患者さまの満足度も上がる 歯科助手教育のポイント

「歯科助手募集の求人を出してもなかなか採用が成功せず、いつも人手が足りない」
「入職してもすぐに辞めてしまい人材が定着してくれない」
と悩む院長や事務長の声は少なくありません。

アルバイトやパートといった非正規雇用も多い歯科助手は雑務を担うポジションと考えている方もいるかもしれません。

しかし実際には専門性が高く業務も幅広いため、しっかりと教育しコミュニケーションを取らなければ人材は成長せず、本人もやりがいを感じられず離職してしまうケースも多いのです。

この記事では、歯科助手への適切な教育がもたらすさまざまなメリットや、具体的な教育・研修方法を解説します。

歯科助手の仕事内容について

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(画像=pixta)

歯科助手は、医療の現場では数少ない、国家資格がなくとも就ける仕事です。

具体的な仕事内容は受付や会計などの受付周りのほか、治療を行う歯科医師や歯科衛生士のアシストや治療器具の洗浄、またカルテの整理や様々なPOPの作成やグッズや書籍、雑誌などの展示、院内の清掃など歯科医院の業務全般に携わります。

受付や会計を行うケースも多いため、患者さんとの接点が非常に多いのがポイントです。

そのため、歯科助手の対応により歯科医院の印象が大きく左右されるところがポイントです。

歯科助手の教育が重要な理由

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歯科助手は専門性が高く大変な仕事

歯科助手は歯科衛生士と違って無資格でも従事できますが、受付対応・治療のアシスタント・在庫管理・レセプト作成など業務は多岐にわたり、相応の知識と経験が求められる仕事です。医療の専門資格ではないからこそ、職場によって仕事内容は異なり、幅広い業務を行うことができるのです。

特に、歯科医院の顔ともいえる受付業務では、歯科助手の患者さまへの対応が自院の印象や売上を左右することもあります。

アルバイトやパートとして雇用することも多い歯科助手ですが、代替可能な労働力ととらえずしっかりと教育し、頼り甲斐のある戦力になってもらうことで、職場環境や歯科医院の経営に期待以上のメリットをもたらしてくれることもあるのです。

歯科助手は慢性的に人手不足

2017年の厚生労働省の医療施設調査によると、約6万8,500ある歯科医院に対して、歯科助手(歯科業務補助者)の数は約7万人。

つまり、1診療所につきギリギリ1人確保できるレベルです。

20年前には約6万5,000の歯科医院に対して歯科助手の数が10万人を超えていたことを考えると、歯科助手として働くことを選択する人が急激に減っていることが分かるでしょう。

歯科助手の仕事を離れる人からは、「仕事に求められる専門性や業務の大変さと給与が見合わないと感じた」「仕事内容をしっかりと教えてもらえないまま業務に付くことに不安を感じたりした」ことなどが離職の理由として挙げられています。

歯科業界では、以前から人手不足が大きな課題となっています。人材の確保がどんどん難しくなっている現状では、経験が浅い人でもしっかり教育し、安心して働ける環境を準備する必要があります。

歯科助手の教育体制が整っていないことで生じる問題

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離職リスクが高くなる

とはいえ、日々の業務に追われ、なかなか新人教育に人手や時間が割けないという方も多いのではないでしょうか。

しかし経験の浅い人にとって、訓練もないままアシストや受付業務に就くことは大変な不安を伴います。

その結果、診療が滞ったり、ミスが生じて怒られたりすると「自分はこの仕事に向いていないのでは」という考えが浮かび、モチベーションの低下を招きます。

また、経験者であっても業務内容は歯科医院によって異なるため、きちんと教育せずに放置されると孤独感や無力感がつのり、精神的に追い込まれて早期に離職を選択してしまう恐れがあります。

