歯科医院の開業で失敗する人の3つの特徴

私、小塚義夫は、名古屋に『つゆくさ歯科医院』を開業して10年が経ちます。

開業以来、売り上げもメインテナンス数も右肩上がりで、自費率約30%以上の安定経営を行なっています。

「歯科開業医として成功を収めるために、勤務医時代に何ができるのか?」「将来のビジョンをどのように立てるべきか?」など、私の開業から今日までの軌跡を振り返りつつ、歯科医院開業のメソッドを解説していきます。

将来、開業をめざす勤務医のみなさんはもちろん、勤務医のパフォーマンス向上にもつながりますので、ぜひ、院長先生にも目を通していただければと思います。

それでは本日より、全5回の「開業塾」を限定で開校します!

開業してからでは遅い!開業医が抱える「経営」の悩み

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(画像=pixta)

歯科大学を卒業し、勤務医となって数年間がむしゃらに働き、開業…これまでの歯科医は、このように、パターン化されたともいえる道のりを、なんとなく進むケースが多かったのではないでしょうか?

初めは自分の歯科医院を開業することが目標になっていたかもしれませんが、院長の本当の悩みは、開業してから始まります。

開業と同時に院長は、「どうやったら患者が集まるか?」「どうやったら、利益を残せるのか?」ということを一生、考え続けることになります。

経営上の問題を抱えつつ、なんとか数年やってきても、そのうち「スタッフがすぐに辞める」「いい人を採用できない」といった人材面の悩みが発生します。

私自身もまさにそうでした。

スタッフが活き活きと働ける医院の雰囲気や人間関係を構築できていないのは、ある意味当然です。

なぜなら私たち歯科医師は6年間、歯科の専門技術は学んだものの、経営や人材マネジメントなどを学んだことはないのですから。

「良いスタッフを採用し、辞めずに続けてくれる方法は?」
「スタッフをどのように育成したらいいのか?」
「自分の理想とする医療を提供するための環境は、どうすれば整えられる…?」

開業してから、このような問題が山積みになっていることに気付いても間に合いません。

今、この記事を読んでいる勤務医の皆さんには、勤務医時代だからこそ準備できることがたくさんあることに、少しでも早く気付いていただきたいのです。

成功の軌道にスピーディーに乗れる人は、開業前の行動が違う!

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(画像=pixta)

私がお伝えしたいのは「開業医としてロケットスタートを切るためには、勤務医時代の過ごし方で9割決まる」ということです。

開業した医院が成功の軌道に乗るまでの速さは、勤務医時代にどう行動したかで決まるのです。

見逃してしまいがちですが、今、勤めている医院は、「歯科医院経営の成功例のひとつである」ということ。

働いていると客観視しにくくなってしまいますが、開業してからの年数を重ね、勤務医を雇えるほど経営がうまくいっていることには間違いないわけです。

そこに、医院経営のヒントがあります。

私は多くの若手勤務医と交流し、ワークショップを開催するなど後進の教育に力を入れていますが、色々話してみると「このことに気付いていない勤務医が多く、非常にもったいない」と感じるのです。

今現在勤務している医院のノウハウを素早く吸収するコツは、『自分は3年後に開業する』というアンテナを常に立てておくこと。

そうすると、自分が医院を経営しているつもりで物事を見たり、行動したりできるため、医院がどうやって集患し、利益を上げているのかが見えてきます。

歯科開業で失敗する人の3つの特徴

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(画像=pixta)

