2022年版 歯科業界の現状トレンドと今後の予測

近年、う蝕有病率低下に伴う治療ニーズの変化や少子高齢化による患者数の減少など、歯科業界を取り巻く状況は大きく変化しています。

そのため、今後も安定した経営を継続できるかどうか、不安を感じられている先生も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、歯科業界の現状および課題を踏まえつつ、これからニーズが高まる歯科治療分野、歯科業界に求められる認識や取り組みを紹介します。

「歯科業界は厳しい」は本当か?現状と課題

pixta_19398444_M_歯科医師_ユニット
(画像=pixta_19398444_M_歯科医師_ユニット)

歯科業界が置かれている現状、およびそれに対する課題を解説します。

コンビニより多いと揶揄された歯科医院の構造変化

厚生労働省の調査データ(「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)によると、2019年時点での歯科医院の施設数は68,500となっています。

ここ数年は微減傾向にありますが、コンビニの店舗数が同年で55,000程度ということを踏まえれば、かなり多いと言えるでしょう。

また、歯科医師の数は年々増加しており、ここ10年以上は10万人を超えています。

こうした状況を受けて、近年では歯科医師の数と質を適正に保つために、歯学部の定員減+歯科医師国家試験の合格水準引き上げによる新規参入歯科医師の削減が行われてきました。

2022年の第115回歯科医師国家試験の合格率は61%と、1/3以上が不合格になるほどの狭き門です。

加えて、

  • 働き方の多様化による、勤務医の継続や非常勤を選択する歯科医師の増加
  • 院長の高齢化と後継者不在

といった要因により個人歯科医院が減少している反面、医療法人が増加しています。

個人歯科医院と医療法人の比率を見ても、20年前の9:1から8:2に変化しているため、歯科医院の大規模化・集約化が進んでいると言えるでしょう。

さらに、2018年の医業収益を見てみると、前年度より全体で1.2%伸びていますが、個人歯科医院の伸び率が0.6%であるのに対し、医療法人は2.3%と格差が生じています。

今後は小規模医院の廃業もしくはM&Aによる統合が進むと考えられるため、地域によっては歯科医院・歯科医師が不足し、十分な歯科医療サービスを提供できなくなる懸念も指摘されています。

虫歯の罹患率も激減した今、治療ニーズの変化に合わせた経営の見直しは待ったなし 

日本は1960年~1970年代にかけて「虫歯の洪水時代」と呼ばれるほど、国民の間でう蝕が蔓延していました。

しかし、フッ化物応用などの予防ケアの普及や歯科検診の充実化などにより、う蝕有病率は年々減少しています。

12歳児のDMFT指数が2020年時点で0.68、2016年の8020達成率が51.2%といった数値を踏まえても、国内の患者さまにおける口腔内の健康状態は着実に改善しているのです。

今の子供は小さな頃から予防ケアを続けているため、そもそも子供の虫歯の数も激減しています。

その結果成長しても虫歯をしっかり予防できているので、従来のような「痛くなったら通院」「歯を削って被せる」という治療は過去のものであり、歯科医療に対する患者さまのニーズは大きく変化しているのです。

また、近年は歯の喪失要因としてう蝕よりも歯周病の占める割合が大きくなっており、患者数も増加傾向にあります。

こういった点を考慮して、今後はニーズの変化に合わせて対応しなければ、経営安定化も望めないと言えるでしょう。

開業している地域の人口比率や年齢層、平均年収なども把握・分析しながら、経営方針を決めることが大切です。

2017年以降患者数は減少傾向|高齢者向け治療の充実が一つのカギ

患者調査のデータによると、歯科医院の推計患者数は2014年まで微増傾向にありましたが、2017年から減少に転じています。

また、人口推計調査のデータでは、日本の人口は2045年時点で約16%、2065年時点で約30%減少すると予測されているのです。

これらのデータから将来的な推計患者数を割り出してみると、2045年時点で約10%、2065年時点で約25%の減少が予測されます。

すでに日本国内の人口が減少トレンドに入っていることを踏まえても、患者数の減少は避けられない課題と言えるでしょう。

ただ、一方で高齢者(65歳以上)の患者数が増えることも見込まれているため、それに合わせて治療メニューや集患施策を検討することが、経営安定化につながる対策となります。

ここから先の歯科医院経営は保険診療だけでは成り立たない?

個人歯科医院の年収(損益差額)を見てみると、最も古いデータ(2001年)は約1,274万円、2018年は約1,200万円となっており、ここ数年は微増傾向にあります。

しかし、この期間中に消費者物価指数が約3%上昇していることを考慮すると、2018年の実質年収は2001年より100万円ほど低下しているのです。

医科・歯科を問わず国民医療費は年々増加していますが、歯科の診療報酬改定率は十分ではなく、医療費に占める歯科医療費の比率も年々低下しています。

さらに、1件あたりの診療報酬点数は減少傾向にあります。

「保険診療では十分な治療を提供できない」といった状況を反映してか、医業収益に占める割合も保険診療より自費診療(その他の診療収益)のほうが寄与率は高くなっているのです。

