年々、企業が社会的信用を守るためにコンプライアンスを重視するという流れが顕著になってきています。
歯科業界も同様で、実際に歯科医院としての「ハラスメント対策を、どのようにすればよいのか?」という歯科院長からの相談も多くなっています。
この連載では、ハラスメントの定義や知識、パワハラやセクハラの具体的な内容および歯科医院における対策について、経営者側の弁護士としてハラスメント等に関する紛争を多く取り扱っている弁護士・佐賀寛厚が解説していきます。
今回は、セクシャルハラスメントの内容と、その対策について解説します。
セクハラとは?
セクハラの定義
「セクシャルハラスメント(セクハラ)」とは、
- 職場において行われる
- 性的な言動に対する
・その雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、
又は、
・当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること
をいいます。
「職場」とは
「職場」とは、従業員が通常、業務を遂行する場所だけではなく、取引先の事務所・打ち合わせのために使用する飲食店・就業時間外の宴会・出張なども含まれます。
特に、セクハラの場合、パワハラと比べて、宴会や出張などで発生する傾向にあります。
「性的な言動」とは
「性的な言動」とは、性的発言(性的な事実関係を尋ねることや、性的な内容の情報を意図的に流布することなど)や性的行動(性的な関係を強要することや、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布することなど)のことであり、男性から女性だけではなく、女性から男性、同性間も含まれます。
セクハラ対策の現状
厚労省による「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間にセクハラを経験した者の割合は10.2%であり、業種別では「医療・福祉」業種は11.1%と平均よりも高い数字でした。
このように、セクハラ問題というのは、歯科医院においても未だに重要な問題であることがわかります。
また、「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」の公布に伴い、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法男女雇用機会均等法が改正されたため、令和2年6月からセクハラに関する防止対策が強化されました。
これらにより、事業主としては以下の措置を講じることが義務付けられましたので、これらを守っていない場合には、歯科医院または歯科院長が責任を問われることになります。
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
- プライバシー保護及び不利益な取扱いの禁止
セクハラには2種類がある
セクハラには、「その雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け」るという「対価型セクシャルハラスメント」と、「性的な言動により当該労働者の就業環境が害される」という「環境型セクシャルハラスメント」が存在します。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
対価型セクシャルハラスメント
「対価型セクシャルハラスメント」は、職場において、労働者の意に反して性的な言動が行われ、それを拒否したことによる解雇・降格・減給などの不利益を受けることを指します。
具体的には、例えば、上司がスタッフの腰や胸などに触った際に、抵抗されたため、そのスタッフに不当な人事評価をすることなどが挙げられます。
環境型セクシャルハラスメント
「環境型セクシャルハラスメント」は、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなり、スタッフが就業する上で、看過できない程度の支障が生じることをいいます。
具体的には、例えば、上司がスタッフの腰や胸などに度々触ったため、スタッフが苦痛を感じ、就業意欲が低下してしまうことなどが挙げられます。
また、同僚が取引先において、スタッフに関わる性的な情報を意図的かつ継続的に流し、そのために、スタッフが苦痛に感じて能力が十分に発揮できないケースなども該当します。
他にも、歯科医院に女性のポスターを貼ったり、院長が性的な話題を武勇伝のように繰り返したりするなど、スタッフが嫌な気分になる場合も環境型セクシャルハラスメントになります。
セクハラの判断基準
一定の客観性が必要
セクハラに該当するかどうかの判断について、「被害者がセクハラと思ったらセクハラである」というような誤解をされている方が多くおられますが、これは間違いです。
最高裁判例でも、労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要と判断しています。
そして、被害者が女性であった場合は、「平均的な女性の感じ方」を基準とし、被害者が男性の場合は、「平均的な男性の感じ方」を基準としています。