歯科医としての経験を積みいざ開業しよう!と思った時、自分が失敗するかもしれないとは多くの人は思わないでしょう。

しかし、実際には経営がうまくいかなくなってしまう先生もいらっしゃいます。

それを防ぐためには「歯科の開業で失敗する人の特徴」をしっかり把握し、回避することが重要です。

具体的に開業に失敗しやすいタイプを解説します。

事業計画の甘さ

経営は「資金がショート」「収入が想定以上に低い」場合失敗であることを考えると、歯科医院経営失敗の最大の理由は資金計画や収益の見通しの甘さです。

患者さんの数・一人の治療単価・リピート率・従業員の給与など様々なところで見通しが甘い可能性があります。

また歯科医院は他業種と比べると最初の運転資金がかなりかかり、一般的には5,000万円以上といわれています。

この資金を借入に頼るっている場合は、予想通りの患者数・収入が続かないとすぐに資金繰りが厳しくなります。

こういったことを踏まえて「最悪の場合」に備えた事業計画が必要です。

マーケティングや差別化の意識が足りない

「歯科医院はコンビニより多い」と言われているため、開業をする場合には「親の医院を引き継ぐ」以外はしっかりと周囲をリサーチする必要があります。

近隣に歯科医院はあるのか、何を専門にしたどんな先生がいるのか、周辺の世帯数や人口に対して歯科医院が飽和状態ではないか、など入念な調査が重要です。

同じ専門の歯科医院がすぐ近くにあったら、すでに患者さんを抱えている医院を超えるのは難しいでしょう。

こういったマーケティング情報と共に、仮に近くに歯科医院があったとしても絶対に負けないという専門性も必要になります

「歯科医院の院長は経営者である」という意識の欠如

歯科医師は皆、歯学部で学んで歯科医師になります。

しかし学校で学ぶことは歯科医師としての専門知識や臨床、研究についてばかりで「経営」について学ぶことはありません。

そのため多くの歯科医師が経営についてよく分からないまま経営者になってしまい、実際に開業してから様々なトラブルに直面することになります。

患者さんをどうやって増やすか・スタッフの定着率をあげるにはどうしたら良いか・自費率をあげて利益をアップスするにはどうしたら良いか、などが経営者に必要な視点です。

今までは歯科医師としての技術を磨くことを最優先にしてきたと思いますが、開業を意識したらこのような「経営者目線」も取り入れる必要があります。

勤務医だからできる!「今の医院の経営のしくみを知ること」

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(画像=pixta)

勤務医時代は、すべて、将来開業するための情報収集の機会と考えれば、物の見方や行動が変わってきます。

例えば、勤務先の医院で使っている問診票は、どんなものでしょうか?改良を重ねられた結果、現在の形になっているはずです。

患者さんにお渡しするパンフレットは、どうなっていますか?自費診療の価格のつけ方は?