より良い治療を求める患者さまのニーズの変化や金パラ価格高騰による逆ザヤ問題などを考えても、保険主体の診療スタイルの見直しを検討する必要も出てくるかもしれません。

関連記事:歯科医院の自費率アップ そのメリットと具体策

歯科医療従事者の人手不足

先述したように歯科医師の数は年々増えていますが、歯科医療従事者という全体的な視点で見ると、慢性的な人手不足に陥っています。

■歯科衛生士
歯科衛生士の場合、2019年時点の有効求人倍率が20.7%です。これは20件の歯科医院が1人の歯科衛生士にアプローチしているという状況なので、超売り手市場と言えます。

また、歯科衛生士は転職経験率も約70%と高く、超売り手市場ゆえに転職先の候補も多いため、人材確保に苦戦する歯科医院は少なくありません。

■歯科助手
医療施設調査のデータによると、1996年時点では歯科助手の従事者数は10万人を超えていましたが、2017年時点では7万人を切るかどうかという数値まで減少しています。

患者さまのカウンセリングや受付、歯科医師・歯科衛生士のアシスタントなど、多方面で活躍する歯科助手ですが、こちらも人材確保が難化しているのです。

■歯科技工士
歯科技工士に関しては、そもそも若手の志望者が少ないうえ、他の職種と比べて離職率も高くなっています。

離職理由のトップが給与・待遇面なので、歯科衛生士のように復職を考える人も少なく、現役の高齢化が進んでいる状況です。

さらに、新卒の有効求人倍率は10倍以上とも言われており、求職者有利の売り手市場が続いているため、人材確保の難易度は高いでしょう。

関連記事:人手不足が深刻な歯科業界 人材確保に必要な6施策

新型コロナウイルスによる影響は?

2020年以降に猛威をふるった新型コロナウイルス感染症は、歯科業界にも大きな影響をもたらしました。

特に日本国内で流行し始めた2020年3月直後は、9割の歯科医院が患者減・売上減といった問題に直面し、頭を悩ませることになりました。

しかし、多くの歯科医院は同年6月以降、他の医療機関に先んじて回復を見せ、流行前の水準にまで戻しています。

日頃から感染対策を徹底するという業務的な性質、かかりつけ医への信頼などが功を奏して、早期回復という結果につながったと考えられるでしょう。

また、歯科医療に関する学会やイベント、セミナーなどはオンラインでの開催が増えています。

移動時間や交通費がかからないといったメリットから、新型コロナウイルスの流行が収束後もセミナーや勉強会などを中心にこの流れが続くかもしれません。

そもそも人々はなぜ歯科医院に来院するのか?

そもそも人はなぜ歯科医院に足を運ぶのでしょう?

一昔前の歯科医院利用の目的は「虫歯の治療」が主な通院理由でした。

しかし、治療技術が上がり予防歯科の意識が広がったことで、今では治療目的よりも「虫歯にならないため」の予防で通院する人が増えています。

また矯正やインプラントなど、最新技術を用いたより美しい歯を目指しての通院も増えているのも近年の特徴です。

このような患者の動向を知り、希望通りの治療を実施・実現していくことも大切です。

これからニーズの高まる歯科治療分野とは?

pixta_69709411_M_歯科医師_治療中
(画像=pixta)

今後ニーズが高まると思われる各種歯科治療をまとめたので、ぜひそれぞれの内容を参考にしてみてください。

予防歯科

近年、う蝕や歯周病を未然に防ぐための予防歯科のニーズが高まっています。

実際、厚生労働省の調査データを見てみると、20歳以上で過去1年間に歯科検診を受けた人の割合は2016年時点で50%以上なので、以前と比べて着実に浸透していると言えるでしょう。

患者調査のデータを見ても、最も患者数の伸び率が高いのは「検査・健康診断(査)及びその他の保健サービス」となっています。

また、2020年の診療報酬改定では、初期う蝕や安定期の歯周管理など、予防歯科への保険適用範囲が拡大されました(か強診の認定を受けた場合)。

さらに、歯周病重症化予防治療も新たに保険適用となるなど、予防歯科の普及に向けた取り組みが歯科業界全体で進められています。

予防歯科の促進は長期継続的な来院につながりやすいため、経営安定化の観点から考えても検討・導入する価値が高いと言えるでしょう。

審美歯科

患者調査を見ると、DMFT指数やう蝕の患者数が減少する中で、補綴治療の患者数は近年増えています。

これは歯冠修復のためのインレーやクラウンだけではなく、セラミックなど審美目的の自費補綴が増加していることが要因として考えられるでしょう。

実際、歯科材料として使うセラミックの出荷量は、コロナ禍の影響を受けても伸びています。

口腔内の健康を守るためだけではなく、見た目の美しさというメリットに惹かれて、白い歯を求める人が増えているのです。

この状況を踏まえると、金属価格の高騰もあって、保険CAD/CAM冠の普及も進むと予測されます(2022年度の診療報酬改定では、CAD/CAMインレーも保険収載されました)。

