歯科衛生士なんだから、スケーリングくらいできるよね?

新人歯科衛生士のできることを増やす「新人研修」とは?

この連載では、歯科医院の業績の向上や成長に貢献できる歯科衛生士を育てるため、最初の一歩となる「新人研修」を上手に実践するコツを解説していきます。

前回の記事では、一人前の歯科衛生士を育てるためには学校教育だけでは難しいという現状を踏まえて、受け入れる側が「学校を卒業したばかりの新人歯科衛生士は、基本的には何もできない」という前提に立つことが大切だと解説しました。

また、「知らないし、できない」という新人歯科衛生士の本音を理解した上で「知らないことはちゃんと教える」「できないなら、できるようになるための方法を考える」という“厳しすぎたり、求めすぎたりしない”育成を目指すべきだとご提案しました。

今回は、どうすれば、新人歯科衛生士の「やれることを増やす」「その子の良いところを伸ばす」ことができるのかについて、新人歯科衛生士がつまずきやすいポイントなどの具体的な例を交えながら、新人教育への取り組み方をご紹介していきます。

多くの新人歯科衛生士がつまずくポイント

前回の記事でも触れたように、多くの新人歯科衛生士は、すぐに臨床の現場で活躍できるほどのスキルを身に付けているわけではありません。歯科医師や先輩スタッフが出した指示に対しても、指示者が「このくらいなら、新人でもできるだろう」と期待したレベルの成果をあげたり、役割を全うできることはかなり限られています。

「やりたいこと、好きなことをやって褒められたい」と考えている新人歯科衛生士にとっては「やりたいこと=できる(得意な)こと」とは限りません。自分ではできたつもりでも、それが期待されたレベルに達していないと「こんなこともできないの?」と言われてしまうこともあります。好きでやりたいのに、できないことが分かると「この仕事、向いていないのかな」と不安になったり、自信を無くすこともあります。

実際の臨床の現場では、新人歯科衛生士が担当する多くの仕事が「できない」仕事から始まることがほとんどです。その場合、仕事に対して息苦しく感じることもあります。また、本人は「嫌い、やりたくない」と思っている仕事でも、実際にそれができるのであれば、人から褒められることもあります。その結果、できることで求められたり、褒めてもらうことが増えれば、嫌いだった仕事が次第に「好き、やりたい」仕事に変わる可能性もあります。

新人歯科衛生士の育成では、まず、できる(得意な)ことを増やして、できないことを1つずつできるようにサポートすることが大切です。

「ただ、教えるだけではダメ」、成長につながる教え方のコツ

新人歯科衛生士は「教えてもらえると思っていたけど、教えてもらえなかった」という不満を持つことが多いと聞いています。歯科医師や先輩の歯科衛生士も自分の忙しい業務の合間に、新人歯科衛生士を指導することもあります。

たとえば、先輩がやっている業務を新人歯科衛生士に見学させる場合、単純に「私のやっているところを見ててね」と言うだけでは、新人歯科衛生士の成長につながる学びを得ることは難しいです。実際に先輩がやっていることを“”ただ、ぼーっと眺めている”だけのことが多いのです。

先輩の立場としては、見学によって伝えたいことは「普通に考えると、言わなくても理解してもらえる」と考えがちです。しかし、新人歯科衛生士の立場では、先輩が普通だと思っていることがまず理解できていないことが多く、「見るべき大切なポイントが分からずに、ただ見ている」ことが多いのです。その結果、指導した側は「必要なことは教えたつもり」になり、新人歯科衛生士は「何が大切だったかが理解できていない」状態で、前に進むことができないことがあります。

新人歯科衛生の成長につながる教え方にはコツがあります。実際に業務を見学させる場合は、「今日の患者さんはこういう症例の方です。私の手の動きをよく見てください」と事前に伝えたいポイントを説明してあげると、新人歯科衛生士が「なぜ、その行為を行うか」という目的や意図をしっかりと理解してもらうことができるでしょう。また、インプットだけではなくて、レポートを書いてもらったり、学んだことをアウトプットさせることも効果的です。

以前は、後輩を積極的に指導してくれる先輩は多くの医院にいました。しかし、最近では後輩を教えたがらない先輩が増えていると感じます。教える側と教わる側のギャップを埋めることで、より成長につながる指導が可能になります。

人との距離感が世代によって変化している中で、「責任を取りたくない」と考える先輩も増えてきました。先輩がある程度指導できる場合はいいですが、そうでない場合は新人歯科衛生士も路頭に迷うことがあります。ただ、そんな方に対して、私は「ご自身が分かることだけを教えれてあげればいい」と伝えています。

「スケーリングぐらい、できるよね?」、イライラするだけムダ

院長や歯科医の皆さんに、ぜひ覚えてもらいたいことがあります。それは、新人歯科衛生士への指示やその結果を確認した際に「学校を卒業しているのに、そんなことも知らないの? そんなこともできないの?」と絶対に言わないでください。

実際、新人歯科衛生士は、知らないことも多いし、できないことも多いのです。たまに「スケーリングくらいできるよね?」と考える院長先生もいらっしゃいます。お願いをし、出来ないと、「何で出来ないの!」となりますが、イライラしたところでスタッフができるようにはなりません。歯科衛生士のモチベーションを下げてしまうだけです。「新人歯科衛生士に”過度な期待”を持つ」ことは、ぜひやめていただければと思います。

雇用形態や年齢、職場の規模にもよりますが、ここ数年一般的に歯科衛生士の初任給は少々高めに設定されています。経営者という立場では「すぐに即戦力として働いてもらいたい」と考えたくなる気持ちももちろん分かります。ただ、成長への要求スピードが早すぎると、歯科衛生士がついていけずに早期退職したりすることも考えられます。

院長の中には、人材が育つのを待てない方もいらっしゃいます。ただ、「人が育つには時間がかかる」ことをぜひご認識いただきたいと思います。

歯科医師の先生方は、難関の国家試験に合格した優秀な方々です。一緒に働くすべての従業員が「1を聞いて10を知る」ことができる人ではないことを理解することも、歯科医院経営では大切だと思います。歯科衛生士の中には、自分で考えられない人、行動に移せない人など、さまざまな方がいます。先生方には、そうしたスタッフを受け止められる余裕を持っていただきたいのです。

「やらせてみたけど、できなかった」ということを受け入れることも大切です。「イライラするだけムダ」だと考えてもらいたいです。新人歯科医衛生士ができないことをできるようにするためには、どうすればいいのかについて、院長をはじめとして先輩職員も一緒になって考えることが重要です。

開業3年目からイライラする院長が多くなる?

長年、多くの歯科医院の人材育成に携わってきて感じるのは、医院経営の年数によって一緒に働くスタッフに対する捉え方や理解が変わってくるということです。

開業直後の1、2年はまず業績を上げることに集中するため、できないスタッフについて、ある程度我慢されることが多いです。3年目から5年目になると経営が安定してくるので、人材育成にもようやく目を向けられるようになり、できないスタッフに対して我慢が出来なくなりイライラすることが増えてしまう傾向にあります。

その後、10年以上歯科経営を経験されてきた院長は、新人歯科衛生士の気持ちや考えを理解した上で、適切なコミュニケーションで接することもできる方が多くなるようです。

次回は、新人歯科衛生士が医院の経営にも貢献できる一人前の歯科衛生士として成長するための具体的な取り組みである、新人研修の進め方を解説します。

■ 歯科衛生士育成サポート(歯科医療スタッフの業務を通じた経営改善)