近年、歯科業界では人手不足が問題となっていますが、特に歯科衛生士は求人倍率20倍とも言われまったく足りていないといわれています。
実際、求人サイトなどを見ても歯科衛生士の募集はたくさんありますが、掲載しても一向に応募が来ず、悩んでいる院長も多いのではないでしょうか。
そんな苦労を経てやっとの思いで採用しても、理由も分からず、相談もなくすぐに辞められてしまうというのもまた院長先生の悩みの一つでしょう。
そこで今回は、歯科衛生士の主な転職・退職理由や離職を防ぐための対策について解説します。
歯科衛生士はすぐ辞める?転職・退職理由TOP5
なぜ歯科衛生士はすぐ転職・退職するのか、その理由を探ってみました。
1位.結婚・出産・育児のため
2位.歯科衛生士がすぐ辞めるのは給与・待遇への不満
3位. 院長・同僚・先輩との人間関係
4位.仕事内容に対する不満
5位.勤務時間や勤務形態に対する不満
1位.結婚・出産・育児のため
歯科衛生士は女性がほとんどということもあり、実際に転職・退職した人の理由として最も多いのが「結婚・出産・育児」です。
歯科衛生士の一般的な働き方の一つとして、20代後半~30歳までに結婚・出産・育児によって一旦離職し、ある程度落ち着いた35歳~40歳以降に非常勤として復職する流れがあります。
早期に復職したいという希望があっても、特に小規模な歯科医院ではまだまだ産前産後休暇や育児休暇の制度が整っておらず、離職せざるを得ないというケースも見受けられます。
また、復職できても勤務時間の調整が思うようにいかないという不安から、家事や育児に専念したいという理由から離職を選択する人も多いようです。
これは女性のライフサイクルによるものなので仕方ない一方、産休制度や時短など、子育て中の制度を厚くすることでスタッフの悩みや不安を解消すれば、改善が見られるかもしれません。
2位.歯科衛生士がすぐ辞めるのは給与・待遇への不満
実際に転職・退職した人だけではなく、現在進行形で離職を検討している・辞めるかどうか悩んでいる人の理由として次に多いのが、給与・待遇への不満です。
現在の職場で改善してほしいポイントを見ると、トップは「ベースアップ」や「定期昇給」なので、歯科衛生士の多くが給与・待遇に対して、何らかの不満や不安を抱えているといえるでしょう。
歯科衛生士における年収のボリュームゾーンは300万円以上400万円未満です。
これは女性の平均年収を考えると決して低くない数値ですが、現在の年収に満足している歯科衛生士は約40%。国家資格職であることや仕事の専門性・大変さを考慮すると、適正水準には達していないと感じているのでしょう。
3位. 院長・同僚・先輩との人間関係
そして女性にとってとても大きな転職理由になるのが「人間関係」。
歯科衛生士に限らず、どのような職種でも人間関係に悩んで転職・退職を考える人はたくさん存在します。
歯科医院の従業員数は多くの場合5~10人程度と小規模なので、派閥が作られやすい、些細なことで孤立しやすい、といった傾向があります。
また、歯科衛生士は女性が多いので、女性ならではの人間関係に悩んだ結果、疲れてしまう人も少なくありません。
人間関係の問題というと同僚や先輩が対象だと思われがちですが、実は実際に歯科衛生士からの回答で多いのは経営者(院長)との人間関係なのです。
理不尽な指示やパワハラ・モラハラじみた言動があると、当然ながら歯科衛生士も大きなストレスを感じてしまいます。
またそのような場合は相談もせず辞めてしまうケースがほとんどです。「言った方はすぐに忘れても、言われた方は忘れない」ということを、経営者はよく理解しておきましょう。
4位.仕事内容に対する不満
歯科衛生士の主な仕事は「歯科診療補助」「歯科予防処置」「歯科保健指導」ですが、実際はそれ以外の仕事に携わっているケースも数多く見受けられます。
やりたい分野の施術ができない、受付や雑務などに追われて本来の仕事に集中できないといった問題や様々な不安から、職場環境に悩んで転職・退職を考える人は少なくありません。
歯科医師から咬合採得やレントゲン撮影など歯科衛生士の業務範囲を逸脱した不適切な指示をされて不信感や不安を抱くケースもあるようです。
また、常勤については「仕事内容のレベルアップ」を理由に挙げて、転職・退職するに至ったという人もたくさん存在します。
歯科衛生士の方がスキルアップできる資格取得を推進(セミナー参加や受験料の負担など)することで離職率を抑えられるでしょう。
【参考記事】
メリットが大きな【歯科衛生士のスキルアップ】は積極的にサポートしよう(歯科衛生士のスキルアップに役立つ資格12選)
5位.勤務時間や勤務形態に対する不満
診療が予定より長引いたり、受付終了間際に患者さまが駆け込んできたりすることは、歯科医院では珍しくありません。