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患者さまの満足度が下がる

受付対応も担う歯科助手は、不安や痛みを抱えた患者さまが来院の最初と最後に接する、印象に残りやすい存在です。

受付で丁寧さや思いやりに欠けた態度を取ったり、予約管理や会計に不手際があったりすれば、自院への印象は悪くなります。

また、バキュームの使い方や印象材の練和、石膏注入といった診療補助の質も、治療の精度や満足度に大きく影響する要素です。誰でもできる簡単な業務と軽く見ず、きちんとトレーニングする必要があります。

他のスタッフのモチベーションが下がる

歯科助手への教育の不足は、歯科医院全体のモチベーションにも影響します。

例えば器具洗浄が終わっていない、予約管理ができていない、在庫が足りない、入職したのにすぐやめてしまったといった問題が起こると、治療への直接的な支障だけでなく、他のスタッフが不満や疲れを溜めることになるからです。

歯科助手へのしっかりした教育が、長い目で見れば自院の治療や接客の質にもつながると考えましょう。

歯科助手の将来性について

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歯科助手の将来やキャリアアップには大きく二つの種類があります。

一つは、歯科助手の経験をもとに、歯科衛生士など国家資格にチャレンジするケース。

そして、もう一つは、歯科助手を極めるケースです。

歯科助手としてキャリアアップしていく場合には、一つの歯科医院で長く働くことでひとつひとつの歯科助手としての仕事を極めていく道があります。

一方、矯正歯科、審美歯科、小児歯科など、専門性の高い歯科クリニックで、歯科助手のスキルを磨いていくケースという道もあります。

こうした歯科助手のキャリアをイメージしたうえで、教育・研修をおこなうことが、本人の成長にとって、ひいては医院にとっても重要なポイントとなります。

歯科助手に対して行う院内教育の種類

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座学

入職したらいきなり現場に出すのではなく、必要最低限の知識を事前に頭に入れておくことが必須です。

特に歯科診療の現場をまったく知らない未経験者の場合、院長や先輩スタッフが通常の診療業務をこなしながら基本的な知識を一から説明しながら研修を行うのは負担が大きく、本人の学習効率も下がります。

まず医院の理念や治療方針、基本的な歯科知識や治療器具・医療機器の名称、診療の流れなどを学ぶ時間を設けましょう。業務マニュアルがあると新人でも覚えやすく、教える側も楽です。

歯科助手として高いパフォーマンスを発揮してもらうためには、新人研修修了後も知識のアップデートやスキルアップを目的とした定期的な勉強会の開催は効果的です。スタッフの意見をとりいれながら勉強するテーマを検討しましょう。

模擬トレーニング・実習

必要最低限の知識を習得したら、受付対応や予約管理、診療補助、会計など実際に業務に従事してもらいます。

ただし、やり方だけ簡単に説明していきなり一人でやらせるのではなく、まずお手本を見せた上で、院長や先輩スタッフの監督のもとで実践してもらいましょう。

問題があれば適切なフィードバックをして改善しながら独り立ちをサポートします。

ライティングやバキューム、セメントや印象材の練和、石膏流しといった診療補助業務は、治療の精度や満足度に影響するため、できれば事前に模擬トレーニングを実施して、合格点に達してから実際に患者さまの対応を任せたほうがよいでしょう。

また、受付対応や会計、レセプト入力などの業務については、一通り教えて業務の遂行が問題ないと判断した後も誤った対応をしていないか定期的にチェックすることが大切です。

歯科助手の教育のポイント

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(画像=pixta)

教育・研修をシステム化する

スタッフの教育を効率的・効果的に行うためには、「誰が・何を・いつまでに・どのように」教えるのか事前に計画を立てる必要があります。

「ちょっと教えておいてあげて」などの不明瞭な指示では、教える人によって方法が異なったり、教育のスピードがまちまちだったりと教育の成果が上がりにくい恐れがあるからです。