なにもかもが、集患に成功している医院ならではの施策になっているはずです。身近なところに、医院経営の成功事例のノウハウがあるのです。

ただし、勤務医側にマーケティングの知識がなく、見る目が養われていなければ、そこから何の情報も得られません。

だからこそ勤務医時代は、歯科に関わるスキルだけでなく、経営や自己啓発の本などもたくさん読んで、情報をキャッチするためのスキルを磨く必要があります。

「すべてが将来の開業のための勉強」と捉えながら過ごすと、見えるものが変わってきて、自分自身が将来の開業に役立つ情報が蓄積されていきます。

【編集部のポイント】勤務医時代に特に見ておくとよいポイント

勤務医時代に特に見ておくとよいポイントは以下の5つです。

  1. 採用
  2. スタッフマネジメント
  3. 集客
  4. 資金繰り
  5. 経営

1.採用

開業の立ち上げスタッフも必要ですし、開業後も定期的にスタッフは入れ替わっていきます。

歯科医院は歯科医師、歯科衛生士、歯科助手がいなければ運営できません。

そのため、採用力は歯科医院経営の安定に直結します。

勤務医時代に、採用の計画から集客策の実施、効果検証までを一通り経験しておけば、開業後の採用の流れも概ね理解できるようになります。

人材広告代理店や人材紹介会社に依頼をするにしても、その把握やチェックが速やかにできれば、採用もスムーズに進められるはずです。

2.スタッフマネジメント

スタッフの採用が順調に進み、就業してもらってからは、日常業務のマネジメントという次の課題が待っています。

役割定義書で担うべき業務について明文化したうえで、その評価基準も明示しましょう。

何が評価されるのかを理解したスタッフは、自ら業務を考えて取り組んでくれる可能性が高まります。

この点、役割定義や評価制度については、歯科専門の人材マネジメントのコンサルタントなどもいるので、院長一人で抱え込まず、サポートを求めるのも有効です。

3.集客

集客というとネット広告や折り込みチラシなどをイメージされるかもしれません。

しかし、広い意味では医院の立地、看板なども集客手段です。

院長が考える理想の患者さんを集客するには、何をアピールすべきか。

そのための手法としては、何を選択すべきか。

その手法もひとつではないことのほうが多いはずです。

4.資金繰り

開業医として独立すれば、日々の運営資金にも、意識を向けなければなりません。

少なくとも月次で損益計算書を作成し、医院経営の実態を把握するなしに、資金繰りの安定化はあり得ません。

これも院長一人でやりきるのは、難しいと思いますので、歯科に詳しい税理士や会計士などの専門家を頼ると良いでしょう。

コロナ禍に入って既に久しいですが、さまざまな給付金や助成金などの制度も含め、資金繰りを相談できるパートナーを見つけ、相談できる体制は用意すべきです。

5.経営

開業すると、こういった医院経営における様々な課題について、院長自らが日々判断をしていかなくてはなりません。

「分からないから先送り」はできないのです。

そのためにも、勤務医時代に勤務先の医院経営に触れ、できるだけ実践を経験しておくことが、開業後の大きな糧となるのです。

経営判断に慣れるには、判断の場数を踏むのが一番です。

ヒト・モノ・金という経営テーマに関わる「判断」を迫られることの一つひとつが、開業に向けた経験を積む機会と考え、勤務医時代を過ごすことができれば、その経験自体が院長としての資産となることでしょう。

勤務医時代に学んでおくべき「6つのスキル」とは?

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具体的に、勤務医時代に学べること、学んでおくべきスキルには、次のようなものがあります。

  •   治療技術:一通りの治療技術+自分が地域で一番をとりたい得意科目の強化
  •   コミュニケーション能力:患者さんやスタッフの行動変容を起こすコミュニケーション力
  •   リーダーシップ能力:スタッフを引っ張る力
  •   患者さんを集め教育するしくみ:広告、Hp、配布物、POPなど
  •   スタッフを募集し教育するしくみ:求人、面接、マニュアル、評価制度など
  •   会計:コスト意識をもって、医院の利益を残せるか

どれも基本的なことですが、将来自分のためになる大事なことばかりです。

歯科医が、自分の治療技術や知識を高めるために勉強、練習、努力を惜しまないことは、とても重要です。

患者さんには、さまざまなタイプの人がいます。

開業して、たくさんの患者さんに集まっていただくためには、どんなタイプの患者さんにも対応できるようコミュニケーション能力を向上させる必要があります。

【編集部からのポイント】歯科医院を開業するまでの全体スケジュール

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歯科医院を開業すると決めたら、重要なことはしっかりと全体のスケジューリングをするということです。

開業して歯科医院をオープンするためには様々なやるべきことやポイントがあるため、行き当たりばったりではお金や人材もショートしかねません。

だからこそ「逆算」して、全体の開業計画を立てることが重要です。

押さえるべきポイントとなるのは、以下のようなタイミングです。

  • 融資を受けるタイミング(融資の準備には2-3ヶ月はかかるので、早めの書類準備が必要)
  • 開業届けを出したい日時(開業したい日の3週間前には届け出が終わる必要がある)
  • 内装工事の終了日(届け出を出す前には内装・機材搬入が終わっている必要がある=3、4ヶ月の期間が必要)
  • 実際に開院するまでのオペレーションや告知(開業の1ヶ月前までには終えたい)

これらがしっかりと決まれば、

「じゃあいつまでに物件を決めよう」
「いつなんでぶスタッフを採用しよう」

などのスケジュールが見えてきます。

特に重要になるのが「開業の届けを出す日」です。

経営者の中には「縁起の良い日」など、数字にこだわる人も多いので、ある特定の日を逃すと次が数ヶ月後になってしまうなんてこともあり得ます。

重要な最終ポイントから逆算して、個別のタスクを埋めていみましょう。

【編集部からのポイント】歯科医院を開業するにあたって、必要なものや手続き

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(画像=pixta)

歯科医師が歯科医院を開業するためには様々なものが必要です。

まずは物理的なものから見ていきましょう。

  • 開業する場所(自宅や駅ビル、貸しテナントなど様々)
  • 歯科医院内に入れる、診察に必要な様々な機材(診察台含む)
  • 消毒液やマスク、治療用の道具など日々の診察で使用する数十種類の道具や薬剤
  • 経理や会計関係のソフトなど