そのため、残業の多さや休憩時間の短さに不満を感じて、転職・退職してしまう歯科衛生士も多いようです。
特にサービス残業が多い場合、離職リスクに加えて法的リスクも高まるので注意しなければなりません。
歯科医院によっては土日祝日も診療していたり、夜間診療を行っていたりするために思うように休暇がとれないといったケースもあります。
こういうった環境でも相談ができない場合は、ワーク・ライフ・バランスを重視する人にとって、大きな不満の原因となるでしょう。
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・歯科助手を採用する5つの方法と求める人材を確保する手順
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歯科衛生士の有効求人倍率は20倍超
歯科衛生士養成教育に関する現状調査によると、歯科衛生士の有効求人倍率は年々上昇しており、2019年時点で20.7倍にも上っています。
つまり、20の歯科医院でたった1人の歯科衛生士を取り合うという状況なので、人材確保はどんどん難しくなっているといえるでしょう。
歯科衛生士から見れば、職場の選択肢がとても豊富であり、自分の希望に合わせて選びやすいということです。
そのため、求人サイトなどで求職者が魅力的に感じるポイントを強くアピールしないと、応募が来ないどころか求人のチェックすらしてもらえない可能性があります。
求人の内容はもちろん、広告戦略も重要になってくるでしょう。
歯科衛生士の70%以上が転職を経験している
歯科衛生士は離職率が高い職種だといわれていますが、実状を見てみると70%以上の人が転職を経験しています。
2~4回と複数回転職している人も少なくないため、同じ歯科医院で働き続ける歯科衛生士のほうが珍しいかもしれません。
歯科衛生士から見ると仕事はよりどりみどりの状態のため、嫌な環境に不安を感じて悩みながら耐えるよりも自分の希望に合ったより働きやすい環境を求めて、柔軟に動く人が多いのは当然と言えるでしょう。
優秀な歯科衛生士に長く働いてもらいたいなら、ライフステージの変化があっても不安なく勤務できる職場環境を作ることが大切です。
困ったことがあった時に相談しやすい環境や、待遇や労働環境に関する不満の芽をできるだけ取り除いてあげれば、モチベーションが高まるので治療の質や売上にも良い影響がもたらされるでしょう。
多くの歯科衛生士が仕事に対してやりがいと誇りを感じている
歯科衛生士はワーク・ライフ・バランスを重視する傾向にはありますが、多くの人が仕事に対しても真剣かつ前向きに取り組んでいます。
実際、歯科衛生士の勤務実態調査報告書によると、全体の約80%の人が「歯科衛生士の仕事が好き」「やりがいや誇りを感じている」と回答しています。
常勤の場合は、スキルアップを目的に転職する人も少なくありません。
その一方、現状の労働環境や雇用条件、待遇に満足しているという人は約30%と低い数値を示しています。
働きにくい職場環境が本来意欲の高い歯科衛生士のモチベーションを低下させて悩みや不安を生み、結果的に離職へとつながってしまうのです。
離職を防ぐ、人材を確保するというだけでなく、患者さまに質の高い医療サービスを提供するためにも、相談しやすく働きやすい職場環境の整備は重要といえるでしょう。
1か月以内で退職する歯科衛生士も少なくない
歯科衛生士の勤務実態調査報告書によると、歯科衛生士が同じ歯科医院に勤務する年数は決して長くなく、5年未満が38.7%と最多です。
転職が珍しくなく、売り手市場の歯科衛生士は、実際に勤務してみて合わないと感じたら早々に次を探す人も多く、1か月以内で辞めてしまうケースも少なくありません。
また、歯科衛生士として働くことをやめ、一般企業に流れてしまう人材も多くいます。
転職理由として多いのは、結婚・出産・育児や経営者との人間関係です。
しかも一度歯科衛生士職を離れた人が復職するケースは少なく、資格を持ちながら勤務していない「潜在歯科衛生士」の増加は、歯科業界で大きな課題となっているのです。
一方、歯科衛生士及び歯科技工士の就業状況等に基づく安定供給方策に関する研究によると、歯科衛生士として再度働きたい気持ちがあっても、労働時間や勤務形態、福利厚生などに不満があって復職に踏み切れない人も相当数いることがわかっていますいます。
せっかく採用した歯科衛生士がすぐ辞めるのを防ぐためにも、働きやすい職場環境を整えることが大切です。
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歯科衛生士の離職を防ぐために今すぐやるべき対策
