「歯科医院の利益率の目安を知りたい」「自院の利益を増やしたい」といった悩みを抱える歯科医院の院長先生は多いのではないでしょうか。
歯科医院の経営において、利益について理解を深めることは重要です。
そこで今回は、歯科医院の利益事情について解説した後、利益の計算方法や利益を残す重要性、利益を増やす方法、残らない場合のチェックポイントについて解説します。
ぜひ身近なノートなどに記録し、定期的に確認してください。
歯科医院の利益事情とは?
まずは歯科医院の利益事情について説明します。具体的には、以下2つの意味を知ることが大切です。
- 歯科医院の平均的な利益額・利益率
- 歯科医院の売上別の利益率
それぞれ例を踏まえながら見ていきましょう。
歯科医院の平均的な利益額・利益率
厚生労働省「第22回医療経済実態調査」によると、歯科医院の利益額(2018年実績)は、個人・法人それぞれで以下の通りです(いずれも税引き前)。
- 個人開業の歯科医院:1,269万円
- 法人の歯科医院:889万円
収益全体に占める利益率は以下の通りです。
- 個人開業の歯科医院:28.4%
- 法人の歯科医院:9.1%
収益額のみで比較すると、個人開業の歯科医院は4,469万円、法人の歯科医院が9,447万円と法人の方が高くなっています。
ただし、法人は規模が大きい分、コストも多くかかっており、全体的な傾向として一般的には個人開業の方が利益率は高めです。
歯科医院の売上別の利益率
「歯科経営情報レポート」によると、調査対象の歯科医院309件のなかで収入が上位20%のグループの利益率は33.7%です。
また、同レポートで309件全体の平均利益率は32.8%でした。
収入上位の方が利益率は高いものの、その差は若干にとどまり、必ずしも「売上が大きい=利益率も高い」というイメージ通りではない状況です。
歯科医院の利益の計算方法
歯科医院の利益は次のステップで計算します。
- 売上を計算する
- 経費を計算する
- 差額を計算する
売上と経費を算出し、双方の差額を求めることで利益が分かります。具体的に解説します。
1.売上を計算する
「第22回医療経済実態調査」における医業収益の項目と、それぞれの金額が歯科医院全体の収益に占める比率(個人開業の場合)は以下の通りです。
自分の歯科医院が基準と比べてどうか、適切な利益を生んでいるのかなど確認してみましょう。
- 保険診療収益:83.2%
- 労災等診療収益:0%
- その他の診療収益:15.0%
- その他の医業収益:1.6%
上記の通り、「保険診療収益」が全体の8割を超えています。
「その他の診療収益」(15.0%)と「その他の医業収益」(1.6%)を合計しても16.6%という結果なので、多くの個人歯科医院の売上は、保険診療収益に支えられているといえるでしょう。
上記を目指すべき水準(ベンチマーク)として参考にしてください。
2.経費を計算する
同じく「第22回医療経済実態調査」における医業・介護費用の項目と、それぞれの金額が医業収益全体に占める比率(個人開業の場合)は以下の通りです。
- 給与費:29.2%
- 医薬品費:1.4%
- 歯科材料費:7.2%
- 委託費:8.7%
- 減価償却費:6.1%
- その他の医業費用:19.0%
費用の割合は「給与費」が29.2%と最も高く、続いて「その他の医業費用」「委託費」「歯科材料費」「減価償却費」「医薬品費」となっています。
目指すべき相場(ベンチマーク)として考える場合、仮に自院の歯科衛生士や歯科助手の給与が全体の3割を超えているようなら、平均的な歯科医院よりも人件費が高い可能性があるので改善が必要かもしれません。
3.差額を計算する
売上と経費を計算した後、利益を求めます。
利益は売上から経費を引くことで算出できます。
個人開業の歯科医院の場合、収益合計を100とした時、経費の項目の合計は71.6となり、差額は28.4となります。
冒頭で「平均利益率」を紹介した通り、28.4%が、個人開業の歯科医院における税引き前の損益率の平均です。
法人の歯科医院の場合、経費の項目の合計は90.9で、収益合計との差額は9.1となり、これが税引き前の損益率の平均となります。
なお、個人の場合は利益から個人の所得税などが引かれ、法人の場合は法人税などが引かれることになります。
歯科医院経営で利益を残す重要性
歯科医院に利益を残すことは、将来の投資の原資になりますので大きなメリットです。
原資があれば、「スタッフ教育によるサービス・接遇の質向上」「最新設備導入による治療の向上」「院内レイアウト改善や予約システム導入による患者満足度向上」など、さまざまな施策を打てたり、サポートも受けられます。
一方、売上が大きくても、利益が残らなければこういった「次の一手」を打てないばかりか、余剰資金がないので経営も安定せず、歯科医院を経営する立場としては不安の原因になりかねません。
他にも月々の支払いに頭を悩ませた結果、院長が日常業務に集中できなくなったり、その雰囲気が自院のスタッフに伝わって院内の空気や対応が悪くなったりするリスクがあるため、利益の存在は非常に重要といえます。
【関連記事】
・歯科医院経営にも必須 キャッシュフロー経営とは
・歯科医院の売上アップ実現に向けた3つの方法
歯科医院の給与費(人件費)のよくある課題
歯科医院を経営していると様々な支出があることに驚かされると思いますが、毎月出て行く固定費の中でも金額が大きく、見直しや改善に取り組みやすいのが人件費です。
