自由診療を標榜し、高品質の治療を提供する歯科医院であれば、そのブランドに合致した患者さんだけが来院します。患者さんとのミスマッチがなくなれば、余計なトラブルにも遭遇しません。

同様のことはスタッフにもいえます。予防歯科に力を入れることを標榜し、そのブランドを確立できていれば、予防歯科に理解のあるスタッフだけが集まります。インプラント専門をうたうなら、インプラントのスキルを上げたいと意気込む優秀なスタッフがくるでしょう。志を共にする歯科院長とスタッフであれば、より働きやすい環境を整備しやすくなるので、職場のトラブルも減ります。

自分が理想とする患者さんやスタッフが集まれば、当然ストレスは感じません。長期のスパンで考えると、ストレスの有無は医院の持続的成長に大きな影響を与える要素だといえます。この点からも、パーソナルブランドの重要性を理解していただけるはずです。

効果4 リーダーシップが発揮される

リーダーシップをどう捉えるかはさまざまですが、パーソナルブランドの世界では、確立した理念を言語化し、人に伝える過程そのものをリーダーシップの発揮とみなします。

なぜかというと、パーソナルブランドを構築する一連のステップ、すなわち理念=ミッションをみつけ、ミッションを現実化するビジョンを明確にし、言語化したうえで人(患者さんやスタッフ)に伝えることは、ほとんどの歯科医院で実践できていないからです。

おそらく99%の歯科医院長は、日々の診療に追われ、自身のブランドについて考える暇などありません。またスタッフも同様でしょう。自分の職責を果たすことに精一杯で、「自院のブランドとはなにか?」をじっくり考える機会などまずないはずです。

そうであるなら、院長が自らのミッションとビジョンをスタッフと共有するだけでも、大変な進歩です。自分の理念を語り、自院のミッションとビジョンを言葉にして伝えようとする院長の姿に、スタッフは強いリーダーシップを感じることでしょう。

このようにリーダーシップとは、業務の遂行において発揮されるだけでなく、ブランディングにおいても発揮されるものなのです。

効果5 自分や組織を持続的成長に導く

パーソナルブランドの効果3で、患者さんとのミスマッチが減ると申し上げました。ミスマッチが減ると、得意な診療に集中できます。経営の効率も当然上がりますから、持続的成長が期待できます。

また院長先生自身のパーソナルブランドが確立すれば、「ブランドにふさわしい自分でありたい」という欲が出てくるはずです。それはスタッフも同様で、「自院のブランドにふさわしいスタッフとしてふるまいたい」という気持ちが芽生えます。

つまりパーソナルブランドには、組織だけでなく、組織に関わる人の持続的成長も期待できるわけです。

パーソナルブランディングは一過性のものではありません。つねに継続するものです。確立するまでは大変ですが、一度確立してしまえば、組織も自分もスタッフも一心同体の存在として成長を遂げられるのです。

パーソナルブランドの実践

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(画像=Coloures-Pic/stock.adobe.com)

パーソナルブランドを実現する流れは、大別すると以下の2つがあります。

1.軸となるビジョン→リーダーシップの発揮→ブランドの確立→持続的成長

ビジョンとはミッション(理念)を実現するための方針と捉えてください。方針を明確な言葉に変えてスタッフと共有し、またホームページなどで患者さんに対して伝えることで、リーダーシップが発揮されます。この過程を積み重ねた先にブランドがあり、ブランドが強固になればなるほど、組織と人の持続的成長が期待できます。

2.マーケティング→コミュニケーション→ブランド

ブランディングのスタート地点はマーケティングです。マーケテイングというとセグメンテーションやターゲティングといった伝統的な手法がありますが、医療におけるマーケティングでとくに大切なのは「情報の非対称性の緩和」です。

医療は高度な専門性を有します。そのため患者さんは自分が受ける治療の内容をよく知らないこともめずらしくありません。ここに診療情報の圧倒的な非対称性が生まれる原因があります。

診療情報の非対称性を緩和するのに欠かせないのが「コミュニケーション」です。院長先生と患者さん、スタッフと患者さん、そして院長先生とスタッフ。この3方向の関係において十分なコミュニケーションがあれば、患者さんに十分な診療情報を提供できるので、治療に対する不安も減らせます。

診療を裏から支えるのはもちろん理念(ミッション)です。そしてマーケティングとは、自分(自社)が提供する価値とその相手を明確にする工程ですから、「歯科医院経営の理念」も広い意味ではマーケティングの要素であるといえるでしょう。

理念を実現するのがビジョンとリーダーシップです。この理念→ミッション→リーダーシップという一連の流れを、患者さんを中心とする人的関係において共有する手段がコミュニケーションなのです。

つまりマーケティングとブランドをつなぐ手段がコミュニケーションであるわけです。コミュニケーションなくしてブランディングなし。とても重要な視点であると理解してください。

パーソナルブランド構築の具体的ステップとは?

ここまでパーソナルブランドの要点を解説してきました。では、実際にどうやってパーソナルブランドを構築すればいいのでしょうか。具体的なステップは次の3つです。

  • ステップ1 自分を知る(自己肯定)
  • ステップ2 言葉にする(言語化)
  • ステップ3 人に伝える(情報発信)

上記3つのステップを理解していただくためには詳しい解説を要しますので、第2回目の記事に譲ります。

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廣田 祥司

株式会社オール・デンタル・ジャパン 代表取締役

1973年生まれ。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修了(MBA)。 現在10社の経営に携わる起業家であり、何度も倒産の危機を乗り越えた体験をもとに、起業家をビジョン実現に導く「ビジョナリーコンサルタント」として活動。

コンサルティングを提供する中で改善が持続しないケースを目の当たりにし、持続的成長を実現する起業家には「パーソナルブランド」があると気づく。

仮説、検証を繰り返すことで再現性の高い独自メソッドを生み出し、様々な専門家や起業を目指すビジネスパーソンを真の豊かさに導く活動を始める。

医療分野では300名以上の医師・歯科医師の人生を「パーソナルブランディング」を通じ総合的に支援。