歯科医院も働き方改革は欠かせない 特に取り組むべき5つのポイントとは
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近年の歯科業界は、歯科衛生士が圧倒的な売り手市場で、1人の新卒歯科衛生士に対して20医院での争奪が行われている状況です。

さらに、働き方改革関連法が順次施行され、歯科医院(歯科診療所)も労働環境の整備に取り組むことは必須となっています。

院長は、求職者が歯科医院を選べる立場にあって労働環境や勤務条件でふるいにかけられる現状を認識し、しっかりと対策を行う必要があります。

歯科医院も働き方改革は必須

順次施行されている働き方改革関連法では、労働時間の見直しと雇用形態による待遇格差の解消が大きなポイントで、歯科医院も例外なく対象となります。

ここではまず働き方改革の概要をおさらいします。

働き方改革関連法は2019年4月から順次適用

働き方改革関連法は、働く人々が多様で柔軟な働き方を自分自身で選択できるようにすることを目指して改正・施行されました。

2019年4月から順次施行されており、2021年3月現在「時間外労働の上限規制」と「年次有給休暇の確実な取得」については大企業、中小企業ともに適用済みです。

「正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の禁止」を目指す、いわゆる「同一労働同一賃金」については、2020年4月に大企業にのみ適用されています。

しかし、2021年4月からは中小企業にも適用となり、医療機関も対象に含まれることからスタッフを雇用している個人経営の歯科医院では対応が必要です。

時間外労働の上限には罰則も規定

「時間外労働の上限制限」では、違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

時間外労働は原則として月45時間(年間6ヶ月まで)、年360時間が上限に定められており、特別な理由があれば上限を超えての勤務も可能です。

しかし、その場合でも月100時間未満、年720時間以内と規定されています。

働き方改革の2つのテーマと具体的内容

働き方改革関連法の見直し内容は多岐にわたりますが、労働時間と公正な待遇の確保が大きなポイントです。

ここではそれぞれについて解説します。

労働時間法制の見直し

働き方改革の1つ目のテーマ「労働時間法制の見直し」では、働き過ぎを防ぐだけでなくワーク・ライフ・バランスの確保や多様で柔軟な働き方の実現を目的として、いくつかの制度が整備されました。

以下は労働時間法制の主な見直し内容です。

  • 残業時間の上限規制
  • 勤務間インターバル制度の導入促進
  • 年5日間の年次有給休暇の取得
  • 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
  • 労働時間の客観的な把握
  • フレックスタイム制の拡充
  • 高度プロフェッショナル制度の創設
  • 産業医産業保健機能の強化

労働環境の改善や労働者の状況に応じた働き方ができるような考慮がされています。

同一労働同一賃金の推進

働き方改革の2つ目のテーマである「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」では、正社員と非正規雇用の待遇格差の解消が目的です。

どのような雇用形態でも基本給や賞与などについて納得できる水準を実現し、働きやすい労働環境を整備することを目指しています。

推進されている主なポイントは以下の通りです。

  • 不合理な待遇差をなくすための規定の整備
  • 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  • 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の規定の整備

例えば、同じ歯科医院で複数の歯科衛生士が働いている場合、働き方や役割が同じなのに正規職員とパート職員との間に不合理な待遇差がある場合は、格差を是正しなければなりません。

働き方改革のテーマ1.「労働時間法制の見直し」の具体的内容

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働き方改革関連法の見直し内容は多岐にわたりますが、「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」の2つに大別されます。

「労働時間法制の見直し」は、主に以下のような内容です。次項でそれぞれ具体的に解説していきます。

  • 残業時間の上限規制
  • 勤務間インターバル制度の導入促進
  • 年5日間の年次有給休暇の取得義務化
  • 月60時間超の残業の割増賃金率引上げ
  • 労働時間の客観的な把握義務化
  • 「フレックスタイム制」の拡充
  • 「高度プロフェッショナル制度」創設
  • 産業医産業保健機能の強化

