前回は、提案型ミーティングをするにあたり大切な「なぜ」の重要さについてご紹介しました。
3回目となる今回は、その「なぜ」を押さえた上で、組織力向上を目指す歯科医院長が注意すべきこと、目指すべきことについてお話しします。
「アリの目病」に注意
「アリの目病」は歯科医師の職業病
「アリの目」「鳥の目」「魚の目」という言葉を聞いたことはありますか?これらは物事への見方の違いを表現した言葉で、このような意味を持ちます。
- アリの目は細かいところを見る繊細な目
- 鳥の目は上空から地上を見る俯瞰的な目
- 魚の目は水の中で流れを読み取る目
どの目が優れている、劣っているという話ではなく、状況に応じて「目」を使い分けることが重要だということです。
僕が考えた造語ですが「アリの目病」とは、細かいところばかりを見てしまうあまり、ダメ出し思考に陥ってしまうことです。
これは医療従事者であれば、誰しも陥るおそれのある症状だといえます。
というのも、医療現場では症状やその原因を見逃がさないように、診療中は常に「アリの目」で見ているから。
歯科医師にとってアリの目病は、職業病といえるのです。
「アリの目病」が経営の失敗につながる理由
「アリの目病」が、なぜ歯科医院経営の失敗につながるのか。
それは、頭の中が「ダメ出し脳」になってしまうためです。
医療現場では、つぶさに問題を見つけて解決することが求められます。
しかし、明確な正解が存在しない診療以外の場面でその力を発揮してしまうと、どうなるでしょうか。
明確な正解が存在しないということは間違いも存在しないのです、それなのに逐一「これがダメだ」「あれができていない」と指摘しまくるのは、周囲の人を委縮させ、場の雰囲気を悪くしてしまう原因になります。
実は私もその昔、「アリの目病」で大きな失敗をしたことがあります。
その原因は院内の細かなことまで指摘しまくる経営者になってしまっていたこと。
指摘すればするほど、スタッフの士気は下がる一方でした。
問題点が改善されることはなく、院内の雰囲気はどんどん悪くなっていき、「きちんと指摘していけば良くなるはずだ」と思い込んでいた当時の私には、状況悪化の原因がまったくわからなかったのです。
「アリの目病」の経営者の元では、スタッフからの意見や提案が出てくることはありません。
「細かいところを突っ込まれるのでは」「またダメ出しされるのでは」とスタッフが思っている限り、「面倒を増やすのは避けよう」と口をつぐんでしまうのは当然の流れです。
いくら「活発に意見を出してくれ」と伝えても、スタッフたちは「ムリムリ!」と内心、首を横に振っていることでしょう。
繰り返しになりますが、診療は「アリの目」で見る必要があります。
しかし、診療以外の場面においては「アリの目」が適さない場合が多いのです。
プラスの部分を見る重要性
鳥の目や魚の目に切り替え、「ダメ出し」ではなく、認めること・受け入れることに意識を向けることで、スタッフとのコミュニケーションも円滑なものになっていくはずです。
しかし、歯科医師に限らず、「先生」と呼ばれる職業の人たちは、どうしても「ダメ出し脳」に陥りがち。
これは、本人の意識だけではどうにもならない部分もあります。
そこで私が意識しているのは、「末席に座る機会を意図的に設けること」です。
知識量で敵わない異業種の人たちが集う場に行き、下座に座る機会を自ら作るのです。
強制的に「自分が偉くも何ともない」環境に身を置くことが、「先生」と呼ばれる人間にこそ必要なのではないかと個人的の思い実践しています。
目指すのは「カラフル」な組織
ブラック企業の反対は?