マウスピース矯正

特に成人の患者さまの間では、主流のマルチブラケット装置と比べて目立たず、気軽に矯正できる治療法としてマウスピース矯正のニーズが高まっています。

米国のアライン・テクノロジー社によれば、世界中で患者数が増加しているマウスピース矯正装置「インビザライン」の症例数は日本でも伸びており、コロナ禍にあってもプラス成長しているほどです。

口腔内スキャナーを使った光学印象、およびコンピュータシミュレーションによって一般歯科医でも導入しやすい点も、普及を後押ししていると考えられます。

実際、マウスピース矯正に関しては先生方の関心も高く、歯科医師・歯科衛生士に向けたセミナーの開催も多くなっています。

高齢者歯科・訪問歯科

先述したように日本の人口は減少傾向にあり、歯科医院の患者数も2045年時点で約10%減少すると言われています。

一方、今後さらなる高齢化社会を迎える中で65歳以上の患者数は増加すると予測されているため、高齢者に対する補綴治療や歯周疾患治療などは引き続き高いニーズが見込めるでしょう。

インプラントも以前は減ったと言われていましたが、治療法がきちんと確立されてメリットも認知された現在、出荷本数は安定しています。

インプラント治療の経験者は5%程度とまだまだ割合的に低いことを踏まえても、今後も治療の希望は一定数あると考えられます。

また、少子高齢化が著しく進んでいる日本では、加齢による足腰の不調や運動機能の低下から、通院が困難という患者さまも増えているため、訪問歯科も成長領域です。

自宅に直接訪問して治療できるようになれば、患者さまご自身はもちろん、その介護に携わるご家族の負担も軽減できるメリットがあり、特に70歳以上の方ではニーズが高いでしょう。

歯科業界に今後求められるもの

pixta_34759169_M_歯科医師と歯科衛生士
(画像=pixta)

これからの歯科業界や歯科医院に求められる認識や取り組みについても解説します。

企業努力はどの会社でも必要なので、ぜひマーケティングの意識を取り入れてください。

サービス品質

日本歯科医師会の調査データによると、直近で受診した歯科医師・歯科医院に満足している理由として、次のような意見が上位に挙げられています。

  • 時間通りに治療を受けられた
  • 治療までの待ち時間がなかった
  • 受付・スタッフの対応がよかった

このように歯科治療そのものだけではなく、待ち時間や接客対応にも着目されています。

治療がどれだけ上手くても、それ以外の面でマイナスポイントがあると、最終的な評価が低くなってしまう可能性もあるのです。

患者さまがストレスなく治療を受けられるようにするためには、質の高い歯科治療を提供することはもちろん、十分なスタッフ教育を行って、歯科医院全体のサービス品質も高める必要があります。

Webマーケティング・DX(デジタルトランスフォーメーション)

最近はインターネットやスマートフォンが普及していることもあり、Webサイトから歯科医院の情報を集める人が急激に増えてきています。

歯科医院があちこちに乱立し、患者さまのデンタルリテラシーも高まっている現状では、ホームページなどで自院の差別的価値をわかりやすく伝えなければなりません。

伝えるべき情報を厳選することはもちろん、スマートフォンでも見やすいデザインにしたり、ページの表示速度を早くしたりすることも重要となります。

また、ネット予約システムやデジタル診察券の導入、SNSでの予約確認など、ITを活用した利便性の向上も行うことで、集患や満足度アップにつながるでしょう。

働きやすく魅力的な職場づくり

歯科業界は今なお人手不足が続いており、多くの歯科医院が採用に力を入れています。優秀な人材を確保するためには、当然ながら良い条件を提示することが大切です。

特に人手不足が深刻化している歯科衛生士については、資格を持ちながら離職している人が約15万人も存在します。

復職を考えている人も多いのですが、歯科衛生士は女性がほとんどなので、給与・待遇面だけではなく、勤務時間・勤務形態・人間関係といった面で、希望が叶っていないケースも少なくありません。

そのため、優秀な歯科衛生士を雇いたいなら、女性でも長く働きやすい職場づくりが必要不可欠と言えるでしょう。

スタッフに対して福利厚生や社会保険がそろっていない歯科医院もまだまだありますが、そういった歯科医院は求職者から選ばれない可能性が高くなります。

また、患者さまと同様に、求職者もインターネットを使って求人情報を収集します。「ここで働きたい」と思ってもらえるように、求人票やホームページを魅力的に見せる工夫も重要です。

まとめ

pixta_85719687_M_歯科衛生士_歯磨きケア
(画像=pixta)

歯科業界を取り巻く状況は厳しいと言われていますが、歯科医院の乱立や患者数の減少、診療報酬改定、慢性的な人手不足などによって、以前と比べて大きく環境が変わっているのは事実です。

安定した経営を継続するためには、現状と課題を正しく認識して、適切な対策を講じる必要があります。

自院の将来的なビジョンも見据えながら、新たな治療メニューの導入やサービス品質の改善、働きやすい職場づくりといった対策に取り組みましょう。

【おすすめセミナー】
・【無料】たった4ヶ月で歯科衛生士276名の応募獲得! 歯科衛生士・歯科助手採用セミナー
・【無料】矯正治療が得意な先生に贈る マウスピース矯正集患セミナー

あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。