残業時間の上限規制

長時間労働による生産性の低下や過労死を防ぐため、次のように残業時間(時間外労働)の上限が定められました。

  • 原則として月45時間、年360時間以内
  • 特別な事情があって労使が合意する場合でも、月100時間未満(休日労働を含む)、年720時間以内

違反した場合には罰則(6ヶ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦)が科されることがあります。

勤務間インターバル制度の導入促進

勤務間インターバルとは、1日の勤務終了後、翌日の出社までに一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。

労働者の十分な生活時間や睡眠時間の確保を目的としており、努力義務とされています。

導入には、前日の帰社時刻に応じて翌日の始業時間を遅らせる方法や、設定した時刻以降の残業を禁止する方法などが考えられます。

年5日間の年次有給休暇の取得義務化

年次有給休暇が10日以上発生している労働者に対して、年5日間の取得が義務付けられ、違反した場合には6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。

これまでは、労働者が申し出をしなければ、有給休暇の取得ができませんでしたが、言い出しにくいという理由や取得率の低さから、労働者の希望を踏まえて取得時季を指定する形となっています。

月60時間超の残業の割増賃金率引上げ

労働者の健康維持や生活時間確保を目的として、月の時間外労働が60時間を超えた場合、割増賃金の割増率を50%に引き上げる制度が大企業だけでなく、中小企業にも2023年より適用されます。

ただし、引き上げ分の割増賃金の代わりに、有給休暇を付与する制度を設けることが可能で、導入には労使協定が必要です。

労働時間の客観的な把握義務化

これまでも使用者は、労働時間の適切な管理を義務付けられていましたが、管理監督者や裁量労働制適用者に関しては対象外であったため、割増賃金の未払いや長時間労働といった問題が発生していました。

それらを踏まえ、タイムカードやICカードなどによる始業・終業時刻の確認、記録が義務付けられ、3年間の保存が必要になります。

「フレックスタイム制」の拡充

フレックスタイム制は、総労働時間の範囲内で労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決め、効率的に働くことができる制度です。

これまで1ヶ月を基準として適用されていた、フレックスタイム制の上限が3ヶ月に延長されました。

これにより組織の繁忙期や、労働者の生活ニーズに合わせた働き方が可能になります。

「高度プロフェッショナル制度」創設

高度プロフェッショナル制度とは、高い専門知識を持ち、一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たす職種の労働者を対象に、労働時間規制や割増賃金支払の対象外とする制度です。

本人の同意のもとで適用され、制度の導入にあたっては、労使委員会で5分の4以上の賛成を得る必要があります。

主に公認会計士や弁護士、研究開発者などが対象です。

産業医産業保健機能の強化

産業医が労働者の健康管理を適切に行うために、事業者は業務状況や労働時間などの情報提供が義務付けられました。

さらに産業医から受けた勧告についても、衛生委員会に報告しなければなりません。同時に、労働者からの健康相談や健康診断といった体制整備も求められています。

働き方改革のテーマ2.「同一労働同一賃金の推進」の具体的内容

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ここからは、働き方改革関連法の2つ目の見直し内容である「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」について解説します。ポイントは次の3つです。それぞれ次項で詳しく説明します。

  • 不合理な待遇差をなくすための規定の整備
  • 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  • 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

不合理な待遇差をなくすための規定の整備

同一企業内における、正社員と非正規社員との不合理な待遇差をなくすため、ガイドラインが設けられました。

いわゆる「同一労働・同一賃金」と呼ばれる制度で、パートタイムや有期雇用労働者に対する、基本給や賞与などあらゆる待遇についての待遇差を禁止しています。

どのような雇用形態でも、納得して働き続けられるような環境整備が求められているのです。

労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

正社員と非正規社員との待遇差があった場合、非正規社員であるパートタイム・有期雇用労働者・派遣社員は、事業主に対して説明を求めることが可能になりました。

また、事業主は説明を求められた場合、内容や理由を説明する義務が生じます。

行政ADRの規定の整備

行政ADRとは、事業主と労働者間の紛争を裁判をせずに解決する手続きです。

これまで非正規社員に対する行政ADRの規定はありませんでしたが、働き方改革により都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きが可能になります。前述した待遇格差や説明義務に対する問題も対象です。

