歯科医院でのパワハラやいじめを見逃さない方法

歯科医院に限った話ではありませんが、職場でのいじめやパワハラは昨今、大きな社会問題になっています。

スタッフが離職する原因として「人間関係」は代表的な理由の一つです。

せっかくコストをかけて採用した人材が失われるというのは、歯科医院にとって大きな損失になります。

今回の記事では、歯科医院でのいじめやパワハラへの対応のポイントを解説します。

歯科医院でのいじめ・パワハラは大きな問題

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いじめ・嫌がらせは職場で最も多いトラブルの一つ

厚生労働省 「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況
(画像=厚生労働省 「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況)

厚生労働省が発表した『令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、民事上の個別労働紛争(※)の相談件数、助言・指導の申し出件数、斡旋の申請件数の全てで「いじめ・嫌がらせ」がトップに位置しています。

相談件数では8年連続トップ、助言・指導の申出では7年連続トップ、あっせんの申請件数では6年連続のトップです。

職場でのいじめや嫌がらせが慢性的な問題となっていることが分かります。

※個別労働者と事業主との間で起こるトラブルのことを個別労働紛争といいます。

この紛争を裁判よりもスムーズに解決するために存在するのが「個別労働紛争解決制度」です。

いじめを放置すると労働契約法違反になる恐れも

一般的に使用者は、労働者に対して、労働者の生命や身体を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるとされています。

判例を遡ってみると、いじめやパワハラを放置していた場合、使用者(院長)は損害賠償責任を負うケースがあります。

例えば歯科助手として勤務しているAさんが、歯科医師であるBさんに日常的に暴言を吐かれており、最終的にAさんが心労で倒れてしまったというケースを想定しましょう。

いじめと健康被害の因果関係が認められれば、Bさんには不法行為として損害賠償が請求されます。

そして歯科医院側が「Aさんに対するいじめ」を認識できたにもかかわらず、それを放置していた場合、安全配慮義務違反としてこちらにも損害賠償が請求される恐れがあるのです。

パワハラやいじめなど人間関係を理由に退職するケースは多い

公益社団法人日本歯科衛生士会 歯科衛生士の勤務実態調査報告書
(画像=公益社団法人日本歯科衛生士会 歯科衛生士の勤務実態調査報告書)

一般的に歯科業界は離職率が高いことで知られています。

日本歯科衛生士会が発表している『歯科衛生士の勤務実態調査報告書(令和2年度)』によれば、歯科衛生士の76.4%が「転職経験あり」と回答しています。

もちろん転職にはさまざまな事情があり、ステップアップや家庭の事情による転職も想定されます。

しかし同報告書によると、退職した、もしくは現在転職を検討している理由として「人間関係」が上位に上がっています。

これは「ポジティブな理由ではなくいじめなどネガティブな理由で転職することが多い」事実を示唆しているといえます。

院長によるパワハラ・セクハラにも注意

ここで注目しておきたいのは、退職・転職の理由として「同僚との人間関係」よりも「経営者(院長)との人間関係」のほうが多く挙げられていることです。

雇用主である院長がスタッフとコミュニケーションを取る際には、パワハラ・セクハラに留意しましょう。

仮に院長側にそうした意図がなかったとしても、受け取る側がパワハラと考えればパワハラになりますし、セクハラについても同様のことがいえます。

スタッフを怒鳴りつける、プライベートについてしつこく触れる、といった言動は控えるようにしましょう。

また、今は特にパワハラやセクハラは絶対に許されない風潮です。「一昔前までは当たり前だった」などという言い分は通用しないことも、よく理解しておくべきです。

あなたの歯科医院は大丈夫?歯科医院で実際にあったいじめ・パワハラ例

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(画像=grek881/stock.adobe.com)

パワハラやセクハラは比較的新しい概念なので、「自分の頃はこれは普通だった」「そんなの、教育のために当たり前だろう」と軽視する先生も多くいらっしゃいます。

しかしこれが一番危険です。上でも述べたように、今ではいじめやパワハラを放置すると労働契約法違反と見なされ、損害賠償の対象にもなり得ます。

具体的に歯科医院で起きたいじめの例を見てみましょう。

歯科医院で実際にあったスタッフからスタッフへのいじめ

「古株の先輩歯科助手が新人の歯科衛生士をいじめて退職させた」という例をご紹介します。

歯科助手の仕事は必須となる資格はありませんが、歯科衛生士は国家資格が必要な仕事ですので、一般的には歯科衛生士の給与の方が高く設定されています。

また、昨今の歯科衛生士は人手不足のため、ようやく歯科衛生士を雇用できた歯科医院だと、歯科衛生士をありがたがって、ちやほやしすぎることもあると聞きます。

歯科衛生士は国家資格であると言えども、新人やブランクがある場合、最初のうちは歯科医院の職場環境(どこに何があるかなど)を熟知している歯科助手のほうが仕事を教えるケースが多々あります。

女性はこういったことに敏感なので、古株の先輩歯科助手から見ると「新人歯科衛生士は自分よりも仕事ができないのに、ちやほやされて給料も高く、面白くない」となりやすいのです。

