高度な専門教育を受け、国家試験や臨床研修などさまざまな課題をクリアした先にある歯科医師。
大きな志や希望を持って臨床の場に立つ先生が多いと思いますが、歯科医師はやりがいが多い反面、苦労も多く、時には「しんどい」と感じてしまうこともあるでしょう。
多くの先生方が苦労を感じるのは、どんなタイミングなのでしょうか。
その具体的な内容と、歯科医師として生き生きと働くための方策について考えてみます。
歯科医師の仕事がしんどいと感じる理由
診療業務がハードで体力的にきつい
歯科治療は、気力と体力を必要とする業務です。
アポイントメントが多かったり、インプラントなどのオペやエンドといった特に集中力を必要とされる治療が重なった日の終わりには、帰宅後に「もう何もできない…」と感じるほど疲れ切ってしまうことも少なくありません。
また、診療では長時間にわたって同じ姿勢を取り続けるため、慢性的な腰痛や眼精疲労に悩まされる先生も。
若い頃は業務をこなせていても、年齢が上がるとともに思うように働けなくなるケースもあるようです。
ちなみに、全国保険医団体連合会が行ったアンケートでは、院長の年齢に比例して減収しているという現状も見受けられます。
出典
・2013 年度歯科会員アンケート最終集計結果について(P6)
忙しくてなかなか休みが取れない
個人経営の歯科医院は、売り上げを増やすために土日や祝日返上で診療していたり、早朝から夜遅くまで患者さまを受け入れていたりするところも少なくありません。
さらに、休日も勉強会や学会、歯科医師会などが入るため「プライベートの時間を確保できない」という悩みを抱える先生も多くいます。
収入が思うように増えない
「期待していたほど収入が増えない」というのも、多くの歯科医師が感じている点です。
令和3年に政府が実施した「賃金構造基本統計調査」によると、歯科医師の平均年収は約787万円(※1)。
同年に中央社会保険医療協議会が実施した「第23回医療経済実態調査」では、令和2年度の勤務医の年収は約700万円、個人歯科医院の院長は1,260万円(損益差額)、法人歯科医院の院長は1,470万円という結果になりました(※2)。
個人歯科医院の年収すべてが手元に残るわけではありません。
例えば、開業資金5,000万円・自己資金1,000万円として4,000万円の借入(10年)をした場合、年間返済額は440万円。個人歯科医院の場合は、手元に残るのは820万円という計算になります。
また、レセプト1件あたりの平均点数が低い保険診療は労働集約的、つまり数をこなす必要があります。
院長は診療以外の雑務も多く、労働時間が長くなりがちなため、「開業して頑張って働いても思うような収入を得られない」と感じる先生も少なくありません。
※1 賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種|政府統計の総合窓口
※2 第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告|中央社会保険医療協議会
常に知識・技術の研鑽を求められる
歯科医師は、キャリアをスタートした後も常に研鑽し続けることが求められます。
近年では、歯科医師の数と質を適正に保つことを目的に歯学部の定員が減らされ、歯科医師国家試験の合格水準も引き上げられました。
2022年時点の合格率は約61%。2012年の合格率から10%ほど減少し、今や「狭き門」になりつつあります。
努力の末に晴れて歯科医師になっても終わりではありません。
患者さまのニーズに応え続けるためには、最新の知識・技術を得るための勉強が必要です。
近年ではマウスピース矯正や審美歯科、2020年にほとんどの歯で保険適用となったCAD/CAMなど、「歯の健康を保つだけでなく見た目の美しさにもこだわりたい」というニーズも増えています。
自分のやりたい仕事・治療ができない
知識・技術の研鑽を継続しなければならない一方で、「歯科医師として本当に取り組みたい仕事や治療に専念できない」という悩みもあります。
まず勤務医は、特に経験の浅いうちは就業先で自分のやりたい治療ができず、知識や技術が思うように身に付かない状況に置かれがちです。
特に個人開業の小規模医院は、院長や先輩医師が常に多忙な状態。
そのため、従業員の教育に割く時間が取れず、マニュアルや教育体制も整っていないことも少なくありません。
一方で、個人開業している先生でも、なかなか臨床に注力できないケースが多々あります。