福利厚生・休暇制度・勤怠管理を整備する
常勤者の有給休暇平均取得日数(年間)は8.8日、特別休暇があると回答した人は約94%、健康保険や年金への加入率は約98%と、福利厚生・休暇制度の整備はもはや当たり前となっています。
長く安心して勤務する上で重要なこれらの制度が整備されていない場合、将来に不安を感じたり歯科医院に対する不満が溜まるのも無理はありません。
また、歯科衛生士はほとんど女性なので、産休・育休制度がきちんと取得できる体制を作る必要があります。
復職後すぐに常勤で働くことが難しいケースも多いため、しばらくはパートや時短社員として働き、落ち着いたらフルタイムに転換するなど、ライフスタイルの変化に応じて働き方を柔軟に選択できるような不安のない環境がベストでしょう。
また、「サービス残業」をさせない仕組みも、求職者が見る重要なポイントです。
勤怠管理システムを導入するなど、勤怠時間の管理をしっかり行いましょう。
頑張りを適正に評価して給与に反映させる
人間関係や職場環境に問題がなくても、頑張りに見合う給与が支払われていないと離職リスクは高まります。
歯科衛生士の場合、国家資格職であり専門性のあるスキルを持っているにもかかわらず、それが評価されていないと感じる人は多いようです。
そのため、スキルレベルや歯科医院への貢献度などを適正に評価した上で、きちんと給与に反映させる必要があります。
昇給に連動させる人事評価制度も作る際は、評価基準を明確にして不公平感が生まれないようにする工夫も不可欠です。
数値で分かりやすく評価を可視化できる定量的な項目を設けることで、将来に悩んだり不安を感じることがないよう心がけましょう。
スタッフ一人ひとりときちんとコミュニケーションを取る
スタッフは一見問題なく働いているように見えても、知らず知らずのうちに不満をため込んだり、悩みや不安を抱えているものです。
特に前触れもなく、ある日突然スタッフが退職を告げてくる可能性もあります。
このような事態を防ぐためには、院長自身がスタッフ一人ひとりと定期的な面談を行うなど、小まめにコミュニケーションをとり相談に乗れる環境を作ることが大切です。
給与への不満やスキルアップ支援の要望に対し、できる限り応えようとする姿勢が求められます。
また、女性が多い関係上、しっかり話を聞いてあげる“傾聴の姿勢”も大切です。
「自分の意見を尊重してくれている」「考えを分かってくれる」ことが伝われば、不安やストレスも解消され、さらなる信頼感につながります。
スタッフに退職を伝えられたときにやるべきこと
様々な対策や改善を行ってもスタッフが辞めてしまうことは必ずあります。
個々人によって勤務先に求めるもの・期待するものは異なるため、退職者が出るのは仕方がありません。
退職の意向を伝えられたら、すぐに以下の手順で進めましょう。
- 今後の経営改善のためにも退職理由を確認
- 退職届の受理
- 数週間から1ヶ月程度の引き継ぎ
- 雇用保険被保険者証の返却(医院からスタッフへ)
- 年金手帳の返却(医院からスタッフへ)
- 保険証の返却(スタッフから医院へ)
特に重要なのが、お互いの返却物です。
医院側がしっかりと雇用保険被保険者証や年金手帳を返却しないと、次の勤務先とやりとりが発生する可能性も。
そのようなことで悪評を立ててしまわないためにも、退職手続きは時間をしっかりとって行いましょう。
まとめ
歯科衛生士のモチベーションを高く維持して、なおかつ長く働いてもらうためには、コストをかけてでも職場環境をきちんと整えることが大切です。
不安や悩みを抱えた時にすぐに相談できる環境をつくることを意識しましょう。
離職を防ぎやすくなるのはもちろん、歯科医院の売上や患者さまの満足度アップにも直結するので、コストパフォーマンスが高い投資といえます。
スタッフの要望や不満・不安をしっかりくみ取り、早めに対策を講じることを心掛けましょう。
引用元:
公益社団法人日本歯科衛生士会 歯科衛生士の勤務実態調査報告書(令和元年度)
一般社団法人全国歯科衛生士教育協議会 歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告 参照歯科衛生士養成校入学定員・志願者数等の動向経年調査2020
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歯科衛生士でもある「あきばれホームページ」歯科事業部長の長谷川愛が編集長を務める歯科医院経営情報サイト「あきばれ歯科経営 online」編集部。臨床経験もある歯科医師含めたメンバーで編集部を構成。
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