もちろん、場合によっては院内の改装工事も必要です。

このような目に見えるものだけではなく、「目に見えない」様々なものも必要となってきます。

  • 開業に必要な専門スキル・資格
  • 歯科衛生士や歯科助手、受付などの人材
  • 資金・財務計画
  • 歯科医院の集患のための様々な広告

これらは必要最低限のものばかりなので、他にも様々な必要なことがあるでしょう。

このように「開業」は、たとえ場所を親や知人から引き継いだとしても、様々なやるべきことがあります。

だからこそしっかりとした開業計画が必要です。

経営者の視点で勤務先の経営方針をよく見て学ぶ

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(画像=pixta)

そして、勤務医時代は、勤めている歯科がどこで収益を得ているのか、医院経営のしくみをすぐ近くで見て理解できる絶好のチャンスでもあります。

実際に医院を経営していくためには、保険診療と自費診療のバランスをどうするのかを決めるのも難しいところです。経営状態を良くするために自費診療が多い方が良いのかというと、そうとも限りません。自費診療の比重が高くなると、新規の患者さんを追い続けなければならないという宿命を負うことになるからです。

自費診療だけでなく、保険診療でも可能なメインテナンスシステムを医院に確立できれば、同じ患者さんがずっと通ってくれることになるため、医院経営が安定します。

開業してから慌てることがないよう、勤務医時代に、自費診療を1件でも多く獲得するためのトークスキルを磨くことに力を入れてもいいでしょう。そして、メインテナンスに通い続けるしくみを理解し、開業時に再現できるようになることを心がけてください。

経営者の視点で様々な施策にも関わってみる

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(画像=pixta)

また、院長に言われたことをそのままやるだけではなく、医院経営に関する課題を読み取り、ミーティングで自分から新しい企画を提案してみるのもおすすめです。

医院の広告を出す時にも積極的に関わって、院長と一緒にデザインを考えてみたり、費用感や経費について学ぶことも、自分が開業する際のための経験や知識になります。

ただ院長の指示を待つのではなく、コスト意識を持って取り組むことが、自分の医院を開業する時に活かされるのです。間近かで経営に参加できるって、すごい環境だと思いませんか?

また、なんといっても歯科医院はチームワークで診療が成立しますから、歯科医とスタッフとの信頼関係を築くことが非常に大切です。

勤務医時代に歯科衛生士や歯科助手と仲良くできているから、開業医になった時にスタッフのコントロールが上手くできると勘違いしてしまうと危険です。若いスタッフと年齢差が出てくると、次第にコミュニケーションが取りづらくなりますので、スタッフの年齢の割合もマネジメントの重要なポイントとなります。

医院の院長になれば、スタッフを褒めるだけでなく、叱ることも必要になります。そのためにも院長は、オンオフ関わらず、尊敬される人物であることが求められます。 雰囲気の良い医院であればこういったコミュニケーションが非常にうまくいっているはず。そのコツをこっそりと学ぶことも、勤務医だからこそできることです。

成功する歯科開業医の条件はコレだ!

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(画像=pixta)

このように、開業した後も開業医として成功するためには、ただ治療技術を学ぶだけではなく、経営やマネージメントなど、多岐に渡るニュースなどの情報を元に、知識とスキルを身につけるための努力が必要になります。

そうした取り組みの中から、開業が成功するためのポイントや経営が失敗する理由、失敗しないための対策をしっかりまとめることが重要で、勤務医時代には自分の意識一つで、実戦と通じて様々なことを学ぶことができるのです。

そしてこれらの努力が、将来開業した時に自分のためになると十分解っている人が、成功をつかむことになるのです。

次回予告
次回は、「勤務医時代に学べること1:経営編」です。開業医の独りブラックな就業実態についても、包み隠さずお話しいたします。お楽しみに!

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小塚 義夫

医療法人つゆくさ歯科医院 院長 / 歯科医師

平成23年5月に名古屋にて、つゆくさ歯科医院を開業。専門は歯周病・入れ歯全般。歯周病治療に力を入れており、ターゲットを具体化した歯科医院経営の成功事例として多数の講演実績あり。

元々は教職志望だったこともあり、後輩歯科医師の育成にも注力。開業を志す若き歯科医師のよき相談相手としても活動中であり、開業にまつわるエピソードや知見を基に、あきばれ歯科経営 onlineにも寄稿頂く。