集患やスタッフマネジメント、採用、経理など、医院の経営に時間を取られてしまうためです。
スタッフ間の人間関係の問題
自身とスタッフ、またはスタッフ間の人間関係も、しばしば歯科医師を悩ませる問題です。
コミュニケーションが上手くいかず、「こちらの思うように仕事してくれない」と悩むケースは珍しくありません。
歯科医院の仕事は、歯科医師同士や歯科衛生士、歯科助手との協業によって成り立つもの。
しかし、一般的に5~10人程度の小規模な職場である歯科医院は、人間関係のトラブルが起こりやすい環境です。
職場の居心地が悪くなれば、業務が円滑に行われないだけでなく、スタッフの離職にもつながりかねません。
近年、歯科衛生士や歯科助手の人手不足が慢性化しています。
特に、歯科衛生士はいわゆる「売り手市場」にあり、一人の歯科衛生士を20の医院で取り合うような状況です。
待遇や労働環境に不満があれば、すぐに離職されてしまうため、人間関係の問題は極力解決しておきたいところ。
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歯科医院では、院長のみ男性、ほかは全て女性というケースがほとんどなので、ハラスメントなどを避けるためにもマネジメント方法に気を遣う必要もあります。
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患者さまとのコミュニケーションの難しさ、トラブル
スタッフ相手だけでなく、患者さまとのコミュニケーションにも難しさを感じるケースもあります。
歯科診療では、必ずしも歯科医師が「良い」と思う治療だけが求められるわけではありません。
適切なカウンセリングと細やかなコミュニケーションで患者さまと信頼関係を築き、その方が満足する治療を提供することが重要です。
しかし、歯科医師やスタッフの説明が分かりにくかったり、認識の相違が起きたりして、患者さまに不安や不満が生じることも往々にしてあります。
また、最近では歯科医療にも質の高いサービスが求められているため、治療の内容だけでなく、患者さまが「心地良い」と思えるような応対が必要です。
しかし、いわゆる「職人気質」な先生の中には、こうしたコミュニケーションに苦手意識を持つ方もいらっしゃるでしょう。
患者さまの心証は医院の評価に直結してしまうため、思っている以上に大きな課題の一つです。
女性が長く働けない
女性の歯科医師は「仕事を長く続けられない」という悩みを持っています。
2018年時点では、日本の歯科医師のうち24.1%が女性。また、2021年時点での歯学部生の女性比率は40~50%と、歯科医師を志す女性は年々増えています。
一方、歯科医院では福利厚生が整っていないケースがまだまだ多く、結婚や夫の転勤、出産や育児など、家庭との両立が難しいことから、キャリアを諦める女性歯科医師も少なくありません。
また、男性の歯科医師に比べて、女性医師が開業する割合も少ない傾向にあります。
歯科業界においても、女性が働きやすい労働環境や待遇改善へのさらなる取り組みが求められるところです。
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充実した歯科医師人生を送るためのヒント
早い段階からキャリアプランを設計しておく
まず大切なのは、キャリアプランを早めに考えておくことです。
「歯科医師としてどんなキャリアを築きたいか」という視点から逆算して、どのようなステップを踏むか具体的に検討しましょう。
例えば、「将来は開業したい」「勤務医を続けて分院長を目指したい」「ある治療分野の専門医として認められたい」など、望む方向性によって今取り組むべきことや身を置くべき環境が変わります。
また、卒後勤務するなら、若手でも治療を任せてもらえる機会が多く、研修制度をしっかり整っている医院を選ぶのがおすすめ。
最初に勤める医院の治療スタイルや経営方針は、その後の歯科医師人生に大きく影響するので、選ぶ際にはきちんとリサーチしておきたいところです。
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開業にあたっては事業計画をきちんと立てる
開業を希望するなら、事業計画をきちんと立てておくことも重要です。
日本における歯科医院の施設数は2019年時点で68,500件に達しています。
「コンビニより多い」と言い表されることも多いほど、都市部を中心に競争が激化しているのが実状です。
一般的に、歯科医院の開業には5,000万円以上の資金が必要だとされています。
