厚生労働省「医療経済実態調査」によると、歯科医院について個人医院と医療法人の医業収益の平均は2018年度それぞれ4,469万円と9,447万円となっています。
このような平均的な数字を実現し、さらにアップさせるには戦略が必要です。
医業収益・利益アップに重要な要素の1つに自由診療(自費診療)の獲得があります。目標設定・集客・リピート施策に分けて、自由診療を含めた診療費アップの戦略を考えると良いでしょう。
歯科医院の売上をアップするための考え方
歯科医院の医業収益をアップする考え方として、「売上要因の分解」と「目標と計画の設定」があります。以下で詳しく説明しましょう。
売上要因を分解する
マーケティングには「売上の公式」がありますが、歯科診療所に当てはめると以下のようになります。
医業収益 = 患者数 × 来院回数 × 支払い単価
つまり医業収益の構成要素は、患者数、来院回数(頻度)、支払い単価の3つであり、それぞれを高めることが医業収益の向上につながるのです。
なお、「患者数・来院回数・支払い単価の3項目をバランス良く増やす」、「特定の項目に集中して伸ばす」などは歯科診療所の戦略次第といえるでしょう。
目標と計画を立てる
医院の売上を上げていくためには「売上の公式」を踏まえて、医業収益や利益の目標金額の設定が大切になります。医業収益が多くても、利益率が低ければ経営難に陥る可能性がありますので、現実的な利益目標を立てましょう。
そのためには、既存患者の悩み・要望、商圏の患者属性・傾向、競合医院の料金・サービスなどをマーケティング視点で総合的に洗い出し、目標を達成するための道筋を描くことが重要です。
患者数をアップさせる集客施策
患者数をアップさせる集客施策として、コロナ対策を徹底した上で、「チラシ、パンフレットなどの販促施策の適切な実施」と「ホームページの充実などのWeb集客対策」に取り組みましょう。
具体的にはどのように行っていけば良いのでしょうか。
販促施策を適切に実施する
患者数アップのために、チラシ、パンフレット、ポスティング、店舗看板、街頭広告などの販促施策を一通り検討することが大切です。
最初に取り組みやすいのはチラシ、パンフレットですが、その他にもさまざまな販促施策を試すと良いでしょう。
そのような販促施策を一通り実施する中で、「集客効果が高い」、「費用対効果が高い」などの観点から施策を絞ることができれば、重点的に実施することで高い集客効果を期待できます。
Web集客対策に取り組む
患者が歯医者を探す際は、まずインターネットか口コミで調べるのが通常です。そのために自院のホームページが患者の目に触れる機会を増やすことを考えます。
具体的なWeb集客対策として、患者がGoogleやYahoo!といった検索エンジンで歯科情報を検索した時に、自院が検索結果の上位に表示させる「SEO」(検索エンジン最適化)やポータルサイトへの登録など活用できるものは多いので、積極的に取り組みましょう。
自院のホームページに既存患者の口コミを載せるなど、ホームページの充実化もポイントです。
【ケース】集客施策による売上アップのシミュレーション
ここからは、売上アップを目的に看板を設置する施策を行う際の、収支をシミュレーションしてみましょう。
看板には次の効果があり、「認知→関心→集客」の流れを作るうえで有効な施策の1つです。
- 視認性が高い
- 一度作れば長く使える
- 生活動線のターゲットに繰り返し訴求できる
まず売上のシミュレーションですが、仮に看板を見る人が1日100人と想定すると、100人×365日=年間約3.6万人(延べ数)となり、看板設置期間を10年間とすると3.6万×10年=36万人が目にすると予測できます。
そのうち0.1%が来院すれば患者360人獲得、売上単価5,000円で360人×単価5,000円=180万円の売上効果と考えられるでしょう。
10年間で看板を見る人:36万人 × 来院率:0.1% = 来院:360人/10年
売上単価:5,000円/人× 来院:360人/10年 = 売上効果:180万円/10年
次にコストのシミュレーションです。
野立て看板のような、施工が必要ないタイプの看板なら1万円以内で済むこともあります。
しかし、歯科医院の入り口上部に取り付けるファサード看板や、タワー型看板のような施工を必要とする看板であれば50万円から100万円近くなるケースもあります。
看板は一度設置すればその後も長期的に使用できるので、10年間使用すると仮定しましょう。
以上から、50万〜100万円の費用に対して180万円の売上効果が見込め、収支はプラスになると予測できます。
なお、Web集客も同様で、インターネット広告などの費用と集客見込み数、そして想定単価をもとに費用対効果をシミュレーションすると良いでしょう。
来院回数を増やすリピート施策
集客施策によって初回で来院した患者に再度選んでもらうためのリピート施策として、「サービスの充実化」と「付加価値のアップ」があります。それぞれ見ていきましょう。
サービスを充実させる
患者が離脱する原因となる以下のような基本的なポイントはしっかりと基準を満たしましょう。
- 技術が低い
- 痛い
- 治療期間がわからない
- 症状や治療方法の説明がない
- 待ち時間が長い
そのためには院長はじめスタッフと患者のコミュニケーションが大切です。 職場環境の整備やスタッフ研修など、院内サービスの向上を通してスタッフの定着率が向上すると、結果的に患者とのコミュニケーションもスムーズになります。
付加価値を高める