前回、私が思う「ブラック企業」についてご紹介しました。
では、ブラック企業の反対の言葉は?それは「カラフル企業」です。
ブラック企業の反対はホワイト企業であると思われがちですが、ブラックからホワイトに変わっただけで、スタッフの個性を無視し、1つの色で組織をベッタリ塗りつぶすという点で、ほぼ同義語と私は捉えています。
正解のない時代では、スタッフの個性を生かしたカラフルな組織が重要です。
現場の意見が出づらく、「全てにおいて院長の指示を待つ」という一色に染まった環境は、仕事に対する手間も時間もかかります。
院長自身にも医院全体にもストレスを与えかねません。
これは生産性が低く、ストレスフルな状態であるといえるでしょう。
「カラフル」な組織とは
目指すべきはブラックでもホワイトでもなく「カラフル」な組織。明確な答えがなく、変化が激しい社会を生き抜いていく組織には柔軟さが必要です。
そのためには、スタッフの個性(=カラー)を活かし、コミュニケーションを取りながら一緒に歩んでいく、「カラフル」さが求められるのです。
カラフルな組織を作るために必要なのが院長の胆力です。
一人ひとりの考えや価値観を許容できる院長の姿勢が、各自の長所や強みを引き出し、その力を存分に発揮できる理想の組織につながっていきます。
院長に求められる「覚悟」
院長に求められる「胆力」は、言い換えれば「覚悟」ともいえます。
もっと言えば「バカになる覚悟」です。具体的には「私は明確な想いはある、しかし診療以外のところは明確な答えがわからない」とスタッフに言えるかどうか。
自己開示をして「だから、みんなの意見を聞きたい」と言えるようになることが大切です。
ただし、これはあくまでも私の考え。
正直なところ、年齢やキャリアを重ねれば重ねるほど、覚悟を持つのは大変だと思っています。
また、もしあなたの医院が十分に地域を支えていて、スタッフの離職も少ないという状況があるのであれば、旧態依然としたスタイルでもそれは正解かもしれません。
しかし長い目で見たとき、組織として強さを持つのはカラフルな組織です。
ただ、それが唯一絶対的な正解ではないとうこともまた、頭に留めておいていただければと思います。
日々のいろいろをネタにする
何かが起こる日常をうまく乗りこなすために重要な「ミーティング」
仕事やプライベートを問わず、常に「何かが起こる」のが私たちの日常です。
悩みは尽きることがありませんし、トラブルや嫌なことも「まったくなかった、ゼロ!」といった日の方が少ないでしょう。
そのいろいろなことが起こる日常を、せっかくならネタとしておいしく味わいましょう。
前回のコラムでも紹介した「ミーティング」は、「何かが起こる日常」を楽しんで乗りこなすための武器だと思っています。
一方、ミーティングだけでは日々の様々な出来事を乗り越えられない場合は一体どうしたら良いでしょうか。
トラブルに見舞われても進み続けるには「理想の設定」が重要
毎日のように様々な「何か」が起きても日々の波に飲み込まれることなく、上手に乗りこなしていくために必要なこととは?私は「理想の設定」だと思っています。
船をイメージしてみましょう。
「理想」は「行き先」です。行き先が明確でないと、乗組員であるスタッフたちは、船を進めるために何をどうしていいのやら、想像することも考えることもできません。
暖かいところに行くのか、寒いところに行くのかもわからないのに、リーダーから「準備せよ」と言われ、適切な準備ができる人がいるでしょうか?
そもそも「この船、浮いているだけで進んですらいないのでは?」といった不安に陥ることも考えられます。
「目指している先がわからない」状況は、現場に大きな苦痛を与え、ストレスの原因になります。
特に、今回の新型コロナウイルスのような有事の際ほど、「行き先を指し示す」力がリーダーに求められます。
「あっちに行けば、大陸がある」と指し示すことで、スタッフたちはより効率的に仕事に取り組めるのです。
行き先を示し、みんなでどうすれば目的地に向かえるのかを考える。
これがミーティングの役割です。
次回はミーティングの進め方についてお伝えします。
角 祥太郎先生のnote「歯科コンサルタント 角祥太郎が説く 歯科クリニック経営論」はこちら
角 祥太郎先生のオンライン若手歯科医師ゼミ「Light Heart Dental College」説明会のYoutube動画はこちら
角 祥太郎先生のオンラインサロン「カド部屋」(月額980円)はこちら
<角 祥太郎先生の書籍紹介>
「最強の歯科ミーティングバイブル」
角 祥太郎 著
(デンタルダイヤモンド社)
角流!(KADO STYLE!)ここにあり。
歯科医院のチーム力を高めるステップアップワーク集。
8医院の実践事例を紹介。
「なぜ」をまず考えることが最も大切だ。
「なぜ」がわかっていないと何をしても迷い、損をする。
まずは「なぜ」を考えよう。
「なぜ」を理解したら、
「何をどのようにするか」を最適化して決めれば、
ミーティングはゲームになる。
8つのパートナー歯科医院から届いた現場の率直な感想。
そのとき何が起こったのか。
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株式会社clapping hands 代表取締役
歯科医師
歯学博士
2009年、東京歯科大学解剖学講座で歯学博士取得後、千葉県の大手医療法人海星会に就職。3年で副理事長に就任。社内ベンチャーとして訪問歯科や歯科医院の海外展開を支援する会社の立ち上げをリードする。
2017年、株式会社clapping hands を設立し、診療の傍らメーカーへのアドバイザーも務め2021年は142回の講演をおこなった。
学生時代よりプロレスラー(キム・ヨッチャン)としても活躍し、週刊プロレスの表紙掲載や著名人との対戦経験もある異色の経歴の持ち主でもある。