競合が多い現在では、やみくもに開業しても思うような利益を出せない可能性が高いと言えます。
医院を構える際には立地を検討したり、患者さまのニーズを調査したりといった事前調査や、治療方針や院内環境、スタッフ教育に至るまで具体的に計画しましょう。
自院の強みをつくり、他院との差別化を図ることが円滑な経営につながります。
また、経営の安定化には集患が何より重要です。
開業にあたって広告や内覧会などに力を入れる先生は多いと思いますが、新規患者の開拓は継続して行う必要があります。
その時代や地域で求められている治療を意識しつつ、ターゲット層に刺さるマーケティング戦略を考えることも重要です。
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ニーズが高く収益アップにつながる治療技術を身に付ける
ニーズが高い自費診療の治療技術を取り入れることも検討するべき点です。
保険診療はレセプト1件あたりの平均点数が低いため、たくさんの治療をこなす「労働集約的」な働き方になりがちです。
また、数をこなす診療では患者さま一人ひとりに割く時間も減ってしまいます。
一方で、マウスピース矯正(アライナー矯正)や審美補綴、義歯といった自費治療のニーズが高まっています。
今や、う蝕や歯周病の治療だけでなく、QOL向上のための歯科診療を求める方が多くいるのです。
また、保険内での治療を受けている患者さまは、実は「自費診療の内容をよく知らないだけ」というケースも少なくありません。
丁寧なカウンセリングに基づいて保険診療と自費診療の違いを説明しつつ、きちんと提案をすれば、自費診療を選ぶ方が増える可能性もあるのです。
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・歯科医院の自費率アップ そのメリットと具体策
経営やマネジメントについても勉強しておく
歯科医院を経営している先生は、適切な経営方法やマネジメントについても知っておく必要があります。
円滑に医院を運営し、成果を上げるためには、事業計画に沿った数値管理、集患・増患施策、モチベーションと定着率向上のためのスタッフマネジメントなどが不可欠です。
ニーズに疎かったり、自院の特色を認識していなかったりすることで、集患・増患が難航することも。
また、マネジメントが上手くいかなければ優秀なスタッフを失ってしまう恐れもあります。
加えて、多くの人がインターネットを通じて病院の情報収集をする現代では、Webマーケティングの知識も強みとなります。
目まぐるしく変化する社会のニーズを把握するためには、コンサルタントなど外部の専門家の力を借りるのも一つの方法です。
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医院の組織化を図る
きちんとスタッフを育てて医院を組織化すれば、院長がすべての業務に関わる必要がなくなります。雑務に煩わされることなく、利益を高めるための業務に集中できれば、結果的に医院の経営に良い影響を与えられるのです。
例えば、保険診療を勤務医に任せて自身は専門とする自費治療に専念したり、院長を他の歯科医師に譲って理事長として経営に注力したりしてもいいでしょう。
また、セミナーや講演、歯科向けコンサルティングなど医業外収益を得る道もあります。
医療法人化を視野に入れるのもおすすめです。
もちろん、法人化や医院の規模拡大が必ずしも収益アップにつながるわけではありませんが、法人歯科医院の院長は1,470万円と、個人開業に比べて高い傾向にあります。
まとめ
歯科医師は人々から広く必要とされる重要な職種です。
しかし、さまざまな理由から「しんどい」と感じたり、仕事を続ける難しさに直面したりする先生も少なくありません。
今回ご紹介した内容をふまえつつ、まずは「特に苦労を感じるポイント」を絞り込み、対策を立ててみましょう。
マーケティングやマネージメントなど、臨床だけでなく経営に必要な知識を積極的に取り入れることも、現状打開のカギとなり得ます。
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
2021年5月14日「あきばれ歯科経営 online」正式リリース。全国1,100以上提供している「あきばれホームページ歯科パック」による歯科医院サイト制作・集客のノウハウを元に、歯科医院経営を中心とした歯科医院に関する様々な情報を経営に役立つ観点からお届けする。