したがって、従業員が、過剰にセクハラと主張している場合であっても、客観的にみるとセクハラに該当しないことがありますので、注意が必要です。
被害者の同意は認められにくい
セクハラの相談を受けた際、加害者とされる方から「被害者の同意があった」と主張されることがよくあります。
しかしながら、被害者の同意を認めることは、原則として慎重な判断を要するものとされています。
例えば、厚労省の専門検討会の報告書では、「被害者は、勤務を継続したいとか、行為者からのセクシャルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者からの誘いを受け入れることがある。このため、これらの事実から被害者の同意があったと安易に判断すべきではない」と指摘されています。
そのため、歯科院長のように、スタッフに対して非常に強い立場にある場合には、その場で被害者が同意していたように見えても、被害者の同意があったと認められない場合も多いので、十分に注意する必要があります。
1回でセクハラになることも…
被害者の意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、たとえ一回であっても「就業環境を害される」ということになり得ます。
また、繰り返し行われているケースでは、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、同じく「就業環境が害されている」と判断されます。
セクハラを予防するためには
大前提として、まずは「職場での人間関係」であり「友達」などではないという意識を持つことが大切です。
また、パワハラは、業務指導が行き過ぎた場合に発生することも多いですが、セクハラは、一般的には業務指導の延長線上にはありません。
そのため、セクハラ問題が発生するということ自体が、問題であると考えた方がよいです。
以上を踏まえて、セクハラを予防するために以下の5点に注意してください。
相手が不快だと感じていれば、セクハラにあたると考えた方が無難です。
人は両手を広げた程度の範囲である「ボディーゾーン」に近づかれると不快に感じる場合が多いので、不必要なボディタッチは行わないようにしましょう。
男性が「主」女性が「従」という考え方がセクハラを招くことが多いため、特に男性の歯科院長は「男性の優越意識」を持たないように注意しましょう。
セクハラの隠蔽や被害者を黙らせるような企業風土は、被害の深刻化を招きます。
スタッフが被害にあっていることに気が付いたら、歯科院長には適切な対処を行うことが求められます。
また、外部の相談窓口などの利用も検討しましょう。
- 「男性のくせに」「女性だから」などの発言、または宴席で、上司の側に座席を指定したり、お酌などを強要したりするのも避けなければなりません。
まとめ
これまで4回にわたってハラスメント問題について解説してきました。
ハラスメント問題が発生すると、被害者の心身の健康状態の悪化という問題が発生することに加えて、歯科医院としても、損害賠償などのリスクがあります。
また、歯科医院の場合、従業員規模がそれほど大きいわけではないため院内で発生した事象に関する情報が他の従業員にすぐに回りやすいうえ、横の繋がりが強いため院外に対しても情報が流出しやすいことから、ハラスメントが発生した場合、院内外を問わず情報がすぐに共有されてしまうおそれが高いという特徴もあります。
これにより、歯科医院のイメージが悪化することになり、人材不足、採用コストの増大などのリスクが生じますし、患者も院内の雰囲気は敏感に察知していますので、最終的には患者離れも起きてしまうといえます。
つまり、ハラスメント問題が発生すると、歯科医院経営自体が成り立たなくなるおそれがあるということです。
歯科院長としては、ハラスメント問題について知らなかったということでは許されませんので、ハラスメント問題に関する知識を持ち、院内の状況を把握し、より良い職場環境を築いていく必要があるといえるでしょう。
ご自身や部下の言動がハラスメントに該当しないか心配になったり、ハラスメントに該当する言動等について、もっと具体的な話を聞きたい場合には、お気軽に当事務所にご連絡ください。
あきばれ歯科経営onlineをご覧いただいた旨おっしゃっていただければ、初回のご相談については無料で対応させていただきます。
【おすすめセミナー】
・【無料】たった4ヶ月で歯科衛生士276名の応募獲得! 歯科衛生士・歯科助手採用セミナー
・【無料】矯正治療が得意な先生に贈る マウスピース矯正集患セミナー
檜山・佐賀法律事務所 弁護士
京都市出身。
京都大学、京都大学法科大学院卒業。
2008年 弁護士登録。
2020年、経営者の「参謀」としての業務に注力するため、弁護士4名で弁護士法人檜山・佐賀法律事務所を開設。東京オフィス、大阪オフィスを構える。
医療業界の労働環境の特殊性を踏まえた経営者側の弁護士として、紛争にならない・紛争になった場合にも負けないような社内体制の構築・運用や個別案件の対応を得意としており、紛争処理も多数取り扱う。