同じ固定費でも家賃や機器のレンタルなどは自分で削減することが難しいので、固定費の中でも割合が高い人件費はしっかりとしたチェックが必要です。
人件費のチェックには、「人件費率」と「基準値」を使います。
人件費率とは、売上高に対する人件費の比率のことで、「人件費率=人件費÷売上高」です。
歯科医院の適正な人件費率の基準値は、個人で約20%、法人で約28%と言われており、多少の誤差は問題がありませんが数%を超えている場合は検討が必要です。
とは言え、「人件費率が高いから」と、すぐに給与を減らすと従業員のモチベーションが下がり、医療の質が低下するリスクがあります。
まずは自医院の人件費率の確認から始めましょう。
歯科医院が利益を増やす方法
歯科医院が利益を増やす方法は、今やインターネットで検索すると無数に、しかも掲載されています。
日本の歯科医院が利益を上げるために重要なポイントは、以下の3つです。
- 集客効率・単価を改善する
- 経費を見直す
- 必要な投資をする
上記の方法を複合的に行うことで、利益が残る体質に変わる可能性があるでしょう。詳しく解説します。
歯科医院が利益を増やす方法1.集客効率・単価を改善する
売上アップは利益アップの定石です。「患者数」と「来院頻度」を上げることで売上はアップします。
単に規模を追うと経費と投資が増えて自院に利益が残らないということになりかねませんが、既存設備を生かした「稼働率の向上」を目指せば利益は増えやすいでしょう。
「単価」の改善も重要な施策です。ユニット数が増えなくても、自費診療など支払い単価が増えれば売上アップにつながるので、費用対効果の高い改善策といえます。
以上により、「患者数」と「来院頻度」の向上を目指しながら、同時に「稼働率の向上」と「単価」の改善を行うことが大切です。
【関連記事】
・歯科医院の集客でやるべき8つの施策(オンライン・オフライン)
・歯科医院の自費率アップ そのメリットと具体策
歯科医院が利益を増やす方法2.経費を見直す
先述した経費の項目を1つひとつ、業界水準と比較しながらチェックしましょう。
そのなかで大きすぎる項目があれば理由を調べ、削減できないかどうか検討します。
医薬品費や歯科材料費のような変動費の削減も検討が必要ですが、人件費、家賃、光熱費、リース料のような固定費を削減すれば損益分岐点を下げやすくなります。
ただし人件費の削減(賃金カット)は、スタッフのモチベーションが低下するリスクがあるので注意が必要です。
合理性のない賃金カットは労働基準法に抵触する可能性もあるので、慎重に行う必要があるでしょう。
歯科医院が利益を増やす方法3.必要な投資をする
電子カルテや予約システムといったシステム・ツールの導入は、導入・運用コストはかかるものの、オペレーション負担を減らし、生産性向上に寄与します。
短期的な効果は薄いかもしれませんが、長期的に考えると高い費用対効果を発揮する可能性があります。
また、スタッフ教育でスキルが上がれば、患者満足度が向上してリピート増・新規患者増につながり、結果として売上・利益アップにいたる可能性もあります。
その他、院内環境・設備の改善、広告なども、長期的な利益につながる可能性がある施策です。
【関連記事】
・歯科で利益アップする戦略と具体的な施策を解説
歯科医院の利益が残らない場合のチェックポイント
歯科医院の利益が残らない場合は以下をチェックしましょう。
- 売り上げは歯科医院の規模に対して十分な水準か
- 治療メニュー・患者層に偏りがないか
どちらも大切なチェックポイントなので解説します。
売上は歯科医院の規模に対して十分な水準か
1つ目のチェックポイントは、「売上は歯科医院の規模に対して十分な水準かどうか」です。
スタッフ数、医院面積、保有設備といった事業規模に対して、それらを最低限維持するために必要な売上高は存在します。
そのためには、損益分岐点を考えるとよいでしょう。
損益分岐点とは、売上と費用が等しくなり、損益がゼロになる際の売上金額を指します。
損益分岐点を売上が上回れば利益が発生しますが、逆に損益分岐点を売上が下回れば損失が発生します。
自院の損益分岐点を考慮したうえで、「十分な売上が確保できているかどうか?」を確認しましょう。
治療メニュー・患者層に偏りがないか
歯科治療は、虫歯治療や歯列矯正、インプラント、ホワイトニングなどさまざまな分野があります。
先述した「集客効率・単価を改善する」とも重なりますが、自由診療など単価が高く利益が残りやすいメニューも取り入れられないか見直したいところです。
小児の虫歯数が減ってきている現在、定期予防歯科はリピートにつながり粗利率が高いということもあり、注力しておきたい分野の1つです。
予防の重要性を自院のホームページなどを通して告知することは、集患にもつながります。
まとめ
歯科医院の経営において、利益は最も重要な経営指標のひとつです。
将来への投資の原資になりますし、そもそも利益が少なければ経営は安定しません。
利益の計算方法は「売上-経費」です。
歯科医院の平均的な利益率と比較して多いか少ないか判断するとよいでしょう。
利益を増やすには、集客効率や単価を改善したり、経費を見直したり、必要な投資を行ったりする必要があります。
規模に対して十分な売上を目指し、治療メニューも見直し、歯科医院に利益体質を定着させましょう。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。