歯科医院が働き方改革で特に取り組むべき5つのポイント

働き方改革のテーマや内容について解説してきましたが、歯科医院として取り組むべき内容にはどのようなものがあるでしょうか。

特に取り組みたいポイントを5つ紹介します。

歯科医院の働き方改革のポイント1:有給休暇の取得推進

働き方改革では、有給休暇の取得が義務化されています。

歯科医院の院長は、10日以上の年次有給休暇が付与されるスタッフに対して、できる限り希望通りの時季に年5日以上の有給休暇を与えなければなりません。

対象には管理監督者や有期雇用労働者、パートスタッフも含まれます。

少人数で運営している歯科医院では休暇状況や計画などを管理し、繁忙期・閑散期、大型連休時期などを考慮しつつスタッフと相談しながら確実に有給休暇を取得させることが重要です。

歯科医院の働き方改革のポイント2:労働時間の管理

歯科医院は、管理監督者や裁量労働制適用者も含めたスタッフの労働時間を管理しなければなりません。

「院長の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間とし、始業・終業時間や休日などの適切な管理が必要です。

働き方改革の「労働時間法制の見直し」では、労働時間を客観的かつ適切な方法で把握することを義務づけ、方法としてタイムカードやICカードなどの利用を挙げています。

タイムカードの使用記録をもとに労働時間を確認・把握することが時間外労働の削減につながるのです。

歯科医院の働き方改革のポイント3:スタッフの待遇の点検

2021年4月から小規模な歯科医院においても同一労働同一賃金が導入されます。

そのため不合理な格差がないかスタッフごとの職務や実質的な仕事内容、さらには待遇を点検する必要があります。

同一労働同一賃金の導入後は医院内において、正社員と非正規社員の間で業務内容や能力に違いがなければ基本給や賞与、福利厚生などに差をつけるのは禁止です。

もし正社員との間に待遇差が生じる場合は、合理的な理由を説明できるようにしておかなければなりません。

歯科医院の働き方改革のポイント4.支出管理の徹底

働き方改革を実施すると次のような理由で人的支出が増加する可能性があります。

  • 理由1.残業時間減少・有給取得増加による人手不足
  • 理由2.社会保険の支払額増加

残業時間の制限や有給休暇取得義務により人手不足が予想され、新たにスタッフを雇用する必要性、あるいは歯科衛生士や歯科助手に対する待遇の引き上げも必要なケースが考えられます。

また、社会保険の加入要件が緩和されることで、歯科医院の支出が増加する恐れもあるでしょう。

人への投資は必要ですが、人的支出が増えるなかで経費を管理し、支出をコントロールする必要があります。

歯科医院の働き方改革のポイント5.生産性の向上

人的支出が増える場合でも、スタッフの生産性を高めることができれば、経費増加を補うことは可能です。

オペレーションの効率化やITシステム導入などの経営改革によって、経営効率を高める取り組みも大切といえます。

また、診療方針やオペレーションの周知徹底を図り、スタッフそれぞれが役割を把握しながら、相互にサポートできる環境作りも必要です。

効率を重視し、少数精鋭での業務が可能になれば、経営の安定化にもつながります。

まとめ

働き方改革関連法に関しては歯科医院も着実な対応が必要です。2020年の歯科衛生士を対象としたアンケート「歯科衛生士の就活事情」では、歯科衛生士が就職先を選ぶ際に重視するポイントは休日休暇がトップ、次いで勤務地、勤務時間となっていました。

つまり、職場環境を整備すれば、スタッフが不安なく業務に取り組めるだけでなく、歯科衛生士が歯科医院を選ぶ際に魅力を感じるポイントとなり、優秀な人材も確保しやすくなることでしょう。

引用元:
厚生労働省 「働き方」が変わります!!
厚生労働省 働き方改革特設サイト
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あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。