また、教育対象者の知識・スキルレベルを事前に確認しておくことも重要です。できること・できないことを明確にしておけば、効率良く仕事を教えることができます。

業務マニュアルを作る

歯科助手の教育には、業務マニュアルをしっかりと作っておくことも大切です。

マニュアルには、再現性の確保、教育コストの削減、随時見直して復習できるといったメリットの他、既存の業務フローを見直して改善できるという効果も見込めます。

業務時間外にも気軽に手に取れるよう、マニュアル冊子を複数作ったり、クラウドなどのWebシステムを使ってスタッフ全員が共有できるようにしたりするのもおすすめです。

OJTを徹底する

きちんと歯科助手業務をこなせるよう教育するためには、OJT(On The Job Training=実務トレーニング)の徹底も重要です。

資料や口頭だけで業務内容を説明してすぐに仕事を任せてしまうと必ずミスが発生し、患者さまや他のスタッフに迷惑をかけてしまうだけでなく、本人も自信を喪失してしまう恐れがあります。

一定期間は教育担当者を決めてOJTを実施し、継続的にフォローすることが優秀な人材を育てるために不可欠です。

外部の研修・セミナーを活用する

最近では接遇やカウンセリング、アシスタント業務についてのスキルアップセミナーも数多く開催されています。

歯科助手としてステップアップしたいと考えているスタッフのために、外部の研修やセミナーを受講する機会を作ってあげましょう。

セミナーで得た知識や技術を実際の仕事で生かすことができれば、スタッフのモチベーションが向上し、ひいては治療の質や患者さま満足度の向上につながります。

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歯科助手教育に活用できるおすすめセミナー・研修プログラム

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(画像=pixta)

歯科助手の教育に力を入れようと思っても、

  • 日々の診療が忙しくてなかなか時間が取れない
  • ノウハウがなく、どのような研修をすればよいか分からない
  • 指導ができるスタッフがいない

など、院内で行うには十分なリソースがないことも多いでしょう。そこで活用したいのが、外部のセミナーや研修プログラムです。

ここでは、歯科助手というプロフェッショナルを育てるためのさまざまな研修プログラムを提供している株式会社オフィスウエーブのおすすめセミナーをご紹介します。

心を育てる!患者接遇マナーセミナー

株式会社オフィスウエーブ 心を育てる!患者接遇ホスピタリティーセミナー
(画像=株式会社オフィスウエーブ 心を育てる!患者接遇ホスピタリティーセミナー)

昨今は歯科医療においても質の高いサービスの提供が求められています。歯科助手の対応一つで、患者さまの満足度は大きく左右されるのです。

このセミナーでは、歯科医院経営において重要な患者接遇スキルと、スタッフのモチベーションを高く保つ方法というプロの歯科助手として活躍するための基礎を学べるため、新人スタッフに最適と言えます。140回以上開催されリピーターも多い人気セミナーです。

・心を育てる!患者接遇マナーセミナー
http://www.sikakirakira.com/category/1296768.html

TC塾デンタルカウンセラー認定講座

患者さまの満足度やカウンセリングの成約率の向上に貢献できるコミュニケーションスキルを持ったデンタルカウンセラー(TC)を3日間の集中講座で育成するセミナーです。

知識・経験豊富な現役のデンタルカウンセラーから、歯科医院の現場で活用できる実践的なコーチングスキルを学べます。修了後にFacebookグループで講師陣からのサポートを受けられるのもポイントです。

・TC塾デンタルカウンセラー認定講座
http://www.jpdaa.or.jp/15693886324611

日本歯科プロアシスタントスクール(PAS)

高いコミュニケーションスキルと歯学知識、マーケティング能力、マネジメント能力、人間力を持ったプロの歯科助手を育成する1年制のセミナープログラムです。

歯科助手はライセンスがなくても従事できますが、受付、カウンセリング、レセプト請求業務、院長秘書、広報など、担う業務は幅広く、どれも高い専門性を求められます。各業務を高いレベルでこなし、質の高いサービスを提供することで、歯科医院経営に大きなインパクトをもたらすのです。

このセミナーでは、歯科助手のプロフェッショナルとして副院長を担える人材教育を目指します。合格すると、日本プロアシスタントとして認定され、証書とバッチが授与されます。