先ほどのような基本的なサービスは当たり前に提供した上で、プラスアルファの取り組みも重要です。例えば以下のような取り組みを行うことで、競合との差別化を図ります。
- 予防歯科
- 自由診療の提案
- 予約システムの導入
- 外観・インテリアで清潔感を演出
競合医院がどのようなサービスを提供しているかに関しては、公式ホームページやパンフレットから分かる部分もあり、積極的な情報収集も重要です。
【ケース】リピート施策による売上アップのシミュレーション
リピート施策のシミュレーションとして、現在は単価1万円、年間来院数が5,000人、リピート率が10%と仮定すると、1万円×5,000人×10%=500万円のリピート売上となります。
仮にリピート率が2ポイント増えて12%になると、5,000人×12%=翌年のリピート数が500人→600人にアップするので、年間売上は1万円×600人=600万円となり、リピート売上は500万円から100万円増加します。
ただし新規患者へのメール・SNS配信などの施策には数万円の費用がかかるので、施策を実施するかどうかは売上と費用の比較次第といえるでしょう。
支払い単価を増やす施策
支払い単価を増やす施策には、「自由診療収入のアップ」と「患者への多様な解決策の提示」があります。どちらも単価向上につながる重要な施策なので、具体的に見ていきましょう。
自由診療収入を増やす
患者の支払い単価を上げるには、保険診療だけでなく、自由診療の提案が大切です。
特に売上1億円を超える歯科診療所は自由診療収入の比率が高く、医業収入全体の3割超との調査結果も出ています。
自由診療を強化すれば単価アップにつながります。
自由診療にはクラウン、ホワイトニング、インレーの他に、最近流行りのインビザライン(マウスピース矯正)などもありますが、患者にとって自由診療は保険診療よりも料金が高いため、見た目の自然さや快適さといったメリットを踏まえた提案が重要といえるでしょう。
なお、自費メニューを導入する際は、どのような内容でも良いわけではなく、「その自費メニューにニーズがあるか」「その自費メニューが自院の経営方針と一致しているか」で選ぶことが大切です。
また、冒頭の「売上要因を分解する」で触れたように、歯科医院の売上は「患者数×来院回数(頻度)×支払い単価」で成り立っており、患者数やリピート、単価の点で売上を立てやすいかどうかも検討する必要があるでしょう。
例えば「自費メニューの導入によって支払い単価を増やすだけでなく、ホームページの改善が患者数の増加につながるなら改善する」「継続通院の提案によって来院回数がアップするなら提案する」といった考え方があります。
患者に多様な解決策を提示する
自由診療は患者に多くの選択肢を提案できるという利点があります。
保険診療の場合は使用できる材料が決められていますが、自由診療は最新かつ高品質な材料を使用できます。
また保険診療は治療の手順や時間が決められていますが、自由診療は治療内容や治療時間が自由です。
前述したように料金面では自由診療の方が高くなりますが、患者1人ひとりに合わせた多様な解決策を丁寧に説明することで、患者満足度アップと歯科医院の単価アップが期待できるでしょう。
歯科医院の売上アップにつながるその他の方法
歯科医院の売上アップにつながるその他の方法としてものがあります。
- MEO
- クリニックの清潔感
- 子どもへの丁寧な説明
以下では順番に解説していきます。
MEOで口コミを増やす
MEOとは「Map Engine Optimization」(マップ検索エンジン最適化)の略称で「Googleマップ」などの地図サービス上で自院を優先的に表示させる対策を指します。
MEOに成功すれば、潜在的な患者がGoogle検索やGoogleマップ上で「地域名+歯医者」などのキーワードで検索をした際、自院が優先的に表示されて目に留まる回数が増えますし、好意的な口コミが多数集まれば信頼性が高まり、さらなる集客効果が期待できます。
クリニックの清潔感を重視する
院内の窓、トイレ、待合室などを清潔に保つことは好印象につながります。 歯科医院を訪れる患者は治療への恐怖心を抱えている傾向があるので、汚れている部分が多いと「この歯医者は大丈夫なのだろうか……」といった不安を与えかねません。
常に清潔な環境を保つために掃除の頻度を増やすだけでなく、待合室に空気清浄機を設置したり、トイレに消臭剤を置いたりといった対策も考えられるでしょう。
患者に安心感を与えることでリピート効果が期待できます。
子ども相手でも丁寧な説明を心がける
小さな子どもの患者にも、治療に関する丁寧な説明を心がけましょう。子どもが泣かずに治療を受ければ親は安心できますし、「また連れてきたい」と思ってもらえます。
特に子どもが多い地域の歯科医院は、子どもとの接し方・コミュニケーションの取り方によって売上アップが見込めるのではないでしょうか。
まとめ
歯科診療所が医業収益をアップさせるには、まず収益要因を分解して目標金額を設定し、計画を立てることが大切です。具体的には以下3つの施策を行いましょう。
- 患者数向上の集客施策:Webを含めた販促の実施
- 来院回数を増やすリピート施策:サービスの充実化と付加価値の提供
- 支払い単価を増やす施策:自由診療収入の提案
引用元:
厚生労働省 医療経済実態調査(医療機関等調査) / 第22回医療経済実態調査(医療機関等調査) / 報告 歯科診療所(集計2)
日本ビズアップ株式会社 2019年決算データからみる歯科診療所経営実績分析 参照2019年経営実績とその傾向
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。