その結果、先輩歯科助手が新人歯科衛生士に仕事を教えてあげない、「こんなこともできないの?」と嫌味を言うなどして、いじめて辞めさせてしまうこともあります。

このような人間関係のトラブルでの退職は、女性の職場ではよく見られるため注意が必要です。

歯科医院で実際にあった医院長からのパワハラ

歯科医院で時々聞かれるパワハラでは、「物を投げる」「チェアの下でアシストについているスタッフを蹴飛ばす」「患者さんの前で怒鳴ったり叱責する」といった例が挙げられます。

これらは診察中に女性スタッフが思い通りに動かない、そのせいで自分の仕事に悪影響が出る、とイライラしてつい当たってしまうケースです。

歯科技工士が過去に勤務していた岐阜県の歯科医院に対して訴訟を起こした事例では、親族の結婚式への出席を理由とした有休休暇取得の申し出に、院長や副院長が「お前馬鹿か」「給料もらって行こうなんて浅ましいよ」などと言って拒否。

また、育休の取得を非難して勤務形態の変更を迫るといったハラスメント行為が不法行為と認定されています(岐阜地判平成30年1月26日 平成28(ワ)137)。

昔はこういったことはさほど問題にならなかったかもしれませんが、今では犯罪にもなり得る行為です。

上司や先輩が注意したり何度も同じ仕事を教える時でも、声を荒げたり、ましてや暴力行為を働くことは厳禁です。

「院長」「男性」というだけでも女性スタッフから見たら威圧感を感じやすいもの。

感情的に伝えるとパワハラを引き起こしやすくなるので、意識して丁寧なコミュニケーションを心がけてください。

【関連記事】
・歯科医院や歯科医師が注意すべきパワハラ・セクハラと受け取られかねない言動とは

歯科医院でのいじめ・パワハラを防ぐための対策

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歯科医院の理念を共有した上で人事評価に反映させる

「安全配慮義務」の規定を引き合いに出すまでもなく、雇用主である院長はスタッフ全員が安心して前向きに働けるような環境を整備する必要があります。

チームワークが求められる歯科医院の業務においては、スタッフ同士の調和が重視されます。

まずは、医院としてお互いを尊重し協力し合うことを良しとする理念を掲げ、スタッフ間で共有しましょう。

スタッフ全員で一体感を醸成し、歯科医院に対する帰属意識を芽生えさせることが重要です。

さらに、その理念を体現することが評価される人事制度を作ることによって、スタッフに対してインセンティブを与えることができます。

公平性の保たれた人事評価制度は、スタッフ同士の軋轢をなくすことにもつながるでしょう。

スタッフが相談しやすい環境を作る

歯科医院の多くは個人経営であり、従業員数は5~10人程度と小規模であることがほとんどです。

スタッフの人数が少ないと、ちょっとしたトラブルでたちまち孤立してしまったり、不満やいじめなどの悩みがあっても一人で抱え込んでしまったりしがちです。

こうした問題への対策として、定期的な院内ミーティングや院長とスタッフの個別面談の機会を設けるなど、スタッフの声をヒアリングしやすい環境を作りましょう。

実際、誰にも相談できずにある日突然辞めていくというケースは少なくありません。普段から院内でコミュニケーションを促進し、風通しの良い職場環境を整えることを意識しましょう。

【関連記事】
・歯科医院がハラスメント対策をしないと、どんなリスクがあるのか?

歯科医院でのいじめ・パワハラが発覚したときの対処法

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いじめはまずは当事者や他のスタッフから別々に話を聞く

スタッフ内にいじめ・パワハラが発覚した場合は、必ず当事者だけではなく、他のスタッフからも話を聞くようにしましょう。

いじめの当事者の話は、あくまでも当人の「主観」であって真実とは限りません。

当事者それぞれの話を聞くのはもちろん、その他のスタッフからも幅広く情報を集めていくことによって、「客観」に近い事実を割り出すことができます。

いじめられたと相談に来る本人に原因があるケースも少なくないので、慎重に状況を観察するようにしましょう。

解雇や退職勧奨は慎重に

日本は一般的に労働者の権利が強い(法によって強固に守られている)国であり、特に正社員になると、そう簡単に解雇できません。

明らかに問題の原因になっているスタッフがいる場合でも、いじめ・パワハラを理由に解雇するのはかなり困難です。

様々なことを総合的に考えて退職してもらわざるを得ないと判断した場合、騒動の原因になっているスタッフに対しては、まず合意退職を提案してみましょう。

しかしそのスタッフが納得せず、「退職を強要された」と反撃してくるケースがあります。

場合によっては労働審判などを起こされるリスクもあるので、解雇や退職勧奨は慎重に行いましょう。

まとめ

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(画像=Sebastian Duda/stock.adobe.com)

歯科医院にとって、スタッフは大切な財産です。

いじめやパワハラが原因でスタッフが辞めてしまえば、また一から採用活動をしなければなりませんし、当事者以外のスタッフにも不信感を抱かせることになります。

また、同僚よりも院長との人間関係が良くないために退職を選ぶ人が多いことも重要なポイントです。

普段から密度の濃いコミュニケーションを取りつつ、スタッフにとって働きやすい環境を整備しましょう。

引用元:
厚生労働省 令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況 参照いじめ・嫌がらせ
公益社団法人日本歯科衛生士会 歯科衛生士の勤務実態調査報告書 参照退職・転職の理由

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あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。