・日本歯科プロアシスタントスクール(PAS)
http://www.jpdaa.or.jp/14592534625545

歯科助手のスキルや価値を高める民間資格

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(画像=pixta)

歯科助手になるためのライセンスはありませんが、歯科助手として活躍できる能力を有していることを証明する民間資格はいくつかあります。

資格取得を目指す過程で歯科助手としての知識・スキルを体系的に学べるとともに、資格保持をアピールすることで患者さまからの信頼も高まります。

公益社団法人日本歯科医師会 歯科助手資格認定制度

各都道府県の歯科医師会が主催する所定の教育訓練を修了した者を、日本歯科医師会が「歯科助手」として認定する制度です。

資格は「甲種」「乙種第一」「乙種第二」の3つに分かれ、それぞれ認定基準は以下のようになっています。

種別 認定基準
甲種  ・甲種歯科助手訓練基準による訓練を修了した者(420時間以上)
・乙種第一歯科助手の資格を有し、3年以上の業務経験を有する者であって、補充研修訓練基準にとよる訓練を修了した者
乙種第一  主として診療室内の仕事に従事する者(52時間以上)
乙種第ニ  主として事務的な仕事に従事する者(40時間)

資格取得に必要な講習は、各都道府県歯科医師会が実施し、「歯科助手の心得」や「歯科用語」といった基礎から、「社会保険関係事務」「消毒法」など実践的な内容まで歯科助手として求められる一般的な項目を網羅しています。

・公益社団法人日本歯科医師会 歯科助手資格認定制度
 https://www.jda.or.jp/qualification/

歯科アシスタント検定試験

全国医療技能検定協議会が主催する、歯科医師のアシスタントや医療事務としての能力を証明する検定試験です。

3~1級まであり、実技・学科試験に合格すれば合格証が交付されます。それぞれの試験内容は以下の通りです。

等級 試験内容 試験領域
3級 歯科医療の基本的な知識があり、簡単な診療方法を把握している 歯科診療補助、歯科診療概論
2級 歯科医療に対して広い知識があり、診療方法の応用が身についている 歯科診療補助、歯科臨床概論、口腔衛生
1級 歯科医療に対する認識が深く、診療体制について正確・迅速な対応ができる 歯科診療補助、解剖・生理学、歯科臨床概論、薬学、栄養、口腔衛生

・全国医療技能検定協議会 歯科アシスタント検定試験
 http://www.an-mc.com/k_shika_assistant.html

歯科 医療事務管理士® 技能認定試験

技能認定振興協会が主催する、カルテ入力やレセプト業務など歯科医院で必要とされる医療事務としての能力を証明する検定試験です。試験は以下のような構成で実施されます。

  • マークシート形式の学科試験:医療保険制度などの知識、保険請求事務、医学一般の知識
  • 実技:レセプト作成・点検問題

診療報酬点数の算定や診療報酬明細書、レセプト作成など受付・レセプト業務の実践的なスキルを問うものなので、関連して提供される医療事務講座(歯科)や試験問題集などで対策する中で、現場で役立つ知識を身に付けられます。

・技能認定振興協会 歯科 医療事務管理士® 技能認定試験
 https://www.ginou.co.jp/qualifications/iryojimu-shika.html

まとめ

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(画像=pixta)

歯科助手に限らず、歯科医院の教育体制の有無は、きちんとしたマネジメントをしているか、スタッフを大事にしてくれるかを推し量る材料になります。

充実した教育体制を整備して求人サイトでもアピールすれば、やりがいのある仕事がしたい、自分の能力を生かしたいと望む人材を確保することにもつながります。

業務を円滑に行い、院内を良い雰囲気に保つためにも、今回ご紹介したポイントを押さえてスタッフ教育を徹底しましょう。

引用元:
厚生労働省 医療施設調査 参照年次・職種別

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あきばれ歯科経営 online編集部

歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。

2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。